Moon Soldiers 第2章

第1話 新しい生活


「お前の場所を空けて待ってる。紅を着て俺のところへ来い」
 そう言い残して、イザークはキラのアカデミー入学より一足先に、旗艦ルソーでの訓練航海へと出て行った。


 キラの方はアカデミーの入学まで、数日の余裕があった。
 その間、キラはジュール邸で、エザリアと二人で過ごしていた。
 エザリアから自分の知らないイザークの子供の頃の話を聞いたり、写真を見せてもらったりもした。
 きっと、イザークがこの場にいたら、赤面したり、憤怒しそうな話をキラは嬉しそうに聞いた。
 逆に、エザリアからせがまれてキラ自身のことも話した。
 先の戦争で経験したことを、話すこともあった。イザークからほとんど聞いているけれど、キラ自身の口から聞きたいのだと。
 ちょっと驚いたし、話すのが怖かったりもしたが、エザリアは真剣にキラの話を聞いてくれた。 


 そして、アカデミー入学を明日に控えた日……。 
「あ、あの……エザリア様……どちらへ?」
 朝食も取らないままに、着替えさせられて、いまはエアタクシーの中だ。
 だが、エザリアはニッコリと微笑むだけで、何も言わない。
 やがてエアタクシーが停まったのは、とても洒落たデザインのビルの前だった。
「ここは……?」
「私の会社よ」
 そのビルまるごとが、エザリアのものだという。
 オフィスになってるのは5階より上だが、下のフロアにある、エステサロンやフィットネスジムはもちろん、ブランドショップやカフェまでが直営なのだという。
「エザリア様の? あの、お仕事なら僕、お邪魔なんじゃ……」
「違うわよ。まぁ、仕事と言えなくもないけど、キラに見せたかったのよ」
 今日を逃したら、キラと出掛ける機会を失ってしまう、とエザリアは笑う。
「だから、今日は丸一日付き合ってもらうわよ。さぁ、まずは朝食ね。カフェでモーニングをいただきましょう?」
 エザリアは、オープンテラスのカフェへと、キラを連れて行った。
 何の前触れもなく、休暇中だったはずの女社長が、いつもより幾分ラフな格好で現れ、店員達は慌てた。
「今日はただの客よ」
 と言われても、緊張するのは仕方ないだろう。
 窓際のいい席に案内され、モーニングを頼む。
「この店はキャリアOLを対象にしてるの」
 だからモーニングから営業しているのだ、と説明してくれる。
 生まれてこない第三世代。コーディネーターの未来のために敷かれた婚姻統制。
 ただ、遺伝子が対になっているというだけで選ばれた相手と結婚しろと言われても、人の気持ちはそんな簡単なものではない。
 結果、婚姻統制に縛られるよりは、独身でいるほうがいい、という女性が増えてしまった。
「新議長は、婚姻統制の撤廃を公約に掲げているわ。でも、ただ廃止すればいいというものでもない。それに代わる未来を与えなくてはならないの。簡単には行かないでしょうね」
「メンデル……」
 キラの呟きに、エザリアは首を傾げた。
「僕が生まれた……あのラボ……」
 メンデルに隠れることになった時に、アスラン達が話していた言葉が甦る。
『ザフトが調べたことがある』
『メンデルってのは、あれだろ? バイオハザードがあって廃棄されたって……』
 キラの頭の中に、あの時の光景が浮かび上がる。ラゥ・ル・クルーゼの声。無数にある大きな試験管とその中に浮かぶ胎児達。無人のラボで稼働し続ける装置。
(あの胎児達はいつから……?)
 バイオハザードが起きたのは、いつ……?
「エザリア様、メンデルが廃棄されたのはいつですか?」
「メンデル? そうね……、正確には調べてみないとわからないけど、5年は前よ」
「プラントのコロニーは、放置されて何年も稼働できるんですか?」
「それは無理よ。電気も水も酸素も、太陽の光すら人工的に作り上げた。それがプラント。自然のままにあり続けることはできないの」
「ならば、メンデルはなぜ稼働し続けるのでしょう?」
「え?」
「アークエンジェルとクサナギ、そしてエターナルはメンデルを拠点としてました」
「知ってるわ」
「そこを選んだのは、アスランがL4には廃棄されたけど稼働しているコロニーがあると言ってたからです。ザフトが調べたことがあるって……」
「ザフトが? そんな報告は聞いたことがないわ。私が評議員になる前なのかしら?」
 エザリアは3期……と言っても、その途中で引責辞任しているが……7年評議員を務めた。
「そんな前じゃないと思います。それだと、あの時に稼働してる保証がないし。少なくとも、血のバレンタインよりは後だと」
「気になるわね。でも、キラ。メンデルに何があるの?」
「僕、見たんです。ラボの大きな試験管に浮かぶ無数の胎児を。それが5年も前に廃棄されたままなら、人工子宮の揚水は涸れているか腐敗してるはず。仮にライフラインが生きていても、5年も胎児のままであるはずがないです」
「キラの話をまとめると、誰かがいまもなおそのラボで研究を続けている、と言いたいのね」
「はい」
「そして、その誰かというのがギルバート・デュランダル」
「かもしれない、と思って……」
「そうね。まだ何もわかってないわね」
 キラが言うことは当たっているだろう、とエザリアは思う。
 そう考えると、頷けることが多すぎるのだ。

