傷つき疲れ果てても

『それは永遠の秘密』新一サイド

BY 友華様







 それは、そのときから始まった――――――




 いつもと変わらずに過ごしていた。前日と、ほとんど差のない時間が流れていた。
 大学にいって、帰りに特に目的もなく街の中を歩いて、途中、要請があれば待ちかねたとばかりにそのまま飛んでいく。
 しっかりと解決させて、夕方頃に自宅へと戻る。

 違ったのは、玄関を開ける前に突然襲ってきた痛みに倒れてしまったこと。
 なんの前触れもなくそれは新一の体を襲って、なんの抵抗もできないままにその場に膝をついてしまった。どうしたらいいのか見当もつかない。
 隣家へ歩いていく余力も残っていなかったし、携帯を取り出すことすら億劫で。
 あと一歩で家の中だというのに、情けなくもそのまま意識を失ってしまった。
 そのおかげ、というのもなんだが、おかずを差し入れにきた哀にすぐに見つけてもらうことができたのだけれど。

 目がさめたら隣家の地下室で、傍にいた哀にお前が運んだのかと問えば、無表情のまま彼女は博士が連れてきたといった。
 無表情、というよりも強張って表情を作れていないのだ。
 そんな彼女の様子で、新一は己の身体に起こったことを、そしてそれがどうなるのかを薄々感じ取った。
 けれど、そのあときちんと哀に自分のことを尋ねた。
 哀は始めは口ごもっていたけれど、新一が何度も何度も諦めずに尋ねるから、最後には諦めて重い口を開いた。
 静かに、現実を突きつける。
 徐々に声が震えて、しまいには嗚咽が混じってしまっていた。
 新一はただ、お前のせいじゃないとだけ告げた。すべての原因は、己にあるのだから、と。
 気にするな、とはさすがに言えなかったけれど。そんなことを言ったって、彼女は気に病むに違いないのだから。
 諦めない、と彼女は言った。治してみせる、と。
 いろいろ検査をして、そこから得た結果を元に治療薬を作るから、と。
 新一は笑って頷いた。よろしく、と。

 けれど頭の中では悟っていた。きっと、これは治ることはないだろう。
 このまま弱っていって、やがては死んでいくんだ。


 気になるヤツがいた。
 ライバルで、友人で。けれど新一にそってはそれ以上に胸を焦がす存在。近づきたい、と。その傍にありたい、と願っていた。
 今までは封印していた。一応、現状に満足していたから。
 新一がアイツを認めるように、向こうも新一のことを認めてくれていたから。
 最高のライバルとして、良き友人として、新一を見ていてくれたから。

 ならば、なにもなくなった新一では―――?

 病気のせいで探偵業もままならず、学校へ行くことも困難になり、周りにどんどんと置いていかれる、そんな新一を彼はどう見る?
 今まで少しだけでも『特別』でいられた。
 それが―――――きっとその他大勢と一緒になる。
 そして今新一がいる場所に、他の誰かが居座ってしまうかもしれない。

 それを考えたとき、新一は初めて怖いと感じた。身震いした。
 痛みに苦しさに倒れて、ぼんやりながらも死を予感したときですら、こんなふうにはならなかったのに。
 これが、『死ぬ』ということだ。『消える』ということだ。
 ただ『工藤新一』という個体がそこから消えていってしまうだけではない。どんなにその当時は『覚えている』と誓った人でも、やがては存在が薄れていってしまう、そういうことだ。
 自覚して、新一は静かに涙を流した。


――――――ならばせめて、少しでも長く覚えていてもらうために…


 己の存在を彼に刻みつけよう。今までとは違った自分を。
 良くも悪くも、彼の中に深く己を刻み込んで。そのことで他の誰を傷つけても泣かせてもかまわないと思った。
 工藤新一、一世一代の大演技だ。
 戸惑いながらも思惑通り、彼は手の中に落ちてくる。




 たとえ結果傷つき疲れ果てても――――――

 ―――――貴方の中に少しでも長く、俺が生きていられるならば、それでいい。






 

END.
03/8/28





 
…痛いなぁ…(−−;)

と、おっしゃる友華様より、『それは永遠の秘密』の新一サイドをいただきました。
友華様、ありがとうございました。


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