「クリスマスパーティー?」
「そう、23日の夕方からここでな」
「新一の発案?」
きょとんとした表情で快斗が聞き返す。
「…俺がそういうことしそうだと思うか?」
「思わない。んじゃ、服部?」
「そう、俺は場所を提供させられただけ」
服部がパーティーの話を持ち出したのは、ランチライムに顔を合わせた時だった。
別に約束しているわけではないが、断る理由もないし、今日のように快斗がいないときには一人で食事をするのも味気なく、なんとなく一緒に食事をするのが習慣になっていた。
「快斗、都合悪いのか?」
「ん、大丈夫」
「じゃあ決まりな!服部に連絡しとく」
携帯を手にして、メモリーを呼び出してる時だった。
「しかしなぁ、ヤローばっか4人でクリスマスパーティーねぇ…」
快斗が溜息混じりに呟いた。
「意外だな」
「へ?」
「おまつり好きのお前がそんなに渋るなんてさ」
心からそう思ってる、という顔をする新一をじっと見つめる。
ちょっと引き気味になる新一の顎を捕らえた。
「わかってないね、新一。クリスマスってのは、恋人と過ごすもんだろ?」
そう言って快斗は、すばやく新一の唇を掠め取る。
「だから一緒にいるじゃねぇか」
「お邪魔虫が二人もいたんじゃ、なんにもできないじゃん」
「バカ…」
顔を赤らめながら新一はそう呟いて、キスを返した。
クリスマスは貴方と甘く
-1-
パーティー当日、快斗は朝早くに工藤邸を訪れた。
まだパジャマ姿の新一が眠い目を擦りながら、玄関を開けてくれる。
「なんなんだよ、こんな朝っぱらから」
寝起きの悪い新一は、不機嫌と大きく顔に書いて文句をつけることを忘れなかった。
快斗はなまめかしい姿の恋人の腰を抱き寄せ、チュッと宥めるようなキスをした。
「ゴメン、起こしちゃって。今夜のパーティーの料理作らせてもらおうと思ってさ」
足元に置かれたスーパーの袋の量に、新一は唖然とした。
「これで4人分か?」
どう見ても1週間分はある。
「そうだよ、足りないかなぁ?」
新一は慌てて首を横に振った。
「とにかく着替えてくる。俺も手伝うから」
「いいよ、俺が勝手に来たんだし。新一は寝てなよ」
「バーロ…。それなら勝手に入ってくりゃいいじゃねぇか。お前ならそんぐらい朝飯前だろ?」
事実、キッドの姿では夜中に何度も不法侵入してきたのだ。
「まぁね、でもいまはキッドじゃないし。それに親しき仲にも礼儀ありっていうだろ?」
新一はプッと吹き出した。
「ドロボーの台詞じゃねぇぞ、それ」
「………だね」
二人は顔を見合わせるとプッと吹き出した。
新一は笑いながら思い浮かんだことを、記憶の片隅にメモした。
結局、二人はキッチンに並んで立った。
新一も料理はできないわけではない。
ただ一人分の料理を作るのが面倒なだけだ。
それに快斗の料理の腕前は、サンタモニカの時に知っていたし、ここでもちょくちょく遊びに来ては、簡単な食事を作ってくれたりもした。
だから、新一は快斗のアシストに徹し、快斗の指示のままに山のような食材と格闘した。
「快斗、卵の泡立て終わったぜ」
「サンキュ!そしたら、この小麦粉入れて」
「おうっ!なぁ、これケーキか?」
「………なんだと思ってたわけ?」
快斗は丸ごとの鶏肉を捌く手を止めて、新一を見た。
「いや、前に蘭がお菓子作りは分量が大切だって言ってたけど、お前レシピとか全然見ないから」
「あのね…、IQ400の俺にそんなもん必要無いの。一度作ったもんは全てここにインプットされてるし」
快斗は自分の頭を指でトントンと叩いた。
「無駄に使ってるな…」
新一が呆れ顔で呟く。
「ひっでぇ〜!」
睨みつける快斗に、新一はアハハハハと笑った。
ふざけあいながらも、二人で作った料理は予定よりもかなり早く仕上がった。
あとはローストチキンを時間にあわせて、火を入れるだけ。
ソファに並んで座って、コーヒーで一息つきながら、ぽっかりと空いた時間をどう過ごそうかと思っていると、ふいに肩に重みが加わった。
快斗の肩に新一がよりかかってうたた寝をしている。
(早くに起こしちゃったもんなぁ…)
少しでも長く新一と一緒に過ごしたかった。
だから、新一ならまだ寝ている時間と知りつつも押し掛けてしまった。
勝手に入ることもできたが、さすがにそれは気が引けた。
キッドの姿でなら、夜の帳に包まれて新一が眠る自室に続くバルコニーへと降り立ち、鍵のかかった窓を開けて家に入ることを躊躇したことなどなかった。
だが、日の光の中、本来の姿で玄関から入るのに、鍵をこじあけて入るのは嫌だったのだ。
夜更かしな新一のことだから、多分3、4時間しか寝てないだろう。
新一は、快斗がどんな非常識な時間に、非常識な訪れ方をしても決して拒むことはなかった。
もちろん文句もいうし、時として手や足が出てくることはあるけれど、必ず快斗を迎え入れてくれるのだった。
快斗は肩にかかる幸せの重さを実感しながら、自分もひとときの安らぎを得るために目を閉じた。
服部や白馬が来る予定より少し早い時間に、交代でシャワーを浴び着替えた。
