Moon Soldiers 第2章
第7話 シミュレーション
シミュレーションルームには、キラ達4人の他にイザークとディアッカ、そしてアマルフィ隊の4人がいた。
「隊長、どういうことですか?」
「シミュレーションはゲームでも、決闘でもない。隊長として、見ておく必要があるだろう? アマルフィ隊に来てもらったのも、同じ理由だ」
「わかりました」
「では、早速始めて貰おう」
3人がそれぞれシートに座る。
「Bプログラムで」
「「了解」」
シホの言葉にキラとリサが応じる。
「シホ。これでどうするつもりだ?」
Bプログラムはアカデミーでも使う、次から次へと現れるバーチャルのMSを撃墜していくプログラムだ。
「実力を確認するのは、これが一番だと思うのですが」
確かに実力はわかるが、小隊長としての資質を確認出来るとは、イザークには思えなかった。
「まぁ、いい。やってみろ」
「はい」
だが、シミュレーションはあっと言う間に終了した。
「そんな、バカな……」
シホは呆気にとられていた。
撃墜数だけとっても、キラがダントツだった。
「ま、こんなもんだろ」
「副長?」
ディアッカがさして驚いていないことに、キラを知らない人間は首を傾げた。
「キラはあのアスラン・ザラの成績を塗り替えたんだよ」
「ニコル」
イザークはニコルに準備をするように促すと、ニコルはカインとケントを引き連れて、更衣室へ向かった。すぐに、ニコル達はパイロットスーツを着て戻ってきた。
「準備できました」
「隊長?」
どういうことなのだ? とシホが尋ねる。
「いまので、それぞれの実力はわかったのだろう? ならば、次は資質だ。アマルフィ隊を相手に、3対3で10分間ずつ。リサ、シホ、キラの順に指揮を取れ。例え不服だろうと、いまは従うように。隊長機、もしくは全員が撃墜されれば、終わりだ。ゲームではないから、それ以外にルールはない」
イザークの言葉に、シホも納得せざるを得ない。
「では始めてくれ」
その言葉を合図に、再度シミュレーションはスタートした。
「どうだ? 二人とも、納得できたか?」
「「……は…い」」
30分後、シホとリサは肩で息をしながら、答える。
リサの指揮は、あっという間に終わった。
満足な指揮をしないうちに、リサが墜とされてしまったからだ。
続くシホの指揮。
リサよりは実戦経験もあるし、そつがない。
セオリーに乗っ取った指揮は、いかにもシホらしい、とイザークは苦笑する。
だが、ニコルにはあっさり戦法を見破られ、またしてもリサが墜とされる。シホはかなり粘っていたが、カインとレオンの二人掛かりになると撃墜された。
キラが指揮を取ると、シホもリサも唖然とした。
素早い状況判断と的確な指示。そして何よりも、セオリーも何もないトリッキーな動き。
それは、確実にアマルフィ隊を追いつめて行った。
結果的にはタイムアウトだったが、キラ達の方が優勢を保っていたのは、事実である。
「ならいい。キラ、もう少し付き合って欲しいが、大丈夫か?」
「はい……、なんでしょう?」
キラの問いかけには、イザークは笑うだけだった。
もっとも、周囲にとっては、イザークが笑っていることだけでも驚きだったのだが。
「ニコル。アレの準備をしておいてくれ。他の4人は着替えていいぞ」
「「「「はいッ」」」」
イザークとディアッカが出ていき、ニコルとキラ以外の4人もそれに続いた。
「ニコル、何するの?」
準備を頼まれたニコルなら、イザークが何をしようとしているのか知っているだろう。
だが、ニコルからも、きちんとした答えは貰えなかった。
「キラ。イザークを信じてください。イザークはキラのことを本当に大切に思ってますよ? 僕が言えるのはそれだけです」
「……わかった」
ニコルの返事からわかるのは、イザークが何かを仕掛けようとしているのだ、ということだった。「待たせたな」
イザークとディアッカは、パイロットスーツを着て戻ってきた。
イザークが目で合図すると、ディアッカとニコルがマシンに座る。
「キラも座ってくれ」
言われたように、キラもマシンにつく。
だが、そこに組み込まれたOSは、先程までのものではなかった。
キラは見覚えのあるそれに、完全に凍り付いた。
周囲で見ていた者たちも、モニターに映った映像を見て、息を飲んだ。
「あれは……」
モニターに映し出された機体。それは、デュエル、バスター、ブリッツ、そしてストライク。「俺たちのは使用していたOSを搭載した。ストライクには、Gの初期OSをが載せてある。起動、変更をした上で、俺達3機を撃退する。換装はなしだ。いいな?」
「……………」
キラは何を言ったらいいのかわからなかった。
ザフトに入るために隠したはずの過去。
つらい痛みを伴う思い。
それを知るイザークがそこに光を当てている。
なんで……?
