「か、母さん!何すんだよ!放せよぉ!」
「いいから、母さんの言うこと聞きなさい!」

約束の1週間。
二人きりの生活を満喫して戻ってきた二人は、その場で有無も言わさず工藤夫妻に拉致された。
車に乗せられ、行き着いた先は空港。
ロスアンゼルス国際空港ではなく、国内線が離発着するバーバンク空港だ。
さらに飛行機に乗って、数時間。
二人が連れられてきたのは、一夜で夢が得られる街・ラスベガスだった。
ホテル・モンテカルロに到着すると、チェック・インも済まない内に、有希子が新一の腕を取り、ずるずると引きずっていった。
これが、快斗なら容赦なく足蹴りを食らわせ、脱兎のごとく逃げ出しているだろうが、相手が有希子ではそうもできない。
ただ、力ない抵抗を繰り返すばかりだった。





サンタモニカの熱い夜
-3-





快斗は一人スウィートルームにいた。
ホテル・モンテカルロにチェックインするなり、新一は有希子の手によって掠われた。
優作にカードキーを渡され、快斗は仕方なく新一の分の荷物も持って部屋に入った。
部屋に入ると、応接セットのテーブルの上に白い箱が4つ乗せてあるのが目に入った。
箱の上には白いメッセージカードが添えられている。
「7時に迎えに行くから、これを着て待っているように」
メッセージはY.K.のイニシャルで締め括られている。
新一と同じように斜めに引かれたKの最後の一筆が少し跳ねていた。
もっともそんな癖などなくても誰からのメッセージかは一目瞭然である。
一番大きな白い箱を開けると、そこには黒のタキシードが入っていた。
この渡米に際し、快斗も新一もフォーマルな服を一着も持って来てはいなかった。
まさかこんなことになるとは予想していなかった。
それも先日まで着ていた優作のお古を直したものではない。
快斗のために新調されたものだ。
他の箱も開けてみるとドレスシャツ、オペラパンプス、タイとサッシュ、
カフスボタンと必要なものが全て揃っていた。
「タキシードが用意されてるってことは、またパーティーなのかなぁ。
あ、ラスベガスだったらカジノかな。…………はぁ〜新一、何やってんだろ。一人じゃ退屈だよ〜」
快斗は情けない声で一人言ちた。



ソファに寝転び、この一週間のことを思い返す。
朝、起きるとシャワーを浴びて出掛け、ブランチはカフェで済ませる。
その後は美術館や博物館を見て廻り、本屋で原書を買い漁る。
スーパーで買い物をして帰り、一緒に夕食を作る。
たった一週間の同棲生活(あくまで快斗的にはだが)。
くだらないことで言い合いもしたが、それすらも快斗にはかけがえのないものだった。
快斗は毎晩のように新一を求め、新一は罵声を浴びせつつも快斗を拒むことはなかった。
最初は未知の体験に緊張していたようだったが。
(アノ時の新一ってば最高!もうめちゃくちゃ可愛くって綺麗!
ぜ〜ったいに服部なんかにゃ見せらんないね!)
快斗がイヤラシくにやけた顔をしながら、まもなく再開するキャンパスライフを思って決意を新にした。
邪魔者は再起不能になるまで排除しようと。
そのための作戦を考えようとした時、部屋の扉をノックする音がした。
「What’s?」
ドアを開けた途端、柔らかな笑みを称えた優作の姿が目に入った。
「おや?ちょっと早かったかな?」
快斗が慌てて腕時計で時間を確認すると、7時15分前だった。
「すみません、すぐ支度します」
快斗は優作をリビングに待たせ、タキシードを持ってバスルームに行った。
ざっと汗と埃をシャワーで流し、身支度を整えて、優作に従った。
「優作さん、新一は?」
未だ戻ってこない新一に何も言わずに、部屋を出てしまってもいいのか、快斗は心配になった。
「新一は、有希子と一緒にこれから行くところへ来るから、安心しなさい」
そういって、優作はエレベーターのボタンを押した。





