未来(さき)を見往く 〜新生〜


「謹んでお受けしますわ。ですが……条件があります」
 新議長に就任することを決意したラクス・クラインが、エターナルの自室でニッコリと微笑んだ。






 プラントでは、ギルバート・デュランダルの不正行為が次々明るみに出て、大混乱に陥っていた。

「ユニウスセブンの落下が、議長の差し金だったって!?」
「じゃあ、俺たちが核攻撃の危機にさらされたのも、議長のせいじゃないか!」
「そういや、あのラクス様だって、本当のラクス様じゃなかったんだよな」
「戦争だって、最初から議長はそのつもりだったんじゃないのか?」
「クラインの後継者だなんてのも、でまかせだったらしいぞ」
「なんだって!? じゃあ、俺たちは、議長に誑かされていたのか!?」

 噂に尾鰭がつき、背鰭や胸鰭までついて、市民の感情は亡き議長から最高評議会にまで及び、総辞職することとなったのだ。。
 プラント各市では、現評議員をリコールし、新たな選挙が行われた。
 だが、誰を議長とするかは、誰を選んでも心配であり、どうしても結論が出なかったのだ。
 最初に言い出したのは、誰だったのか。

「議長の言ってた『デスティニープラン』ってのも、よくよく考えてみりゃ、俺たちに何の自由もないってことだよな?」
「やはり、ラクス様はすごい! ちゃんと、それを見抜いて、プラントを議長の悪巧みから救ってくださったんだ」
「さすがはシーゲル様のご息女だよな。ラクス様こそ、議長に相応しい」
「そうだ、ラクス様を議長に!」

 誰かの何気ない言葉はプラント中に広がり、やがて全プラントで「ラクス様を議長に!」とのシュプレヒコールが上がる。。
 無視できないほどに膨らんだ市民の声に、評議会も重い腰を上げざるを得なかった。
 いや、むしろこの混沌とした時期に、自ら議長という重責を荷うことのできるほど、気概のある評議員はいなかったのだ。
 全会一致で、ラクス・クラインを議長に迎えることにしたものの、問題があった。
 ラクス・クラインはいま、宇宙に居る。
 エターナルでプラントの行く末を見守っているのだ。
 そこへ、誰が行くのか? それが問題なのだ。
 宇宙へ出るには、宇宙船が必要となる。シャトルでもいいのだろうが、この不安定な情勢の中では、火器を持たないシャトルや民間船は、あまりにも無防備が過ぎる。
 デュランダル派が、シャトルを撃墜する可能性がないとはいえない。
 だから戦艦で、ということになるのだが、ザフトの現状では、誰がデュランダル派かを見極めることが難しいのだ。
「ジュール隊を名代としては如何でしょうか?」
 一人の議員が提案した。
「隊長のイザーク・ジュールは、エザリア・ジュール元評議員の息子ですし、ラクス嬢の婚約者であるアスラン・ザラとも同僚でした。彼なら、ラクス嬢と面識があるでしょうから」
「名案ですね。副長のディアッカ・エルスマンも同様で、しかも先の戦争では、あのアークエンジェルに居たこともあると聞いてます。確か、そのために紅の資格を剥奪されたとか……」
「それならば、ラクス嬢も彼らの話に耳を傾けてくれるでしょう」
「では、決を採りましょう。ジュール隊を我が評議会の名代とすることに、異議のある方は?」
 異議なし、と今度も全会一致で決が採られた。

