Moon Soldiers 第2章

第9話 それぞれの思惑


「カガリ、どこに行っていたんだい? もう、シャトルが出る時間だよ?」
「……スマン。ちょっと気になることがあるんだ」
 カガリの元へ駆け寄ってきたユウナが口うるさいことを言う。
 昼間、空いた時間にキラの行方を探して歩き回っていたのを咎めてくるのだ。
「供などいらない。それに、アレックスを連れてるぞ?」
「アレックス? あぁ、あのコーディネーター。そんなの信用できないじゃないか」
「……………」
 オーブの理念である『ナチュラルとコーディネーターの共存』。ユウナの言葉は思いっきりそれに反している。
 だが、カガリはそれを咎めない。
 幼い頃から知っているのだが、どうもこの親子は苦手なのだ。
「いいかい? 君はオーブの代表なんだよ?」
「わかってる」
「ならば、軽々しく出歩いたりはしないように」
「……わかった」
 施政者とは、なんと窮屈なものか。
 カガリは溜息をつきながら、廊下を歩いていた。

「あの娘はいったいどこへ出掛けてるんだ?」
 こうも軽々しく出かけられては威信に関わると思うウナトは、息子に問い質した。
「妹……が行方不明なんだって」
 肩を竦めながら答えるユウナを、ウナトは厳しい目で見た。
「妹? あの、コーディネーターのか?」
「そうそう」
「ユウナ! なぜ、それを報告しない!」
「え〜? 別にコーディネーターの一人や二人、いなくなったって問題ないでしょ?」
 そんなことは日常茶飯事である、とユウナは気にも留めない。
「そうではない。いなくなったのなら、むしろ好都合ではないか!」
 停戦後、カガリはキラ・ヤマトという一人の少女を連れて行政府へと現れた。
 カガリはその少女を双子の妹だと首長たちに紹介した。コーディネーターだとも。
 オーブの理念を象徴する存在だと、カガリは鼻高々に宣言した。
 だが、少女はアスハの籍にも入らず、国政に携わるつもりもない、カガリと双子だと言うことすら公表するつもりはない、と宣言した。
 それでも首長たちは彼女を信用しなかった。
 カガリが熱心に少女に、アスハ宮殿に一緒に住むことを勧めたからだ。
 いつか、カガリに圧される形でアスハを名乗り、国政に口を出すようになるかもしれないと。
 国政に口は出さなくとも、アスハを名乗れば、次期首長の権利を得る。
 中には、その少女を抱きこもうとする首長家も出てくるかもしれない。
 国が乱れる元となる存在を、どうして歓迎することができようか。
 それでも、その少女がナチュラルならば、まだよかったのだ。
 中立国とはいえ、コーディネーターの首長など前代未聞である。
 そんなことになれば、オーブは本当に孤立してしまう。
 宇宙にあるプラントとは訳が違うのだ。
「考えてみろ、ユウナ。ああまでカガリがその妹とやらを探すのは、いなくては困るからだろう? 国政には携わらないとか言って、その実、裏でカガリをいいように動かしていたのかもしれんぞ?」
 ウナトの考えは、大きく的が外れているが、そう思ってしまうのも無理はないかもしれない。
 それほどに、戻ってきたカガリは、キラを構いすぎていたのだ。
「う〜ん、それはあるかもしれないね。あのカガリを言いくるめるのなんて、簡単なことだろうし」
 自分達こそが、その手法で国政を手にしようとしているのだから。
「どうして行方を眩ませたかは知らんが、こちらにとってはチャンスだ。いまのうちに、カガリをしっかり取り込むのだ」
「取り込むって、どうやって?」
「何を言っておる。カガリとお前は婚約者なのだぞ?」
 婚姻による政治的な結びつきは古来から行われている常套手段だ。
 首長の婚礼ともなれば経済効果も高く、復興の弾みとなるだろう。
「まずはあのじゃじゃ馬をどうやって祭壇の前に引きずり出すか、を考えなくてはな……」
 それが一番大変なことだと、ウナトは溜息をついた。






