Moon Soldiers 第1章

第4話 プラント


 漆黒の宙に浮かぶ、数多くの青い砂時計。
 それが、プラントである。
 核で失われたユニウスセブンが農業プラントであったように、その一つ一つに用途がある。
 その中でも、アプリリウス市は、プラントの中核を担う最高評議会議場を中心に、多くの行政施設が集まっている、言わば、プラントの首都であった。
 その宇宙港で、イライラとした様子を隠そうともせずに佇む、一人の青年がいた。
「イザーク、落ち着けよ。そんな顔してたら、姫さんビビってオーブに帰っちまうぜ?」
「うるさいッ! 落ち着いてなどいられるかッ! キラがオーブから一緒に来るような連れといったら、あの男しか考えられんッ!」
 あの男。アカデミー時代から目の上のたんこぶのような存在で。恋人の幼なじみで。自分が知らない恋人の姿を知っている男。
 キラを妹のように思い、それなのに、先の戦争では敵味方となって本気で殺しあわなきゃならなかったことには、同情もする。
 だが、いまではキラは自分の最も愛しい人であり、キラもその想いを自分に寄せてくれている。
 にも関わらず、昔と変わらない様子であれこれとキラの世話を焼き、あまつさえ、二人の関係にうるさく口を出してくる。
 ようやくキラがプラントに来ることになったというのに、その喜びに浸ることすらできないのでは、イライラも募るというものだ。
「まぁな〜。ラクス嬢も結構人が悪いぜ。『キラに同行者が出来ました。その方の滞在先はご心配いりません』なんてメールだけだもんなぁ〜」
 同行者の素性を尋ねても、『お二人もよくご存じの方ですわ』としか、返ってこない。
 現在オーブにいる人間で、それに該当する人物はアスラン・ザラ、ただ一人だった。
 宇宙港の職員が、様子を伺いながら二人の方に近付いてきた。
「ジュール様、マルキオ導師様のシャトルが到着しました」
 それだけを告げると、職員はそそくさと立ち去っていく。
 イザークが余りにも不機嫌な顔をしているので、恐れをなしているのだ。 
 到着ロビーに、ザフトの制服に身を包んだ一団が現れ、マルキオ導師を誘導している。
 それから、しばらくして、待望の人物がその姿を現す。
 イライラも吹き飛ぶほどに、愛らしい姿に声をかけた。
「キラッ!」
「イザーク!? どうしてここに?」
「お前を迎えに来たに決まってるだろう?」
「迎えって……イザークだったの? 僕、てっきりダコスタさん辺りだと思ってた」
 マーチン・ダコスタは、バルドフェルド隊長の副官でもあった人物で、クライン派の実動部隊の長と言っても過言ではない。
 だから、キラはラクスが手配した迎えはダコスタだとばかり思っていたのだ。
「俺では不満か?」
 イザークのほんの少し拗ねたような物言いが、可笑しかった。
「ううん、嬉しいよ。すっごく会いたかった」
 人目を憚ることなく、キラはイザークの胸に飛び込む。
 誰よりも―――悪いとは思うけど、ラクスよりも―――安心できる場所へ。
 ふと見上げた顔に、違和感を覚える。
 キラの知っているイザークの顔とどこかが違う。
(あ……)
 違和感の原因にキラは気付いた。
「イザーク、傷、消したの?」
「あぁ、お前に約束しただろう?」
 ―――ストライクを討つ。そう誓った傷はもう必要がない。
 戦争は終わった。ストライクはすでになく、パイロットには恋してしまったのだから。
「うん……」
 イザークの綺麗な顔に、しばし見蕩れてしまう。
「あ〜〜〜、俺もいるんだけどな」
 甘く見つめ合う二人に、咳払いをしながら声をかけたのはディアッカだった。
「あ、ゴメンネ。ディアッカ久しぶり。元気だった?」
 パッと顔を紅く染めながら、キラはディアッカに声をかけた。
 その隣で、イザークが「邪魔をするな」と言わんばかりに睨んでいる。
「う〜ん、どうだろ? イザークにこき使われてっから、疲れが溜まっちゃってね〜」
「なんだとぉ!」
「へ? こき使われてって……、あ!」
 ようやくキラは気付いた。
 イザークが纏う制服が白いことに。
 そして、ディアッカのそれは緑であることに。
「イザーク、隊長になったんだ。おめでとう。とてもよく似合ってる」
 白い制服が司令官クラスを意味することを、キラはニコルから聞いていた。
 紅いそれはトップガンを意味するもので、緑は一般兵を現すものであることも。
「ディアッカは……?」
 自分達に組みしてしまったから、降格されてしまったのだろうか……と、キラの表情に翳りがさす。
「あ〜、ま、そんなとこだけど、別に後悔してねーし、コイツの副官だから、ヒデェ目にはあってねーよ。そーゆーキラも可愛いカッコしてるじゃん♪」
「え? あっ!」
 ミニスカートを履いていたことを忘れていたキラは急激に恥ずかしくなってイザークの背中に隠れた。
「キラ?」
「見ないで……。イザークも……。恥ずかしいから……。これは、その……ラクスが勝手に……」
 そう言えば、キラのスカート姿など見たことがなかった。
 同じ連合の制服を纏っていた少女はスカートを履いていたが、キラは少年兵と同じ白いスラックスにブルーの上着を着ていた。
 それ以外には、パイロットスーツしか見たことがない。
「キラ、似合ってるぞ」
「ホント?」
「あぁ、だからちゃんと見せてくれ。コイツに不埒な真似はさせないから、心配するな」
(イザークの前でそんなこと出来るかッ!)
