「ここ…どこだ?」
目が覚めたとき、新一は知らない部屋にいた。
探偵としての本能からか、部屋の主を推理するために部屋の中をゆっくりと観察した。
だが、その必要もなく、主がいきおいよく部屋のドアを開けた。
「あ、新一。目覚めた?」
「快斗!…ここって快斗の部屋?」
「そ♪」
新一は改めて部屋の中をぐるりと見回した。
きちんと整頓され掃除の行き届いた部屋。
どちらかと言えば殺風景な感じがする。
新一は、なんとなく快斗らしくない部屋だと思った。
「なんで俺が快斗の部屋で寝てたんだ?」
「なんで…ってさぁ、それを覚えてないこと事体が理由じゃん」
確かにそうだ、と新一は深く納得してしまった。
気が付けば、浴衣ではなくきちんとパジャマを着ている。
「新一、気分はどう?メシ食えそう?お袋が二日酔いにやさしい中華粥作ってくれてっけど」
ベッドサイドに腰掛けながら、快斗が新一の顔を覗き込む。
「ちょっと浮腫んでるけど、食欲はありそうだな」
「じゃあ、シャワー浴びてきなよ。これ服と下着。新しいやつだから」
「…わりぃ」
新一は差し出された着替えを手にして、教えられたバスルームへと向かった。
だが、部屋を出て行こうとした新一は腕を掴まれ、バランスを崩した。
快斗は倒れこんでくる新一の身体をしっかりと受け止めた。
「おはようのキスがまだだよ」
そう耳許で囁くと、新一の唇を塞いだ。
啄ばむような軽いキスだったが、新一は大いに慌てた。
「バ…ッ、お袋さんがいるんだろ?」
「大丈夫だよ、部屋には入ってこないからさ」
そーゆー問題じゃねぇ!と言いたかったが、再び唇を塞がれて、その言葉を飲み込んだ。






誘惑は真夏の夜の夢
-2-






バスルームへと向かう新一の背中を見送りながら、快斗は大きく溜息をついた。
「はぁ〜〜〜〜っ、よかった…」

花火大会が終了し、コンパがお開きになったとき、快斗の後ろでガタンという音がした。
振り返ると、新一が中村に身体を支えられて、ようやく立っている。
「おい、工藤!大丈夫か?」
中村の声に、快斗も慌てて駆け寄った。
「どうしたの?」
「わりぃ、ちょっと悪酔いしたみてぇだ」
「新一、どのぐらい飲んだの?」
「さぁ〜?」
隣に座ってた女の子を探して聞くと、缶ビール3本、チューハイ2本、カクテル瓶4本、日本酒カップ5本を空けていた。
「新一、飲みすぎ。しかもチャンポンで」
「ゴメン」
「おい、工藤。二次会どうする?」
幹事の中村に聞かれて、新一は「おう!」と返事をするが、どう見たって新一は行ける状態じゃない。
「中村、俺新一送ってくから、二次会パスな」
「やっぱ、工藤は無理か。わりぃな黒羽」
周囲で女の子達が「え〜?黒羽君、来ないの〜」と騒いでいるが、快斗は意にも留めず新一を支えながら、帰り客でごった返す駅へと向かった。

