Moon Soldiers 第1章

第3話 旅立ちの日に


「やだよ〜ッ、ラクス勘弁して〜ッ!」
 いよいよキラがプラントに向かう日、キラは自室で籠城していた。
 急にプラント行きがイヤになった訳ではない。
「キラ、マルキオ様をお待たせしてしまいますわよ?」
「わかってるよ〜。だから、僕の服返してぇ〜!」
 キラが出て来ないのは、朝起きたら服がなかったからだ。
 いや、服はある。ただし、それはいつも自分が好んで着ているパンツではなく、ラクスが用意したミニスカートなのだ。
「キラの服はもう全部送ってしまいましたもの。私が用意した服がお厭なら、私のをお貸ししますわ」
 ギャアギャアと喚いていたキラの声がピタリと止まる。
 はっきり言って、ラクスのヒラヒラしたドレスはもっと遠慮したい。
 キラは渋々ラクスが用意した服を着た。
「……変じゃない?」
 ようやく開いた天岩戸から出てきたキラは、白いシャツに黒のタイトミニ。キラのほっそりとした足を綺麗に強調している。
 上着も黒で、シンプルなデザインがかえって女らしさを醸し出している。
「お似合いですわ♪」
「そうですよ、キラさん。イザークもきっと惚れ直します」
「え、わっ! ニコル君、いたの?」
「はい。あちらでヤマトさんご夫妻もお待ちです」
「参りましょう、キラ。あんまりお待たせしてはいけませんわ」
 ニッコリ笑いながらも、ラクスはキラが逃げ出さないように、しっかりと手を掴んでいた。
「見送りはヤマトさんだけなんですか? アスランは? オーブにいるんですよね?」
 停戦後、アスランはプラントに戻らず、オーブへ来たことを、ニコルは聞いていた。
 停戦時の状況を考えると、ザラの名とは無関係に生きていきたかったのだと納得できるものはある。
 それはそれでアスランの人生だとニコルは思う。
 だが、過去が無くなる訳ではない。
 パトリック・ザラの息子であること。ザフトにいたこと。妹のように大切にしていたキラと闘い、殺しあったこと。
 守りたいものが守れなかったことがキラの心の傷であるように、それがアスランの心に傷を付けたのだとは思う。
 だが、兄妹のように育ったなら、見送りにぐらいアスランなら来るだろうに、なぜ来ないのか?
「アスランには言ってないんだ、プラントに行くこと……。話すと大騒ぎになるし」
 バツが悪そうに、キラは目を伏せる。
「ごめんね。ニコル君だってアスランに会いたいよね……」
 会いたくない訳がない。
 兄のように慕っていたのだし、自分が生きていることも伝えておきたい。
「気にしないでください。生きていれば、また会えるんですから。けど、大騒ぎになるって……」
 ザフト入りを知られて、大騒ぎになるというならわかる。だが、プラントに行くぐらいで、騒ぎ立てるようなアスランだとは思えない。
「心配症なんだよね。あれこれ口煩いし」
「それはキラにも責任がありますわ。私も何度も言いました」
 ラクスのツッコミにキラがウッとつまる。
 クスクスと笑いをもらしてから、ラクスはもう一度溜息をついた。
「過保護なんてものじゃありませんのよ、アスランのキラに対する構いぶりは」
 ラクスが呆れ顔で溜息をつく。
「それはラクス嬢もでしょう?」
 ニコルから見れば、ラクスも充分過保護だ。
 だが、その認識は違ったらしい。
「ラクスは単なる世話好きだよ。アスランのとは、全然違う」
 当のキラがそう言う。
(だとすると、アスランは一体どう彼女に接しているんでしょう?)
 ニコルがその実態を知るのは、かなり先のことだった。
「それにアスランだけではありませんの。カガリ様も……」
「ちょっと待ってください。カガリ様って、カガリ・ユラ・アスハのことですか?」
 その名が現オーブ首長のものだということぐらい、ニコルも知っている。
 だが、彼女とキラの関係がわからない。
「はい。カガリ様はキラの双子の姉なんです」
 キラとイザークの関係を聞いた時、もう何を聞いても驚かないと思ったが、そうではなかった。
 一体、彼女はこの華奢な身体にどれだけのものを背負っているのだろう。
「お二人で騒ぎ立てますから、キラが休まらないのですわ」
 ラクスの表情には、僅かながら怒りが混じっていた。
「アスランもカガリも、僕のために言ってくれてるのはわかってるんだけどね……」
 そう言って、キラがラクスを宥めてはいるが、そのキラの声にも苦いものが混じっている。
 話題の二人を見なくても、なんとなくだが、ニコルにもわかってきた。
 ラクスを過保護ではなく、世話好きだとキラが言う理由が。
 キラの気持ちを汲んだ上であれこれ世話を焼くのがラクスなのに対し、キラがどう思っていようが『キラのためだから』と行動するのが、アスランとカガリ・ユラ・アスハなのだろう。
(アスランが誰かのために動く、というのも考えられませんが……)
 ニコルはヤマト家にいる間にキラとアスランの関係を聞いていた。
 戦火の中からたった一つ持ち出した、彼女のアルバムを見ながら。
 ニコルはふと同僚のことを思い出す。彼女の恋人だという……。
 アスランといがみ合いばかりしていた彼が、アスランが掌中の珠のように可愛がる彼女の恋人だという。
 ましてや、二人は敵同士だったわけで。
 イザークの激しい敵愾心を、ニコルは知っていた。
 アスラン以上に、誰かのために動くことなど考えられない彼が、目の前の少女と一体どんな付き合い方をしてるのだろう。
(プラントに戻ればわかる、ということですね)
 ニコルはいま初めてイザークに再会するのが楽しみになった。






