Moon Soldiers 第2章

第4話 死者からの贈り物


「婚約パーティー!? 僕、聞いてないよ!」
 次の休み、つまりはキラがアカデミーに入って4ヶ月目の時である。
 ジュール邸に戻ったキラに、イザークが苦虫を噛み潰したような顔で告げた。
 そんな顔になってるのは、断じてキラとの婚約が不服だからではない。
 エザリアが自分達の了解も得ずに勝手に事を進めたからである。
「俺だって聞いたのは2週間前だ」
 慌しく哨戒活動を兼ねた訓練航海に出たものの、ジュール隊では実戦経験の乏しさが露呈した。
 そのため、軍務規定に沿った休暇の後は、訓練所での強化訓練を行っていた。
 また、アイリーン・カナーバの死に関しての調査を行ったりもしていたので、イザークは超多忙な毎日を過ごしていた。
 その間に溜まったデスクワークなどをようやく片付けて、久しぶりに自宅へと戻ってみれば、エザリアがニコニコとパーティーの準備に勤しんでいたのだ。
 招待客の名簿を取り上げてみれば、いずれも旧体制の要人ばかり。
 キラがここにいるわけを忘れたのか!と怒鳴りたくもなるというものだ。
 カナーバの死があったばかりだというのに。
 だいたい、そんな大きなパーティーなど、キラが喜ぶワケがない。
 一晩かけて母親と話し合い、大々的なパーティーを取りやめ、ごく親しい内輪のホームパーティーとさせたのだ。
「パーティーといっても、ディアッカのところの両親とニコルの両親、それとお前と一緒にきたマユという少女だけだ。もちろん、あいつらも来る」
「……わかった」
 そういう人たちだけなら、なんとかなるだろうと思い、キラは頷いた。
 途端にバタンとドアが開いて、エザリアがキラの手を取る。
「綺麗にしてあげるわ」
 ニッコリと笑うエザリアを怖いと思ってしまったキラに罪はない……と、イザークも思うのだった。






 
 数時間後、ジュール邸の広間にはエルスマン一家とアマルフィ一家が主役の登場を待ちわびながら、話をしていた。
「イザーク、僕、変じゃない?」
「大丈夫だ、キラ。綺麗だ」
 エザリアの手によって、美しく着飾られたキラは本当に美しかった。
 ホームパーティーとはいえ、華やかな祝いの席だからと着せられた淡いピンク色のドレス。
 裾がふんわりと広がり、なんとも愛らしい。
 こんなキラを親達はともかく、ディアッカやニコルには見せたくはない。 
 唯一、露出が少ないのが、イザークにとっても、またキラにとっても救いではある。
「さぁ、行くぞ?」
「うん……」
 キラをエスコートするために、腕に手をまわさせる。
 その指には、先日イザークが贈った婚約指輪が輝いていた。
 開かれたドアをくぐると、みんなが拍手で迎えてくれて、まるで、披露宴のようだった。
 示された場所に座ると、エザリアが嬉しそうにパーティーの開始を告げる。
 シャンパンが抜かれ、「婚約おめでとう」という声に二人して頬を染めた。
 そんな二人のところへ、キラの見知らぬ人物が寄って来た。
「キラ、こちらがディアッカのご両親だ」
「はじめまして、キラです」
 イザークが紹介すると、キラは立ち上がって挨拶をする。
 そのふんわりとした物腰に、エルスマン夫妻も微笑を浮かべた。
「イザーク君、婚約おめでとう。まったく、エザリアが羨ましい。こんなステキなお嬢さんを嫁に迎えるんだからな」
「本当ね、ディアッカときたら浮いた話すらないんですもの」
 そう零すエルスマン夫人に、キラは首を傾げながら言った。
「ディアッカにも、ステキな彼女がいますよ?」
「え?」
「ワ〜〜〜ッ、キラ、ストッ……」
 慌ててキラを止めようとしたディアッカはニコルに口を塞がれてしまった。
「まぁ! ディアッカったら、何も言わないのよ。どんなお嬢さんなの? どうして、連れて来てくれないのかしら……」
「連れて来るのは……無理かもしれません。いまはオーブにいますし、それに……彼女はナチュラルですから」
「え?」
 エルスマン夫人は、じっとキラの顔を見返して聞いた。
「ナチュラル……?」
「はい。僕のすごく仲のいい友達なんです」
 ただキラを見つめてくるエルスマン夫妻に気付いて、キラは言った。
「ミリィは……ミリアリアは、コーディネーターに対して偏見なんかありません。ラクスとだって仲がいいし。それでも……やっぱりナチュラルでは、ダメですか?」
 エルスマン夫妻は、グッと言葉に詰まった。
 タッド・エルスマンは評議員時代、中立派と称していた。
 実際、ナチュラルを殲滅するなどということは考えていなかったし、できることなら友好的な関係を結んでいきたいとは思っていた。
 だが、エルスマン家の嫁としてナチュラルを迎える……なんてことは、考えてもみなかったのだ。
 タッドはうろたえていた。
 ここで『ダメ』と言えば、自分が唱えてきた中立は、口先だけのものとなってしまう。
 だが……。
「ダメ、ということはないわ。そう、ミリアリアさんと言うのね」
 先に言葉を発したのは、エルスマン夫人の方だった。
 こういうとき、女性は立ち直りが早い、とニコルはディアッカの口を塞いだまま思った。
 キラと出会ったときも、マユのことを話した時も、いち早くキラを労わり、マユを受け入れたのは母の方だったことを思い出す。
「でも、困ったわねぇ。顔も見れないんじゃ……」
「あの……、ぜひ、オーブにいらしてください。綺麗な場所ですから」
「そうですよ、タッド様。中立とおっしゃいながら、まだオーブに行かれたことはないのでしょう? ぜひ、中立国・オーブの様子をご覧になるべきです」
 オーブ行きを勧めるキラに、ニコルが援護射撃を出す。もっとも、そこにはキラとは違い、オーブの表だけでなく、裏も見るべきだとの意が込められているが。
「まいったな、二人に一本取られたよ。ディアッカ、機会を見て、オーブへ行くぞ。そのお嬢さんを紹介しなさい」
 ようやくニコルに解放してもらったディアッカは、話の急展開にただオロオロしているだけだった。
「貴様というヤツは……。本気で愛想尽かされるぞ?」
 黙ってことの成り行きを見ていたイザークが、ディアッカに止めを刺すと、婚約パーティーは笑いとともに一気に盛り上がった。






