Moon Soldiers 第3章
第2話 動く墓標
「なにぃ〜ッ!? ユニウスセブンが動いているだとぉ〜ッ!?」
「本当なのか、それは!」
「大至急、データをチェックしろ! 原因を突き止めるんだ!」
「本国へ交信を! 評議会の指示を仰ぐんだ!」
「いや、その前に、作戦を考えなくては。『いかがしましょう?』では、我々の首がとぶぞ!」
「とにかく一報だけは入れろ!」
軍事ステーションは、上を下への大騒ぎとなっていた。
ステーションだけではない。報告を受け取った評議会もまさかの事態に、騒然としていた。
ユニウスセブンがデブリベルトの軌道から外れ地球へ向けて落下しつつある、との報告が届いたのだ。
「ユニウスセブン、さらに加速2%」
「依然地球への落下コース005」
「一体何があったというのだ」
「あれだけの質量だぞ? そう簡単に軌道が変わるわけがない」
その報せは、ジュール隊隊長であるイザークの元にも届けられ、まずは幹部であるディアッカと紅のメンバーに召集がかかった。艦長と他の隊員達には、乗艦して待機しろと通達をすでに出している。
デブリベルトへは、このステーション駐留部隊が一番近い。
いま、哨戒でデブリ方面に行っている艦隊がない以上、ここから誰かの部隊が対処に向かうこととなるのだろう。
いつ、どこの隊にどんな命令が下るかわからない状態ではあるが、現在、軍事ステーションに配備されている隊の中では、ジュール隊が一番経験豊富である。
しかも、ジュール隊は隊長・副隊長ともにパイロットでもあり、軍事ステーションの隊の中ではMSの配備数も多い。
通常、ナスカ級には、MSは6台しか搭載できない。だが、ルソーも、そして旗艦となったヴォルテールもMSを倍の12機まで搭載できるようになっている。
つまり、計24機のMSをジュール隊は保有しているのだ。
機動力を考えると、ジュール隊に出撃命令が出る可能性が一番高かった。
「ユニウスセブンが動いてるって……どうして!?」
「落ち着け、キラ。まだ、詳しいことはわからん。いま、ステーション司令部が検討中だ」
「そういえば、キラはユニウスセブンに行かれたのですよね? 何か思いつくことはないですか?」
そう切り出したのは、オーブでその話を聞いたニコルだ。
キラに前の戦争のことを聞くのは躊躇われたが、何かしら、手がかりになるものがあればと思ったのだ。
「ユニウスセブンに? いつ?」
「アークエンジェルにいたとき。補給が受けられなくて、水がなくなりそうだったんだ。でも、その時にはそんな徴候なんてなかった……と思う」
「そうですか……」
その時、スピーカーが呼び出しを告げた。
『ジュール隊長、ジュール隊長、至急司令部へ出頭してください』
「来たか。おそらく出撃することになるだろう。全員乗艦して待機だ。ディアッカは一緒に来い」
「了解」
全員が敬礼すると、二人は部屋を飛び出していった。
戻ってきたイザークとディアッカは、全員を集めてのミーティングを行っていた。
「破砕!? ユニウスセブンをですか?」
「あぁ、そうだ」
すぐ後では、メテオブレーカーが何基もルソーとヴォルテールに積み込まれている。
「そんな……、あそこには亡くなった人達の遺体があるのに……」
そう呟くキラを、イザークはちらりと見るが、何も言わずに話を続けた。
「放っておけば、いずれユニウスセブンは地球へと落下する。そうなれば、想像もつかないような被害が出ることは間違いない。被害を抑えるためにも、破砕が必要だ。いろいろと思うところはあるだろうが、全力でとりかかって欲しい」
「地球に落っこったっていいんじゃないですか? どうせ死ぬのはナチュラルなんだし」
クルーの一人が声を上げた。
イザークは美麗な眉を吊り上げて、声の上がったほうを見た。
「いま、発言した者、前へ出ろ」
その一般兵は、そんなことを言われるとは思っていなかったのか、身を硬くしていたが、周囲の視線を受けて、身体を小さく縮こませながらも前へ出てくる。
イザークは冷たい視線で、その兵を睨みつける。
「貴様はバカか、エンリコ? 地球にいるのはナチュラルだけではない。中立国であるオーブにもコーディネーターはいる」
ヘリオポリス作戦の時、連合に味方するような中立国の人間など、歯牙にもかけていなかったイザークである。
だが、そこにキラはいた。そして、アークエンジェルに乗り、意に染まぬ戦いを続けてきた。
そのことに、一番責任を感じているのもまた、イザークなのだ。