イザークの意図がわからなくて、キラはパニックに陥りかける。
それを察したイザークは、キラを呼んだ。
「キラ、言いたいことは後で全て聞いてやる。だが、いまは俺にお前の全てを預けてくれ」
それは睦言のように甘い声音。
ニコルの言葉を思い出す。
(信じる。イザークを信じる)
キラは一つ深呼吸する。
「いいよ、イザーク」
「キラ、本気で来い」
「わかった」
「では始める。イザーク・ジュール、デュエル発進する」
「ディアッカ・エルスマン、バスター行くぜ!」
「ニコル・アマルフィ、ブリッツ行きます」
バーチャルではあるが、3機のGが虚空に浮かぶ。
「キラ・ヤマト、ストライク行きまーす!」
起動し、虚空に出てはきたものの、このままでは満足に戦えない。
キラは急ピッチでOSを書き換えるが、そうしている間にも、デュエルが、バスターが、ブリッツが攻撃を仕掛けてくる。
シールドで防ぎながら、ビームライフルでの攻撃を可能にさせる。
そこまでの所要時間は1分。
防御に徹していたストライクの反撃が始まる。
3機からの攻撃を避け、見たことがないほど機敏に虚空を舞う白い機体。
静かだった。音声モニターが切られたわけではないのに、声が聞こえてこない。時折互いの名を呼び合うだけだ。
それなのに、ピタリと揃った3人のコンビネーション。
「これが、真のクルーゼ隊……」
唯一、先の戦争を経験しているシホが唸る。
アカデミーの記録を悉く塗り替えたという5人で揃えられたパイロット達。
いまでもそのアカデミーの上位記録は彼等の名で占められている。
自分がクルーゼ隊麾下のジュール隊に配属された時には、もうイザークしかいなかった。
噂でしか知らなかったトップガン4人の強さ。
イージスこそいないが、その強さを目の当たりにして、鳥肌が立ちそうになった。
そして……。その4人をたった1機で退けたという連合唯一のMSストライク。
それがいま、目の前にある。
クルーゼ隊だった3人以上の強さを示して。
「まさか、キラは……」
ありえない、と思いながらも、それが真実だと確信する。
一時もモニターから目が離せないシホの視界から、ブリッツが消えた。
「ミラージュコロイドッ!」
キラは即座にビームの照射角を計算すると、何もない空間にビームサーベルで切り込んだ。
「ッ!」
ニコルの声がして、ブリッツが現れる。
だが、その姿は大きく変わっていた。
「戦闘不能。ブリッツ、退却します」
「了解。ディアッカ」
「わかってるって」
デュエルがビームサーベルを手に切り込んで行くのを、バスターが援護する。
だが、ストライクはデュエルの一撃をかわし、足で機体を蹴り落とした。
「なッ……!」
モニターで見ていた者達も、呆気に取られた。
蹴り落とすなんて戦法はアカデミーでは教えない。
だから、そんな風にMSを使うなんて、考えてもみなかったのだ。
しかもキラは、その勢いを利用してバスターに一気に向かうと、その懐に入り込む。
本来、長距離戦闘型のバスターにとって、近距離戦はキツイ。
ビームサーベルで両手を一気に切り捨てられた。
「なんてスピードだ……」
誰かの口から呟きが漏れる。
副長であるディアッカが緑を着ているのは、訳ありだからで、決して弱いからではないと皆知っている。
かつては紅を纏うトップガンで、いまでもその実力は自分達を上回る。
そのディアッカを……、いや、ザフトの中でもトップの3人を一気に相手して、引かないどころか勝る力を見せ付けるキラ。
「わりぃ、イザーク」
「フンッ。まぁ、相手がキラだからな」
「頑張れよ」
「あぁ」
イザークとの一騎打ちとなり、両者が見つめ会う。
因縁の相手だったストライク。
いまはもう、討ちたいという感情こそないが、気分が昂揚するのは、どうしようもなかった。
「……キラ、愛している」
誰にも聞こえない声で言って、イザークはグリップを握り締めると、ストライクへと向かって行った。
ちょっと短かめですが、ここで切ります。 キラを愛するようになっても、ストライクはイザークの中でやっぱり特別な存在だと思います。 墜とすとか、討つとかじゃなく、いつかストライクに勝ちたい、って微妙に違う気持ちで。 もちろん、それだけで危険な綱渡りはしないです。ちゃんと、キラのこと考えてます。愛してますから! 第6話 INDEX 第8話