Moon Soldiers 第3章

第6話 オーブの選択


 アスランがプラントへ向かった後のオーブでは、カガリも首長らを相手に奮闘していた。
「大西洋連邦との条約だとッ!? 冗談ではないぞッ!」
「無論、冗談などではありません」
「なお悪いッ! お前達はお父様の……ウズミ・ナラ・アスハの死を無駄にするつもりかッ!」
「無駄にしないためにこそです」
 カガリの政治は『オーブの理念を守る』ということしかなかった。
 だが、外の世界が戦争をしている時はともかく、一応、休戦となったいま、理想だけを追いかけているカガリの政治に綻びが見え始める。
 理想をおいかける余り、現実的な問題が目に入らない。
 例えば失業問題。
 企業主は、自身がナチュラルであろうと、能力の高いコーディネーターを雇用する。
 企業の利益を追求する経営者として、間違った選択ではない。そして、オーブの理念にも適っている。
 だが、ナチュラルの失業者は増える一方だった。
 自然、ナチュラルの間に不満と不安が生じた。この国は、いつかコーディネーターに乗っ取られるのではないかと……。
 カガリを除いた首脳陣はこの現実を実感していた。
 そこへ、キラの出現だ。
 首長たちは思い切りキラを警戒した。
 そんな彼らをまとめたのが、ウナト・エマ・セイランであった。
 いまや政権を預かる首長達は、理想だけを謳うカガリよりも、ウナトを……そして、若いながらもなかなかの辣腕を発揮するユウナを支持していた。
「他の国々と手を取り合わず、遠く離れたプラントを友と呼び、この星で一国孤立するというのですか?」
「違うッ!」
「ならばどうするというのです?」
「オーブは…いままでそうであったように、中立独自の道を……」
「そうして、また国を焼くのですか? ウズミ様のように」
「ッ……!」
 カガリには、それ以上何も言えることなどなかった。
 会議はそのまま中断された。
 カガリは苦悩しながら、議場を後にする。
 その後ろをユウナが追いかけてきた。
「大丈夫か? だいぶ疲れているようだね。さ、少し休んで? 何か飲むかい?」
 カガリを椅子に座らせ、ユウナは労りの姿を見せる。
「可哀想に……君はまだほんの18歳の女の子だというのに……」
 いまは行方不明となってるキラ・ヤマトが戻って来て、政治に口を出すようになったら、セイラン家の立場が危うい。
 ウナトはウズミとは違い、オーブの理念を貫くつもりなどなかったのだ。
 オーブを強大な国とし、そこに君臨する。コーディネーターはそのための道具でしかなかった。
 カガリとユウナの結婚も、そのための布石に過ぎなかった。
「もう、楽におなり……。僕が君を支える……夫としてね……。結婚式を急ごう! 君のためにもね」
 ユウナが……そしてウナトが何を企んでいるかも知らず、カガリは疲れ果てて、小さく頷いてしまったのだった。






 行政府はカガリとユウナの結婚を大々的に発表した。
 それにより、オーブは祝賀ムード一色に包まれる。
 セイラン家の来賓室より、その様子を見ている人物がいた。
「平和な国だ……」
 その声に平和なオーブを羨む色は感じられなかった。むしろ、嘲りに満ち満ちていた。
「ウズミ・ナラ・アスハのいないオーブなど恐るるに足らん。すぐに……いや、すでに私の手のうちにあるのだよ」






「カガリ〜。僕たちの結婚式の招待者リストができたよ〜♪」
 ユウナが、ドアを開けて執務室へ入って来る。
 プライベートな部屋ではなく、執務室にノックもなしに入って来る時点で、相当婚約者気取りなのだが、カガリはユウナのことをなんとも思ってもいないから、逆に気にもしなかった。
 だが、結婚自体に異を唱える気はなかった、
 そもそもこの婚約は、尊敬する父ウズミが遺したものであったので、そのまま受けるつもりでいた。
 父が良しと判断したのならば、それでいい。
 そうはいっても、自分が結婚するという自覚は未だない。
 男勝りの自分が、結婚だなんてとんでもないと思うだけで、操だてしたい相手もいない。
 それに、ウナトがいうように、この結婚がオーブ復興の象徴となり経済効果も見込める、という政治判断も正しいと思う。
 この婚儀がめでたいものなのかどうかはわからない。
 だが、国家の代表として、国益のために必要とあれば、致し方ないとも思う。
 こうして、カガリ・ユラ・アスハとユウナ・ロマ・セイランの結婚式の準備は着々と進んでいた。
 カガリはユウナが差し出した招待者リストを、つらつらと眺めた。
(まさか、私が先に結婚することになるとはなぁ〜。どう考えたって、キラが先だと思っていたんだが……)
 どう贔屓目に見たって、男として育てられたはずのキラの方が女らしい。
 もっとも、あの銀髪こけしとの仲を認める気は、さらさらないが。
 招待者のリストに、キラの名前はない。
 血を分けた妹とはいえ、キラはアスハの人間ではないからだ。
 どうせ、政略的な結婚だ。
 祝福などしてもらわなくてもいいが、式にはキラにも参列してもらいたい、とカガリは願う。
 とはいえ、キラがどこにいるかもわからない今、リストに加えるようにも言えない。
(キラ……、いま、どこにいるんだ? 何をしてるんだ? えぇい! アスランはなぜ戻ってこないッ!)
「……リ、カガリッ!」
「え? あ、あぁ」
「なんだ、聞いてなかったのかい?」
「いや、その……ちゃんと聞いていたさ」
 政務中だというのにボンヤリしてしまったことを――というより、キラのことを考えていたことを知られたくなかったカガリは、何も聞いていなかったにも関わらず、そう答えた。
「そう? なら、ここにサインして?」
 ペンを取り、示された場所へサインをする。
 それが、オーブを揺るがす大きな事態へ繋がることなど、いまのカガリは気づいてもいなかった。