ヤロー4人で色気もないが、せっかくだから盛装にしよう、そう言い出したのは快斗だった。
快斗がバスルームから出てくると、先にシャワーを浴びた新一はすでに着替え終えていた。
濃いシルバーグレーのドレスシャツに紫のスーツ。
ウエストがきゅっと絞まったデザインのため、新一の細腰が強調されている。
新一の艶姿に快斗はしばし見惚れていた。
「快斗、どうした?似合わないか?」
バスタオルを腰に巻いただけの恰好で、ボーッと自分を見ている快斗に声をかけた。
「新一がスゲェ色っぽいから惚れ直してたトコ」
「バカ言ってねーでお前もさっさと着替えろよ。白馬そろそろ来るぜ」
あっさりとかわされて、快斗は苦笑しながら吊してあったガーメントバッグから着替えを取り出した。
(本当なのにな・・・)
本当に惚れ直したのだ。
ベガスで無理矢理させられてた女物のドレスといい、今日のスーツといい、本当に綺麗で色っぽいのだ。
それなのに、新一は自分の魅力をわかってない。
心も姿も、いつだって新一は快斗の心を魅了してやまない。
いま、こうして側にいられることを快斗がどれほど嬉しく思っているのか。
自分の罪に、新一が離れていくことをどれほど恐れているのか。着替えを終えて、振り返ってドキッとした。
ドアの横の壁に凭れて、新一が快斗の方を見ていたのだ。
自分の思考に浸っていて、まるっきり気が付かなかった。
快斗と視線が合うと、新一は拗ねたように視線を外した。
「どうした?」
快斗は新一に歩み寄った。
「ズルイよな…。同じ顔だってのに、快斗は何を着ても似合う…」
快斗が着ていたのは真紅のスーツに、黒のシャツを胸元を大きく開けてあわせている。
新一にはない快斗の男っぽさが強調されていて、羨ましく思えてしまう。
だって本当にかっこいいのだ。
男の自分が見たって、ドキンとしてしまうほど、男の色気というのを持っている。
女性が見たら、みんな快斗を好きになる。
だから、不安なのだ…。
(だって、俺は男だから…)
快斗は新一の考えを読んだかのように、キスをする。
「んっ…、かい…と…」
「愛してるよ、新一」
新一は少しだけ時計を気にしながら、快斗のキスに応えた。
約束の時間を1秒と違えずにインターフォンが鳴る。
快斗がセキュリティを解除する。
「白馬だろ?入れば?」
タイミングを図って玄関のドアを開ける。
驚いている白馬に快斗は人の悪い笑みを向けた。
「何、驚いてんだよ。時間きっちりに来るのはオメェしかいないだろ?」
「いえ、そうではなくて、いつも遅刻してくる黒羽君が僕より先に来ているのがショックだったんです」
そういってうなだれる白馬に、アハハと笑いながら新一が現れる。
「コイツより早く来たら俺に蹴り飛ばされてたぜ?快斗は朝の7時に来たんだからな」
「朝7時?なんでまたそんな早くに?」
訝しげに尋ねる白馬に快斗はふんぞり返って言った。
「料理の仕込みをしたんだよ。お前にも食わせてやるからありがた〜く食えよ」
「黒羽君の手料理ですか?果たして僕の口にあうか……」
「いいぜ別に食わなくても。ただし他に食うもんねぇぞ!にしても、お前の格好……」
盛装という指定に白馬が着てきたのは、クリーム色のフロックコート。
お前はどこの貴族だ、というようないでたちも白馬が着ていると、余りにもらしいので快斗も新一も二の句が告げなかった。
3人が沈黙のまま固まっている時、唐突に玄関のドアが開いた。
「メリークリスマス!」
入ってきたのは、サンタクロース……いや、の衣装を着た服部だった。
「「「………………」」」
「なんやなんや、えらい盛り下がっとるやないか。パーっといこや!」
のっけからテンションの高い服部に、3人は呆れ顔で口々に呟いた。
「盛り下げたのはお前だろうが…」
「バカって言葉は服部のためにあるんだな…」
「いや、これも彼らしいと言えば、言えないこともありませんが…」
そんな3人の様子を服部は全く気にとめることがなかった。
「なんやねん、はよ始めようや」
「………だな。とりあえず乾杯といくか」
「あ、工藤君。ぜひ、これを」
白馬は手にしていた紙袋を新一に手渡した。
「お!ドンペリじゃん!さすが、白馬!」
快斗が素早く動いて、サイドボードからシャンパングラスを4つ出しテーブルに並べた。
最高級のシャンパンをグラスに注ぐと、高々とグラスをかかげた。
「「「「かんぱ〜い!」」」」
シャンパングラスの重なる音がして、クリスマスパーティーが始まった。
(なんでこんなことになってんだか…)
自分の料理をなんのかんの言いながら口に運ぶ白馬と服部の姿を見ながら、快斗はこっそりと溜息をついた。
(ま、まだ23日だしな…。本当のクリスマスはこれから…か…)
自分の料理を美味しそうに食べる新一の顔を見ながら、快斗は自分を励ました。
今回、白馬と服部は完全に引き立て役です。 早く、二人っきりで甘〜くなれるといいね、快斗君! あ、私がさせてないのか…。 BACK ATLIER NEXT