「エザリア様……」
 宴もたけなわ、執事のハインツが、躊躇いがちにエザリアに声をかけてきた。
「後にしてちょうだい。いまはパーティーの最中なのですから」
「それは充分承知いたしております。ですが……」
「何?」
 ハインツの、ただならぬ様子に、エザリアも折れた。
「実は、いまエザリア様宛のお荷物が一つ届いたのですが、差出人のお名前に見覚えがありませんもので」
 ハインツは、このジュール邸でエザリアに20年以上仕えている。
 エザリアの交友関係は充分承知しているハインツが、何かしら送ってくるような人物にも関わらず、知らないということはいままでになかったのだった。
「エザリア様がご承知でしたらよろしいのですが、もしものことを考えますと放置しておくわけにも参りませんので」
 大事なパーティーの最中であるからこそ、何かあってはまずいとハインツは判断し、失礼を承知で声をかけたのだった。
 仕方ないわね、と腰を上げたエザリアよりも早く、イザークが動いた。
「キラ、俺の部屋から軍の鞄を持ってきてくれ」
「うん」
「ハインツ、一応工具箱を出しておけ」
「承知しました」
 イザークは、ディアッカとニコルを伴い、その荷物がある場所へと移動した。
 さして大きな箱ではない。
 送り主の名前は、聞いた事もない法人名になっている。
「母上、この名前に聞き覚えは?」
「ないわ」
「会社関係でも?」
「それなら、自宅ではなく会社に送るでしょう?」
 確かにエザリアの言う通りだ。
 イザークは軍の鞄をキラから受け取り、セキュリティーチェック用の端末を取り出し、件の荷物を調べ始めた。
「爆発物の可能性はなさそうだな。薬品反応もない」
 一同はホッとしながら、イザークの手元を見つめた。
 荷物を持ち上げる。
「随分と軽いな」
 少し横に振ってみても、何も音はしない。
 イザークは慎重に箱を開けた。
 中にはビニールの緩衝剤がたくさん詰まっていて、小さな箱が現れる。
 その箱の中に入っていたのは、小さなクリスタルの鳩を象った置物で、『SAMPLE』という手書きのシールが貼られている。
「商品見本のようですね」
「あら。じゃあ、やっぱり仕事の関連なのかしら? 明日、会社で調べてみるわ」
 何かの手違いで、自宅へと送ってきたのかもしれない。エザリアはそう結論づけた。
 ハインツが「お騒がせしました」と頭を下げ、皆も「何事もなくてよかった」と広間へ戻ろうとした時だった。
「あの……なんかおかしくないですか?」
 口を開いたのはマユだった。
 一斉に全員がマユを見た。
 マユは、余計なことを言ったかもしれないと、臆していたが、ニコルが優しく微笑んで、何を不審に思ったのかを聞いた。
「あの……、品物の大きさの割には、やたらと箱が大きすぎるし、緩衝剤も多すぎると思って……。それに、見本なら一つだけじゃなくてたくさん送るんじゃないでしょうか……?」
「そうね、確かにそうだわ」
 エザリアもマユの言葉に同意する。
「それに……この前、アカデミーの暗号電文の授業で言われたんです。『敵に怪しまれないよう隠して送る方法がある。でも、味方に暗号だと気付いてもらえなくては意味がない。逆に敵の通信で不審を抱いたら、徹底的に解析しろ』って」
 ザフトのアカデミーはいくつかのコースに分かれている。