(ここからなら、俺んちの方が近いな)
駅へ向かったものの、余りの混雑に嫌気がさし、快斗はタクシーを拾うことにした。
新一の顔は真っ青で、すっかりぐったりしている。
そして、米花町の工藤邸ではなく、自分の家に連れていった。
タクシーの中から、母親には携帯で連絡を入れておいたので、自宅に着いてすぐに新一をベッドに寝かせた。
ペットボトルのミネラルウォーターを唇につけると、身体が欲していたのだろう、ほとんど無意識なのにも関わらず、ゴクゴクと喉を通っていった。
しばらくすると、顔色に赤味が戻り、快斗はほっとした。
(よかった。急性アル中だけは免れたみたいだな)
だが、ほっとしたのもほんの束の間だった。
「んっ……」
新一の寝息が快斗の耳を擽る。
寝返りをうち、浴衣の裾から白い太ももがちらりと覗いている。
(新一、色っぽ過ぎ…)
快斗の心臓はバクバクとものすごい速さで脈打った。
「快斗〜?」
快斗を呼ぶ声とドアが開くのはほぼ同時だった。
「な、な、な、なに?」
「何焦ってんのよ。あ、これ工藤君に着せて上げなさい」
手渡されたのは、パジャマだった。
(パジャマ?新一に?俺が着させるの?)
快斗はしばらく呆然としながら手の中にあるパジャマを見ていた。
ベッドの上の新一に視線を移すと、そのしどけない寝姿に生唾をゴクンと飲み、ゆっくりと近づいた。
(着替えさせるだけ、着替えさせるだけだから…)
自分で自分にそう言い聞かせながら、新一の浴衣の帯に手をかけた。
浴衣がハラリとはだけ、新一の白い肌が露になる。
(ほんとに白いんだな…)
舐め回して、その白い肌を吸って、紅い花散らせたい。
激しく、抱いて、繋がって、愛しあいたい。
(あぁ…新一…)
そのとき、快斗の鼻の奥にツッと流れるものがあった。
(ゲ、鼻血でちゃった)
快斗は慌てて、ティッシュを詰めると、新一の身体をできるだけ見ないようにして、急いでパジャマを着せた。
そして、床にひいた布団に潜り込んだが、新一の白い肌がちらついてとても眠ることなどできなかった。
こうして一晩中、快斗は自分の理性を保つのに一生懸命だったのだ。
正直なところ、快斗は新一を連れて帰ってきたことを深く後悔していた。






シャワーを浴びて、ダイニングへ入っていくと快斗の母がにこやかな笑顔で新一を出迎えた。
「おはようございます。工藤です。このたびはご迷惑をおかけ致しました」
バツの悪い新一は深々と頭を下げて、きっちりと挨拶をした。
食卓にはすでに3人分のお膳が揃っている。
「工藤君、ここに座ってね」と快斗の隣を示され、席についた。
用意された中華粥は、二日酔いの弱った胃にもやさしく染み渡った。

食事を終えたころ、電話のベルが鳴った。
「快斗、青子ちゃんから」
親しげに言われた女性名に新一はビクンと身体を震わせた。
「青子?何の用だ?」
新一は何気なく快斗を見る。
「はぁ〜?ビデオが壊れたぁ?おじさんが帰ってきたら直してもらえばいいじゃないか」
呆れた口調をしながらも困った顔はしていない。
「コンセント抜けてんじゃねぇの?」
快斗がケラケラと笑ってみせる。
(快斗とどういう関係なんだ?)
新一は、すこしその女性のことが気になった。
それが嫉妬という感情だとは、この恋をようやく意識しはじめた新一には思いもよらなかった。
「しょーがねぇなぁー、いまから行ってやるから」
受話器を置いた快斗が新一の方を向き直る。
「ごめん、新一。30分ぐらいで戻ってくるから、お袋とお茶でも飲んでて」
「わかった」

