序曲〜Overture 1 CE73。長きに渡ったプラントと地球連合の戦争は終わり、人々は平和な日々を送っていた。
コーディネーターとナチュラルの溝は、一朝一夕には埋まらないものの、双方が歩み寄ろうと努力をしていた。
だが、それを喜ばない者もいる。
ブルーコスモス。
コーディネーターの排斥を唱える彼等にとって、現状は許しがたいものであり、いままたその活動は強くなっていた。
そんなある日、プラントのザフト軍本部に、かつてのクルーゼ隊が召集された。
アスラン・ザラ。
イザーク・ジュール。
ディアッカ・エルスマン。
ニコル・アマルフィ。
そして……キラ・ヤマト。
ザフトのトップガンを示す紅に身を包んだ5人が揃ってブリーフィングルームに並ぶのは、実に1年ぶりのことだった。
「さて」
5人の前に立つのは、相変わらず怪しげな仮面を付けたラゥ・ル・クルーゼ。
「皆を呼び出したのは、他でもない。昨今の情勢に、評議会がクルーゼ隊を復活させる……との決定を下した」
クルーゼ隊は先の戦争に置いて、圧倒的な強さを誇ったエリート部隊として連合にも名を轟かせている。
「ようは、プロパガンダってことか〜」
上官の前だと言うのに、気の抜けた口調でディアッカは言う。
もっとも、クルーゼの方もそんなことを気にするようなタマではない。
「まぁ、そんなところだ。とはいえ、君達もすでに個々で動ける力がある。前と同じようにとはいかないのだよ。そこでだ……」
クルーゼの口許に浮かぶ、以前と変わらない人の悪い笑み。
「私が預かったのは、ナスカ級1隻とローラシア級5隻だ。このローラシア級を1隻ずつ君達に預け、艦長兼小隊長として任に着いてもらう」
「「「「「はっ!」」」」」
息の合った敬礼が返るとクルーゼは満足そうに頷いた。
「では、明後日1400までに、それぞれ副官を決め、人事局へ届け出るように。それから……肝心の戦艦だが、実はまだロールアウトしていない。4日後には、アプリリウスの軍港に入ると聞いてはいるが、いまだ識別コードも名前もついてないのが現状だ。そこで、ニコル」
「はい」
「君に任せる。我らの艦に名前を付けて総務局に届けてくれ」
「……はい」
任された事の重大さに、ニコルは戸惑いながら返事をした。
「私はそういう面倒が嫌いなのだよ。君ならば、皆が納得できる名前をつけられるだろう?」
確かに、とニコルは思う。
ディアッカならば、悪ふざけが過ぎるような名前をつけかねない。
キラならば、面白がってヘンな名前をつけるか、面倒がって数字や記号で済ませようとするだろう。
アスランは……ネーミングセンスの悪さは『トリィ』と『ハロ』で実証済みなので問題外。
民俗学が趣味であるイザークなら、いい名前をつけそうではあるが、アスランの戦艦にだけロクでもない名前をつけそうだ。
「では、明後日1500に副官を伴い集合すること。それ以外のメンバーに関しては、人事局より通達がある。以上、解散」
「「「「「はっ!」」」」」
敬礼で応えると、クルーゼは部屋を出て行った。
5人はいっせいに溜息をついた。
「副官かぁ〜」
キラが目を輝かせる。
クルーゼ隊が解散したあと、開発局勤務となっていたキラには、いままで縁がなかった存在である。
「やっと、コイツのお守から解放されるぜ♪」
クルーゼ隊麾下ジュール小隊の副官だったディアッカは、腕を大きく伸ばして、解放感をアピールしていた。
「なんだとぉ〜!」
ディアッカの言に当のイザークが突っかからないハズがない。
「フンッ、俺の方こそマヌケな副官から解放されて大助かりだ」
そんなこと心にも思っていないことを、ディアッカも他の3人も承知している。
これはこれで、彼らなりのコミュニケーションなのだ。
「でも、副官探しといっても、どうすればいいんでしょう? 引き抜きもあり、ってことですよね?」
ニコルは停戦間際に重症を負い、しばらく軍務にはつかずに療養していたが、数ヶ月前、療養生活を追え、リハビリもかねて、アカデミーの教官をしていた。
「だろうな。だが、いま生き残ってるヤツらは、ほとんど俺らより年上だぞ? 年上の副官ってのもやりにくそうだな」
「そうですよね〜。だからって、アカデミーから引っ張ってくるわけにもいきませんし」
5人中、もっとも年下のニコルの場合、下手すると、在学生でも年上だったりするのだ。
教官としてでさえやりにくかったのに、上官というのはかなり精神的に負担が多そうである。
「そうだ、俺、シホにしよう♪」
