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 まずは、開発地域として名高い場所に建つ、新築の高層マンションを訪ねた。
 陸海空の交通の要所となる場所で、周りにはオフィスビルが乱立している。
 場所柄、海外・国内を問わずにツアーがある快斗にとっても、事件があればどこにでも行く新一にとっても都合がいい。
 が、しかし……。
「なぁ、ここって人が住むような場所なのか?」
「う〜ん……」
 静かな住宅街に建つ工藤邸とは違い、すぐ傍に東都環状線や臨海交通が走り、高速が通っている。
 昼間の喧騒もかなりのものだが、この分だと夜でも相当なものだと思う。
「ま、ここに住むって決めたわけじゃないんだし、とりあえず話だけでも聞いてみようよ」
 快斗はそう言って、どうも腰が引けてる新一の背を押しながら、モデルルーム兼販売事務所の中へと入っていった。

 受付で、モデルルームを見に来たことを告げると、アンケートを渡される。
 住所・氏名・職業などなどの他に、家族構成やら年収やら、ざっと20項目はあるだろうか。
 あっけにとられてその用紙をボーっと見ていると、受付の女性が笑いながら言った。
「とりあえず、ご住所とお名前だけでも構いませんから」
「はぁ……」
 案内された場所で、住所と名前だけを記入すると、すでに受付には営業マンが待機していた。
「本日ご案内をさせていただきます、川田と申します」
「あ、よろしくお願いします」
 出された名刺を受け取り、二人揃ってはぁ……と頭を下げた。
 営業マンの案内で、まずは立体地図の前に立つ。
「それでは、さっそくご説明させていただきます。当マンションは提無津臨海開発事業の一端として計画されたものです。そのため、交通の要所であるにも関わらず、非常にお値段を抑えました価格設定となっておりまして……」
 澱みなく発せられる説明を、フンフンと頷きながら聞いていく。
「この模型でもわかりますように、土地がこのようにありまして、当マンションはこの部分に建設されます。現在はまだ道路が完成しておりませんので、現地へはちょっと遠回りしていただくことになるのですが、完成時には歩道デッキが通りますので、雨天でも濡れずに駅まで行くことができるようになります」
 快斗は立体地図とパネルを見比べていく。
 北側には臨海交通の線路を隔てて賃貸型の高層マンションがすでに8割方出来上がっている。
 西側には東都環状線の線路があり、その向こう側は低層のオフィスビルが並んでいる。
 南側と東側は現在は開けているが、パネルを見るとどうやら何かの建設予定地になっているようだった。
「南側と東側は何になるの?」
「はい、オフィスビルが建設されることになっております」
 営業マンに疑問をぶつけてみれば、すかさず答えが返ってくる。
「オフィスビルって、どれぐらいの?」
「まだ、そちらの建設計画が明らかになっておりませんので、どの場所にどれぐらいの高さのものが建つかは、なんとも申し上げようがないんです」
 申し訳なさそうな営業マンに、今度は新一が追い討ちをかける。
「ってことは、このマンションより高い建物が建つ可能性もあるってわけ?」
「はい。鉛筆のような建物を建てようとすれば、最高200メートル級のものが建てられますので」
 ちなみに、このマンションの高さは70メートルだという。
 つまり、マンションの約3倍の高さまで建つ可能性があるというのだ。
「陽当たり悪そうだね」
「……………そ、それからですね」
 快斗の意地悪いツッコミに、営業マンも困ったような顔をしていたが、なんとか気を取り直してセールストークを続けていく。
「この辺りには生活に必要なお店がなかったんですが、こちらの賃貸マンションの1・2階が商業スペースとなりまして、大手スーパーや薬局などが入ることとなっております。確かに、陽当たりは悪いかもしれませんが、この地域一帯をお客様の邸宅と考えていただきまして、広いお庭を散歩されたりして過ごすと考えていただければよろしいかと思います」
 営業マンの彼が言った庭とは近くにある有名な日本庭園。
(入園料の必要な庭かいッ!)
 と思ったことは、言わぬが花だろう。

「では、モデルルームの方をご覧ください。内装のお色は、このモデルルームに使用されている深みのあるものと、あちらの1DKタイプに使用されてる明るめのタイプ、そしてその中間のタイプからお選びいただけます」
 そう案内されて、さらに奥まった場所へ足を進めていく。
「お客様はどれぐらいの広さのお部屋をお探しですか?」
「どれぐらいって……、まぁ広い方がいいかな?」
 そうして通されたのは2LDKタイプの部屋。
 玄関を入ってすぐに浴室とトイレ。
 ドアを開けると、すぐにキッチン。
 その奥がリビング・ダイニングとなっていて、そこに続くように約6畳の部屋が二つ続いている。
 奥にある方は可動式の襖みたいなドアがついていて、1LDKとしても使用できるようになっているらしい。
 ぐるっと一回りして、二人は同時に呟いた。
「「狭ッ!」」
 工藤邸と比べたら、多分書斎プラスアルファ分ぐらいしかないのではないだろうか。
 はっきり言って、サンタモニカのセカンドハウスより狭い。
 二人の声が聞こえたのだろう。
 営業マンはハハハと、ひきつり笑いをしている。 
「モデルルームはご用意してませんが、3LDKのプランもございますので……」
 申し訳なさそうに告げる営業マンに、二人は気まずそうな顔をして、図面集だけを受け取ると早々にそこを後にした。









