Moon Soldiers 第2章

第5話 4枚のディスク


 広間のソファや椅子を一箇所へと集めるようにして、全員が座った。
 3人がけのソファにアマルフィ夫妻とマユが、反対側にはエルスマン夫妻が座った。
 アマルフィ氏とエルスマン氏の間にある一人がけのソファにエザリアが座り、エザリアの反対側には、キラが強引に座らされていた。
 ニコルとディアッカは椅子を引っ張ってきて、それぞれ家族の脇に座り、イザークは立ったまま話し始めた。
「先日のユニウスセブン追悼慰霊団の件は、皆さんご承知だと思います」
 全員が頷いているのを見て、イザークは言葉を続けた。
「あの直後から、自分達は軍とは別の観点から、調査をしていました」
「別の観点?」
 首を傾げたのは、一番情報から遠かったマユだった。
 大人たちはそれぞれ息子達から何かしら話を聞いていたのだろう。それほど驚いてはいなかった。
「そうだ。あの事件は報道されたような事故ではなく、故意によるものだ」
「それって……暗殺ってことですか?」
「そうなるな」
「そんな……誰が、そんなこと!」
 マユは身体を震わせて、ロミナに縋りつく。
「マユはキラがプラントへ来た理由を知ってますよね?」
 ニコルに聞かれて、マユはハッと顔を上げた。
「じゃあ……!」
 イザークはコクリと頷くと、話を戻した。
「残念ながら、まだ証拠は見つかってません。ですが、カナーバ邸は数度に渡って家捜しされていることがわかってます。推測ですが、カナーバ女史は自分の身の危険を察知していたのでしょう」
「だから、エザリアに先程のものを……」
 ようやく合点がいったように、タッドが頷いた。
「私にではなく、イザークにでしょう?」
 そういうエザリアを、イザークが否定する。
「自分にではなく、キラにでしょう」
「僕?」
「キラがここにいることをカナーバ女史が知っていたとしか、考えられん」
「確かにな……」
「ありえますね」
 アイリーン・カナーバはクライン派の筆頭と目されている。
 ダコスタはキラのプラント入りを知らなかったが、カナーバにはラクスも連絡していたかもしれない。
 キラは、イザークに渡されたディスクをじっと見つめた。
「僕、パソコン持ってくる」
 キラは、ドレスの裾を摘んで、部屋を飛び出して行った。






