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この話はパラレルな設定となっています。
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「ごめん新一、遅くなった」
いつもの青山のバーに快斗は息を切らして飛び込んできた。
「珍しいな、お前の方が後になるなんて」
待ち合わせで遅れるのは、いつも新一の方だった。
だからといって、新一が時間にルーズというわけではない。
むしろ、時間にはうるさいほうだった。
それでも待たせてしまうのは、なかなか仕事にケリがつかないから。
会議が長引いたり、問題がおきたり、自分の思うようにはいかないものだ。
その点、快斗は自由業といっても差し支えない身分である。
しかも新一は待たされるのを嫌う。
それがわかってるから、快斗はいつも時間より早目に来て、新一を待つことにしていた。
「なにかあったのか?」
快斗がいくら時間が自由に使えるとはいえ、仕事を持つ身である以上、なにかしら問題を抱えることはある。
それは新一の仕事にも関わってくることだから、なにかあったのなら、自分の用件より前に聞いておきたかった。
「いや、出ようとしたら来たバカがいたんだ」
せめて予定聞くなり、電話入れるくらいして欲しいよなぁ〜、という快斗の言い方でその人物が招かれざる客だったことがわかる。
もっとも、事前連絡があれば、快斗は適当に理由を付けて断っていただろう。

「で?新一の話って何?」
快斗が尋ねると、一瞬だけ新一は友人の顔から『KUDO』の常務の顔へと表情を変えた。
「例のプロジェクトが取締役会で承認された。俺を除いて満場一致でな」
快斗は新一の顔を見つめた。
すでに常務の仮面は取り除かれて、友人の顔に戻っている。
快斗の視線に気付いた新一は、苦笑を浮かべた。
「人間ってのは、どうしてこう目先の欲に弱いんだろうな」
新一はカランとグラスを揺らすと、クイッとグラスを煽る。
快斗はそんな新一から視線を外すことができなかった。
「新一、何考えてる?」
そう聞いた快斗の顔には真剣なものがあった。
「俺に愚痴るために来たわけじゃないだろ?」
大体、新一は愚痴ることなどしない。
綺麗な顔に似あわず、新一は恐ろしいほどの策士なのだ。
いつだって途方もない策を弄して勝利を得ていた。
いまだって、あれこれと打てる手を考えているに違いない、と快斗は思っていた。
「快斗だけは誤魔化せねぇな」
「あたりまえだろ?何年の付き合いだと思ってる?」
年数じゃないサ、と新一は言った。
幼馴染みだった蘭も、生まれた時からの付き合いであるはずの両親さえも、新一の本心を探りあてたことはないのだ。
それをたやすく見破ったのは快斗ただ一人だった。
「わりぃ、いまはまだ言えねぇ。そのうち全部話すから」
まだわからないことがあるから、と付け加えて新一はグラスを空けた。







アトリエに場所を移して、二人は身体を繋いだ。
その夜の新一は、珍しく、激しく乱れ、求めてきた。
いつにも増して、妖艶な新一に、快斗もまた乱されていた。
何度も攻めたて、貪り、溺れた。
激しい情事の後、お互いの温もりを感じあいながら抱き合う。
やがて、快斗の口から穏やかな寝息が洩れ始めると、新一はその温もりの中から抜け出した。
軋む身体に鞭打って、少し皺になったスーツに身を包む。




仕度を済ませると、新一は額に張り付いた快斗の柔らかな髪をかきあげた。

友人ではない。
恋人でもない。
だからといって、離れることのできない二人の距離。
名前のない関係に、新一は溜息を溢した。




「俺が……、何も持たない……常務でも『KUDO』の次期社長でもない、ただの『工藤新一』になっても、お前は俺を必要としてくれるんだろうか?快斗―――――」

露になった額に、口づけを一つ落とすと、新一はアトリエから出ていった。
















「気持ちは嬉しいの……。でも……」
「でも、なんや?俺がいやなんとはちゃうやろ?」
閉店後の『H2』で、服部は毎夜、蘭を口説いていた。
思考の混乱している蘭を強引に抱いた。
意識がはっきりした時、蘭は自分が犯した過ちに衝撃を受けてはいた。
だが、服部を罵ることも、避けることもなく、毎日変わらず店へと出勤してくる。
服部はそれを脈アリと受け止めて、蘭の全てを手に入れようと、口説き捲くっているのだった。
「工藤と別れて、俺と一緒になろ、な?えぇやろ?」
「そんな……ムリよ!だって新一が……」
「工藤がなんや!蘭ちゃんはこのままでえぇんか?」