とは言ったものの、何を話せばいいのかわからず、新一は途方に暮れていた。
快斗の母は、新一の母とは対照的に、控えめな印象だが芯が強そうな人だった。
困ってる様子を察したのか、快斗の母が先に口を開いた。
「工藤君、快斗のことなんだけど…」
「え、あ、はい」
快斗の母の真剣なまなざしに、新一は居住まいを正した。
「ありがとう、あの子を受け入れてくれて」
「えっ……?」
友人として、という意味なのか。
それとも…それ以上の意味を持っているのか判断がつきかね、新一は困惑した。
「工藤君はあの子がしていることを知っているんでしょう?」
それが怪盗キッドのことを意味しているのだということはわかる。
快斗の母、つまりは初代怪盗キッドの妻ということになる。
新一が快斗の全てを受け入れることを決め、杯戸シティホテルの屋上で待っていたあの日、快斗がキッドになった理由を聞いた。
凄まじい黒羽盗一の最期とともに。
その遺志を継いだ息子の身を心配する心境は十分理解できる。
だが、快斗の母の瞳にはそれとは違う意味があるような気がしてならなかった。
「あの子は少し人と違ったところがあるでしょう?」
IQ400という知能指数の高さは、少しなんてもんじゃないだろう、と新一は心の中で呟いた。
「でも、そのためにあの子は誰にも心を開かなかった。親である私にもね」
そう言って寂し気に笑う顔に、新一は心を締め付けられたような気がした。
お腹を痛めて産んだわが子に心を閉ざされる心痛がどんなものか、新一にはわからない。
だが、先程までの二人の様子を見ている限り、そんな風には思えなかった。
「そんなことないと思いますけど…」
控えめに言う新一に、快斗の母は「優しいのね」と一言だけ答えた。
「快斗はきっと工藤君のそういうところが好きなのね」
「……………」
新一には答えられなかった。
意識しすぎなのかもしれない。
だが、新一の耳には、快斗の母の言葉が特別な意味を含んでいるような気がしてならなかった。
快斗の母はニッコリと笑った。
「あの子は何も言わないわ。あの子が父親の遺志を継いだことも。あなたをどんな風に思っているかも。でもね、あの子の目を見ればわかるわ。母親なんですから」
間違いなく、そういう意味なのだとわかって、新一は硬直した。
「あなたも、同じ思いを持ってくれたと思っていいのよね?」
「………どうして、反対なさらないんですか?」
新一は恐る恐る口にした。
例え反対されても、もう自分達はお互いなしにはいられない。
新一にとっては、手探り同然の拙い恋でも、その思いだけは確かだった。
「あの子がそれで幸せになれるとわかっていて、反対する理由はないでしょう?」
「でも……」
世間で認められるような関係ではない。
新一も快斗も同じ性を持って生まれてきたのだから。
新一は快斗の母の顔を改めて見つめた。
その表情に迷いも戸惑いもない。
新一の脳裏にロスにいる両親の姿が浮かんだ。
(父さんや母さんはなんて言うんだろうな…)
新一は背筋を伸ばし、快斗の母の顔を見つめ返した。
新一は何もいわず、深々と頭を下げた。






「ただいま〜、新一お待たせ〜」
玄関のドアが開いて、快斗の声が聞こえてきた。
すぐにリビングのドアが開き、快斗が入ってくる。
「おかえり」
「お疲れさん」
「ったく…、青子のやつくだらねぇことで呼び出しやがって」
快斗の母は冷たい麦茶を快斗のために入れると、後片付けのために席を外した。
「直ったのか?」
「ん?あぁ、壊れてなんかないんだよ。ダブルデッキなんだけど、VHSじゃなくvideo8になってただけ」
一気に麦茶を飲み干して、快斗は手で口を拭った。
「その割には時間かかったな」
「それがさぁ、ついでにって玄関の切れた電球取り替えて、風呂釜の掃除させられて、ゴキブリホイホイを取り替えて…って、もうこき使われたのなんのって」
「ふ〜ん、お疲れさん」
新一は、普通そういうことは父親がするものだろう、と思った。
先程、電話で快斗が「おじさんが帰ってきたら」と言っていたから、父親がいないわけではないだろう。
なのに、そこまでする快斗と青子という女性の間に特別な関係があるように思えてならなかった。
「新一、俺の部屋行こうか。新一に見せたいものもあるし」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がりながら、快斗はそう言った。
新一にしても依存はない。
新一も快斗に聞きたい事があったのだ。
無言で席を立ち、快斗の後について2階へと上がっていった。






「なんだよ、見せたいものって」
部屋に入るなり、新一の顔を見てはニヤニヤ笑っている快斗に業を煮やして、新一は訊いた。
「それは、新一が自分で見つけるんだよ」
「はぁ?なんだよ、それ」
「宝捜し。この部屋に必ずあるからさ」
「ならいいか。で、宝はなんなんだ?」
「新一の好きなものだよ」
新一の好きなもの…。
名探偵・シャーロック=ホームズ。
(まさか、初版本とか?いや、快斗がそんなもの持ってるわけねぇな)
快斗はどちらかというと怪盗紳士の方が好みだから、ルブランの初版ならまだしも、ドイルの初版を持っているとは思えない。
新一にしても、ルブランの初版があるならお目にかかりたいとは思うが、快斗が『新一の好きなもの』と言った以上は、それが宝ではないのは明らかだった。
後は読書と推理。
どちらも宝には直接関係がないような気がする。
首を捻っている新一の顔を快斗が面白そうに見ている。
快斗のその表情に新一は憮然とする。
「焦らさねぇで教えろ!」
そんな新一の様子が、余りにもらしくてつい快斗は笑ってしまう。
「捜して欲しいのはもう一つの部屋だよ」
「隠し部屋か!」
新一は蒼い瞳を煌かせて、快斗に確認した。
快斗が頷くのを見ると、新一は彼独特のオーラを放ちながら不敵な笑みを浮かべた。
「見てろよ、10分で見つけてやるぜ!」
「名探偵のお手並み拝見だね」