「バックアップは取ってあるか?」
 アイリーン・カナーバが送ってきたのだから大丈夫だとは思うが、何が入っているのかわからないディスクだ。用心に越したことはない。
「もちろんだよ」
 キラは持っていたディスクの1枚をセットした。
 すると、パスワード画面が立ち上がる。
「外せるか?」
「やってみる」
 キラはものすごい勢いでキーボードを叩き始めた。
 これを初めて見たニコルやエルスマン夫妻、アマルフィ夫妻は唖然としながら、キラの手を見ていた。
「な、なんて速さなんだ……」
「タッド、お前、理解できてるか?」
「いや……まったく」
 文字の羅列が、理解できる間もなく流れていく。
「よし、OK」
 展開されたモニターを見て、一同は息を飲んだ。
「MSの設計図……のようだな」
「えーと、ガイア、アビス、それとカオスってのが名称かな? 3機とも可変型なんだね。カオスはバクゥみたいなカンジ? アビスは……潜水艇型かぁ。カオスは……」
「強襲型で改良型ドラグーンシステムを搭載している」
「父さん!?」
 キラを囲む人の一番後ろにいて、ろくにモニターが見えてないだろうユーリが『カオス』という名のMSについて語ったので、ニコルは驚いて振り返った。
「ガイア、アビス、カオスは私が開発局にいた時に設計されたMSだ。パトリックの指示で、フリーダムとジャスティスの開発が優先され、そのまま停戦となりお蔵入りになった。だが……なぜ、いまさらそんなものをアイリーンが……」
 イザークに宛てて送ってきた理由まではわからない、とユーリは言った。
「キラ、詳しい分析は後にして、他のディスクも確認した方がいい」
「そうだね」
 イザークに促されて、別のディスクをセットする。
 それにもロックがかかっていた。
「なんで……?」
 戸惑ったようにキラはキーボードを叩きながら呟いた。
「どうした?」
 イザークがキラの呟きを耳にして、問い返す。
「これ……さっきのシステムと違うの……それに……」
 隠されていたパスワードは『DIVA』。歌姫を意味するその単語に、キラはさらに首を傾げた。
 そして、展開されたモニターを見て、息を飲んだ。
 名前や所属がたくさん連なっている。
「これは……名簿か? 一体、何の……?」
 イザークが画面を凝視している横で、キラが厳しい視線でモニターを見ながら呟いた。
「確証はないけど……多分、『クライン派』のだよ……」
 知らない名前の方が多いが、その中にちらほらと見知った名前がある。
 いずれも、エターナルに乗艦していたクルーの名だ。
 それならば、先程のパスワードにも納得ができる。
「デュランダルに渡すぐらいなら、イザークの手にあった方がいいと、アイリーンは思ったのかしらね……」
 もう、間違いないだろう。アイリーン・カナーバは、キラがここにいることを……イザークとの関係を知っていたのだ。
 でなければ、強硬派であったエザリアの息子であるイザークに、こんな重要なものを送るなど考えられなかった。
 キラは3枚目のディスクをセットした。

「これは、さっきのシステムと同じだ……」
 キラが意味しているのは3機のMSのデータが記されていたディスクの方である。
 展開されたデータの中からファイルを一つ開いてみる。
「またMS? ZGMF-X56Sインパルスガンダム……」
 いくつかのパーツに分かれていて、合体してMSの形になるようだった。
 コアスプレンダーという戦闘機型の部分がそのままコクピットにもなる。
「父さん、何かご存知ですか?」
 ニコルが父・ユーリに尋ねる。
 だが、ユーリは横に首を振り、言った。
「いや、聞いたことがない。開発コードからしても、私が開発局を辞してからのものだろう」
「じゃあ、カナーバ女史が……?」
 臨時評議会では、国防委員長もカナーバが兼任していたのだから。
「いや、それはないだろう」
 そう言ったのは、タッドである。
「アイリーンが新たな兵器開発に着手するとは考えられん」
「私もそう思うわ」
 エザリアがそれに同意し、ユーリも強く頷いた。
「ということは、デュランダル議長になられてからのもの……ということですか」
「キラ、もうひとつファイルがあったな?」
「うん」
 キーボードを叩き、もう一つのファイルを開く。
「これは……」
 みんながモニターを覗きこむ。
「戦艦!?」
「こんなものまで造っているとは……」
「やはり、デュランダル議長は再び戦火を開こうとしているのかもしれないな……」
 イザークのその呟きに、みんなが反応を返す。
「そんな……」
 キラは言葉を失い、イザークの顔を見る。
「また……人が死ぬの……?」
 マユは小さく震えて、ニコルへとしがみついた。
 ニコルは、マユの手をギュッと握り締めた。
「やはり……って、他にもなんかそーゆーフシがあったわけ?」
「あぁ、カナーバ女史の件を調べてる時にな……。結局、あれは事故と報道されたが、あの件はラクス嬢の時と似ているだろう? ホントはブルーコスモス……ひいては連合の仕業じゃないかと勘繰る奴も出てくるのではないか?」
「あ……」
 ラクスの時と同じユニウスセブン追悼慰霊団のシャトル。
 確かに立て続けにそんなことがあれば、勘繰りたくもなるだろう。
「憶測が噂として流れ、世論が再び開戦に傾いていく。議長はそれを狙っているのではないかと思ってな……」
「可能性はあるな。ラクスがキラに……アークエンジェルに拾われたことは知られてないし」
 知られていたとしても、ラクスを人質にした経緯がある以上、なんの解決にもならないだろう、とキラは思う。