「キラッ!」
 息を切らしながら、一人の少女が駆けてくる。
「ミリィ!?」
 ミリィことミリアリア・ハウ。彼女はカレッジ時代からの友人の中でも、一番キラのことを思ってくれる友人だ。
「よかった〜、間に合って!」
「なんで……? 僕、教えてないのに……?」
「フフッ、このミリアリア様の千里眼を欺けると思ってるの? な〜んてね。ラクスさんが教えてくれたの」
「ラクスが?」
 キラは、ラクスとミリィがずっとメールでやりとりをしていたことを知った。
「はい。ミリアリアさんは、いつでもキラのことを気にしていましたから」
 アークエンジェルで出会った誰よりも、ナチュラルとコーディネーターの垣根を持たないミリィを、ラクスも頼りにしていた。
「だって、キラに聞いても『大丈夫だよ』って言うだけで、本当のこと言わないじゃない?」
「う……」
 図星をさされまくって、言葉が継げない。
「メール見て、びっくりしたわよ。アラスカにいたのに、慌てて戻ってきたんだから」
 停戦後、彼女はフリーカメラマンとして、世界中を旅していた。
 二度と戦争になどならないように、その爪痕を撮っていきたい、と。
 実際に戦場へ身を置いた彼女の視点は、生っ粋のカメラマンとは異なるようで、駆け出しながらも、なんとか食いつなげるぐらいには仕事もあった。
「アラスカ?」
「そう。ジョシュアよ」
 サイクロプスの跡を撮りに行っていたのだ、とミリィは言う。
「できることならユニウスセブンを撮りたいんだけどね」
 あれはホントに衝撃的な光景だったから。
「ユニウスセブン!?」
 ザフトなら、いやコーディネーターなら、決して忘れることのできない言葉にニコルが反応した。
「キラさん、ユニウスセブンに行ったのですか?」
「うん。ほら、アルテミスで補給ができなかったから、デブリに向かってね……。ラクスと会ったのも、その時だった」
 キラの言葉に、今度はミリィが反応する。
「キラ、この人は?」
「ブリッツのパイロットだったニコル君だよ。父さん達が助けたんだって」
「ブリッツ……、そう貴方が……。はじめまして。アークエンジェルのCICだったミリアリア・ハウよ。いまはフリーカメラマンをしてるの」
 ミリィに握手を求められ、ニコルはびっくりしながら応じた。
 ナチュラルがなんの蟠まりも見せず、握手を求めるなんて、ザフトにいたころには考えられなかった。
(あの艦にいたなら、さんざん戦った相手でしょうに……)
 キラだけでなく、ラクスまでもが彼女に好意を寄せる理由がわかる。
「キラ、ザフトに入るって本当?」
「え? あ、うん。中に入らなきゃわからないこともあるから」
「あ、カガリやアスランには内緒だよ?」
「相変わらずな訳ね、あの二人は。それより大丈夫なの?」
「うん」
「そう。でも、無茶はしないでね? ま、あの人がいるから心配ないか」
「もぅ! ミリィったら! ……あ、ディアッカになんか伝言ある」
 傍らで聞いていたニコルは思う。なぜ、そこでディアッカの名前が出るのか、と。
 ディアッカが捕虜としてあの艦に乗り、彼らの戦いに協力したのはすでに知っている。
 けれど、なぜディアッカの名前だけが出たのか?
 答えを求めるようにラクスの顔を見れば、彼女はニッコリ笑って言った。
「ミリアリアさんはディアッカ様の想い人なのですわ」
「はい〜?」
 キラがイザークの恋人だというほどには驚かないが、それでもあのディアッカが?という思いはある。
 イザークほどではないにしろ、ナチュラルをバカにしていたディアッカがナチュラルに恋するなんて考えられなかった。
(ったく、人が生死の境をさまよってる間に、ずいぶんと楽しいことになってるじゃないですか!)
 ニコルがそんなことを考えてる間に、ミリィは答える。
「アイツに伝言? そうねぇ……。じゃあ、『甲斐性なし!』って伝えて」
「ミ、ミリィ……、ディアッカの事、キライ……なの?」
 だったら、ディアッカの名前を口にするのは止めようと思う。
「嫌い……じゃないわ。多分、好きなんだと思う。でも仕方ないわ。私はプラントには行けない。アイツはプラントを捨てられない。どうしようもないわよ」
「ミリィ……」
 キラには、その気持ちがわからないわけでもない。もっとも、自分達の立場は逆だ。
 ザフトの軍籍を残したままのイザークはオーブには行けず、キラはオーブを捨てられなかった。
「それにね……、私がジャーナリストになるって言ったら、アイツ何て言ったと思う? 『カメラ抱えて世界中飛び回るなんて色気ねぇなー』ですって! 失礼しちゃうわ!」
 プンッと頬を膨らますミリィに、キラだけでなく、ラクスやニコルまで笑い出した。
「貴女の伝言、キラさんは伝えられないでしょうから、代わりに僕が預かりますね?」
「よろしくね♪ あ、私もう行くから」
「まぁ、随分と慌ただしいのですね。久しぶりにお会いしたのですから、ゆっくりお話したかったですわ」
「嬉しいけど、駆け出しジャーナリストはツライのよ。仕事がなくなっちゃう。それに、これが今生の別れって訳じゃないでしょ? じゃあ、キラ、気をつけていってきてね?」
 まるで、2、3日旅行にでも行くかのような気軽さで、ミリィは手を振る。
 それがミリィなりの気遣いだと、キラは知っていた。






