大通りから少し入った裏路地に、ぽつんと忘れ去られたような廃ビル。
階段を音を立てないように静かに登り、ワンフロアごとにを鉄扉を確認する。4階の鉄扉に手を掛けた時、カチャリと重い扉が僅かに動いた。
「かいと……?いないのか……?」
机を3つ置いたらいっぱいになってしまうような小さな部屋。
いまは何もなく、床に電話が一台転がっているだけ。
転送用に置いていかれたまま、忘れ去られてしまったのか、受話器を上げても音はしなかった。
人が住むような場所ではない。けれど、明らかにここに人が住んでいる気配が残っている。
現在進行形なのは、まだ快斗がここから出て行ったわけではないから。
いま、ここに姿がないのは、単に留守にしているだけだから。
なによりも、ハンガーに吊るされた白い衣装がそれを物語っている。「よかった。間に合ったみたいだな……」
俺はスッとその気高い白に手を触れた。
快斗と思いもかけない遭遇―――あれを再会とは言いたくない―――してから1週間が経っている。
ひょっとすると、快斗はすでに闘いに行ってしまったあとかもしれないとは思っていた。
だから、俺はホッと胸を撫で下ろした。
††† 聖夜 ††† Eve〜side Shin-ichi
階段を上がる音が聞こえる。
あの足音……。間違いない、快斗だ。
俺は息を詰めて、部屋の真ん中でアイツが入ってくるのを待った。
カサッと音がするが、扉は一向に開かれない。
俺の―――というか、不審者の気配を察して警戒している。
クスッ、半開きになったままの扉から、美味そうな匂いが漂ってきてるってのによ。
どうしたんだ?怪盗キッドさんよぉ〜。「安心しろよ、俺だ。入ってこいよ?」
扉の向こうで、バサッと弁当を落とした音がする。
なんでそんなに驚くんだ?
呆然としたまま入ってこない快斗に痺れが切れた。
扉を開け、取り落とした弁当を拾ってやり、快斗の目の前に突き出す。「しんいち……、なんでここに……?」
なんで……って……。
なんでここがわかったのか……ってことか?
それとも、なんでここにいるのか……ってことか?
多分、どっちもなんだろうなぁ。バーロッ!俺は探偵だってーの。
ここを探し出すぐらいは朝飯前……ってほどには簡単じゃなかったけどな。
なにしろ、相手は怪盗キッドだし。
けど、俺はどうしてもお前の口から真実を聞きたいんだ……。「話があるんだ……」
今日こそは聞かせてくれよ?
お前の真実を……。俺はアイツの腕を掴むと、部屋の中へ引きずり込んだ。
快斗は何もない床にドカッと腰を下ろし、グチャグチャになった弁当を広げた。
給湯スペースはあるものの、コンロがある訳じゃねーから料理なんてできないだろう。
お前、俺のとこからいなくなって毎日こんなもん食ってたのか?
お前の作るメシ、美味かったのに……。
少し、痩せたか……?
身体が資本な怪盗なのにな……。
まぁ、俺も人の事は言えないけどな。
人には、まともな食事をしろ、とか言ってなんなんだよ。けど、そんな話をしに来た訳じゃねーから、俺は黙って快斗を睨み付けた。
「で……、話ってなに?」
俺を見ることもなく、弁当を食いながら突き放すように快斗は言う。
「俺の方には、いまさら何も話すことなんかないけど?」
「ざけんな!俺の前から黙って消えておいて、何も話すことはねぇなんて訳あるか!どーゆーことか説明ぐらいしやがれ!」
俺もわざとらしく快斗の前にドッカリと座りこんだ。
相変わらず、快斗は俺を見ない。
黙々と弁当を食べている。
まるで「口ん中にモノがあるから喋れません」とでもいうように、モグモグといつまでも口を動かしている。
ったく、ワザとらしーんだよッ!
お前、いままでそんなに咀嚼して食ってたことあるか?
「得意技は早弁!」なんて言ってたヤツだろうが……。
こうなりゃ、長期戦だ。
お前が弁当食い終わるまで、待ってやる!!!
弁当を食べる快斗を待ちながら、俺はこの部屋の中を見渡した。
何もない部屋。
キッドの衣装と僅かな身の回りのものだけしかない。少なくともここに1週間以上はいるのだから、もう少し生活の臭いがあってもいい。
けれど、ここにはそれがない。
俺にはわかる。
快斗は今夜……もしくは明日の朝には、ここを出てあの組織を潰しに行くんだ。
(ほんとにギリギリセーフだったんだな……)
ホッと、密かに息をついて快斗を見る。
俺を無視して、快斗は黙々と箸を運ぶ。
俺はそんな快斗をただ見つめていた。
「いつまでここにいる気?」
ペットボトルのコーラをゴクゴクと飲み干して、ようやく快斗が言った言葉がコレ。
ぶち切れそうになるけど、その手にはひっかかってやんない。
快斗がわざとそういう言い方をしてるのがわかるから。
「お前次第だな。あらいざらい話してくれれば、すぐにでも出てってやるぜ?」
「ふ〜ん、なら教えてやるよ」
快斗は傍らのトランプ銃を手にして、カシャンカシャンと手の中で弄んだ。
「新一に飽きた。それだけ」
「それだけ……ってなぁ、それだけで黙って消えたのかよ?」
ドガッ!
ついイライラとして快斗の身体を蹴り飛ばしてしまう。
「ゴメンッ!」
後にひっくり返った快斗の身体を起こそうとした俺の手は無視された。
「いいよ、別に。殴ったっていいよ?それで新一の気が済むんならさ」
快斗は下を向いて、パンパンと身体を払いながら言う。
「ふざけんなっ!そんなもんで気が済むかよっ!」
快斗の胸倉を掴みあげる。
それでも、快斗は俺と目を合せようとはしなかった。「……………俺の顔を、見るのも……イヤ、か」
俺はフゥーッと大きく溜息をついて、ゆっくりと快斗から手を離した。
「じゃあな……」
俺はそれだけを言うと、快斗に背を向けて部屋の外に出た。
ガチャンと音を立てて閉まる扉に凭れかかると、俺はズルズルとその場にしゃがみこむ。
涙は、出なかった―――。
to be continue……
すれ違ったままの心。
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