プロポーズは蜜月の始まり
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工藤邸の前にタクシーが停まる。
タクシーを降りた快斗が工藤邸を見上げるが、どの部屋にもまだ明かりはついていない。
(新一、まだなのか……)
持って出た鍵を鍵穴に差し込もうとして、ふと手が止まった。
いままでにも、新一が不在の時にこの鍵を使ったことはある。
それを新一も許していた。
けれど、今日だけは新一と共に帰りたい。
(このまま、ここで待つか。だいぶ暖かくなってきたし……)
鍵をバッグにしまい直した時だった。
快斗の背後で、車が停車する音がした。
「新一っ!」
「快斗!?早いじゃないか!」
腕時計で確認すると、まだ10時にもなっていない。
「たったいま帰ってきたとこ。そ〜ゆ〜新一だって随分早いんじゃない?」
「………ちょっとな」
何やら気まずそうに新一が顔を背ける。
隠し事がある……って顔じゃない。
照れてるのだ。
そう感じた快斗は、クスリと笑って自分のことを白状した。
「なんかさ、新一が隣にいないといまいち盛り上がらないんだよねぇ〜。だからさ、早めにお開きにして帰ってきちゃった」
新一は驚いたように顔を上げ、快斗を見つめた。
「……………俺も」
二人は顔を見合わせて、クスクスと笑いあった。
「入ろうっか?俺達の家に……」
快斗はバッグにしまったばかりの鍵を取り出して、新一に見せた。
「あぁ。入ろう、俺達の家に」
玄関のドアが閉まった途端、二人はどちらからともなく抱き合い、唇を貪りあった。
銀色の糸を引きながら唇が離れた時、「あ……」と新一が呟いた。
「なに?」
「俺、寿司食ってきたけど……?」
「ウゲッ!」
「ご、ゴメン……」
「いい。アルコールで消毒されてるみたいだし」
そう言って、快斗はもう一度唇を寄せた。
お互いにお互いを補給すると、取りあえずはリビングで一息いれることにした。
そのままエッチへとなだれ込まなかったのは、快斗にもう一つしておきたいことがあったから。
新一にはコーヒー、自分にはココアをいれて、リビングのソファに並んで座った。
快斗は新一の細い腰に手を回しながら。
新一は自分に触れる快斗の指を弄りながら。
啄むようなキスを何度も繰り返した。
「新一、ちょっと手貸して?」
新一は言われるがままに、左手を差し出した。
快斗はフリースのポケットから小さな包みを取り出すと、新一の手の平に乗せた。
「何……?」
「俺からのクリスマスプレゼント」
「クリスマス……?」
季節外れな単語に、新一は首を捻る。
「覚えてない?俺からのクリスマスプレゼントはキッドに預けた、っていうの……」
「あ……」
そういえば確かにそんなことがあった。
「キッドをやめることができたら渡そう、ってあの時思ったんだ。こんなに早く渡せる日が来るなんて思ってもいなかったけど……」
そう言って新一を見つめる瞳は深い慈愛に満ちていて、少し潤んでいた。
「かいと……」
「新一、開けてみて?」
新一はコクンと小さく頷いて、赤と緑のリボンに手を掛けた。
シュルンと解けたそれを指に絡めたまま、金色の包装紙を丁寧に剥がしていく。
中から現れた白い箱を開けると、さらに茶色いビロードの箱が現れた。
新一はバクバクと高鳴る心臓の音が快斗に聞こえてしまうのでないかと心配しながら、ゆっくりとそれを開けた。
「快斗……、これ……」
新一は呆然としたようにその中にあるモノを見つめた。
二つ並んで入れられた小さな輪(リング)。プラチナでできたそれは、複雑はカットが入っていてキラキラと輝いている。
幅は男性用として作られたせいか、少し太めで小さなダイヤが一つ埋まっていた。
「最初作ったときはさ、プラチナだけだったんだけどね」
「作った……?快斗が……?」
「そうだよ。俺を誰だと思ってる?」
確かに、怪盗キッドだった快斗になら、これぐらいのものを作るのは朝飯前だろう。
一流の鑑定家の目すら誤魔化すような贋作を作るのだから。
ふと、新一は埋め込まれたダイヤに目を向ける。
(さっき、快斗はなんて言ってた?最初はプラチナだけだった……、って?このダイヤは後から埋め込んだってことか……?)
じっくりと角度を変え、目を凝らしながらダイヤを見る。
それは、うっすらとピンク色に染まってるように見えた。
「この宝石(いし)……、もしかして……?」
「わかった?そう、パンドラの欠片なんだ、それ」
砕いたそれの中から、大きめのものを選んでカットしなおした。パンドラがなかったら、快斗はキッドにはならなかった。
パンドラがなかったら、新一に会うことだってなかったかもしれない。
尊敬する父を奪った宝石だけど、大切な人に巡り合わせてくれた宝石でもある。
だから、新一に贈る指輪にこの宝石をどうしても入れたかった。「ちゃんと、言わせて?」
真摯な瞳が新一の瞳を捕らえる。
「かいと……」
「新一、愛してる。新一に会って、恋をして、こうして受け入れてくれて、俺…すっごい幸せだよ。だから、お願い……。新一の一生を俺に下さい」
永遠を宿したパンドラの欠片に、永遠の愛を誓う。
『永遠の紅』は含まれてはいないけれど―――。新一はゆっくりと手の上の箱を快斗に差し出した。
(え………?)
快斗の顔が凍り付いた。
(拒まれた…のか……?)