 4枚のディスクに関しては、追って分析して報告することにして、パーティーはお開きとなった。
 とても、何もなかったかのように楽しめる状況ではなくなってしまったのだ。
 誰もいなくなったサロンで、小刻みに震える細い肩を、イザークは優しく抱き寄せた。
 その様子にエザリアも、後をイザークに任せて席を外した。
「どうしてアレが……」
 真っ黒になったモニターには、先程までキラの運命が映しだされていた。
 4枚目のディスクにあったデュランダル議長に関する調査報告とメンデルの記録。
 バイオハザードが起きた経緯から、メンデルで行われていた研究内容など。
 その中にはユーレン・ヒビキ博士が行った人工子宮の研究――すなわちキラの出生までもが記されていた。
 それを見てしまったキラが、ガタガタと震え出したため、イザークが強制終了させ、解散することにしたのだ。
 キラの震えはまだ収まらない。
 そんなキラをイザークは優しく労わった。
「カナーバ女史が、何を伝えたかったのか、いまとなってはわからんな……。だが、このディスクがあればキラの目的に、大きく近づいたことに違いない」
「でも、なんでカナーバさんがメンデルのことを……?」
「やはり、ラクス嬢が知らせたのだろう。それだけキラを心配しているのだろうな」
 イザークを信用していない、ということではないと理解している。
 それならば、キラを託すことすらしてくれなかっただろうから。
 だが、イザークはエザリアの息子であるから、事情を知らないクライン派は、簡単には信用しないだろう。
 それは先日、ダコスタに会った時にも感じていたことだった。
「母上にしても、エルスマン氏やアマルフィ氏も、いまや権力を持たない。多少の顔はきくだろうがな。俺にもザフトの隊を預かるという立場がある。俺達が身動き取れない事態に備えて、ラクス嬢はカナーバ女史に明かしたのだろう」
「それは、わかる……」
 キラはそう言って黙り込んでしまった。
(僕がプラントに来なければ、カナーバさんが死ぬことはなかったかもしれない……)
 そして、自嘲気味に歪んだ表情に、イザークは眉を顰めた。
「キラ、またくだらん事を考えているな?」
「あ……」
 指摘されて、キラはその小さな身体をさらに小さくした。
「ごめんなさい……」
 イザークはキラを強く抱きしめると、柔らかな栗色の髪に口付けを落とす。
「前にも言ったが、全てを自分のせいだと考えるのはやめろ。お前の悪いクセだ。だいたい、世の中は、そんな簡単なものじゃない。それに……」
 ここまで辿りついていたということは、カナーバは自分達よりも多くのことを知っていた可能性がある。
 それだけ、ギルバート・デュランダルという男に、得体の知れない何かを感じ取っていたのだろう。
 キラのことがなくても、カナーバは命を狙われていた可能性が高いと思うのだった。
「いままで以上に慎重にことを運ぶ必要があるな」
「うん……」
「心配するな。どんなことがあっても、俺がお前を守る」
 辛そうに俯くキラの顎を指で上向かせ、イザークはキラの唇に自分のそれを重ねた。
「ん……ッ」
 僅かに離れた唇が、有無を言わせぬ口調で言葉を紡ぐ。
「今夜は俺の部屋で寝ろ」
 一人でキラを寝かすことなどできない。きっと、夢を見てしまうだろうから。
 キラもそれがわかっているのか、コクンと頷いた。






お待たせしてしまいました。やっとここまで……。
キラが活躍とか言いつつ、イザークがかっこいいぞ(笑)。
この後の二人……ですか? 二人並んで一つのベッドで寝るだけ……ってことはないです。
でも、ここでは割愛。
次回は、キラ、アカデミーを卒業します。


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