 モーニングの後は、美容室にエステサロン、ネイルサロンとひっぱり回され、いまはブティックを梯子中である。
「あ、あの、エザリア様……、こんなにしていただかなくても……」
「気にしないの。私がしたいのよ。ほんと息子なんてつまらないわ」
 そう言って肩を竦めて見せる。
「それに、下心があるのよ」
 両手に抱え切れないほどの荷物を、自宅に届けるように指示すると、エザリアはオフィスへと上がった。
 最上階にある社長室。
 ジュール邸と同じ空気が漂う。
「キラはプログラミングに長けていると、イザークから聞いてるわ。それで相談に乗って欲しいのよ」
「僕なんかで、お役に立つのなら……」
 キラは謙遜を通り越して卑下する傾向がある、とエザリアも思う。
 だが、そんなキラだからこそ、イザークが惹かれるのかもしれない。
 自慢の息子は――過剰とも過信とも思わないし、その為の努力もしているのも知っているが――自分に絶対の自信を持っているから。
 そんなことを考えながら、エザリアは相談事を話していった。
「う〜ん。できないことはないですが、全部のシステムを入れ換えないと難しいです。いまのデータとの互換性も考えないと、一から入力しないとダメですし……」
「どれくらいかかるのかしら?」
「一気にできれば、一週間ぐらいなんですけど、アカデミーにいかなきゃいけないし……」
 卒業すれば、すぐに従軍することになるのだ。
「はぁ……イザークから取り上げる訳にもいかないわね……」
「エザリア様……」
 ポッと頬を染めて恥じらう姿は、なんとも愛らしい。
 エザリアは心底キラを気に入っていた。
「時間がかかってもいいから、お願いするわ。もちろん報酬も払うわよ」
「えぇ!? 置いていただいてるだけでも心苦しいのに、報酬だなんて!」
「いいこと、キラ。貴女の優しさは、貴女の魅力よ。でも、いまはビジネスとして話をしてるの。そうね、これが我が家のセキュリティシステムのことだったら、報酬だなんて言わないわ。わかるわね?」
「はい」
「では、決まりよ」
 エザリアは秘書を呼び、いくつかの指示を出す。
 キラのIDを登録し、出入りを自由にさせる。
「作業に必要な場所は、このフロアに用意させるわ。必要なものがあれば、私か彼女に伝えてちょうだい」
「わかりました」
 これがエザリアの、将来に向けた大きな布石であることなど、キラは知る由もなかった。






 アカデミーでの生活が始まった。
 それは、戦場を知っているキラから見ても、かなり厳しいものだった。
 朝から晩まで、ビッチリと授業はある。
 基礎体力養成に始まり、射撃、ナイフ、MS操縦、情報処理、爆弾処理、工学原理、戦術、軍規の9科目を会得しなくてはならない。
 情報処理は問題なくクリアした。
 MS操縦は、Gとは違う構造に手間取ったりもしたけれど、基礎を知ったことにより、以前より扱いやすくなった。
 工学原理や爆弾処理も工業カレッジで得た知識も手伝って、問題なくカリキュラムをこなしていた。
 射撃では、銃の扱い方を知らず、バナディーヤではカガリに馬鹿にされ、メンデルではフラガにセーフティーを外すよう注意されたキラだが、きちんと構え方、狙い方を教わると、かなり腕はよかった。