「ほぅ、やはりザフトはこんなものを造っていたか」
 マルチモニターに囲まれた執務室で、報告書を片手に男は忍び笑いをしていた。
 モニターには報告書にあった3機のMSの設計図が映し出されている。
 男の名は、ロード・ジブリール。
 ムルタ・アズラエル亡き後、ロゴスの長老達の推薦を受けて、ブルーコスモスの盟主となった男である。
「コーディネーターは結局、我々と手を取り合う気などないのだ」
 ジブリールは深々と椅子に座ると、大仰に足を組んだ。
「もっとも、我々にも宇宙(そら)の化け物の手を取る気などない」
 パネルを操作して、3機のMSを順々に映し出す。
「さて、せっかくのMSだから、こちらに頂くことにしよう」
 報告書に目を通し、ジブリールは呟く。
「オーブの子獅子はプラントへ行くか……。ちょうどいい、うるさい蝿もろとも片付けてやる。ネオ・ロアノークを呼べ。奴にやらせる」
「はっ!」
 傍で控えていた男に命じると、ジブリールはサイドテーブルのグラスへ手を伸ばす。
 ボルドーの液体が揺らぎ、芳醇な香りを立てる。
「馬鹿な国だ、オーブは。首長同士が常に争っているのだから」
 そのうちの一つに、我々が後押しをすると言えば、金に目が眩んであっさりと食いついてくる。
 後はいいように使うだけだ。
「ヤツラも中立を名乗る国から、我々のスパイがやってくるとは思わないだろうさ」
 プラントに駐留するオーブ外交員から、本国の外務次官へと情報が流れる。
 そして、それを首長家の権限で吸い上げ、我々の元に送られてくる。
 しかも、あのバカな小娘のところへは、精選という名目で情報を制限させていた。
「オーブはすでに私の手の内だ」
 グラスを傾けボルドーの液体を口に含むと、ジブリールはもう一度忍び笑いをした。






「やはり、やっかいな国だな、オーブは……」
 ギルバート・デュランダルは白のポーンを動かしながら、呟いた。
 オーブの外交員が、奇妙な動きをしている、との報告にデュランダルは「やりたいようにさせておけばいい。ただし、何をしてるのかは報告するように」との指示を出した。
 その外交員の身元を洗えば、オーブの首長家の一つへと繋がっていった。
 しかも、その首長家には、最近ジブリールの影が見え隠れしている。
 オーブという国がやっかいなのは、モルゲンレーテを柱とする軍事技術だけでなく、中立国を謳っていることもあるのだ。
 だから、こうしてオーブの名で、ブルーコスモスの息がかかった者が、プラントへと入り込んでくる。
「そろそろ消えてもらいたいものだな、オーブにも……」
 すでにその布石も打ってある。
 あとは、仕上げにかかるだけだった。
 デュランダルはキーボードを操作し、通信を繋げた。
『ギルv
「やぁ、レイ。悪いね、夜遅くに。レイも疲れているだろう」
『大丈夫です。それよりも、何かありましたか?』
「あぁ。明日、アーモリーワンにオーブの姫がおいでになる」
 モニターの中では、亡き友の面影を残した少年が、眉を顰めている。
「そこで、例の彼に引き会わせたいんだが……」
『わかりました』
「で、どうだね? 彼は……」
『何も心配はありません。単純なヤツですから』
「そうか。彼のことはレイに任せよう」
『はい』
 通信が切れると、デュランダルは黒のビショップを動かす。
「ようやく幕が上がるな……」






 そして、運命の歯車が回り出す。






今回はまた少し短かめ。そして、イザキラ不在です。
イザキラだけでは話が進まないので、アクの強い3人がメインですが、堪忍してください。
そして、次からDESTINY編。今回の話を見てもわかりますが、本編に沿ってるようで沿ってません。
沿いたくても沿えません。だって、キラがオーブにいないし。


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