 という心の声をなんとか押し殺したディアッカに、イザークの前じゃなかったらするのか? というツッコミを入れる者はいなかった。
「ところでキラ、同行者がいると聞いているが?」
「あ、うん。ちょっとワケありで、手間どってるんだ」
「ワケありだとぉ? やはり、アスランなのかッ!?」
 イザークのイライラが再燃する。といっても、キラの手前、80%は出力ダウンされている。
「へ? なんでアスランの名前が出てくるの? あ、来たよ」
 先程、キラが出てきたゲートから、2つの影が近付いてくる。
 その見覚えのあるシルエットに、光があたって、その顔が明らかになると、二人は目を瞠り、驚愕のあまりポカンと口を開けていた。
「久しぶりですね、イザーク、ディアッカ。二人のそんな顔が見れただけでも、帰ってきたかいがありました」
「「ニ……、ニコルッ!?」」
「僕以外の誰に見えるんです?」
「だって、ニコルは……」
 思わずディアッカはめくる必要もない軍服の裾をめくって、足を確かめる。
「失礼な。幽霊なんかじゃありませんよ。いま、両親にも連絡しました。軍本部で会うことになりましたから、詳しい話はその時に。どうせ、あなた方も行くんでしょう?」
「あ、あぁ……」
 まだ、驚愕から抜け出せないでいるイザークは、かろうじて相槌を打つ。そしてキラに向かって小声で尋ねる。
「お前は知っているのか、ニコルが……」
「ブリッツのパイロットだった、ってことなら知ってる。ニコル君にも、僕がストライクのパイロットだって話した」
「そうか……」
 承知の上で一緒に来たのなら、別段問題はないだろう。
 ただ、二人が出会った時に、少なからず傷付いただろうキラの傍にいてやれなかったことが心苦しくて、イザークはキラの肩をそっと抱いた。
「はぁ〜、話には聞いてましたが、ホントにラブラブなんですね」
 ニコルの刺を含んだ声に、ハッとして、イザークはキラの肩に回していた手を離す。
「まったく。僕が生死の境を彷徨っている間に、ずいぶんと楽しいことになってるじゃないですか。あとで、ゆ〜っくりと聞かせてもらいますからね?」
「そーゆーお前だって、女連れでご帰還じゃねーか」
 ニコルの傍らに立つ少女を指さして、ディアッカが言う。
「そんなんじゃありませんよ。彼女とは今日会ったばかりですから」
「マユ・アスカです。ニコルお兄ちゃんのところで、お世話になることになりました」
 ペコリとマユが頭を下げる。
「彼女は戦災孤児なんです。ザフトに……アカデミーに入りたいというので、家で預かることにしました」
 事後承諾ですけどね、とニコルは言う。
「お兄ちゃん……ねぇ。あ、俺はディアッカ・エルスマン。ニコルの同期だ。年齢は2つ上だけどな」
「イザーク・ジュール。俺もコイツと同じだ」
「よろしくお願いします」
「いいねぇ〜、初々しくって。こっちのお兄ちゃんみたいにならないでくれよ?」
 ニコルを指さして言うディアッカは、地雷を踏んだことに気付いていなかった。
「ディアッカ、ミリアリアさんから伝言を預かってますよ」
 想い人の名に、ディアッカの顔がパァーッと綻ぶ。
「ミリィを知ってるのか!?」
「はい。キラさんのお見送りにいらした時に紹介していただきました」
 ミリィの伝言の内容を知っているキラは、オロオロするが、ディアッカはそれに気付かない。
「で、ミリィは何だって♪」
「『甲斐性なし!』だそうです」
「………………………」
 沈黙が流れた後、ディアッカはその場に崩れ落ち、イザークは腹を抱えて笑い出した。
「さ、いつまでもここに居るわけにもいきませんから、行きましょう? あ、ディアッカ。貴方の話も後でゆ〜っくり聞かせてもらいますからね」
 ニコルがさっさと移動を始めると、マユ、そしてイザークがそれに続く。
 崩れ落ちたディアッカをキラは気にするが、イザークに促されて、歩き出す。
 ディアッカは、しばらくしてからヨロヨロと立ち上がり、みんなの後を追った。

 まずはシビックセンターに寄り、住民登録とIDを発行してもらう。
 オーブからの亡命者、という立場で入国したキラとマユはすんなりと済んだが、一度死んだことになっているニコルは少々時間がかかった。