蘭は困惑していた。
日に日に服部の存在が自分の中で大きくなっていく自覚はある。
それまで新一だけが蘭の全てであり、世界だった。
辛い結婚生活も、新一だったから受け入れてきた。
不安によって僅かに生じた隙間を割るように服部が入り込んでくるのを、蘭は戸惑いながらも許していた。
蘭の世界を占める割合は、すでに二分されている。
小さい頃から憧れていた新一と、愛される喜びを教えてくれた服部と。
新一が「蘭を愛せない」と言ってさえくれれば、迷わず服部の手を取ったに違いない。
なのに、新一は「愛してる。手放すつもりはない」というのだ。
それでいてなお、蘭を抱こうとはしない。
(わからない……。わからないよ、新一……。私、どうすればいいの?どうしたら幸福になれる?だれか……誰か、助けて……)

思考の渦に落ちていた蘭の唇に温かなものが触れた。
しばらくして、それが服部の唇だと認識する。
「好きや、蘭ちゃん。好きなんや……」
蘭を見つめる服部の瞳は、切ない感情に溢れていた。
「服部く…ん……」
さらに強く抱き締められると身体が悦びに震える。
服部は口づけを深いものへと変えていった。
「欲しいんや、蘭ちゃんが。蘭ちゃんの全部が……」
「あっ……んっ……」
抱き締められていた手が、背中を這い回り、ワンピースのファスナーを下ろしていく。
床に落ちる衣擦れの音を聞きながら、蘭は服部の首筋に腕を絡めた。
「ムリやない。必ず工藤と別れさせたる」
蘭は自分がそれを望んでいるかどうかわからなくなっていた。
(忘れたい……。なにもかも……。誰か、忘れさせて……)
新一のことも、服部のことも、いまは考えたくなかった。
「好きや……好きや……好きなんや……」
「んっ……あぁんっ……」
蘭は服部の激しい愛撫に流されるようにして、その腕に身体を委ねた。
















そして、もう1人……。




「どうだった?快斗に会えた?」
「えぇ、ですから何も心配ありませんよ」
日付けがかわる少し前、白馬は青子の住むマンションを訪ねた。
女性が一人でいる家を訪ねる時間でないことは、承知しているが、白馬は青子を早く安心させたかったので、非礼を承知で訪ねたのだった。
電話でも済む用件ではあったが、彼女の安心した顔がみたかったのだ。
「よかった〜」
「今夜は忙しいそうですが、明日の土曜は帰れるそうです」
彼から聞いた言葉の一割にも満たない言葉で、白馬は青子を元気づけた。
「ありがと。じゃあ、明日は大奮発してすき焼きにでもしようかな」
快斗は魚嫌いだからお寿司ダメだもんねぇ〜、と無邪気に喜ぶ青子を、白馬も微笑ましく見つめた。
「すき焼き、いいですねぇ。黒羽君も喜ぶと思いますよ。青子さんだって、体力つけないと」
「そうだね」
青子は頬を赤らめて、幸せそうな微笑みを浮かべた。
「あ、白馬君も食べにくれば?」
「何、言ってるんですか。黒羽君に大事な話があるんでしょう?久しぶりなんですし、夫婦水入らずでゆっくり話をしてください」
「そっか」
「そうですよ」
「白馬君、いつもありがとね!」
10代の頃と変わらない、明るい笑顔に白馬はホッと胸を撫で下ろした。
「では、夜も遅いので、これで失礼しますよ」
「うん、おやすみなさい」
マンションの下から、黒羽家のあるフロアを見上げると、白馬は深い溜息をついた。
(黒羽君……、君はいまどこで何をしてるんでしょうか……?あんなに素敵な女性をほったらかしにして……)
街灯だけが点る住宅街を通りかかった空車のタクシーのヘッドライトが白馬の顔を照らす。
白馬は手を挙げてタクシーを停めた。






快新度100%を目指したのにまたも挫折。40%ぐらいかな?


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