連れてこられたのは劇場。
まさかラスベガスに来るとは思ってもみなかったから、
なんの予備知識も仕入れていない。
何を上演するのかも分からず、快斗は優作が示した席に座った。
「新一も来たようだよ」
優作が視線で指し示した方を見て、快斗は驚いた。
「しんい・・・ち?うっそ〜!!!」
手を振りながら近付いてくる上機嫌の有希子の後ろにいたのは、
不機嫌そうな表情で立っている背の高い美女だった。
瞳の色と同じ深い蒼のハイネックでノースリーブのドレスを纏い、同じ色の長手袋をしている。
深く入ったスリットから覗くナマ足。
蒼のミュールが脚線美を強調している。
快斗からは見えなかったが、背中は大きく開いていて白い肌を惜し気もなく見せている。
耳許にはダイヤをあしらった大ぶりなサファイアのイヤリング。
うっすらと引かれたパープルピンクのルージュとシャドウとのバランスもいい。
「新一…、すっごい綺麗……」
「お待たせ〜!どう、快斗君?惚れ直した?」
「はいっ!」
余計なこと言うなよ、という新一の願いも空しく快斗は強く同意した。
新一は顔を顰めて、快斗を睨み付けた。
「男が綺麗とか言われたって嬉しくねぇよ」
公共の場であるため、大声で怒鳴るわけにもいかず、新一は小さな声で文句を言った。
「で?ここで何があるんだ?」
「あれ?新一知らないのかい?」
「俺も知りません」
「そうか。まぁすぐにわかるさ」
訳もわからず、ラスベガスまで連れてこられ、女装させられ、ここにいるのだ。
劇場ということはわかるが、何が上演されるのかを知らずにいるのは、新一も快斗も同じだった。
しかし、優作はただ笑みを称えるだけで、何も語ろうとはしなかった。



その時、場内の照明が落ち、ステージ上にピンスポットが当てられた。
「Ladies&Gentlemen!」
ショーの開幕を告げる声が場内に響く。
耳を劈くような大音響とともにステージ中央にせり上がってきたタキシードに身を包む人物を見て、
快斗は息を飲んだ。
「あっ!」
「知ってるのか?」
「うん…」
快斗は短く答えただけで、ステージに釘付けになっていた。
それもそのはず。
ステージ上に現れたのは、世界でも5本の指に数えられるマジック界のスーパースター、
ランス・バートンだったのだから。
ランス・バートンは伝統あるFISM国際大会でアメリカ人として初の栄誉を最年少の22歳で受賞した。
以後、このラスベガスで目覚ましい活躍を見せ、このホテル・モンテカルロがオープンする際に、
オーナーから見込まれ、自身の設計による専用劇場「ランス・バートン・シアター」を作り、
13年間という破格の契約を結んだ。
鳩やカード、タバコなどの小道具を器用に操り、観るものを引き込んでいく。
閉ざされた空間に夢を織り成す強烈なイリュージョン。
新一は隣に座る快斗の顔をそっと盗み見た。
目を大きく見開き、食い入るように身を乗り出している。
唇をぎゅっと噛み締め、手は拳を握っている。
(快斗…)
新一は快斗の拳にそっと自分の手を重ねると、自分もステージを見つめた。
ステージの上は手先のマジックから、仕掛けを使った大掛かりなマジックへ移っていた。





その後、ホテル内のレストランで4人揃って食事を済ませ、部屋に戻った。
ドアを開けた途端に、大輪の白薔薇の花束が二人の目の前に現れた。
それとともに置かれた、白い衣装ケース。
快斗の着ているタキシードが入っていた物と同種のものだが、それではない。
少し黄ばんだ年月を感じさせるそれを、快斗はゆっくりと開けた。
新一も興味津々で快斗の手を見ている。
箱の中を見た時、快斗は胸を詰まらせた。

見覚えのある、白い、タキシード。

いまではもう、写真の中でしかそれを見ることはできないと思っていた。
亡き父のステージ衣装。
「快斗、手紙が入ってるぞ」
白い封筒を新一は快斗の前に差し出した。
「ゴメン…、新一が読んでくれる?情けないけど…俺…」
見ると、快斗は瞳を潤ませている。
涙が零れ落ちそうになるのを必死で堪えようとしている。
「いいのか?」
「うん…」
新一は封を開け、声に出して手紙を読んだ。
「快斗君へ。君にこれを渡すことができることを嬉しく思う……」

『快斗君へ。
 君にこれを渡すことができることを嬉しく思う。
 盗一が最後のステージを行う少し前に、
 私宛ての手紙とともに我が家に送られてきた物だ。
 奇しくも遺言となってしまった手紙には、
 奥方にも言えなかった彼の孤独な戦いが綿々と綴られていた。
 私は、彼の力になることもできず、ただ見守ることしかできなかったのが、
 いまでも心残りだ。
 将来、君が盗一の名に相応しく成長していたなら、
 これを渡してほしいと頼まれた。
 一ヶ月弱の間、君を見ていて頼もしく成長してくれていたことを喜んでいる。
 君も、そして新一も何も言わないが、
 君が盗一の遺志を継いで戦っていることは私にもわかった。
 私は盗一のために何もしてあげられなかったが、新一は違う。
 二人が信じる道を歩んでほしい。
 そして二人がともに幸せでいられるのなら、私達はそれ以上何も言うことはない。
                                 工藤優作』