 次にザフト軍本部で、キラとマユはアカデミーへの入学手続きを取る。
「キラ、本当にいいのか?」
 ラクスから簡単にではあるが、キラがザフトに入ることにした経緯は聞いている。
 だが、イザークは手放しでそれに賛成したわけではない。
 キラの過去もそうだが、その心に負った傷の方が心配だった。
「うん、大丈夫」
「そうか。ならいい。覚えておけ。何があっても俺はお前の味方だ」
「イザーク……」
 例えキラの過去が明るみに出ようとも、再びキラが同胞に銃を向けざるを得ないことになっても、イザークはキラに味方すると決めた。
 前の戦争の時とは違う。
 キラの思いも、願いも、知っているから。
「紅を着て、俺のところに来い。ジュール隊に入れてやる」
「うん、頑張る♪」
 頑張らなくても大丈夫だろう、とイザークは思う。キラの実力は誰よりもよく知っている。それこそ、共に戦ったアスランやディアッカよりも。
「ん? マユはパイロット志願じゃないのか?」
 ニコルが別の場所で復隊申請をしているために、マユに付き添っていたディアッカが、志願書を覗き込んで訊いた。
「マユは資格ないもん♪」
 全く悲壮さを持たない幼さの残る口調で、マユは最初に行われた身体検査の結果を差し出す。
 それを受け取ったディアッカは、黙って目を通し、備考欄に書かれた文字に驚いた。
「パイロット不適格C……。左手が義手!?」
 パイロット不適格者にも4段階のランクがある。
 不適格Dは、その能力に問題があり、非常時・非戦闘時の搭乗は認められている。
 不適格Cは、マユのように身体的に問題がある場合、非戦闘時に限り上官の許可があれば搭乗が認められる。
 不適格Bは、身体的に単独での操縦が困難と思われるため、原則搭乗は認められない。
 不適格Aになると、平時には何も問題がないように思えるが、搭乗すると精神的な問題があり、一切の搭乗が認められない。
「オーブに連合が攻めてきて時に、被弾したの。それでパパもママも死んじゃって、お兄ちゃんは行方不明で、マユは助かったけど、左手がなくなっちゃった」
 そういう声に、やはり悲壮感はない。
「あん時か……」
 ディアッカはその時のことを思い出しながらそう呟いた。
 自分が敵であったハズのアークエンジェルを守ることになったきっかけになった時だ。
「復讐したいのか?」
 マユにそう尋ねたのはイザークだった。
 そうであるなら、キラの傍には置いてはおけない。
 キラが哀しむとわかっているから。
 マユは黙って首を横に振る。
 そうではない、とだけしか言えない。
 まだ、自分の気持ちが言葉にできるほど、はっきりはしてないから。
「イザーク、大丈夫。マユはちゃんとわかってるから」
 黙って3人の様子を見ていたキラが、口を挟む。
 哀しみと憎しみの連鎖を断ち切らなければ、戦争は終わらない。
 それが解っているから、大丈夫。
 キラはそう言う。
「姫のお墨付きか。ならば問題ないっしょ」
「あぁ」
 イザークとディアッカが顔を見合わせた。

 ロビーでニコルが戻ってくるのを待っていた4人の元へ、慌ただしく駆け込んでくる一組の男女がいた。
 イザークとディアッカが立ち上がって、ザフト特有の敬礼をする。
「アマルフィ殿」
 イザークの言葉で、キラにもそれがニコルの両親だとわかり、立ち上がった。それにつられてマユも立ち上がる。
「イザーク君、ニコルがっ……」
「はい。承知しております。宇宙港から一緒でしたから」
「そうか」
 そこへニコルが戻ってきた。
「お待たせしました」
 その身には、先程までの私服ではなく、紅が纏われている。
「ニコルッ!」
 ニコルの母、ロミナ・アマルフィが泣きはらした瞳で、息子を抱きついた。
「ただいま、お父さん、お母さん」
「よく生きて帰ってきてくれた」
 父、ユーリも衆人の手前、涙を抑えてはいるが、死んだとばかり思っていた息子が帰ってきた喜びは隠していなかった。
 その光景を、イザークもディアッカも黙って見つめていた。
 親子の再会を邪魔しないように。
 だから気付かなかった。イザークの後ろで、小さな影が動いたことに。