「次、キラ・ヤマト対ボリス・ザドーヒン」
「「イエッサー」」
 キラは前に歩み出ると、ナイフを構えた。
 反対側からは巨漢という言葉が似合いそうな男が出てくる。
 いままで、このナイフの訓練では、その巨体を活かして相手を威圧し、力で押す戦法で不敗を誇っている相手である。
 最初は間違って傷つけたら……と怖がっていたキラだが、扱い方を習得していくと、やっぱり優秀だった。
 だが、銃とは違い、力と力の戦いになると、女性には不利になるのはどうしようもない。
 いまも、ボリスに、ジリジリと間合いを詰められている。
「ボリス〜、相手は女だッ! 楽勝だぞ〜!」
「キラ〜、負けるなぁーッ!」
 同期生達も、女性のキラが大男を相手に勝てるとは思ってないようだった。
 すでに何回か対戦はしているが、確かに惜しいところまではいっても勝てなかった。
 だが、そうそういつまでもやられっぱなしでいるつもりはない。
(僕は…、紅を着るんだッ!)
 イザークとの約束。紅を着て、ジュール隊に入る。
 誇り高いキラの想い人。彼に顔向けできないような成績だけは取れない。
 それがキラの活力の源だった。
 キラの利点は、コーディネーターとしてもずば抜けたすばしっこさだ。
 それを活かして、詰められた間合いを一瞬で元に戻す。
「こらぁ〜、逃げてんじゃねーぞ!」
「いいぞ、キラッ! その調子!」
 それを繰り返すうちに、相手がキレて突っ込んでくる。
 逆にそれが相手に隙を作る。
「いまだッ!」
 一気に勝負に出てきた相手の勢いを利用して、自分に有利な態勢に持っていく。
 それが、キラが勝利を得られる唯一の方法だった。
「そこまで! 勝者、キラ・ヤマト」
 生徒達の間から歓声が沸きあがる。特に女生徒から。
「ヤマト、いい動きだった。ザドーヒン、お前は少し力に頼りすぎだ。これはいい経験になっただろう。もっと頭を使え」
「「イエッサー」」
 フレッド教官はチェックシートに記入し終えると、アカデミー生を並ばせた。
「今日はここまでだ。解散」
「ありがとうございましたッ!」
 アカデミー生達は、次の講義前にシャワーを浴びようと、一目散に散っていく。
 フレッドは、彼らの背中を見ながら呟いた。
「今期の最終訓練で俺と立ち合うのは女の子になりそうだな……」
 それは、フレッドがナイフの教官を務めるようになって、初めてのことだった。






「ヘトヘトだぁ〜」
 一日の訓練が終わって、キラは自室へ戻ると、ベッドに倒れこんだ。
「ちょっと、キラ! シャワーぐらい浴びなさいよ」
 同室のティナが、そのまま眠ってしまいそうなキラを叱咤する。
「ほら、立って! 制服脱いで!」
 ティナはキラの手を掴んで強引に立たせると、制服を脱がせてシャワーブースに追い立てる。
「バスタオルと着替え置いておくわよ」
「ん〜、サンキュ」
 しばらくしてポタポタと髪から雫を落としながら、キラが出てくると、今度はタオルを奪ってガシガシと頭を拭き始める。
「ったく、優秀なくせにいい加減なんだから、キラは」
 幼馴染やカレッジの友人達に言われたようなことをティナにも言われ、キラは苦笑する。
「さ、早く寝ましょ。明日も、朝から大変なんだから」
 ベッドに潜り込むと、一日の疲れも手伝って、ぐっすりと眠ってしまった。

 ウ―――――――ッ!

「敵襲!?」
 キラはガバリと起き上がった。
 だが、そこはよく知っているアークエンジェルの部屋ではない。
 作りは良く似ているが、やはり違う。
 ぐるりと部屋を見渡し、隣のベッドで寝る同い年の少女の顔を見ると、ようやく現状を認識する。
「そっか。アカデミーにいるんだっけ」
 ということは、いまも鳴り響いているこの音は……?
 ちょうどその時、プツリと警報が途切れ、教官の声が響いた。
『ただいまより、点呼を行う。アカデミー生は制服着用の上、3分以内廊下に整列。なお、これは訓練であり、連帯責任である。一人でも欠けていれば、同室のものも減点となる』
 時計を見れば、深夜2時ジャスト。
 ふと、振り返れば、ティナはぐーすか眠っていた。
(どーして、あんな音の中で寝れるんだよッ!)
 キラは制服を着ながら、ティナを揺さぶり起こし、強引に着替えさせた。
「ほら、ティナ! 訓練だから、起きて!」
「はぁ〜?」
「どうでもいいから! 起きて! 着替えて!」
 アンダーで寝るキラとは違い、いちいちパジャマを着ていたティナの着替えは面倒だった。
(う〜、こんな訓練があるってわかってたら、ティナにパジャマなんか着せなかったのにぃ〜)
 ようやく着替えさせてティナを廊下に連れ出したときは、3分ギリギリだった。
「そこまで!」
 教官の声が廊下に響くと、背中でカチリとドアのロックがかかる音がした。
 チラリと見渡せば、廊下に出ている者はまばらであった。
 教官が廊下を歩きながら、チェックシートを記入する。
 その状態が5分ほど続くと、「終了。各自、就寝のこと」という短い指示が出ただけだった。