すでに、コーディネーターこそが新たな種でありナチュラルは劣るもの、という偏見はないが、ここでそれを口にする訳にもいかない。
そのため、あえて地球にいる同胞のことだけを言及した。
「オーブだけではない。地球にもザフトの基地があり、そこには何万という兵がいる。ザフトの基地にユニウスセブンが落ちないとは限らないのだぞ?」
エンリコと呼ばれた兵だけでなく、他の兵からも「あっ」という声が漏れる。
地球=連合という図式が心の中に出来上がっていて、そのことを失念していたものは多いのだ。
「さらに言えば、ユニウスセブンの落下によって、連合がどんな言いがかりをつけてくるやも知れん。プラントとしては、見過ごすわけにもいかないだろう」
全員が黙りこくる。
誰も、そこまで考えてはいなかったのだ。
「エンリコ、貴様はこの任務から外す。部屋で謹慎していろ」
「……はい」
「では、総員乗艦。直ちに任に就け」
ビシッと敬礼が決まると、全員が艦へ乗り込む。
だが、イザークはキラ達を呼び止めた。
「ヤマト小隊には別任務を与える」
「別任務……ですか?」
不満の色を帯びた声を上げたのはシホである。
ジュール隊に配属されるまで、シホは女であることを理由に重要任務から外されてきた。
自分達だけ任から外される、というのは、彼女には我慢できないことなのだ。
「コンテナを10個用意した。できる限りの同胞を運び出して欲しい」
「イザーク!」
この場にあるまじきことではあるが、思わずキラはイザークの名を呼んでいた。
メモリアル・パークのレノアの墓の前で漏らしたあの小さな願いを、イザークが覚えていてくれたことが嬉しかったのだ。
「謂れもなく亡くなった同胞をできれば家族の元へ帰してやりたい。だが、破砕活動が最優先のため、これ以上の人員は割けない。お前達だけで、できるだけ多くの人を運び出して欲しい」
シホも、リサも、黙って頷いた。
「そういうことでしたら」
シホとリサは敬礼でもって答える。
こんな事態でなければ、全員を帰してやりたいという気持ちは二人も同じだった。
だが、事態はもっと深刻だった。
「なにぃ!? なんだ、これは!?」
ユニウスセブンで作業するMS部隊は突然襲撃された。それも、ジン――ザフトの機体に……。
「ジンだと? どういうことだ? どこの機体だ?」
「アンノウンです。IFF応答なしッ」
「なにぃ?」
イザークは迷う事なくゲイツのライフルを射出するよう指示を出すと、自らも出撃のため格納庫へと向かった。
パイロットスーツに着替え、発進シークエンスをこなしながら、イザークは別作業を行っているキラへ通信を繋ぐ。
「キラ、聞いていたか?」
「はい隊長」
「こちらのことは気にするな。お前達はお前達のすべきことをしろ」
「了解。……イザーク」
隊長、とではなくキラは名前を呼ぶ。
「なんだ?」
「大丈夫なの?」
「馬鹿者。俺を誰だと思ってる」
イザークは不遜な態度で言い返す。
キラ以外の者に、負ける気などこれっぽっちもない。
だが、まさかあのいけすかない同僚に出くわすことになろうとは、この時のイザークは思ってもいなかった。
大地に亀裂が走る。
ジンだけではなく、アーモリーワンで強奪された機体とも交戦しながら、メテオブレーカーを作動させて、デブリに浮かぶユニウスセブンは二つに割れた。
「グレイト! やったゼ!」
その時、思いもかけない声が通信機のスピーカーから流れた。
「だが、まだまだだ。もっと細かく砕かないと……」
「アスラン!?」
オーブに居るはずのアスラン・ザラがなぜここにいるのか?
(まさか……キラがザフトに居る事がバレたのか……?)
イザークが心中穏やかでいられるわけもなく、イライラしたように言った。
「貴様ッ、こんなところで何をやっている!?」
「そんなことはどうでもいい。いまは作業を急ぐんだ」
「あ、あぁ……」
「わかっているッ!」
どうやら、キラのことは関係ないらしい。
だが、念のために、ディアッカには「キラのことは言うな」とテキストを送信した。
「相変わらずだな……イザーク」
「貴様もだ」
送られてきたテキストに目を通し、耳に聞こえてきた二人の会話に、ディアッカは「やれやれ」と首を鳴らすのだった。
ジンが……そして、カオスとアビスが再び攻撃を仕掛けてくる。
「イザーク!」
「うるさいッ! いまは俺が隊長だ。命令するなッ、民間人がぁ〜〜〜ッ!」
アビスの腕を叩き斬りながら、イザークが叫ぶ。
(おいおい〜、こりゃヴォルテールに戻ってからが大変だぜェ?)
