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『ジェミニの星』誘拐事件〜依頼編



依頼人プロフィール

名前
藤堂怜悧

住所
杯戸町

年齢
13歳

職業
帝丹中学校 生徒




「あ〜、俺が残しといたチョコミント・アイスがない〜〜〜っ!」
 冷蔵庫を開けて絶叫しているのは、ここK.I.D.オフィスの準所員・黒羽快斗である。
「ちょっと、りゅうさん! 俺のチョコミント、勝手に食べないでよねッ!」
 快斗は、ネットでなにやら検索中のりゅうをジト目で睨んでいる。
「悪いけど。私は快斗君のアイスを食べたりしてなくてよ?」
「え〜っ? だって、りゅうさん、甘いもの好きじゃん! チョコミント好きじゃん! 新一は甘いもの、そんなに好きじゃないから、犯人はりゅうさんしかいないじゃん」
 確かに、りゅうは甘いもの好きで、ここでもよくケーキを買ってきては、快斗と食べている。
 チョコミントが好きなのも、事実である。
 確かに、新一は好きと言えるほどには、甘いものを食べない。
 嫌いじゃないと言える程度である。
 実際、彼らの家でも、冷凍庫の中は快斗のアイスで埋め尽くされているが、新一がそれに手を出すことはまずない。
せいぜい、快斗が一緒に食べようと誘ったときに、しょーがねーなーと甘ったるくはなさそうなシャーベットに手を出す程度である。
「状況証拠は揃ってるってわけね。でも、冤罪もいいとこだわ。そうでしょ、新一所長?」
 2人に椅子ごと背を向けていた新一が、クルリと回転すると、新一の手にはチョコミントアイスのカップと銀色のスプーンが握られていた。
「あぁ、快斗、探偵になれねーぞ? 状況証拠だけで決め付けるなんて……」
「俺は探偵じゃなくて怪盗なの! それより、人のアイス勝手に食べるなよぉ〜。新一のドロボー!」
 新一の言葉を最後まで聞かずに、快斗は叫ぶ。
「あぁん? ドロボーはオメェだろーが! 大体、食われて困るんなら、名前ぐらい書いとけよな!」
「新一が俺のアイス食うなんて思わないもん! なんで新一が食べるんだよぉ〜!」
「んなの、暑かったからに決まってんだろ! 手っ取り早く涼しくなれりゃいいんだよ!」
「そんなぁ〜! あれ、コンビニじゃ売ってないんだよ? 直営店、行かないとないんだよ?」
「そんなの俺が知ったこっちゃねー!」
「新一のバカァ〜!」
 世紀の大怪盗は、まじ泣きしながら床に蹲っていじけていた。





















 カチャンと扉が開く音がしてそちらに目をやると、入ってきたのは歩美だった。
「あら、いらっしゃい」
「よぉ!」
「……………やぁ」
 快斗のバックにだけ、どんよりとした雲が漂っている。
「こんにちは……って、快斗お兄さんどうしたんですか?」
 歩美は、気分でも悪いのかと快斗の顔を覗き込んだ。
「歩美ちゃん、聞いてよ! 新一が俺のアイス食べちゃったんだよぉ〜」
 快斗は10歳も年下の少女に泣きついた。
「はぁ……」
 来たのが元太ならば、「新一にーちゃん、食い物の恨みはこえーんだぞ!」とぐらい言ってくれるのだろうが、あいにくと歩美も中学生になって、体重計が怖いお年頃である。
 それに、歩美にはいまそれどころではない事情があった。
「歩美ちゃん、快斗のことは放っておいていいから。で、なんかあったのか?」
 新一は歩美の様子がいつもと違うことにいち早く気付いて尋ねた。
「あの……」
 歩美はちょっと躊躇うように、上目遣いに新一を見る。
 新一は、いいから言ってみろ、というように微笑んでみせた。
「あ、あの……、実は今日は連れがいるんですけど、呼んでもいいですか?」
 新一が江戸川コナンだったことは、そして志保が灰原哀だったことは、少年探偵団には明かされていない。
 けれどもコナンが消える時、『何か困ったことが新一兄ちゃんを頼るといいよ』と言い残しておいたのだ。
 入れ替わるようにして現れた工藤新一に、彼らは生来のずうずうしさも手伝ってすぐに懐いていった。
 以後、快斗や志保とも面識を持ち、いろいろと面倒を持ちかけてくれる存在であったが、一方でイレギュラーズとして重宝する存在でもあった。
 その歩美の連れということは、また面倒ごとかも知れないが、聞かないわけにもいかないことを、新一も快斗も、そして巻き込まれたりゅうも充分わかっていた。
「連れ? 依頼なのか? 同級生なんだろ?」
 歩美が私服ではなく、制服なのを見て、新一はそう言った。
 歩美の住むマンションは、帝丹中学校とここの間にある。
 だから、普段来る時は一旦帰宅して着替えてから来るようにしている。
 それに、新一や快斗に会いたいだけの友人をここへは連れてこない。
 それはここへ出入りする条件にもなっているのだ。
「さすが、新一お兄さん! どうしてわかるの?」
「な〜に、初歩的なことだよ、ワトソン君。それより、君の依頼人を紹介したまえ」
 元祖の口調を真似ると、隣で快斗が顔を顰る。
「新一、それやめようよ〜。なんか白馬みたいでヤダ〜!」
 新一は快斗が嫌がるのをわかっていてやっているのだが。
 そんな二人のやり取りを、歩美はクスクスと笑いながら、同級生を迎えるためにドアを開けた。





