「ゴメンナサイ! 僕が……ッ」
 キラが前に進み出て、頭を下げて詫びの言葉を口にする。
「キラッ!」
 イザークは慌てて、それを制止した。軍本部のロビーでできるような話ではないのだから。
 ニコルもそれに気付いて、イザークに問いかける。
「イザーク、貴方の執務室、ありますよね?」
 白を着ているのだから、軍本部に個室を持っているのが普通だ。
「あぁ。アマルフィ殿、こちらへ。お話はそこでゆっくり」
 訳がわからないアマルフィ夫妻は、導かれるままに本部の中へ入って行った。

 個室、といってもそれほど大きな部屋ではない。
 デスクとロッカー、そしてミーティング用のテーブルがあるだけの簡素な部屋である。
 そのミーティングテーブルに、夫妻を並んで座らせる。
 「キラ、こちらへ」
 ビクッと肩を震わせたキラを安心させるように肩を抱いて、イザークは夫妻の反対側に並んで座る。
 ニコルはその間――いわゆるお誕生席――に座り、ディアッカとマユは壁際に置かれた予備の椅子に腰掛けた。
「アマルフィ殿、ここでの話は内密にしていただきたいのです」
 イザークの言葉に、キラは余計に身を縮ませた。
 自分が、衝動的にとってしまった行動で、イザークに迷惑をかけているから。
「内密……って、ニコルが帰ってきたことがかね?」
「いえ。そうではありません。これからきちんとご説明します」
 イザークはキラを見て微笑んだ。心配いらない、任せておけ、という気持ちをこめて。
「ご紹介します。彼女はキラ・ヤマト。いずれ自分の婚約者となる女性です」
 最初にそう告げたのは、夫妻への牽制を含んでいる。イザークの婚約者となれば、この後に告げる事実を知っても、事を荒立てることにはならないだろうと。
「そして……彼女はストライク、そしてアスラン・ザラやラクス・クライン、そこにいるディアッカ・エルスマンと共に停戦に導いたフリーダムのパイロットです」
 告げられた言葉をすぐに理解できず、アマルフィ夫妻は声を出すこともできなかった。
「どういう……意味だね? 確か、ストライクはアスランが討ったと聞いている。本人にもそう聞いた」
 それでも、アマルフィ氏はすぐに気を取り直して疑問を返した。さすがは元評議員だけのことはあって、立ち直りも早い。
「確かに、アスランはストライクを討ちました。だが、パイロットは死んでいませんでした。自爆により意識を失っていたアスランをオーブが助けたように、彼女を助けた人物がいるのです」
 先程、イザークはなんと言った?
 フリーダムのパイロット?
 あの奪取された……。
 そこまで考えて、ユーリはみずから答えを導き出した。
「ラクス・クラインか……。では、あの時の奪取犯が君か?」
「……はい」
「そうか……」
「お父さん、お母さん」
 場を引き継いだのはニコルだった。
「僕を死の淵から救ってくれたのは、彼女のご両親です。ご両親はナチュラル、つまり彼女は第一世代のコーディネーターなんです」
「第一世代? 君の年齢でかね?」
「はい」
 両親と実は血が繋がっていないことは、言わなかった。
 それはまだ、ニコルも、ディアッカでさえも知らないことであったし、キラのザフト入りの本当の理由にも繋がるから。
 ニコルはキラがストライクに乗ることになった経緯、アスランとは幼なじみで兄妹のように育ったこと、戦後オーブでラクスと共に隠遁生活をしていたこと、キラの両親に良くしてもらいナチュラルだって捨てたもんじゃないと感じたことなど、自分の中にあるものを全て話した。
「僕自身が彼女を恨んだり、憎んだりしていないんです。むしろ、彼女と知り合えてよかったと思っています。そのおかげで、こうして僕は帰って来れました。だから、お父さんにもお母さんにも、彼女を僕の友人として受け入れてもらいたいのです」
「ニコル……」
 ユーリはそれ以上何も言えなかった。
 停戦までは、憤慨していた。
 ザフトのものを奪い、それでいて『無意味な戦いを止めろ』と叫ぶ彼らに。
 だが、3発目のジェネシス発射をパトリック・ザラが命じた時から、ユーリにも疑問が生じた。
 こんなものが本当に必要な戦いなのか?