 ハウメアの神殿で、厳かにカガリとユウナの結婚式が執り行われる。
 結局、キラに参列してもらうことは適わなかった。
 キラだけではない。
 あの時、共に戦ったはずの仲間は一人もいなかった。
 ラクス・クラインもいまやオーブにはいない。
 アスラン・ザラも未だプラントから戻ってこない。 
 ずっと付き従っていてくれたレドニル・キサカも、いまはオーブにいない。
 カガリの選択に異を唱えるものは誰もいなかったのだった。






 代表首長の華燭の典にオーブは酔った。
 そして祭りから一夜明けると、オーブ全土は大きな衝撃に包まれた。
「オーブ政府は、大西洋連邦との同盟に調印すると発表いたしました。『他国を侵略しない。他国の侵略を許さない。そして、他国の争いに介入しない』という、ウズミ・ナラ・アスハ元代表の理念は、その幕を閉じることになります。オーブ政府は、オーブとオーブの民を戦火から守るための苦渋の決断であると発表しています」
 アナウンサーの鬼気迫った声が、ありとあらゆるテレビから流れる。
 モニターは、壇上に立って、声名を発表するユウナを映し出す。
「我々、オーブ政府は、大西洋連邦から再三申し入れのあった、同盟調印に応じることにしました。オーブと言う国を再び焼かないための決断であり、オーブの民の理解は得られると我々は信じています」
 カガリは行政府の執務室で呆然とこの放送を見ていた。
 そして、血相を変えて部屋を出て行った。
 ドスドスという音を立てて廊下を走り、ユウナのいるだろう会見室を目指した。
「ユウナッ! どういうことだ、これはッ! 私はそんなこと、了承した覚えはないぞ!」
 すでに、
「いやだなぁ〜、カガリ。ちゃんと、君は了承したじゃないか」
 鼻先に一枚の書類が突きつけられた。
 カガリはそれをふんだくると、目を更のようにして、それを読んだ。
『大西洋連邦との同盟に関する案件』
 そう書かれた書類には、間違いなくカガリの自筆であるサインがされていた。
「なッ!?」
「サインする書類はちゃんと読んだ方がいいよ、カガリ。まぁ、これからは政務なんてものは僕に任せて、君は僕の妻としてだけ生きていけばいいんだけどね〜」
「……謀ったな」
「いやだなぁ〜、人聞きの悪い……。僕は君にサインをして欲しいって言っただけだよ? 書類をちゃんと確認しなかった君がいけないのさ」
「……………」
 ユウナのいうことは確かに正論である。
 カガリは拳を震わせながら、唇を噛み締めるしかできなかった。






 オノゴロに停泊中のミネルバは、この一報を聞き、震撼した。
「大丈夫でしょうか……」
 オロオロとすることしか出来ない副官を、タリアは叱咤する。
「大丈夫なわけないでしょう! すぐ近くまで連合が来てるに違いないわっ!」
「えぇ―――――ッ!?」
 そんなことにも思い当たらないのかと、タリアは頭を抱えつつ、クルーに指示を出す。
「一刻の猶予もないわ。コンディションレッド発令。発進準備完了次第、オノゴロを脱出するわよッ!」
「は……はいッ!」
 CICのメイリンが命令を全艦に伝えると、艦の内外は騒然となった。
 慌ただしくオノゴロを出るミネルバを見送る影が呟いた。
「さて、私も行かなくっちゃね……」
 その影は、モルゲンレーテの作業着を脱ぎ捨てると、ひっそりと姿を消した。







しつこいようですが、本編とは違います。キラいないから、花嫁を奪取する人いないし。
そして、次から大きく変わります。次はアークエンジェルがメインの話。
イザキラな話はもうしばらくお待ちください。


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