ぐるりと快斗の部屋を見渡して、新一は目を閉じた。
頭の中に見たものを思い浮かべる。
さして広くはない一戸建てが快斗の家だった。
一階はキッチンとリビング・ダイニング、それにトイレとバスルーム。
二階は二部屋と納戸だけらしい。
快斗の部屋は北東にあり、南側にある部屋は主寝室になっているのだろう。
北側と東側は窓があるから、除外される。考えられるのは南側と西側、それに屋根裏と床下の四箇所だけだった。
新一は、頭の中で忙しなく図面を引いていく。
(床下と西側も除外できそうだな)
上ってきた階段の段数や、一階の天井の高さをを思い出しながら、新一はそう考えた。
床下に大の男が悠々といられるようなスペースをとれば、どこかに無理がでる。
だが、リビングやキッチン、バスルームの天井はほぼ変わりなく、せいぜい通気口や梁程度しかスペースはなかったように思う。
西側の納戸には入っていないが、廊下の幅や階段を考えると、さして大きいスペースがあるようには思えない。
納戸そのものが隠し部屋ということもないだろう。
(となると、天井裏か南側だな…)
新一はゆっくりと目を開けると、天井を見上げた。
畳半畳分ぐらいの板が組み合わされた天井。
(あれのうちどれかが外れるとか?)
よくあるのは下へ引きおろすと梯子が下りてくるタイプだが、それらしい取っ手になりそうな部分も蝶番も見当たらない。
上へ押し上げるタイプだと、いちいち梯子が必要になるが、快斗の部屋には梯子もそれの代わりになりそうなものも見当たらない。
(やっぱ、南側だな)
快斗の母親の部屋であるだろう主寝室(元は夫婦の寝室であったのだろうが)にも新一は足を踏み入れてはいなかったが、一階のほぼ全てを見た新一には、どれぐらいの広さがあるかは想像がついた。
隠し部屋というからには外から見ても不自然ではないようになっているはずだ。
だとしたら、その部屋もそんなに大きなスペースではないだろう。
新一は南側の壁を見た。
本棚の横にある黒羽盗一の等身大のパネルが目に入る。
新一はまっすぐそこへ向かうと、丁寧にパネルを調べ始めた。


快斗は黙って、新一のすることを見ていた。
(さすがに新一だね。でも、入り口がわかっても開け方がわかるかな?)
父・盗一の作った仕掛けはもう動かなくなってしまった。
母親すら入らないとわかっていても、組織のことを考えるとセキュリティは強固にしておきたかった。
快斗は手製の―――とはいっても、FBIのセキュリティ並みの能力を持っているのだが―――システムを取り付けていた。
「もうすぐ新一の宣言した10分になるよ」
快斗がそう促すと、新一は慌てた様子もなくにっこり笑って快斗へと歩み寄った。
そして、おもむろに快斗の手を掴むと強引にパネルの前に引きずっていった。
パネルの中のステージ衣装を身に纏った黒羽盗一。
その手にあるシルクハットの部分に快斗の手を押し当てる。
音もなく静かに動き始めるパネル。
快斗の部屋に、人一人がようやく通れるほどの口がぽっかりと開いた。