 翌朝の食堂は、ぐったりしているものが大半だった。
 ティナもその一人であった。
「なんなのよ〜、あの訓練は!」
「いいじゃないか、ティナは。減点免れたんだろ? 俺なんか、テッドが起きなくて、減点されたんだぞ!」
 自分は起きて、廊下に出たのに……と嘆くのは、アカデミートップのスオウである。
「まぁ、キラのおかげよね。でも、普段は全然起きないくせに、よく起きれたわよね?」
 と、キラを見るティナに、キラは苦笑しか返せなかった。
(慣れてるから、とは言えないもんなぁ〜)
「けど、なんの意味があったんだろ?」
 ぐっすり寝たままだったテッドが首を傾げる。
 ティナも、トップ生であるスオウでさえもその意味がわかってないようだった。
「敵……はいつ来るかわからないから」
 そう言って、キラはポテトサラダを口に入れる。
「そっか。戦場に出れば、こんなことが日常茶飯事になるんだ」
「ってことは、これからも抜き打ちであるってことだよな?」
「……私、今日からキラを見習ってアンダーで寝るわ」
 ティナはボソッと漏らした。
「キラ、こういう訓練があるって知ってたなら、教えてくれよ〜」
「知らなかったよ、僕だって」
「キラの面倒くさがりも、こういう時には便利よね〜」
 そうではないのだが、そういうことにしておく。
 戦場にいたことは、知られてはならないことなのだから。






 アカデミーでの生活も、2ヶ月が過ぎた。
 今日は、アカデミー全体がちょっと浮かれ気味である。
 というのも、明日より3日間の休暇があり、帰宅が許されるのだ。
 そんなアカデミー生に、教官がビシッと釘を刺した。
「浮かれたくなるのも無理はないが、これから現在の成績を配る。下位の者は、この休暇に今後どうするのか、よく考えろ。上位の者も、休暇といえど、気を抜かずに過ごすこと。いいな!」
「イエッサー」
「では、名前を呼ばれた者は前に出ろ」
 教官が名前を読み上げると、一人一人前に出て成績表を受け取る。
 それを見て、喜ぶ者、青褪める者、悔しがる者……様々だ。
 こんな光景は、幼年学校の頃から全く変わっていない。
「キラ・ヤマト」
「イエッサー」
 大声で返事を返し、教官の前に立つ。
 教官はキラの顔をチラリと見ると、ハァ〜と溜息をついて成績表を渡した。
 渡された紙には、各種目の現在の順位が示されている。

Yamato,Kira

MS操縦 射撃 ナイフ 情報処理 爆薬処理 工学原理 基礎体力 戦術論 軍規 総合
1/67 3/67 2/67 1/67 3/67 3/67 2/67 10/67 37/67 5/67


「キラ……、あんたの成績って……すごいんだか、すごくないんだか、よくわかんないわ……」
 ティナがキラの手元を覗きながら、感嘆とも呆れともとれるような声で呟いた。
 実戦に必要な5種目が全てベスト3に入っていることは、ティナにとっては奇跡みたいなものだ。
 だが……。
「軍規なんて、暗記問題よ? あたしでも20位内に入れちゃうのよ? なんであんたが、あたしより下なワケ?」
「んなこと言ったって、苦手なんだよ、ああいうの」
 幼年学校だったころ苦手だった工学原理は、アスランがいなくなってから頼れる人がいなくて、自力でなんとかするようになった。
 工業カレッジでは、回路図を見たら眠くなるなんてこと言ってられなかったのもある。
 トールやミリィのおかげだと言えるだろう。
 だが、軍規は別だ。
 そんなもの、連合でだって学ばなかったし、何より毎度毎度「ザフトのために」と唱えさせられるのが、なによりも嫌だった。
 キラがここにいるのはザフトのためではない。
 ラクスのため、というのが一番。次にイザークのため。そして、自分のためである。
 もっと広く見ていけば、プラントのため、コーディネーターのため、と言えるかもしれないが、それはデュランダル議長の考えがはっきりしてからのことだった。