 マルキオ導師の家を訪れると、一人の少女が飛び出してきた。
「キラさん! 私も一緒に連れてってッ!」
「え!?」
 彼女の名はマユ・アスカ。
 連合軍との戦闘があった時に被災し、両親を失った。マユ自身も瀕死の状態だったのを助け出され、いまはマルキオ導師の元で暮らしている。
 キラとラクスが彼女と知り合ったのも、戦後オーブで暮らすようになって、導師の元を訪れた時だった。
「プラントに行って、どうしたいの?」
「ザフトに入るの♪」
「ザフトに!? 無茶だよ! だって君のその手は……」
 彼女は左手は義手だった。
 飛来したMSの爆撃の煽りを受けて失ってしまった。
 彼女の義手にはNeuro-Link、つまりは意識で操作するGと同じ技術が使われている。
 知らなければ、いや知っていても忘れてしまうぐらい精巧なそれは、さすがは技術大国オーブと言うしかないだろう。
 だが、やはりパイロット、それもMSのとなると、コンマ1秒の遅れが命取りになるため、パイロット不適格とされる。
「パイロットじゃなくてもいいの。オペレーターなら出来るもん。軍にはそういう人も必要なんでしょ?」
「だいたいマユ、なんでそんなにザフトに入りたいの? ご両親の仇を討ちたいから?」
「違うもん」
「じゃあ、なぜ? プラントに行くだけじゃダメなの?」
 マユは唇を噛んで、黙りこんでしまった。
 自分の中にある想いは、まだ漠然としたもので、うまく言葉にならない。
「マユ」
 優しい口調でキラは呼びかける。
 キラとて、マユを追い詰めたい訳じゃない。
 ハンパな気持ちでないことを、確認したいだけなのだ。
「マユはオーブが嫌い?」
 マユは首を横に振って否定する。
「嫌い、じゃない……」
「でも、好きでもない?」
 今度はコクンと頷いた。
「どうして?」
「友達もいたし、学校も楽しかった……でも……いまは楽しくない。先生も『コーディネーターがいたから、連合が攻めてきた』って言うし……」
 黙って二人のやりとりを聞いていたラクスの眉が顰られる。
「中立のオーブでも、そんな方がいるんですのね……」
 まして教職にある身で言っていい言葉ではない。
 心ない大人の言葉に、この少女がどれだけ傷付いたか。
 顔も知らぬ人物に、ラクスは怒りを覚える。
「ねぇ、本当に戦争は終わったの? 終わったなら、なんでマユはこんなこと言われるの? オーブは中立なのに?」
 自分の思いをうまく言葉に出来なくて、マユの目から涙が零れ落ちる。
 キラは黙ってマユを見ていた。
(人のこと、言えないや……)
 マユが口にした言葉。それはキラ自身にも覚えがあるものだ。
 あの時、イザークと共にプラントへ行くことが選べなかった自分がマユに重なる。
 でも、いまキラは決断した。黒い靄に包まれた議長の真実に光を当てるために。そして、守るために―――。
 キラは静かに
「ねぇマユ、君は何を守るの?」
「何を……守る……?」
「そう。みんな何かを守りたくて戦っているんだ。コーディネーターでも、ナチュラルでも、ザフトでも、連合でも、それは変わらない。例えブルーコスモスのように、歪んだ想いだとしてもね。僕はそう思ってる。僕だって、最初はなんで戦ってるのかわからなかった。誰が悪くて、誰が敵なのか、何と戦うのか。それはいまでもはっきりと言えない。でも、僕は大切な人の笑顔を守るために戦う。それが僕の戦う理由だよ」