 自分は穏健派であると称していたのではなかったのか?
 そして、停戦後、評議員を退いて、ゆっくりと考える時間を持った。
 連合を抜けた『脚付き』、中立国オーブからやってきた『クサナギ』、そしてプラントを追われた『エターナル』。
 コーディネーターも、ナチュラルもなく、一つの世界を目指して、手を取り合った彼等。
 朧げながら、彼等が目指した世界がわかった。
「あ、あの……ゴメンナサイ」
 この部屋に場所を移してから、ほとんど黙ったままだったキラが口を開いた。
「僕があなた方の大切なもの奪ってしまった」
「キラさん……でしたわね?」
 答えたのは、ユーリではなくロミナだった。
「はい」
「私達は何も奪われていないわ。ニコルはこうして戻ってきてくれたし、その新しいMS……えっと、なんて名前だったかしら?」
 ロミナは夫に問いかけ、ユーリは「フリーダム」とだけ答える。
「そう、フリーダムはプラントを核の危機から救ってくれたわ。ニコルが帰る場所を守ってくれたのは、貴女でしょう?」
「でも……」
 ニコルは生きていてくれたけど、そうじゃない生命もあるのに……。
「君の仲間でも生命を落としたものがいるだろう?」
「はい」
「その仇に出会ったら、君はどうする?」
 キラの頭にアスランの顔が浮かぶ。
 彼はトールを殺した。
 オノゴロで彼と話した時のことが思い浮かぶ。
「どうもしません。彼だって、殺したかったわけじゃない。戦争だったから」
 あの時、そうアスランにも言った。
「私達だって同じだよ。哀しみだけに捕われて、怒りでしか返せないことがないわけじゃないが、悪いのは個人じゃない。戦争なんだ」
 その言葉に、イザークもディアッカも、そしてニコルも胸を撫で下ろした。
 穏健派であったユーリなら言葉を尽くせば理解してくれるとは思ったが、やはり一抹の不安はあったから。
「それにしても残念だわ〜。キラさんが家の娘になってくれたらよかったのに、イザークの婚約者だなんて……。いまなら間に合うわ、ニコルにしない?」
「え!?」
「おい、ロミナ……」
 突然の展開に、キラは面食らい、ユーリは慌てる。
 アマルフィ夫人を怒鳴り付けるわけにもいかないイザークは「何とかしろッ!」とニコルを睨み付ける。
「お母さん、何を言い出すんですか! せっかく帰ってきたのに、イザークに殺されます。それに……」
 ニコルはマユを手招きで呼び寄せる。
「彼女、マユ・アスカさんと言うんですが、戦争でご両親を失ったんそうなんです。アカデミーに入学するのに、身元引受先を家にしたんですが、構いませんよね?」
「マユ・アスカです。えっと……ご迷惑なら……」
「まぁ、可愛らしいお嬢さん! 早速、お部屋を用意しなくてはね♪ 色は何色が好きかしら? そうだわ、このままお買い物に行きましょう? カーテンとか、ベッドカバーとか、お洋服も必要よね♪ ほら、早く行きましょう?」
 ロミナは、苦笑するしかないユーリと、呆気にとられたマユを引き連れて部屋を出て行った。
「では、ジュール隊長。明日、1000(ヒトマルマルマル)に、着任のご挨拶に伺いますのでよろしくお願いします」
 そう言って、敬礼をすると、ニコルも3人の後を追って出て行った。
 後には呆然としたままの3人が残された。
「あ〜、とりあえず良かったな、キラ。受け入れてもらえて」
「え……、あ、うん。ねぇ、ニコル君はジュール隊に配属になったってこと?」
「そのようだな……って、ニコルの奴、上官の返事も聞かずに退室する奴があるかァッ!」
 ようやく我に返ったイザークが怒鳴っても、すでに時遅し。
 今頃、ニコルは家族とともにエアカーの中だろう。
 キラはディアッカと顔を見合わせると、クスクスと笑い出した。






ようやくイザ様登場♪ やっとイザキラらしくなってきました。

ニコルはやっぱり微黒です(笑)。



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