「まさか、仕掛けまで見破られるとは思ってなかったよ」
「簡単なことだよ。よく見ないとわからないけど、あのシルクハットの部分だけがわずかに他の部分と光沢が違ったから」
「こんな簡単に見破られるとはなぁ〜。仕掛け作り直した方がいいかも…」
その必要はない、と新一は思う。
掌紋照合装置をつけた扉なんて、企業の機密を扱うところですら、導入していない。
内閣調査室ですら、怪しいものだ。
自分だったから、快斗も何も言わずに手を当てたけど、胡散臭い連中相手に大人しくされるがままになる快斗ではない。
建物そのものを破壊するなど、手段さえ問わなければ、方法などいくらでもあるのだ。
「で、入ってもいいのか?」
「うん」
快斗より先にわずかにできた隙間に身を滑らせる。
温感センサーでも取り付けてあるのだろう。
窓のない部屋にポッと明かりが灯る。
中は1畳半ほどのスペースで、大型の耐火金庫とパソコン、仕掛け用と思われるニクロム線や銅線などのリールや様々なICチップなどが整理されて置かれている。
ハンガーにかけられたキッドの衣装。
「狭いけどね、ここには新一の家の書斎なみの情報が詰まってるんだよ」
そう言った快斗の後ろに、怪盗キッドが立っていた。
黒羽盗一のたった一枚残されている怪盗キッドの姿であった。
新一はしばらく何も言わずにその写真を眺めていた。
(ここは…、快斗の聖域なんだな)
やがて、ゆっくりと目を閉じた。
「なぁ……いいのか?」
「え?」
「本当に俺でいいのか?」
新一にしては珍しく自信が揺らいでいた。
どんな人物を相手にしていても、負けない自信はあった。
ただ、快斗だけは…快斗相手にだけは、その自信がなかなか持てない。
快斗の愛の深さを知るたびに、その思いは募っていく。
実の母親にすら心の奥底を見せなかった快斗。
掌紋照合装置までつけて聖域への侵入を拒んだ快斗。
世界中でただ一人の例外として、自分をあっさりとその中へと招きいれてくれる。
快斗のそんな愛に自分は応えられるのだろうか。
そんな快斗を支えて行けるのだろうか。
その手を取った今でも、答は見えなかった。
快斗はそんな新一を優しく抱きしめた。
「新一がいいんだよ。新一でなきゃダメなんだ」
「快斗…」
快斗は新一の顔にゆっくりと唇を近づけた。
新一も、それに応えるようにそっと目を閉じた。
唇が重なり合い、深く口づけを交し合う。
吐息を交わし、唾液を交わし、舌を絡めあった。
快斗の手が新一の身体を撫で回す。
「新一…、新一が欲しい…」
「え?」
「新一を抱きたい…」
耳許で囁かれた言葉が、頭の中で形にならない。
快斗の手が新一の股間に触れた時、新一はびっくりして飛び退った。
「わぁ〜!待て!快斗!」
ドンと押し返されて、快斗もはっと我に返った。
「あぁ〜!こんな密室の中で二人っきりじゃ理性が持たないよ〜!」
快斗は隠し部屋の扉を開けて、部屋へと戻る。
ここも二人っきりには変わりないが、大声を出せば母親が入ってくるし、窓もある。
多少なりとも自制が効くには違いなかった。
「新一が悪いんだからね!」
「なんだよ、それ!」
「だって、昨夜は酔っ払っちゃって色っぽいし。そのうえ、俺が着替えさせたんだよ。もう、新一の裸見ちゃって、鼻血出るし。甘い寝息なんかたてちゃって。快斗君は一晩中、悶々としてたんだからね!あんなキスしたら、理性なんかどっかいっちゃうよ〜」
茶化した感じで言う快斗に新一は救われた。
「寝てたときのことなんかわかるかよ!」
そう言って、新一も笑った。
「でもね、新一が欲しい、抱きたいってのは、正直な気持ちだよ。いますぐって言わないからさ、考えといてね」
明るく言う快斗に、新一は何も答える事ができなかった。











夕食に誘われ、食後に快斗の母も交えながら、ささやかな庭でささやかな花火大会をした。

小さく燃える線香花火が新一にはなぜか眩く感じられた。
線香花火の潔さが、快斗と快斗の母、それに亡き父親の生き様に重なるような気がしてならなかった。



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