「追伸………」
そこまで読んで新一はふいに口を閉ざした。
「どうしたの?」
「な、なんでもねぇよ!」
「んじゃ、続き読んでよ」
「いや…その…大したこと書いてねぇから…」
挙動不振な新一の態度に、快斗はピンとくるものがあり、悪戯めいた笑みを見せる。
「大したことじゃないなら、読めるよね?なに?」
いまのいままで、感情を抑えながら黙って手紙を読む新一の声を聞いていた快斗が、
ぐいっと身体を乗り出して新一に迫った。
「ほんと、大したことじゃないから…」
咄嗟に持っていた手紙を背中へと隠す。
「大したことじゃないなら、見てもいいよね?それ、俺宛ての手紙だし〜」
新一は渋々手紙を差し出すと、快斗の側から逃げ出そうと試みた。
だが、あっさりと引き戻された。
快斗はじたばたと暴れる新一の腰を抱きながら、優作の手紙を読んだ。
「追伸…」

『追伸
 君の成長を祝って、私達から花嫁をプレゼントさせてもらうよ。
 あいにくと、ウエディング・ドレスでなくて申し訳ない。
 返品は不可だからね』

へへっと笑って、快斗は新一に口づけた。
「花嫁、もらっちゃった♪」
「誰が、花嫁だ!」
「新ちゃんでしょ?」
「俺はそんなこと承知した覚えはないぞ!」
「じゃあ、さっきなんで手紙隠したの?」
「うっ…それは…」
「楽しい初夜を過ごそうねぇ〜♪」
快斗は、新一を抱き上げると寝室へと入っていった。

「新一、綺麗だよ」
ベッドの上に新一を寝かせ、のしかかるようにして身体を重ねた。
「快斗…、俺を女扱いするんじゃねぇ…」
新一は、身体を駆け抜ける快感に堪えながら、快斗を睨み付けた。
「違うよ、女装してるから綺麗なんじゃない。新一だから綺麗なんだよ」
新一の髪を梳きあげながら、快斗はキスの雨を降らせていく。
唇に、首筋に、むき出しの二の腕に…。
新一の身体をひっくり返し、露になっている背中に、スリットから覗く足の付け根に…。
「このまましてもいい?」
「やだって言ったら?」
「無理矢理しちゃうかも♪」
楽し気に言われて、新一は脱力した。
公衆の面前で、女装姿を晒してしまったあとだから、多少開きなおっていたのかもしれない。
「好きにしろ!」
つい、そう口走ってしまったことを新一は深く後悔した。





翌朝、優作と有希子は「誰が花嫁だって?」と朝食の席で新一に凄まれた。
有希子はへーぜんとした顔で、「あら、快斗君が花嫁だったの?」と宣い、
快斗は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
そうして、新婚旅行という名目の5日間のラスベガス旅行は、またしても工藤夫妻の観光とパーティーに
振り回された。
ただし、女装はさせないという約束だけは、きっちりと取り付け、快斗は一人心の中で泣いた。









二人の夏休みは終わり、新一と快斗は平穏(?)な日常の待つキャンパスへと戻っていった。

そしていま、ここに一人、心中穏やかでない人間がいた。
いままでにない艶やかさと色気を身に付けた新一を見た瞬間、彼は絶句した。
快斗ににこやかな笑顔を向ける、新一の背中に彼は小さく呟いた。
「諦められへん…、俺はやっぱり工藤がええんや…」
去っていく二人を、唇を噛み締めながら見送る服部平次だった。 





ランス・バートンというマジシャンは実在の人物です。
私は見たことありませんが(見ていればもっと細かい描写ができるのに、いかにも中途半端でスミマセン)、
客席に向かって投げた手袋が鳩に変えたりするそうです。
鳩やカードなど手先のマジックと大掛かりな仕掛けのマジックをこなすランス・バートンが
快斗のマジックのイメージに近かったので、お名前を勝手に拝借してしまいました。
現在も、ホテル・モンテカルロで週10回のショーをこなしてるそうですので、
ラスベガスに行くことがあれば、ぜひ見てみたいですね。

968番をGETされたkia様のリク小説とさせていただきます。
リク内容は『快(K)新で、新一君の女装もの♪そして、甘〜く!』でした。
ちゃんとリクにあってるかしら?
Kia様、リクありがとうございました。

ところで、前回と今回、アレなシーンがあるのですが、表なので割愛してます。
読みたい人…います?


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