随分と冷静沈着になったと思っていたのに、アスランが絡むとすっかり昔のままである。
だが、ディアッカは昔ほどイザークの癇癪に悩まされてはいない。
むしろ、おもしろがる事ができるぐらいだ。
(頼むぜ……姫)
イザークのお守りはキラに任せることにして、ディアッカはジンと交戦しながら、メテオブレーカーを作動させた。
その頃、キラ達は、戦火の開いていない場所で作業に当っていた。
「大丈夫かな、副長達……」
ヘルメットに仕込まれた通信機から、リサの不安そうな声が漏れる。
通信でディアッカ達に襲撃をかけたものの存在は知っていたが、どうしても、MSの外に出なくてはならないから、できるだけ目立たぬようにしていた。
「隊長も出ると言ってたから、大丈夫だよ。いまは、僕達がすべきことをしよう」
「そうだな」
「リサは向こうの街周辺、シホはそっちをお願い。僕は、こっち側を見るから」
「「了解」」
3機のブレイズザクが散っていく。
キラがこの場所を選んだのには、もう一つ理由がある。
レノア・ザラの遺体を、隠しておいた場所があるからだ。
(よかった……。レノアさんがいる場所が、戦火に巻き込まれてなくて……)
キラは心底、ホッとしながら、まずはレノアをコンテナへと安置する。
すぐにとって返し、あとは片っ端からである。
用意されたコンテナがいっぱいになるころ、大地が大きく揺れ、亀裂が入った。
「やったね、副長!」
「キラ、こちらも撤収だ」
「待って、まだ人がいるんだ!」
キラは視界の中に浮かぶ人を追って、壁を蹴った。
「キラ、戻れ! 落下のスピードが上がってる」
「お願い! この人達だけでも……」
「わかった。だから急げ! 連合にでも見つかったら、大変だぞ」
「うん!」
キラは見えていた二人の遺体を回収すると、愛機へと戻る。
「お待たせ、撤収!」
3機のザクは、コンテナを引っ張りながら、ヴォルテールへ戻っていった。
ザクのモニターには、落下していくユニウスセブンが映っている。
(ごめんなさい、助けられなくて……)
大気圏突入の摩擦熱で赤く燃え上がる大地を見つめながら、キラは小さく呟いた。
遠くで、信号弾が光り、カオス、アビス、ガイアが撤退していく。
ヴォルテールからも信号弾が放たれた。
「限界高度かよッ!」
「ミネルバが艦主砲を撃ちながら、ともに降下する!?」
その後に続くテキストに、イザークは眉を顰めた。
(議長がルソーに移乗する……?)
イザークは後に続くディアッカに通信を入れた。
「ディアッカ、そちらにもいったか?」
「あぁ」
「キラの様子を見たら、俺も行く。それまで応対を頼む」
「りょーかい」
二本の指をヘルメットに当てて、ディアッカは応える。
「気取られるなよ?」
「わかってるって」
軽い口調ではあっても、二人は気を引き締め直して、二手に別れていった。
キラ達が帰還し、運びこまれたコンテナから、夥しいほどの遺体が運び出される。
謂れのない死を与えられた同胞たちを目にして、誰も「気持ち悪い」とは言わなかった。
「丁重に扱えよ。凍り付いて傷みやすくなってるからな」
「わかってます」
指一本失くすことなく、本国へと送り届けたい。
その思いは、誰もが同じだった。
「親父!?」
突然、兵士の一人が叫び、遺体の一つに縋り付き泣き出した。
その場にいた全員が、声もなく、ただ彼を見つめていた。
やがて、作業が再開し、その遺体も処理が施されていく。
縋り付いていた一般兵が、機体から降りてきたキラの元へと駆け寄ってきた。
「……キラさん、あの、ありがとうございます。親父を……父を、あそこから助けてくれて……」
そう言って、彼はぺこりと頭を下げた。
「僕は…何も……してない」
「できる限りのことをしてくれたと思います。本当に、ありがとうございました」
「僕じゃなくて、隊長に言って。隊長が許可してくれたんだから」
ちょうどそこへ、イザークも戻ってきた。
「キラ、ご苦労だった」
「あ、あの、隊長、ありがとうございました」
先程の兵士が、深々とイザークに頭を下げる。
なんのことだかわからないイザークが訝しげな顔をすると、キラが持ち帰ってきた中に彼の父親がいたのだと説明する。
