日付けだけはクリスマス・イヴを迎えたころ、パーティーはお開きとなった。
「はぁ〜、食った食った。腹パンパンや…」
「しかし、意外ですねぇ。黒羽君にこんな特技があったとは…」
テーブルの上に所狭しと置かれた料理は、男4人の胃袋にあっというまに納まった。
特に服部の胃袋に…。
食べる前には、胃薬がどうとか言っていた白馬も、ひとくち食べてからは「そこらへんのホテルのレストランよりよっぽど美味しい」と言っては、次々と口に運んでいた。
服部はサンタクロースの衣装のまま上からコートを羽織った。
「寒そうですねぇ服部君。迎えの車が来ているはずですから、お送りしましょうか?」
「おおきに。ほな、お言葉に甘えるわ」
「黒羽君もどうです?」
「あ、俺はいいよ」
「そうですか?では、お先に。よいお年を」
大学はすでに冬休みに入っているので、年が明けるまで顔をあわせることはないだろう。
(彼…、が予告状を出せば別ですが…)
キッドを快斗と疑っている白馬は内心そう思ってはいたが、それは新一の逆鱗に触れることを知っていたので、あえて口には出さなかった。
「せやったな。ほんなら、よいお年を〜!」
明日(日付けはすでに変わっているから今日になるのだが)、大阪へと帰省する服部は何の考えもなくそう言った。
二人が帰っていくのを見送ると、新一は快斗に言った。
「俺、明日早いからお前もそろそろ帰れよ」
「え?」
快斗は新一の真意を汲み損ねた。
快斗は泊まっていくつもりだったのだ。
明日は一日、新一と二人でいちゃいちゃするつもりで。
「明日、なんか用事があんの?」
パーティーの話が出た時に「クリスマスは恋人と過ごすものだ」と言っても、新一は何も言わなかったから、新一の都合が悪いなどとは、快斗は夢にも考えてみなかった。
「ちょっとな」
「新一とず〜っといちゃいちゃしようと思ってたのに〜!」
「勝手に決めんな!俺にも予定はあんだよ」
「そんなぁ〜!」
思いっきり情けない顔をしている快斗に、多少罪悪感を感じて、新一は苦笑した。
「安心しろ。予定は日中だけだから、夕方には戻ってくるから。それにお前だって中森さんとこでパーティーやるんだろ?」
確かに、例年青子が主催するパーティーがクリスマス・イヴにはあった。
だが、新一と過ごすつもりでいた快斗は早々に不参加と決めていた。
だいいち、なぜ新一がそれを知っているのか。
「なんで知ってんだ?ってツラだな。このまえ、警視庁で中森警部から誘われたんだよ。先日のお礼も兼ねてってな。俺は予定があったから断ったけどな」
「…………………………わかった」
不本意と大きく顔に書いて、快斗は荷物をまとめて玄関のドアに手をかけた。
「快斗、中森さんのパーティーが終わったら来いよ?」
「!」
快斗の機嫌は奈落の底から少しだけ浮上した。
一緒にいられる時間は少ないけれど、その短い時間でも一緒に過ごそうとしてくれることが嬉しかった。
クリスマスは貴方と甘く
-2-
午後6時過ぎ、快斗は、青子の家で毎年繰り広げられるバカ騒ぎを傍観していた。
昼過ぎから始まったパーティーはどんどん人を増やして
(ったく…、早く終わらせて新一の家に行きてぇよ…)
抜け出して行くことも考えたが、もしそれが新一にバレたら今夜一緒にいることさえも拒否されてしまうかもしれない。
そういうところにはきっちりしてるのだ、あの恋人は。
「快斗〜!何くら〜い顔してるのよ、クリスマスなんだからパーっと騒ごうよ!」
「そんな気分じゃねぇよ。早く終わらせようぜ?」
「もぉ〜、なんなのよ〜!」
「この後、新一と約束してんだよ」
「新一…って、工藤君のこと?」
「他に誰がいんだよ」
「だってぇ、快斗お邪魔虫なんじゃない?だって、クリスマス・イヴだよ?工藤君だって綺麗な彼女と過ごしたいんじゃない?」
(お邪魔虫?綺麗な彼女?)