「バーロ、なんて顔してんだよ」
新一は柔らかい笑顔を浮かべている。
「だって……」
「な〜に早とちりしてんだか……。お前の手で填めてくれ、って言ってんだよ」
「あ……、うん♪」
泣き出しそうな笑顔をしながら、快斗は新一の左手を取った。
ほっそりとした薬指にそっと指輪を填めていく。
しっかりと付け根まで填めると、快斗はその指に口づけを落とした。
「快斗」
もう一つの指輪を手にして、新一は快斗の手を取る。
奇跡を生み出す指の一つに、同じように指輪を填める。
「快斗……、愛してる……。俺も……」
「しんいち……、ありがとう……」
新一はスッと手を伸ばし、快斗の首にしがみつく。
ギュウッと抱き締められたかと思うと、すこしだけその距離は離れ、やがて唇が重なりあった。
「俺の部屋へ……、連れてけ……」
新一は頬を染めて、そう囁いた。
新一を横抱きにしたまま、新一の部屋のドアを開けた快斗は、そのままそこに立ち尽くしてしまった。
部屋のほぼ半分を占めるクイーンサイズのベッド。
それは快斗が初めて見るものだった。
いままでにも何度か新一の部屋には入ったことがある。
その時は男二人で寝るにはちょっと、いやかなり狭いセミダブルのベッドだったはず。
「ベッドが成長してる……」
快斗は思わずそう呟いてしまったが、ベッドがひとりでに大きくなる訳もない。
新一は何も言わない。
ただ、頬を染めて快斗の胸に顔を埋めている。
何も言わないけれど、快斗にはわかってしまう。なぜ、快斗の部屋にベッドがなかったのか……。
新一は最初から、ベッドを置く気などなかったのだ。
それは恥ずかしがり屋の新一からのメッセージ。
快斗は心の底からそれを嬉しく思った。
ゆっくりとベッドに近付き、新一をそっとその上に横たえる。
恥ずかしいのか、新一は快斗の首から手を離そうとはしない。
「新一……」
快斗はそんな新一の髪を撫で、耳朶を弄り、首筋をくすぐる。
「あ、コラッ……、かいと……」
感じやすい身体を捩り、ささやかな抵抗を見せる新一が鼻に抜けるような甘い声を洩らした。
見上げてくる顔に、すかさずキスを落とし、そのまま唇を開いて、歯列を舌でなぞる。
さらに、奥深くへと舌を差し込み、新一の舌を捕らえると、激しく絡ませた。
「ンンッ……」
愛撫の手は前へ回り、シャツのボタンを外していく。
その隙間から侵入し、手のひらで胸を撫でると、小さな飾りがピクンと尖り始めた。
「アッ……」
指先でさらにソコを摘ままれて、新一の身体が甘く痺れてくる。
「かいと……ッ、やっ……」
あっという間にザワザワとした快感が身体を駆け抜ける。
「ダメ…、止まんない……。俺、恥ずかしがってる新一に弱いんだから……」
新一の言葉が、拒絶ではなく恥ずかしさによるものだとわかっている快斗は、夢中で愛撫を続ける。
かろうじて纏っていたシャツを剥ぎ取り、ジーンズも下着ごと下ろして。
首筋を……。
指先を……。
プクリと尖った小さな飾りも……。
ツンッと上を向いた屹立も……。
柔らかな双丘も……。
その奥でヒクついている秘蕾も……。
余すとこなく舌を使って愛撫する。
「アァッ……」
新一は身体を大きく撓らせながらも、快斗の愛撫を全て受け止める。
こんなにも愛しい人に、こんなにも愛されて。
こうして、二人一緒にいられる喜びを肌で感じ合う。
普通なら当たり前のようなことが、ものすごく嬉しい。
男と男で。
怪盗と探偵で。
決して交わることのない関係で。
それでも、こうしてお互いを求めてる。
「かいと……、もぉっ……ンッ……」
「欲しい?」
新一はコクンと小さく頷く。
実のところ、快斗もすでに限界だった。
先程から、新一に煽られっぱなしで、快斗の前は大きく張り詰めているのだ。
快斗は自分の服も全て取り去ると、新一の秘蕾に突き立てた。
「…はっ、ン……」
一瞬の痛みにきれいな柳眉が顰められる。
身体の中に捩じ込まれる熱い塊。
激しい抽挿で内襞を擦り、さらに奥へと侵食してくる。
「ンッ……アァッ……、かい…と……ッ!」
新一自身も腰を揺らして、強い刺激を追い求める。
グチュグチュとした淫猥な音が、ことさらに耳に響く。
快斗の背に回した腕に力が籠る。
「イイッ……、新一の中……。すごく熱くて、蕩けてるよ……」
「アァァッ……!」
新一の中で、快斗のモノがグッと膨らんで弾ける。
最奥に広がる快斗の熱を感じると、新一も熱を解放した。
「愛してるよ、新一……」
「快斗、俺も……お前を愛してる……」
広いベッドに二人寄り添って。
時が甘く流れていく。
啄むような軽いキスを繰り返して。
「もう一回、してもイイ?」
「ダメ」
「え〜〜〜っ!初夜なのにぃ〜!」
「バーロっ!明日、学校行けねーと困るだろうがっ!新歓は明日っからが大変なんだぞ?」
「う〜ん、じゃあ新歓終わったら、朝まで抱きたい」
「……………事件がなかったらな」
「うん♪」
これから幾つの夜をこうして迎え、幾つの『起き上がれない』朝を迎えるのか。
それを考えると、ちょっと早まったかも……と思わずにはいられない新一だった。
放置プレイにしてしまってゴメンナサイ。 『Sweet Home』で言っていたベッドのお話でした。 しかし、これ表でいいんだろうか?
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