Moon Soldiers 第4章
第2話 燃える祖国
作戦開始の時間が近づくと、ヴォルテールのモニター前には多くの人が集まっていた。
イザークに付き添われながらキラが入って行くと、みんな道を開けて一番前へと促してくれる。
そこには既にマユとニコルが居た。本来、ニコルはルソーに居るのだが、マユの心配をして移乗許可を求めてきた。代わりにいま、シホがルソーに行っている。
クルーは全員、キラとマユがオーブからの移民であることを知っている。だから、ことさらにザフトを応援するような野次もなく、みんな黙ってモニターを見つめている。
作戦事態は地球部隊に委ねられているが、必要な場合も考えて、各艦の光学映像はカーペンタリア基地を経由して、本国へ送られる。ヴォルテールで見れる映像は、その一部だ。
「時間だな……」
イザークが呟いてから少し遅れて、カーペンタリアからオーブの司令官の声明というコメント付きで音声が流れてきた。
『ロード・ジブリールなる人物はオーブには滞在していない。よって、プラントの要求も受け入れることは出来ない。以上』
「「「……………」」」
あの時、あの場所に居た三人が苦笑とも言えない生温い笑みを浮かべた。
「キラ、この台詞……」
「うん……、あの時のウズミ様のパクリだよね……」
「誰だ、この馬鹿は……。あの時とは、事情も状況も違うだろうがッ!」
あの時のオーブは中立だった。アークエンジェルを匿っても、おいそれとは追及できない。けれど、いまのオーブは……。
「オーブは強い国だった。軍備でも、信念でも……。それに、脚付き……アークエンジェルを匿ったぐらいじゃ、攻め入ることはできん。だが、ロード・ジブリールは、この戦争の根源であり、全てのコーディネーターの敵だ。ザフトがこれで引き下がることはないだろう」
モニターを凝視していたジュール隊の面々の前に、見知った艦影が現れた。
「あれは……!?」
それは、他のザフトの艦とは、まったく違う形状をしていた。
ザフト初の地球と宇宙の両用艦。
イザーク達は、一度だけ協同作戦を行ったことがある……いや、データだけなら、もっと以前から知っていた。アイリーン・カナーバから託されたディスクで……。
「ミネルバ……そう言えば、地球に降下したのだったな……」
ユニウスセブン落下の際に、大気圏に入り、主砲による破砕をしたのだから、地球に居るのは当たり前だ。
だが、大きな戦闘こそないものの、いろいろと事が多くて失念していた……というのが、正直なところだ。
「そんな……」
青褪めた顔で、そう呟いたのはマユだ。モニターにインパルスの機影が映ると、マユは一層顔色を悪くした。
無理もない。ミネルバには、血の繋がった兄・シンが居る。しかも、彼が攻撃しようとしてるのは、兄妹の故郷であるオーブだ。
「お兄ちゃん……どうして……!?」
インパルスは先陣を切って、容赦のない攻撃をオーブに仕掛けていたから。
両親が眠る大地。生まれ育った国。居づらくなって逃げるように出て来たけれど、あそこには友人だって居るのに……。
キラは、そんなマユを見ながら、小さく呟いた。
「痛いね……」
「……キラ!?」
イザークはどういう意味だ? と問い掛けるように、首を傾げた。
だてにキラの婚約者をやっている訳じゃない。イザークにだって、キラの心情は理解できる。
だが、キラの抱える事情は余りにも複雑で……。さらに、キラの感受性はその上をいく複雑さで……。
たとえイザークであっても、キラの呟きの真意を理解するのは、容易ではなかった。
「うん、いろいろ……。マユのこともひっくるめて、こうならないようにって思って、ザフトに来たのに……、僕は何も出来なかった……」
キラの返事は曖昧で要領を得ないが、何でも一人で背負い込もうとする悪いクセが頭を擡げているのは、間違いないようだ。
イザークは、それを否定するために、毅然と言い放った。
「何も出来なかった訳じゃない」
「イザーク……!?」
「間に合わなかっただけだ。人一人の胸の内を計るのは、容易いことではない。事が起きて初めてわかることもある。それは、議長に限ったことではない。オーブしかり、ブルーコスモスしかり……だ。だが、もう全てが手遅れになった訳でもない。俺達は、そうなる前に出来る限りのことをするだけだ。そうだろう?」
イザークの力強い言葉に、キラはいつも励まされる。
「そうだね……」