ディアッカが名案とでも言うように、ポンと手を叩いて言った。
シホ・ハーネンフースはジュール小隊に所属する、女性ながらも紅を纏う非常に優秀なパイロットである。
「ダメだ。ハーネンフースは俺が副官にする」
「わっ、横暴!」
「フンッ。ハーネンフースに聞いてみてもいいが、貴様と俺ならば、どちらを選ぶかなど聞くまでもないだろう」
ディアッカの行状に対し、シホが呆れていることは、ジュール隊で……いや、ひょっとするとザフトでも知らぬ者はいないのではないだろうか。
「ま、いいわ。女性士官はシホだけじゃねーし」
「ディアッカ。別に副官は女性じゃなくてもいいんだよ?」
ま、ディアッカらしいけど、と笑うキラに、ディアッカはスイッとキラの腰を抱いた。
「ヤローでもキラぐらいかわいかったら喜んで〜♪」
その途端に、残る3人から蹴りをお見舞いされて、ディアッカは床に沈んだ。
「ところで、アスランは誰か心当たりがあるんですか?」
「俺はもう決まってる」
特務隊へ転属となり、ユウキ隊の副官を務めていたアスラン。
ユウキ隊のメンバーは確かに優秀だけど、アスランと気の会うような人がいただろうか? と、4人が揃って考え込むと、アスランは大真面目な顔で言った。
「俺はキラを副官にする」
「はい〜?」
「バッカじゃねーの?」
「それが出来るくらいなら、貴様の副官にするまでもなく、俺が副官にしているッ!」
キラを副官にできるものなら、誰もがそうしたいと思っている。
特にイザークは、前回の辞令の際に、ディアッカよりもキラを副官にしたかったのだ。だが、辞令でキラが開発局へと行ってしまい、やむなくディアッカを副官に据えたのだから。
また、今回の辞令ではキラは自分達と同列で、自分達と同じように副官を探す身なのだ。
そのキラを副官に出来るわけがないことぐらい、常識で考えなくたって当然のことである。
「キラ! キラならやってくれるよね? 子供の頃から、キラのお願いはなんでも聞いてあげたじゃないかッ! 一度ぐらい、俺のお願いを聞いてくれたっていいだろッ?」
「キラ。こんなバカを相手にすることないぞ?」
「う〜ん、そう言ってくれるのは嬉しいし、アスランのお願いを聞いてあげたい気持ちはやまやまだけど、さすがに隊長やりながら、別の隊の副官ってのは無理だと思う。だって、任務が重なったりしたら、どうすればいいのさ?」
「キラ、頼むからそんな冷たいこと言わないでくれ! 俺には……俺にはキラしかいないんだよぉ〜!」
泣いても喚いても土下座しても、無理なものは無理である。
「アスラン。とりあえず、僕と一緒に人事局へ行きましょう? 士官ファイルを検索しないことには、探せませんよ?」
「……………キラがいい。キラじゃなきゃヤダ」
子供の頃のキラでさえ言わなかったような駄々をこねるアスランに、いい加減ニコルがキレた。
「あぁ、もう! ディアッカ、どうせあなたも人事局へ行くんでしょ? 一緒にこのバカを引き摺るの手伝ってください」
「はぁ〜? 俺がぁ〜?」
ディアッカは不平を洩らすものの、確かに人事局へ行かなくてはならないし、ニコルの言うようにアスランを腕を掴んで引き摺って行った。
そうして、アスランは二人がかりで人事局へと運ばれた。
「キラァ〜〜〜〜〜ッ!」
後に残されたイザークとキラは顔を見合わせると、プッと噴き出した。
「キラは行かなくていいのか?」
「うん。打診だけでもしてみたい人がいるんだ」
引き受けてくれるかどうかはわからないけど、とキラは笑う。
「俺がキラの副官でもよかったのだがな……」
イザークはちょっと照れくさそうに言って、溜息をついた。
「何言ってるんだよ? イザークを副官にだなんて、もったいないよ?」
それだけの実力を持っていることは、すでに小隊長となっていることからも窺い知れる。
「でも、イザークの副官はやってみたかったな」
キラはちょっと俯いて頬を染める。
「キラ……」
皆がいないのをいいことに、イザークはキラをスッと抱き寄せ顔を近付ける。
「イ、イザーク……?」
「アスランのお願いなんぞ、何一つ聞いてやることはない。それよりも、俺のを聞け!」
「イザークのお願い? なに?」
「キラを抱きたい」
「……………部屋でなら」
キラは頬を赤く染めて、了承の意を示すように目を伏せた。
公式設定なんぞ、あってなきがごとし……な展開です。突発的に始めたんで、どっちにむかって走っていくのか、りゅうにもよくわかりません(^-^; INDEX Overture2