新一の恋人は他ならぬ、自分だというのに…。
「青子、お前何言ってるんだ?新一に彼女なんかいねぇぞ?」
「青子、見たもん!今日、米花デパートにケーキ取りに行った時、工藤君がすっごい美人と歩いてたの」
(すっごい美人?美人と言えば、蘭ちゃんだけど、青子は蘭ちゃんを知ってるし…)
「ちょっと、なんで快斗が落ち込むのよ〜」
快斗と新一の関係を知らない青子はケラケラと笑った。
「ごめん、青子。俺もう帰るわ」
「ちょ、ちょっと!快斗、待ちなさいよ〜!」
快斗は青子の家を出ると、一目散に新一の家へ向かった。
全てを賭けて、想いを告げた。
探偵でありながら、怪盗である自分を受け入れてくれたことが嬉しかった。
それなのに…。
自分の誕生日に伝えあった想いはなんだったのか。
サンタモニカで過ごしたあの日々は。
昨日だって、セックスこそしなかったが、あんなに甘く過ごしたというのに。
新一を信じていないわけじゃない。
でも「イヴは恋人と過ごすものだ」という自分が言った言葉が、快斗の頭の中でリフレインしていた。
「新一!」
工藤邸に駆け込んだ快斗は、玄関に女性もののハイヒールが脱いであるのに気付いた。
(まさか…、青子が言ってた…?)
快斗はかぁーっと頭に血が上っていく自分に気がつかなかった。
「新一!」
「よぉ快斗、早かったな」
別に悪びれる様子でもない新一に、快斗は苛立った。
「新一、俺が嫌いになった?それとも、最初っから俺のことなんて遊びだった?」
「はぁ?快斗、何言ってんだ?」
「青子が言ってた。新一には彼女がいるって!」
ドガッ!
快斗の腹に新一の蹴りが決まった。
「し…んい…ち…」
快斗の身体が崩れ落ちる。
新一は胸ぐらを掴むと容赦なく引きずり、バスルームに放り込むとシャワーをひねり、冷水を浴びせかけた。
「何をどう勘違いしてんのか知らねぇけど、しばらくそこで頭を冷やせ」
快斗が新一を見上げると、いままでに見たこともないような表情で立っていた。
怒り。
強い、ここまで強い怒りを新一が見せたことはなかった。
そして…、怒りに織りまぜるように見せるもう一つの表情。
嘆き。
「………あ」
快斗が何か言おうとするのを聞かず、新一はバスルームのドアを閉ざした。
快斗は冷えきったバスルームで冷水を浴びたまま、泣いた。
もう遅い…。
いまさら、後悔しても遅すぎるのだ。
本当に、新一が離れていく恐怖に快斗は身体が震えた。
「あなたがあんなに感情をあらわにするのを初めてみたわ」
リビングにいた女性が、バスルームから出てきた新一に声をかけた。
「出直してくるわ。話ができるようになったら、連絡ちょうだい」
「わかった」
「早く許してあげないといくら彼でも風邪をひくわよ」
にっこり笑って彼女が出ていくのを新一は苦笑しながら見送った。
(…たく、なにもかも見透かしやがって)
長くはないが、浅くはない付き合いの彼女には、どうにも勝てない自分を自覚しながら、新一は再びバスルームのドアを開けた。
「少しは頭が冷えたか?」
だが、トビラの向こうからは返事がない。
シャワーの音に消されているのか、もう少し大きな声でもう一度声をかける。
「快斗?」
バスルームのドアを開けて、新一は慌てた。
服を着たままの快斗が、冷水を浴びたまま気を失うように倒れていた。
「快斗!快斗、しっかりしろ!くそっ!」
新一はシャワーを冷水からお湯に切り替えると、快斗の身体に浴びせ、浴槽に湯をはりながら、快斗の服を脱がしていった。快斗の顔にうっすらと赤みがさす。
「快斗、大丈夫か?」
「しんい…ち…?」
快斗は、新一の姿を認めると抱き着いた。
「新一!ごめん…、ごめんね。俺…」
「うわぁ!バカ!濡れるだろうが!」
状況をようやく把握した快斗は、慌てて手を放した。
「ったく、テメェのおかげで段取りが全部パァだ。話があるから、身体が暖まったらリビングに来いよ。着替え出しといてやるから」
「………うん」
快斗が小さく返事をすると、新一は小さな笑みを溢してバスルームから出ていった。
新一君、無茶しますねぇ。させてるのは私か。 え?白馬と服部とのパーティーはどうなったかって? 書いても楽しくないし、読んでも楽しくないから書きません(笑)。 BACK ATLIER NEXT