序曲〜Overture


 そして2日後。新クルーゼ隊の5人は、人事局へと立ち寄ったあと、ブリーフィングルームへと集まった。
 だが、互いに誰を副官としたのか、それは知らない。
 また、人の悪いクルーゼが、それぞれ離れた5室の控室を用意し、副官同士も顔を合わせないようにしていた。
 そこまでする必要はないとは思うのだが、
「さて。まずは、副官紹介としよう。誰が最初にやるかね?」
「自分が」
 クルーゼの問いかけに、立ち上がったのはイザークだった。
 イザークの副官は予測がついてるので、順当とも言える。
「いいだろう」
 イザークが控室にコールすると、しばらくして紅を纏った髪の長い少女が現れる。
「シホ・ハーネンフースです。ジュール隊長の副官を拝命いたしました。以後、よろしくお願いします」
 形式どおりの敬礼と挨拶を持って、シホはブリーフィングルームに入ると、指示されたイザークの後の席に着く。
「次は誰かね?」
「では、僕が」
 ニコルが立ち上がり、控室にコールをする。
 しばらくして入ってきたのは、金色の髪の少年だった。
「レイ・ザ・バレルです」
 名前だけを名乗り、敬礼を返す。
「ほぅ。確かにレイならば、ニコルとは気があいそうだな」
「そうだね」
 クルーゼが言った言葉に、キラが相槌を打った。
「隊長、それにキラ。レイを知ってるのですか?」
「うん。レイの後見人はクルーゼ隊長だし」
 応えたのはクルーゼではなく、キラだった。
 いまでこそ、キラは後見人を必要としなくなったが、ザフトに入ったころのキラの後見人はクルーゼだった。
 ニコルをはじめとするクルーゼ隊の面々はそれを知っている。
 だから、クルーゼがレイの後見人ならば、キラとも面識があって不思議じゃないのだ。
「そうなんですか?」
 レイを副官に選んだニコルですら、クルーゼとレイの関係は知らなかった。
 クルーゼは人の悪い笑みを浮かべているだけで、何も言わない。
 仕方なしに、レイが口を開いた。
「はい。確かに自分の後見人はクルーゼ隊長ですが、気にしないでください。贔屓されたいとも思いませんので」
 だが、一抹の不安が消せないのか、ニコルの表情は晴れない。
「大丈夫だよ。ニコルはレイの憧れの人なんだから」
「キラさんッ!」
 ニッコリ笑ってキラがフォローを入れると――フォローになってないようにも思われるが――レイが見た目のクールさとは裏腹に慌てた素振りを見せた。
「レイもピアノを弾くんだよ。ニコルのすっごいファンなんだって。だから、ニコルに反発したりしないよ?」
 副官として、時には上官に意見するような気概も必要だが、日頃から何かといがみ合ってるよりは、仲がいい方が良いに決まっている。
 次から次へとばらされて、レイは頬を染めて俯いた。
「そうなんですか?」
 嬉しそうに聞くニコルに、レイは俯いたまま、さらにコクリと頷いた。
「ピアノが趣味だということは、データファイルで見てましたけど、僕のファンだとは知りませんでした。嬉しいです。これからもよろしくお願いします」
 僅かながらでも年長であるからか、上官として接することになるからか。ニコルは場を収めるように、レイへと手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 レイはさらに顔を赤くしながら、差し出された手を握り返した。
 養い親であるクルーゼも、二人を暖かい目で見つめていた……かどうかは、仮面のせいでわからないが、満足そうに頷いた。
「では、次」
 アスランとディアッカは顔を見合わせる。
 互いに譲り合って名乗りでようとはしない。
 そして二人揃ってもう一人の存在に顔を向けた。
 だが、その人物は二人の視線を気にもせず、クルーゼに向かってニッコリ笑って言った。
「たいちょ〜! 僕は最後にして下さい。とびっきりのサプライズを用意してますから」
「ほぅ。では、キラは最後にしよう」
 悪趣味が服を着て歩いているクルーゼが、サプライズと言われて悪乗りしないわけがなかった。
「で、ディアッカとアスラン、どちらが先にするかね?」
 覚悟を決めたのはディアッカの方だった。
 入ってきたのは、紅を纏う少女だったが、シホとは違い、ピンクのミニスカートを履いている。
「ルナマリア・ホークです。よろしくお願いします」
 明るく快活な少女だ。
「ディアッカ、やっぱり女の子にしたんだ〜」
「貴様ぁ〜、軍を何だと思ってるッ!」
「隊長、彼女のためにも止めさせた方がいいんじゃないでしょうか?」
「ルナマリア、部屋のロックはキラさんに変えて貰うといい。エルスマン先輩もキラさんのロックなら外せないから」
 ルナマリアが敬礼すると、一斉に周囲からツッコミが入る。
 ちなみに、キラ、イザーク、ニコル、シホの順である。
 ツッコミの嵐に、さすがのディアッカもふて腐れた。
「ったく、お前らは俺を何だと思ってるんワケ〜?」
「セクハラ上司」
「タラシ」
「スケコマシ」
「えーと、女の子が好き……なのは事実だよね?」
 頑張って言い返したディアッカの努力(?)も虚しく、すかさずさっきとは逆の順でまたツッコまれた。
 ちなみにアスランが何も言わないのは、言えば自分に返ってくるとわかっているからだ。
「お前ら……」
 ディアッカはしゃがみ込んでいじけている。
 すると、それまで事の成り行きを見ていたルナマリアが口を開いた。