「……………」
「……………」
 モデルルームを出た二人はしばし無言だった。
「なんだかなぁ……」
 先に沈黙を破ったのは、快斗のほうだった。
「せっかく新一を連れ出したのに、ハズレだった。ゴメン……」
「おめぇのせいじゃねーって……」
「けど……」
「ま、とりあえず次行ってみよーぜ」





















 次に二人がやってきたのは、東都のど真ん中にある低層型の超高級マンションだった。
 
 ここはとにかく地の利がいい。
 歩いて5分ぐらいのところに、いくつもの地下鉄が通っているし、その気になれば、警視庁に歩いて行ける距離でもある、というのは新一にとっても魅力的ではあった。

 モデルルームの中へ入ると、そこにはすでに数人の先客がいた。
 いずれも、壮年といっても失礼ではないだろう風貌の夫婦連れである。
 対応している営業マン達も、自分たちより10歳以上年上だろうと思われる。
「快斗、なんか俺たち浮いてねー?」
「う……うん」
 販売事務所の中も高級感溢れる造りになっている。
 そんな二人の戸惑いを余所に、一人の営業マンが近づいてくる。
 40代半ばといったところか。
 先ほどの営業マンとは違い、落ち着いた風格が漂っていた。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
 いきなり、応接セットへと案内される。
 先ほどと同じように、アンケートに記入し、説明を聞いていく。
 表通りからは少し奥まったところにある、このマンションは驚くほど静かである。
 が、価格帯の説明を聞いてビックリした。
 先ほどのマンションに比べると、3倍近い価格がついている。
「確かに一等地だけどね〜。もっと高層にすればいいのに……」
 という、快斗のあからさまな呟きを、しっかり聞いていた営業マンは微笑を浮かべながら教えてくれた。
 やんごとなき方々のお住まいが近い土地柄なので、警備上の問題から高層マンションを建てることはできないのだそうだ。
 なるほど、と新一は探偵らしく納得しながら、営業マンの後に続いてモデルルームを見ていく。
 天然の大理石が敷き詰められた広い玄関を入り、すぐのところに洋間が一室。
 子供部屋と想定されているのか、二段ベッドが置いてある。
 バスルームとランドリーを兼ね合わせた広いユーティリティがあって、キッチンへ続く。
 キッチンカウンターにも大理石。
 ドイツ製の食器洗い乾燥機もついていて、快斗は嬉しそうに中を覗いている。
「これ欲しかったんだよね〜。新ちゃんとゆっくり過ごす時間が増えるじゃない?」
 と宣う快斗の頭を軽く小突く。
「バカ! んなとこで恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ!」
 ハハハ〜と笑いながら、更に奥を見てまわる。
 リビング・ダイニングは20畳はあるだろうか、さらに奥には主寝室と和室がある。
 主寝室はクイーンサイズのベッドを置いても充分な広さがあり、ウォークイン・クローゼットもあって、収納力も高い。
 確かに、値段が高いだけあって、広いには広い。
 同じ3LDKと言っても、先ほどのマンションの倍の広さがあるのだから。
 広いとは言っても、いままでさらに尋常じゃない広さの屋敷に住んでいた二人である。
 なんとなく、しっくりとこないものを感じながら営業マンに礼を言って、ここでも販売資料を貰うだけにして、その場を後にした。





















 3件目は、杯土町の高級住宅街に建つマンションだった。
 いや、その予定でいたのだ。
 けれど……。
「新一、もう今日は止めにして帰ろ?」
「いいのか?」
 行きたがったのは快斗で、自分はそれに付き合うと一度決めた以上とことん付き合うつもりだった。
「うん。ちょっと思ったことがあってさ。新一に聞いて欲しいんだ」
「……わかった。じゃ、米花駅前でなんか買って帰るか?」
「さんせ〜♪ 俺、チョコレート・アイス食いたい!」
「おう! じゃ、俺は寿司な!」
「しんいち〜〜〜っ!」
「バーロ、冗談だよ。しかしあっちーなぁ。ビール飲みてぇ〜!」
「あ、俺も俺も〜!」
「アイスつまみにビールか?」
「いいじゃん! 好きなんだから〜」

 真夏の照りつけるような陽射しの中を、二人はじゃれ合うようにして、慣れ親しんだ家へと帰って行くのだった。






なんとなく歯切れが悪い。


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