「戦う、理由……」
「そのために僕は僕に出来ることをする」
 凜とした声が、ラクスの、ニコルの、そしてマユの心に響いた。
「いますぐ答えが欲しいわけじゃないよ。ただ、いまの気持ちを大切にして、自分を見失わないでいて欲しい。そして、何を守るために、何と戦うのかを、いつも考えていてくれる?」
 マユはコクンと頷いた。
「じゃあ、一緒にプラントに行こう」
 俯きがちだったマユの顔が上がる。
「い、い…の……?」
 マユは不安げにキラを見る。
 キラは穏やかな笑顔で頷いた。
「マユが僕のCICをしてくれたら嬉しいな」
「マユ、頑張る。キラさんの役に立ちたい!」
 話が落ち着いた様子を見て、マルキオ導師が声をかけた。
「シャトルが出るまでにはまだ時間がありますから、皆さんでお茶でも飲みましょう」
 祈りの館で、ささやかな送別会が開かれる。
 カリダが焼いたケーキと紅茶がテーブルに並べられた。
 しんみりとしてしまうテーブルに、時折、カップとソーサーがあたる音が響く。
 そんな雰囲気を打ち破ったのは、ニコルだった。
「そういえば、お二人の滞在先は決まってるのですか? アカデミーは寮制ですが、すぐに入れるわけではありませんし、身元引受先が必要ですよね?」
 ニコルの問いかけに、答えたのはラクスだった。
「キラの滞在先は私が手配しておりますわ。あちらに到着すれば、迎えが来ていますから、キラが迷子になる心配もありませんし」
「そうですか。マユさんもご一緒に?」
「あら、私としたことが……。マユさんのことは、いま決まったことですし……。どうしましょう?」
 いまからプラントと連絡を取っても、マユの滞在先がすぐに見つかるかわからない。
「では、マユさんは僕の家でお預かりしますよ」
 ニコルがマユの顔を覗き込んで微笑む。
「でも、迷惑じゃないですか?」
「はい。プラントに着いてから連絡することになりますが、心配いらないです。母は娘が欲しいと言ってましたから。僕も妹が欲しいと思ってましたから、大歓迎です」
「嬉しい♪ お兄ちゃんと離れちゃったから」
「マユ、お兄さんがいたの?」
「うん。でも、あの時、離れ離れになっちゃって……。多分、死んじゃったんだと思う。生きてたら、マユのこと探してると思うし、マユもお兄ちゃんのこと探したけど、見つからないから……」
 マユは兄シン・アスカが、すでにプラントにいることを知らない。
「じゃあ、僕のこと、お兄ちゃんって呼んでくださいね? 僕もマユって呼びますから」
「うん、ニコルお兄ちゃん♪」
「よかったですわね、マユ」
 ずっと張りつめていた糸が緩んだかのように、いままでになく無邪気な笑みをマユは浮かべていた。
 短い付き合いではあるが、ようやく彼女の本当の笑みを見たように思う。
 家族を失い、謂れなき非難の視線に曝され、哀しみにも苦しみにも、ずっと一人で耐えてきたのだろう。
 成人しているとは言っても、単に、コーディネーターのそれが早いにすぎない。
 まだまだ甘えていたい年頃なのだ。
 ニコルは今日初めて彼女を知ったが、先程までの少し翳りのある表情とはうって変わった笑みを、守ってあげたいと思う。