だから、目を逸らす訳にはいかない。オーブを襲う現実からも、マユの葛藤からも。
しかし、現実は更に非情だった。
ある機体が、行政府の建物へ向かって行くのが、映し出されたのだ。
それは……いけ好かない同僚を……敵となってしまった幼なじみを……共に闘った盟友を……兄とも慕った同僚を……それぞれの頭に思い浮かばせる真紅の機体だった。
「誰かッ!」
イザークが端末からブリッジに呼びかけると、すぐに返事が返ってきた。
『はいッ!』
「あの赤い機体について、照会しろ」
『了解』
「隊長、すみません……」
か細い声で謝ったのはマユである。
本来なら、これはマユの仕事である。だが、マユはいま、ここに居る。しかし、マユがいないからといって、代わりがいない訳ではない。
「気にするな、マユ。俺が、許可したことだ」
端末から手を離してドスンと椅子に座り直したイザークに、キラが不安気に声をかけた。
「イザーク……イザークも、そう思ったんだね……」
その言葉が、キラもイザークと同じ考えを抱いたことを教えている。
「僕もです」
ニコルも口を挟んでくる。
恐らく、ディアッカも、いまごろ同じように考えているだろう。
「そうでないことを願ってるがな……」
程なく、ブリッジから通信が入った。
『隊長、照会結果出ました。機体はZGMFーX23S、セイバー。パイロットは……アスラン・ザラ。フェイスです』
そうでないことを願っていた一同には、悪い知らせであった。アスランの名を上げる前に一瞬の間があったのは、オペレーターもそれを察していたからだ。
アスラン・ザラの名は、それ程に知られている。
アカデミーを主席で卒業。ジュール隊長やエルスマン副長、アマルフィ小隊長の同僚。クルーゼ隊のトップガン。戦渦を拡大した強硬派ザラ議長の一人息子。三隻同盟に組し、プラントを核攻撃から救ったジャステイスのパイロット。戦後、オーブに亡命……。それが、彼らの認識である。
そのアスラン・ザラがいつの間にザフトに復隊していたのか。しかも、議長直轄のフェイスとして……。誰もが戸惑いを覚えていた。
「また……戦うことに、なるのかな……」
先の戦争でキラが受けた傷を理解しているからこそ、浅はかなアスランが腹立たしくなる。
イザークは、キラの手に自分の手を重ねた。本当なら、抱きしめたいところだが、いまは公衆の面前。キラが恋人であることは既に周知の事実としても、さすがに自制が働いた。
「キラに、そんな辛い思いはさせない。そういう事態になったら、あのバカは……俺が相手する」
「イザーク……」
泣きそうな顔をしながらも、重ねた手に手を重ね返すキラを、イザークは静かに見つめた。そして、キラにそんな顔をさせるアスランに怒りを募らせる。
(アスラン……今度会ったら、覚えていろよ……)
いまのアスランには、キラには見えているものが見えていない。キラを映そうとする余りに、他のものから眼を塞いでしまっているのだ。
キラの眼は未来を見ているのに、アスランの眼は過去を見ている。アスランが未来を見るには、『妹のようなキラ』という幻影を捨てなければならない。
両親を失ったアスランにとって、唯一残された過去の思い出。それを捨てろ、というのは酷なことかもしれないが、そうしない限り、アスランに未来はない。
(それすらも、わかってないんだろうな……。あの愚か者は……)
物思いに耽るイザークを、痛切な叫び声が現実へと引き戻した。
「お兄ちゃん、やめて―――――ッ!」
マユの叫び声に、慌ててモニターを見直せば、オーブの市街に火の手が上がっていた。まだ、逃げ惑う人々の影がモニターでもわかるぐらいだというのに……。
火の手の原因は、インパルスが放った一筋の砲火だった。
その頃、オーブ行政府では……。
「国を焼かないための条約ではなかったのか? お前たちは、この責任をどう取るつもりなんだッ!」
カガリはバンッと机を叩きつける。
だが、当のセイラン親子は、この期に及んでも誠意のかけらも見せない。
「条約にサインをしたのは、代表である貴女です」
謀られてのこととはいえ、キラのことに気を取られ、ろくに書類も見ずにサインをしたのは、確かにカガリだ。
「……書類を確認せずにサインをしたのは、確かに私の落ち度だ。だが、条約そのものを推し進めたのは、お前たちだろうッ!」
「それでも、責任は代表である貴方にあります」
