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この話はパラレルな設定となっています。
登場人物の紹介はこちら






「え〜と……、これが82番、これが27番、これが45番……」
着々と仕上がってくるショーの作品を、新一はリストと照らし合わせながら、チェックしていく。
何しろ、もう本番の日まで2週間とない。
会場も決まり、招待状の発送も済み、モデルの手配も仮縫いも終わった。
あとはショーのステージのスタッフ達と打ち合わせを重ねて、本番を待つだけだ。
「社長、蘭さんからお電話が入っておりますが」
「こっちにまわしてくれ。………あぁ、俺だ。悪いな、連絡係に使って。………そう、今夜。大丈夫か?………じゃあ、麻布の方に7時に。待ってる」
手短に用件を話して電話を切る。
「ひと休みされてはいかがですか?いまコーヒーをお持ちしますわ」
「あぁ、そうだな。サンキュ」
新一は、デスクの椅子に深く身を沈めた。
『KUDO』の時とは違って、予算も人員も決して充分とは言えない。
疲労が溜っていることは確かだった。
けれど、それは新一にとって心地いい疲労だった。
やりたいことをやる。
最終的には優作の了解が必要だった『KUDO』の頃とは、気持ちの上で雲泥の差があった。
「あら……」
コーヒーを運んできた秘書はクスリと微笑んだ。
大きな椅子に身を預け、新一は小さく寝息を立てていた。
「30分だけ、このままにしてさしあげましょう」
そう独り言ちて、ムダになったコーヒーをまた給湯室へと運んでいった。











快斗のショーの準備を進めながら、新一はその寸暇を縫って服部の───というよりは蘭の───ために、いろいろと策を練った。
服部が円満に社長職を辞すること。
そのために……。






そして数日後、新一は蘭と連絡を取り、二人を自宅に招き、四人で食卓を囲みながら自分が考えた策について話をした。
「白鳥専務は人一倍出世欲が強い。おそらく服部が社長に就任したのを一番快く思っていないのも白鳥さんだろう。だから、まずは彼を落とす」
快斗が作ったビーフシチューを食べながら、新一は話した。
「白鳥専務?なんで、白鳥ハンが関係してくるんや?」
いきなり白鳥の名前が出てきたことに、服部は戸惑いを隠さずにそう言った。
「服部の就任中に『KUDO』が潰れるようなことになってみろ。どうなると思う?」
ピンとこないのか、服部も蘭もう〜んと唸ったまま何も言わない。「移り変わりの激しいショップが消えるのとは訳が違う。『KUDO』は業界でも5本の指に入る大手企業だ。それが倒産したとなれば、業界紙だけでなく、経済紙や一般紙だって一面で扱うビッグニュースだ」
新一以外の3人は先日の不渡り騒ぎを思い出してウンウンと頷いた。
「当然記者会見だって開かれるだろう?そうなればその真ん中に立って、頭をさげるのは……服部、お前になる」
服部と蘭の頭に、ここ最近様々な不祥事で頭を下げていた企業のお偉方の姿が浮かぶ。
まるで他人ごとのように見ていたあの光景がいきなり自分の身に降りかかってきたのだ。
「その一部始終はテレビや新聞で報道されるだろう。そうなれば、服部、お前には『KUDO』を潰した男というイメージがついてまわる」
服部も蘭も青ざめて、食事の手も止まっている。
新一は追い撃ちをかけるように話を続けた。
「そうなってみろ?大阪でやり直すにしても、銀行は金を出さないぜ?」
カチャンとスプーンを置く音がして、蘭が叫ぶように言った。
「ダメよ!ダメ、そんなの!ねぇ、新一。どうすればいいの?」
新一はクスリと笑いながら、ワインクーラーのボトルを掴んだ。
蘭のグラスにフルーティな白ワインを注ぐ。
「蘭、落ち着けって。だから白鳥専務なんだよ」
「どういうこっちゃ?俺にもわかるよう、もうちっと簡単に言うてや?」
快斗が新一の手からワインボトルを奪い、新一のグラスに注ぐ。
部外者である快斗はさっきから何も言わずに、けれど内心楽しんで新一の話を聞いていた。
新一はワインに口をつけ、喉を潤すとまた話を続けた。
「さっきも言ったけど、白鳥さんは出世欲が強い。それだけじゃなく自己顕示欲もかなり強い」
服部はまだ付き合いのさして深くもない白鳥の顔を思い浮かべながら、ウンウンと頷いている。
数度しか行われていない取締役会の席でしか顔を合わせたことのない服部ですら、思い当たる節があるぐらいに白鳥は出世欲と自己顕示欲の固まりのような人物だった。
「こういっちゃなんだが、傾きかけてる『KUDO』にあの人がしがみついているのは、自分が社長になって建て直しを計った功労者として名を馳せたいからだろう?」
新一はニヤリと笑みを浮かべて、服部を見た。
「そんなに社長がやりたいなら、譲ってやればいいんだ」
「なんや、偉いカンタンやなぁ〜」
「あのなぁ……」
のんびりとした口調の服部に、新一はガクンと肩を落とした。
言うは簡単かもしれないが、仮にも相手は専務。
それも、エリートとはいえ、工藤の親族でもなんでもない。
実力で上がってきた人間だ。
そう簡単にこちらの思うようには動いてくれないだろう。
それに、父・優作に気取られてしまっては元も子もない。
それを口にすれば、今度は「な、ごっつうしんどいやんか!」と服部は言う。
血を分けた親子とはいえ、新一とは全く違う環境で育ってきた服部があの優作を相手にどこまで上手く立ち舞われるか。
新一はそれが心配だった。
「服部、全てお前次第なんだぞ?蘭と大阪でやり直すつもりなら、しっかりやれよな?」
「お、おぅ……。モチロンや……」

「じゃあ、服部クンの前途を祝して乾杯しよーよ!」
快斗が再び新一のグラスにワインを注ぎながら言った。
「そうだな」
新一がグラスを持ち上げる。
服部と蘭も、新一に倣ってグラスを掲げた。
「それじゃあ、計画の成功を祈って、かんぱ〜い!」
快斗の発声に4つのグラスが重なりあう。
快斗は楽し気にグラスに口をつける新一を横目で見ながら、自分もグラスに口をつけた。
















玄関で二人の背中を見送りながら、快斗は新一に問い掛けた。
「な〜に企んでるの?」
新一はチロリと快斗を見る。
「わかるか?」
「そりゃね、何年新一のこと見てると思ってるの?」
新一はよくも悪くもビジネス戦士だ、と快斗は思う。
いくら蘭のためとはいえ、ただ服部に協力している訳ではないだろう。
服部を助けることによって、新一のメリットが何かしらあるはずなのだ。
けれど、デザイナーであってビジネスマンではない快斗には、新一が何を企んでいるのかまではわからなかった。
「で、なに企んだの?」
「ま、いろいろとな」
(いろいろ……って、一つじゃないってことかよ……)
ニッコリと微笑む新一に快斗は言葉を失った。
「そうだ!快斗、ちょっとお前に相談があるんだ」
突然思い出したようにそう言うと、新一は快斗の腕を掴んで中へと入った。







短かめですが、キリがいいのでここまで。


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