「…………行くのね?」
禊のようにシャワーを浴びて身支度を整える俺に、灰原が声を掛けてきた。
「あぁ」
「そう。おせっかいだとは思うけど……」
灰原は俺の上着を差し出した。
「これにいろいろと仕込ませてもらったわ」
「………サンキュ」
もちろん、快斗とは違うから、『仕込み』といったって煙幕やら、閃光弾やら入ってるわけじゃない。
凝血剤だの、痛み止めだの、薬事法違反の薬だの……。
どこに何が入ってるかざっと説明を聞くと、その上着を受け取った。「工藤君……」
「ん?まだ、なんかあんのか?」
上着を着こんで、ドアノブに手を掛けたまま、振り返る。
「……なんでもないわ」
「……じゃあ、行ってくる。博士が起きたら、よろしく言ってくれ」パタンとドアが閉まる音を背中で聞いて、俺はホテルの廊下をまっすぐに歩いていった。
これから、どんなことになるのか。
それは俺にもわからないけど。
確かなことが一つある。ゼッタイに快斗を捕まえる!
それが、いまの俺に残されている、たった一つの真実だった。
††† 聖夜 ††† 闘いの日〜side Shin-ichi
快斗を追って、俺は研究所の中にいた。
昨日、アイツの白い衣装に仕掛けておいた発信機が、俺をここまで連れてきてくれた。
だが、追跡メガネに光る赤い点はここで消えた。
快斗が……いや、キッドが侵入を果たしたからだろう。
どうやらこの建物は電波を通さないようになってるようだ。
それでも俺はアイツを見失う心配はしていなかった。
なぜなら通路に累々と横たわる屍が、俺をアイツの元へと案内してくれるから。
俺は手近な屍から拳銃を取り上げると、弾倉を確かめて、ジーパンに差し込んだ。
武器を調達しながら進んでいくと、話し声が聞こえる。
「パンドラを渡してもらおうか」
物影から様子を伺えば、白い衣装を着たアイツが数人の男達に囲まれていた。
皆それぞれに銃を手にしている。
あまり、いい状況とは言えないのは、簡単に見てとれる。
さすがのアイツでも、この状況を打開するには、かなりのダメージをくらうだろう。
(ダメだ……。距離がありすぎて拳銃じゃ危険だ……)
当たるには当たるかもしれないが、弾が流れてアイツに当たる可能性がある。
(もっと確実にあたるもんじゃねーと……)
俺は周囲の死体を見回した。
探していたものを持つ死体が運よく転がっていた。
(ロシアのドラグノフか……)
バレル長620ミリのライフル・ドラグノフを構える。
慎重に狙いを定め、発射する。
アイツに迫っていた男の身体が崩れ落ちる。
アイツの周りにいた奴らが、一斉に俺を狙ってくる。
物影に隠れて、かわすにも限界がある。
俺は拳銃を手に応戦した。
「いまのうちに行け!」
そう叫んだが、アイツときたら聞こえてねーのか呆然としたように立ち尽くしてる。
「バーロ!何やってんだっ!」そう叫んだ瞬間、足に抉り取られるような熱と痛みを感じた。
「名探偵っ!!!」
アイツがそう呼ぶのが聞こえた次の瞬間、強烈な光に襲われる。
(あぁ……、閃光弾だ……)
そう思っていると、ふいに身体が浮いた。
「なんで、新一がここにいんだよ!なんで、こんなムチャすんだよ!何のために俺がっ……!」
俺の顔を覗き込むアイツの顔が、いまにも泣き出しそうだった。
アイツがいま、俺が一番聞きたかったことを話してくれようとしているのはわかっていたが、あえて俺はそれを遮った。
だって、いまはそんな場合じゃない。
一時的に、隠れているだけの俺たちは時間が経てば経つほど、不利な状況へと追い込まれていくのだから。
だから俺は言った。「キッド。お前の口から真実を貰うまでは死ぬつもりもないし、お前を死なせるつもりもないが、話は全部後まわしだ。俺の話も。お前の話も。けど、これだけは言っておく。いまここで、お前が俺をもう一度置いていくつもりなら、例えあの世で会うことになったとしても……」
ここまで一気に言ってしまって、俺は小さく深呼吸して言葉を続けた。
「……未来永劫、俺の隣りにお前の場所はない」
俺は快斗の瞳を見据えた。
吃驚したように見開かれたそれが、やがて伏せられて、苦笑とともに大きな溜息が零れた。
「降参ですよ、名探偵。やはり貴方には敵わない」
アイツは俺の手を取り、甲に口づける。
「私と一緒に闘っていただけますか?例え、それが罪と呼ばれることになっても……」
俺はアイツの腕に抱かれたまま、クスッと笑った。
「いまさらだろ?」
そう言って俺はキッドの唇に自分の唇を重ねた。
途端に、キッドがもの凄い力で俺を抱きしめてくる。
俺も、キッドの首筋に腕を回してそれに応えた。こんな場所でするには濃厚すぎる口づけは、すぐに離れていった。
「名探偵、足の傷は?」
俺を立たせながら、アイツが聞いてくる。
「大丈夫。こんなもんカスリ傷みてーなもんだって」
カスリ傷にしちゃ、ドクドクと血が流れでているけどな。
ちょっとばっか、肉を抉ってくれたが、それ以上のことにはならなかった。
上着の隠しから、哀が仕込んでくれた薬を取り出して、処置をする。
痛みはほとんど感じない。「さ、行こうぜ?」
俺は微笑みながら、アイツを顎で促した。
俺達は、部屋を飛び出すと、組織の心臓部を目指して進んでいった。
to be continue……
ようやくここまで……、ホッ。
side Kaito Christmas Holy Night〜side Ai