ウナトは、あくまで責任を取る気はないようだった。
カガリは激昂したいのを、必死で抑えて溜め息をついた。
「ならば、いますぐロード・ジブリールをここへつれて来い」
「やだなぁ〜、カガリ。何の根拠があって……」
ユウナが、ヘラヘラと笑いながら、しらばっくれようとするのを、カガリは怒りを漲らせた視線で押さえ込む。
「わかっていないようだな。お前たち親子がアレを匿っているから、いまオーブがこんな目にあっているんだ!」
ロード・ジブリールがセイラン家に滞在していることは、周知の事実。これまでセイラン親子に追従していた他の首長たちも、もはや彼らを庇うことはなかった。
地球連合との友好か、コーディネーターとの共存か。そんなもの、どちらでもよかった。
国あってこその地位、オーブあってこその利権。ザフトによって国が滅亡の危機を迎えているいま、セイラン親子に味方する理由はなかった。
また、この期に及んで動く気配すらない大西洋連邦にも、ブルーコスモスにも、何の期待もできないのでは、セイランの言葉に重みも説得力もない。
オーブの……ひいては自分の地位と財産の危機を招いたのは、間違いなくセイランだと彼らも認識していた。
「ウナト・エマ・セイラン、ならびにユウナ・ロマ・セイラン、お前たちを国家反逆罪で拘束する」
カガリの言葉に周囲の軍人達が動く。
「カガリ〜ィ、僕は君の夫なんだよぉ〜ッ!」
足掻きまくるユウナには眼もくれず、カガリは残った首長たちを見据えた。
「カガリ様、いまからでも間に合いますでしょうか……?」
首長たちの心が、ようやくカガリの元に帰ってたが、時は既に遅いかもしれない。
「わからん。だが、諦めるな! 出来る限りのことをするんだ。とにかく、ジブリールの身柄を確保しろ! それから、外交チャンネルを使って、ザフトに停戦を申しいれろ! 市民の避難も急げ!」
「「「「「はい!」」」」
行政府は慌ただしく動き始めた。
カガリはモニターで火の手に包まれるオーブの市街を凝視しながら、唇を噛み締める。
キラを自分の許に置きたいばかりに、政務を……全てを疎かにしていた、と漸く自覚する。
オーブを守る。いまとなっては、それだけが自分がしなければならない唯一の仕事だ。
だが、カガリの働きも空しく、インパルスはなおもオーブの街を焼いていく。
(何が……いけなかったんだ……?)
キラのことも。この戦いのことも。そして……。
(シン・アスカ……だったか、インパルスのパイロットは……)
アーモリーワンで出会った紅い瞳の兵士。オーブへの……強い憎しみを称えた視線。
混沌とした感情に捕われるカガリの耳に、非常事態を告げる通信が入った。
「どうした!?」
『申し訳ありません!』
慌ただしい行政府の中枢に、申し訳なさそうな兵士の声が響く。
『セイラン親子に逃げられました』
「なんだと!?」
『インパルスの攻撃により、瓦礫が崩れまして……。その……一瞬、怯んだ隙に……』
「……逃げられてしまったものは仕方ない。追え! セイランの行く先に、ジブリールは居るに違いないッ!」
『はッ!』
(考え事をしてる場合じゃない! いまは……オーブを守ることを考えなければ……)
カガリは気を引き締め直して、状況を把握する事に務めた。
「お待たせしました、ジブリール殿」
「我がセイラン家のシャトルを用意しましたので」
セイラン親子は、まんまと逃げ延び、ジブリールをシャトルへと招いた。
「ご苦労だった」
ジブリールは薄ら笑いを浮かべて、シャトルへと乗り込んでいく。
続いて、ウナトが乗り込もうとした時、ジブリールの随行者がウナトの身体を突き飛ばし、背後に居たユウナもろともシャトルの外へと弾き出された。
「だが、君達の使い道はもうない。残念だが、ここでお別れだよ」
シャトルはセイラン親子を残したまま、扉を閉め、飛び立っていく。
「私が生きてさえいればいいんだよ。そうすれば、次の手が打てるからな」
クククッと忍び笑いを浮かべ、ジブリールは宇宙へと消えていった。
本編とは、いろいろ違います。地球編がごっそりありません。 正直、ディオキアとか、あの辺のエピソードは不要だと思うんですよねぇ〜。 かったるいし。イザーク出て来ないし。 それに、このストーリーではネオとか、新連合3人組とか無視してますから……。 なんで、さっさと宇宙に上がります。 次回はラクスメイン? 第1話 INDEX 第3話