「わかりました。とりあえず引き受けちゃったし、副官にはなります。もし万一のことがあっても泣き寝入りなんてしません。皆さんに言い付ければいいんですよね?」
 全員がキョトンとした後、笑いだした。
 笑っていないのはこれっぽっちも覇気がないアスランと、ディアッカのことをよく知らないレイだけで、クルーゼまでが口許を歪ませている。
「あのなぁ〜! ったく、ルナマリアまで、何言い出すんだよぉ〜」
 ディアッカはとどめを刺されて、すっかり立ち上がれなくなっていた。
「いいんじゃないですか?」
「うん、ディアッカといいコンビになりそうだよね」
「貴様には、もったいない副官だな」
「ルナマリア、後でエルスマン先輩の操縦法を教えておく」
 クルーゼは笑っているのか、手で歪んだ口許を隠していたが、すぐにいつも通りの表情に戻っていた。
「さて、アスランの番だな」
「……………」
 アスランは無言で立ち上がり、控室にコールを入れ、やがて扉が開く。
「シン・アスカです。よろしくお願いします」
 アスランは何も言わない。
 シンも何も言わない。
 誰も何も言えず、沈黙が流れた。
「アスラン、彼を選んだ理由はなんだね?」
「それは……」
 理由なんてない。
 アスランにとって、キラでないなら誰でも同じ。
 最後まで、グズグズと『キラがいい』とごねていたくらいだ。
 だが、本人の前でそれを言うほど、愚かでもない。
「彼ならば、そう思ったからです」
 培った優等生の仮面をフルに発揮してアスランは答えた。
 それを見破ったのは、キラを副官にするとごねた様子を知っている4人だけだろう。
「ではキラ、どんなサプライズを見せてくれるのかな?」
「まだナイショです」
 キラは控室にコールを入れた。
「キラ。そいつは、おととい、打診だけでもしたいと言っていた人物なのか?」
 イザークの問いに、キラは笑って頷いた。
「うん。快く引き受けてくれたんだ♪」
 キラが選んだ人物。
 イザークは……、そしてイザークとキラの会話を知らなかった他のメンバーも、どんな人物が現れるのか、興味津々だった。
 やがて現れた姿に、誰もが驚きを隠せなかった。
 その人物は、確かにザフトの制服らしきものを着ている。
 上着は同じデザインをしているが、下はふんわりとしたドレスのようなスカートだ。
 だが、それはここにいる誰とも違う桃色をしていた。
 そんな色の制服があるなど、見たことも、聞いたこともない。
 そして、その人物の手には身に纏う色と同じ色をした球体。
 軽いウェーブのかかった長い髪も同じ色。
「こんにちは、皆様。ラクス・クラインですわ」
「「「ラクス嬢〜!?」」」
「「「「ラクス様!?」」」」
「ラクス……君がなぜここに?」
「お久しぶりですわね、アスラン。私、キラの副官になりましたの」
「「「「「「「「はい?」」」」」」」」
 平和の歌を歌う歌姫がザフトに?
 しかも、キラの副官?
「ちょっと待て、キラ! ラクスはザフトの軍人じゃない!」
「先程手続きは済ませましたわ」
 アスランの言葉にキラではなく、ラクスがニッコリと微笑んで答える。
「ラクス嬢、アカデミーを出てませんよね?」
「うん。でも、パトリック小父様とシーゲル様の許可は貰ってるよ」
 二人のサインが入った入隊許可証ももらってるし〜、とニコルの問いに、今度はキラが答える。
「そりゃ、誰も文句言わねーよなぁ〜」
 ディアッカは呆れたように、後頭部に手を当てて、椅子に反り返る。
 なんてったって、プラント最高評議会議長と国防委員長直々の許可証なのだから。
 文句をつける者などいないだろう。
 イザークだけは、何も言わずに顎に手を当てて、何やら考え込んでいる。
「フフッ、みんな驚いてくれて嬉しいよ。隊長だけはあんまり驚いてくれなくて残念だけど」
「いや、これでも充分驚いているのだがね」
 そーですか〜? と、キラは疑いの眼差しでクルーゼを見る。
「しかし、よろしいのかな、ラクス嬢? 我々が身を置くのは戦場、我々が行うのは戦闘。平和の歌姫に銃が撃てますかな?」
「あら、そうなんですの、キラ?」
 一同、あんぐりと口を開けるしかなかった。
 ザフトは軍である。軍であるからには、戦闘をするのは常識だ。それなのに、この天然ボケの歌姫ときたら……。
「ラクスはラクスの戦い方をすればいいんだ。僕は君に銃を持って欲しいとも、MSに乗れとも言ってないし」
 天然ボケは、歌姫だけではなかった。
「キラ、一体君は歌姫に何と言ったんだね?」
「え? えーと……『僕の副官になって、僕を助けてくれない?』だっけ?」
「えぇ。ですから、私、『よろしいですわ』とお答えいたしました」
 間違ってはいない。キラの言葉も、ラクスの答えも。
 だが、激しく間違っているような気がするのはなぜなのだろう。
 紅服の面々が思わず顳?を押さえるなか、クルーゼだけがクククッと笑い出した。
「全く、キラは驚かしてくれるな。確かに最高のサプライズだよ。いいだろう、ラクス嬢をキラの副官として認めようじゃないか」
 別にクルーゼが認めなくても、人事局で書類は受理されているのだから、関係がない……ということをツッコめる者はいなかった。




というわけでオールキャラ登場。
ピンクのザフト服を着るラクスが書きたかったんです♪


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