 花形であるパイロット養成コースが一番の人気ではあるが、整備士養成コース、艦の運行を担う操縦士養成コースなどがある。
 マユが通うアカデミーは主に通信士や事務官を養成するもので、もちろんキラやイザーク達パイロットコースとはカリキュラムが違う。
 体力などなくてもいいが、日々、本部に届く通信や書類を的確に、そして迅速に処理していくことを、徹底的に叩き込まれる。
 もちろん敵の通信や書類などを解析したりすることも、彼等の仕事に含まれる。
 上官が全てに目を通すわけではないので、その取捨選択を任されるのだ。
 イザーク達は顔を見合わせた。
「確かにマユの言う通りですね」
「……もっと調べてみる必要があるな」
「つったって、どこを調べりゃいいんだ?」
 途方に暮れる3人に、
「私、やります。アカデミーでやりましたから」
 マユは工具箱の中からカッターナイフを借りて、周囲が見守る中、慎重に箱を分解していった。
 紙を慎重に削いでいくと、やがて1枚のディスクが現れた。
「マジにあったぜ……」
「スゴイ! スゴイよ、マユ!」
 どちらかというと、手先が器用でないキラにとっては、マユのしたことが神業に見えた。
「まだ、あるかもしれません」
 マユは、別の場所も同じように紙を薄く削いでいく。
 30分が経過したころ、段ボール箱は元の形をすっかり失っていた。
 そして、テーブルの上に置かれた4枚のデータディスク。
「これで全部だと思います」
 フゥッと息をついて、マユはカッターナイフを置いた。
「マユ、お手柄だぜ♪」
「あぁ、ぜひジュール隊に来てもらいたいもんだな」
 ディアッカとイザークの言葉に、マユも嬉しそうにしている。
「それにしても、何が入っているんでしょうか?」
「おい、ここに何か挟んであるぜ?」
 ディアッカが指差したものは、一枚の紙切れだった。
 イザークはキラにディスクを渡すと、その紙切れを手にした。


『エザリア、貴方の息子に渡して!  I.C』


「I.C? 誰かしら?」
 エザリアは、首を傾げながら、イザークの手元を見た。
「これは……アイリーンの筆跡だわ」
「アイリーン? アイリーン・カナーバ女史のことですか?」
「え、えぇ……」
 ただごとではない様相の走り書きの文字が、エザリアを震えさせた。
「母上。みなさんも、お話したいことがありますので、広間の方へ戻りましょう」
 イザークはハインツに人数分の紅茶を持ってくるように頼むと、ディアッカとニコルの首をむんずと捕まえた。
「グウェ!」
「何するんですか!」
「確認しておきたいことがあるだけだ。貴様ら、アノ事は親に話してあるのか?」
「あぁ、驚いてたけど、信じてくれたぜ。うちは元々中立だしな」
「僕もです。キラさんのことも気に入ってますしね」
「ならば、何も問題はないな」
 イザークも広間へと戻り、ディアッカとニコルもそれに続いた。




マユちゃん、大活躍! イザキラ中心に話が進んでいると、どうしても出番が少ないので、出番作ってみました。
そしたら、話が長くなりすぎたんで、急遽2つに分けました。
次回は、ディスクの中身についてです。今度はキラが頑張ります。


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