「失礼します」
 歩美に促されて入って来た少女は、ペコリと頭を下げた。
 二人の通う帝丹中学校はいまどきにしては珍しいセーラー服であった。
 思い出の中にある制服となんら変わりない姿が、新一にはなんだか微笑ましく思える。
「同じクラスの藤堂さん」
「初めまして、藤堂怜悧です」
 少女はポッと頬を染め、深く頭を下げた。
 セミロングにレイヤーを入れた髪は、明るく快活そうな印象を与える。
 それでいて、何気ないところで、きちんとした躾をされてきただろう様子が窺えて、第一印象はなかなか高かった。
「初めまして、工藤新一です。で、何かお困りのことが?」
 新一の顔を間近に見て、少女はまたしても紅くなった。
「あ、はい。相談したいのは、従兄弟のことなんです」

 依頼人・藤堂怜悧は、老舗の宝飾店『藤堂宝飾』の社長・藤堂大和の姪にあたる。
 彼女の父・藤堂武蔵は、社長の兄であり、本来跡を継ぐべき人であったが、経営にも宝石にも興味がもてず、武道の道へと進み、いまは道場を開いている。
 一方、叔父である大和は、その才を発揮し、藤堂宝飾をさらに発展させた優秀な人物であった。
 彼には7歳になる双子の息子がいるのだが、最近その双子の周りにどうも怪しい人影が見えるというのである。
 彼女は、怯える従兄弟たちをなんとかしてあげたくて、『少年探偵団』を名乗る同級生の歩美に相談したのだ。
 けれど、歩美には何をどうしていいかわからず、こうしてK.I.D.オフィスへと連れて来たのだった。

「ご両親や叔父さんには相談しなかったのかな?」
「しました。私も従兄弟たちも。でも、子供の言う事だから、と聞いてもらえなくて……」
 よく聞くセリフであるが、それが間違っていることを、新一は身をもって知っている。
 少女の隣に座る歩美も、光彦や元太も、知識がないからうまく伝えられないだけで、異変には大人以上に敏感だった。
「え〜と、その従兄弟たちに会うことはできるかな? できれば叔父さんにも」
「はい! 従兄弟たちはいつでも。叔父は……わかりませんけど」
「いいよ。じゃあ、明日また学校の帰りにここへ来てくれるかな? あ、歩美ちゃんも一緒にね」
 少女は晴れ晴れとした顔で「ありがとうございます」と頭を下げると、歩美と一緒に帰っていった。





















「さてと……」
 二人を見送った新一が動きを見せようとしたところで、りゅうがそれを遮った。
「ちょっと待って。いまの依頼を受けるつもり?」
「はい」
「でも、彼女、中学生よ? 探偵料なんて払えないでしょう?」
 いくら彼女が藤堂宝飾の縁戚者とはいえ、まだ中学生である。
 平均からみればいいおこずかいを貰っているかもしれないが、それで払える額ではないだろう。
「りゅうさん、お金なんて貰えるところから貰えばいいんですよ」
 新一はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
 確かに新一は謎が好きだから探偵をしているのであって、お金欲しさにやっているわけではない。
 だが、事務所として構えた以上は、それなりに運営をしていかねばならない。
 よって信用調査などの余り嬉しくない仕事も引き受けているが、そういう依頼はきっちりとお金をもらっている。
 実をいうと、きょう先生の事件でも、きょう先生からはそれほど謝礼はもらっていない。
 実費に毛が生えた程度の金額と、人形焼、そして全然うれしくもないCD-R1枚、それで全てである。
 が、『怪盗キッドから宝石を守る』という安藤氏の依頼に対しては、きっちりと頂いているのだ。
 その全てが予定調和であったにも関わらず。
「新一君がそう言うってことは、ちゃんとアテがあるのね?」
 新一は黙ってコクンと頷いた。
「快斗」
「ん〜?」
「宝飾関係はお前の専門だろ? 藤堂宝飾に関する情報(ネタ)、全て出しやがれ」
「俺の専門はマジックなんだけどなぁ〜」
 尊大に命じる新一に、そうボヤキながらも、快斗は藤堂宝飾に関する情報を話し始めた。

 藤堂宝飾の財務状況、経営状態、人事関係、本社の構造、店舗数、などなど雑多な情報を快斗は何も見ずにつらつらと話し立てる。
 まったく、IQ400の頭脳はいったいどんな構造をしているのだろうか、と呆れながらも、次々に繰り出される情報を新一はメモすることなく聞いていた。
「んで、とっておきの情報」
 快斗は、身を寄せるようにして声を潜めた。
「藤堂宝飾は今年100周年を迎えるんだ。その記念式典の目玉として、『オルフェウスの竪琴』っていう金の彫像を買ったんだ。『オルフェウスの竪琴』はそれまで中東の金持ちが持ち主だったんだけど、ほら、いろいろあったじゃん? 金目の美術品より現金が大事って、売っちゃったんだよ。それを買ったのが、藤堂宝飾ってわけ」
「ふ〜ん。で、ビッグジュエルでもくっついてんのか?」
「もぉ〜! 新ちゃん、そんな大きな声で言っちゃメッ! ま、その通りなんだけどね。通称『ジェミニの星』って呼ばれてる宝石(いし)が2つ」
「2つ?」
「そう、エメラルドとサファイアとで『ジェミニの星』なんだよ」
「なるほど……ね」
 新一は顎に手をやり、ニヤリと笑うと、何かを考えるように瞼を閉じた。






帝丹中学の制服ってどんなだったんだろう?とコミックスをひっくり返しました。
女生徒の制服はなかったんですけど、学ランの新一を発見♪
なんか似合ってない気がするのは私だけ?


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