「ねぇ、キラ。事務棟の2階にレコードルームってのがあるの、知ってる?」
「記録室(レコードルーム)?」
「そう! 歴代の卒業生トップ50の名前が飾られてるんだって。行ってみない?」
 ティナは成績は67人中30番目ぐらいの成績だったが、こういうことには誰よりも耳ざとい。
 今日のランチのメニューだとか、教官の人に言えないような趣味だとか、そんなことは誰よりも早く知っていた。
「行こうよ〜。今日はもう訓練はないし、荷造りッたって、たったの3日よ? たいしたもん、持って帰るわけじゃないから、あっという間よ。それに、知ってる人の名前があるかもしれないじゃない?」
 その一言が、大して興味のなかったキラの気持ちを変えた。
 歴代……というからには、イザークの名前もあるかもしれない。
 そう思って、キラはティナの提案に乗ることにしたのだった。

「うわぁー、すごーい」
 深紅のビロードのボードにトップ10の名が金文字で刻まれている。その下に貼られたボードには、20〜50位の名が書かれていた。
 MS、射撃、ナイフ、爆弾処理、情報処理の5種目別のボードと総合成績の計6枚のボード。
 6枚中4枚には、キラが良く知っているアスラン・ザラの名前が刻まれていた。
 イザークの名前は1枚のボードを除き、アスランのすぐ下にあった。
(ディアッカが言ってたのは、これなんだね……)
 気性の激しいイザークが、ことあるごとにアスランと競っていた、と。
 負けず嫌いのイザークのことだから、相当悔しかったのだろう。
 それと同時に、キラはこっそり心の中で謝った。
 イザークの名前があるかも……なんて、失礼なことを思ってしまったことを。
 ボードをよく見れば、見知った名前は他にもあった。
「みんな、すごいんだぁ〜」
 思わず声に出してしまったのを、ティナはしっかり聞いていた。
「みんなって?」
「イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、ニコル・アマルフィ、それからアスラン・ザラの4人だよ」
「ほぉ、ヤマトは『伝説の5人』のうち、4人と知り合いか……」
 二人の背後で別の声がした。
「「スミス教官!」」
 先程、キラ達に成績表を渡した教官である。
「あの、教官。『伝説の5人』って?」
「あぁ。先程ヤマトが言った4人とラスティー・マッケンジーという人物のことを、我々がそう呼んでいるんだ。その年は、二度とはない、というぐらいの当たり年でな。見りゃわかるが、教官顔負けの5人だった」
 確かに、総合成績を示すボードの上5つにはその名前が書かれている。
「全員が当時の評議員の子息でな。親のメンツもあるからだろうが、揉め事も絶えなくて、まぁいろんな意味で大変だったよ」
 その筆頭がアスランとイザークなのだろうと思うと、キラの笑みは強張った。
「5人揃ってクルーゼ隊に配属されたんだが、マッケンジーは初陣で戦死してしまった」
 チクリと、キラの胸が痛む。
 もしかしたら、自分が死なせてしまったのかもしれないから……。
 その人物のことをもう少し聞いてみようかと思った矢先に、スミス教官が言葉を継いだ。
「ヤマトは、この中のいくつかの記録を塗り替えるかもしれんな」
「すごいじゃん、キラ!」
 ティナがまるで自分のことのようにはしゃぐ。
「もう少し、私の授業にも身を入れてくれると嬉しいのだがね」
 と、溜息混じりに呟かれた。
 スミスの担当は、成績が最も悪い軍規なのだ。
 キラが決まり悪そうにしている横で、ティナがクスクスと笑っている。
「ティナ・オコナー。君は全体的に頑張る必要があるぞ」
「イエッサー」
 敬礼で答えながらも、ティナは薮蛇だと言わんばかりに舌を出している。
 スミス教官が部屋を出て行くのに続いて、ティナとキラもそこを後にした。





 深紅のボードの方ばかりに気を取られていたキラは気付かなかった。
 その下の白いボードの一番下にマユの兄、シン・アスカの名前があったことに……。






第2章スタートです。ジュール隊へ入るまでの話です。このまま、ずーっとアカデミーなわけじゃありません。
次回は、休暇中の様子。イザキラのあま〜い話にしたいです。
にしても、アカデミーでのエピソード、書き込みすぎて、なんか繋がりが悪い……。


第1章第6話 INDEX 第2話