 先程、キラが言ったように。
「大切な人の笑顔を守る……か。僕もマユの笑顔を守りたいです。僕もこの言葉をいつも胸に刻んでおきますね?」
「僕としては当たり前のことを言っただけなんだけど……。ただ、世の中みんながそうじゃないんだよね……」
 そう、世の中の人がみんなそう思ったら、戦争にはならなかっただろう。コーディネーターが大切なナチュラルもいれば、ナチュラルが大切なコーディネーターもいる。キラと先程の少女・ミリアリアのように。
 彼女達の笑顔を守ってあげたいと、ニコルも思う。
「ただ、僕としては、イザークの笑顔なんて余り見たくないです」
 怒鳴り散らしている顔と、不機嫌な顔ばかりが思い浮かぶ。
 笑っている顔というと、せいぜい人を小バカにしたような嘲笑ぐらいだ。
「そう? イザークの笑顔って、すっごく綺麗だけどな」
 柔らかな彼の笑顔は、その銀髪のせいもあって、月の光のようだと、キラは思う。
 ニコルとキラ、二人の認識は、プラントと地球より遠くかけ離れていた。
「キラ、ごちそうさまですわ」
「え?」
「確かにいまのは完全にノロケですよ〜♪」
 ラクスばかりか、マユまでがそうやって冷やかすと、キラは真っ赤になって言った。
「べ、別にそんなつもりじゃ……。そ、それに、守りたいのはイザークだけじゃないし! みんなも! それにアスランとか、カガリとか……」
 しどろもどろになって必死に言い募るキラを、みんなは優しい笑みで見る。
「もぉ、みんなイジワルなんだから〜」
 キラはなんとか話題を変えようと、ラクスに何か歌って欲しいと強請る。
「ええ、キラは何がよろしいですか?」
「じゃあ、『水の証』を」
「ならば、僕が弾きましょう」
 ニコルがオルガンを奏で、ラクスの澄んだ声が響く。
 優しい調べを聞きながら、キラは両親に別れを告げる。
 血が繋がっていないと知っても、キラにとって大切な人達に変わりはない。
 でも、もう会えないかもしれない。
 キラの行く道に、生命の保証などないのだから。
「ごめんね、父さん……母さん……」
 優しい両親に挟まれて、キラは絞り出すような声で告げる。
「キラ。キラが信じた道を行くのだろう? それを応援するのが、親の務めだ」
「父さん……」
「幸せになるのよ。それが私達の願いなのだから」
「母さん……」
「今度帰ってくる時には、キラの好きな人を連れてきてね? 会ってみたいわ」
「……うん」
「父さんは不機嫌になるかもしれないけどね?」
「おい、カリダ……」
 フフッと笑う母と、苦笑を浮かべる父の姿に、キラは涙を浮かべながらも微笑んだ。
 どんなことがあっても必ずやり通す、と心に誓う。
 いつの日か、イザークと共にオーブへ戻るために―――。






 そして、ラクスの歌が終わった時、静かに彼女達の言葉を聞いていたマルキオ導師が出発を告げた。






マユ登場させてみたり(笑)。ニコル君と違って、別に思い入れはないんですけど……。最初っから死亡設定だったし。

ただ、りゅうがやりたいことをやるためには、このコに生きててほしかったのです。

次回はようやくイザ様登場。やっとイザキラらしくなる……ハズ。


第2話 INDEX 第4話