「そうしたいと言っていたのはキラだ。礼は俺ではなく、キラに言ってくれ」
「僕が『お礼は隊長に』って言ったんだよ?」
そういってキラは小さく微笑む。
「そうか」
兵士は一礼して去っていく。
「よかったな、キラ」
キラの願いを喜んでくれた人がいる。
「うん。でも、助けられなかった人が多すぎて……」
ユニウスセブンとともに、大気圏突入の際の熱に灼かれてしまった人の方が多いのだ。
「キラ……」
助けたい。その思いだけで、ストライクに乗ったキラ。
それなのに、多くの人を助けられなくて、キラは苦しんだ。
いままた、そのことにキラは苦しんでいた。
そんなキラに追い討ちをかけるようなことが起きたのだ。
「ん? なんだ、これ?」
キラの機体をチェックしていた整備士の一人が、何かを手にして呟いた。
呟きというには少し大きな声に、キラもイザークも振り返り、彼の手元を見て、目を瞠いた。
「あ…あぁ……」
ガクガクと震えだしたキラを、イザークは強く抱きしめた。
整備士の手にしていたのは、紙で作られた花。
それが、どういったものだったのか、イザークだけは知っていた。
「キラ、俺の罪だ。お前じゃない! 責めるなら、俺を責めろ!」
それでも、震えが止まらないキラを抱きかかえ、「休ませる」と誰にともなく告げて、その場を後にした。
パイロットスーツのまま、キラを抱えて隊長室へと戻る。
キラを抱きしめ、ゆっくりと髪を撫でる。
(ディアッカ達の言うとおりにして、正解だったな……)
当初、自分とキラが乗る艦を別にするつもりだったイザークに、何かの時のことも考えて一緒の方がいいと進言したのはシホだった。
他のパイロット達もそれに同意し、ディアッカは本来ルソーに乗るはずだった自分をヴォルテールに乗るよう勧めた。
キラの傷の中でも、あのシャトルのことは一番大きくて深い。
その時の自分を罵りたいぐらいだ。
「イザーク……、ごめんね?」
「お前が謝る理由などないだろう?」
「でも、イザークは自分を責めるでしょ?」
「……………」
返す言葉がない。その通りなのだから。
「ちゃんとわかってる。全部を守ることなんてできないって……。どうにもならないこともあるって……」
「キラ……」
「それでも助けたいんだ。みんなを……」
その気持ちだけは捨てられない。
「それでいい。それでいいんだ、キラ。諦めたら、誰も助けられない。だが、助けられなかったとき、自分だけを責めるのはやめてくれ」
「……うん」
イザークはキラを抱えたまま立ち上がって言った。
「俺はもう行かなきゃならない。報告もしなくてはならんからな」
「うん」
「キラは少しここで休んでいろ。議長がルソーにいる」
「え?」
早々に出撃していたキラは、そのことを知らなかった。
「ミネルバが主砲による破砕を行いながら、地球へ降下したんだ。議長までが降下するわけにはいかないからな。こちらへ移乗したんだ」
「そう……なんだ」
「他にもキラに話さなきゃならんことがある。だが、先にすることを済ませてくるから。軍服はシホにでも届けるように言っておく」
「わかった」
本当は、もう少し傍にいて欲しい。
だが、イザークにはイザークの務めがあるのだ。
そういうキラの気持ちも察しているから、イザークはもう一度強くキラを抱きしめ、深いキスを送った。
なんか……やたらと長い……。でも、切る場所なくて……。 ルソーとヴォルテールにMSが12機搭載できるというのは、ここだけのマイ設定です。 ちなみに、イザークのスラッシュザク、ディアッカのガナーザクは公式通り。 キラはブレイズザクファントムで、シホとリサはブレイズザクウォーリア。 アマルフィ隊はマイ設定で黒い機体の『ダークザク』ということになってます。 ニコルがダークザクファントムで、他の二人がダークザクウォーリアです。 白い『ブレイズ』が『光』ですから、『闇』のザクなんです。 まだ本編放送中に考えていたネタで、このダークザクを『黒い三連星』にするってのがあったんですが、 本編に出てきちゃったからなぁ〜。シクシク。 議長がルソーに移乗というのもマイ設定です。だって、ヴォルテールじゃ具合悪いんだもん。 第1話 INDEX 第3話