 そうして、イザークは最高評議会の名代として、エターナルへやってきた。






「私はただ平和の歌を歌うことしかできませんから」
 ラクスは、イザークが持ち込んできた話を、丁重に断ってきた。
 だが、イザークとしても「はい、そうですか」と言って、引き下がるわけにはいかなかった。
 ラクスを議長として迎えることは、全プラントの意思であり、願いなのだ。
 それを「断られました」などと、どのツラ下げて言えるというのか。
 それに、イザーク自身も、ラクス嬢こそ、議長に相応しいと思っていたのだ。
「ラクス嬢。貴女が平和の歌を歌うことによって、このエターナルの乗員達は貴女に命を賭けた。貴女には、彼らに対する責任があるのではないか?」
「私は私の信じる道を進んできました。私と志を同じとしてくださる方々がいなくては、ここまで来ることはできなかったでしょう」
 ラクスも戸惑っているのだ。ただ自分の信じる道を進み、多くの人がそれを助けてくれた。だが、それとプラントの未来を荷うことは、全く問題が別なのだ。
 その時、ドアが開いて、別の人物が現れた。
「ラクス。僕も君が議長になるのがいいと思う」
「キラ!?」
 キラ・ヤマト。かつては連合に籍を置き、戦った相手だが、いまはもうその蟠りはない。
 本来、こういう席に顔を出すことは許されないことだろうが、イザークはキラを咎めたりはしなかった。
 ラクス・クラインにとって、一番の盟友はアスランでもなければ、バルトフェルドでもない。彼こそが、一番に信を置く人物であることは、すでに承知していた。
 だからこそ、ラクス・クラインの説得に一役買ってくれそうな言葉に、むしろ最大の味方を得た気がしていた。
「こんにちは、イザーク。ごめんね、立ち聞きしちゃって……」
「構わん。貴様が、ラクス嬢説得に一役買ってくれるのならばな」
 キラは、ちょっと驚いたような顔をして、クスクスと笑い出した。
「いいでしょう。ねぇ、ラクス。君が一人で何もかもすることはないんだよ? いままでだって、いろんな人が君を助けてくれた。議長になっても、そうしていけばいいんだよ」
 キラはイザークに了解を返すと、ラクスの説得にかかった。
「君はシーゲル様でも、デュランダル議長でもない。君は君のやり方を築けばいいんだ」
「キラ……何を言いたいのか、わかりませんわ?」
「あのね、大西洋連邦の大統領は、みんなブレーンチームを持ってるって知ってる?」
「ブレーンチームですか?」
「うん。いろんな分野のプロフェッショナルで構成されたチームがあるんだ」
「そうなのですか?」
「うん」
 キラはにっこりと笑って返した。
 ラクスは何やら考え込んでいたが、やがてニッコリと微笑んだ。
 その微笑みに、いや〜な汗が背中を落ちていくのは、気のせいだろうか?
「イザーク様。謹んでお受けしますわ。ですが……条件があります」
 たったいま新議長に就任することを決意したラクス・クラインが、再度ニッコリと微笑んだ。
「キラを私のブレーンとして、プラントへ連れていくことを承諾してください」
 はい?
「僕ぅ〜?」
 ラクスを説得するはずが、なんだかとんでもないことになってしまった。
 人、それを『墓穴』という。
「キラと私は盟友ですから。これからもそうでしょう?」
 バルトフェルドやダコスタなど、ずっと共に戦ってきた仲間たちも……。
「それは……」
 確かにラクスの言う事は間違ってはいない。間違っていないが、そんなことでプラントはいいのだろうか?
 イザークの方を見れば、珍しく秀麗な顔が狼狽の色を見せていた。
 イザークは単に評議会の名代として、ここへ来ている。つまり、何の決定権も持ち合わせてはいないのだ。
 しかも、キラ・ヤマトという人物は、コーディネーターではあるけれど、先の戦争では連合に身を置き、いまやれっきとしたオーブの軍人である。
「キラを入国させられないというのであれば、共に戦った私も入国はできませんわよね?」
「……………本国に連絡させてくれ」
 イザークにはそれしか言えなかった。






 そして、数分後。評議会はラクス・クラインを迎える事ができるならば、たいていのことには目を瞑ると返答してきた。
 しかも、たいていのこと、というのがどの程度のことなのか、それはイザークの判断に委ねられる。
「よかったですわ♪ イザーク様にもお願いしたいことがありますのよ」
「は?」
 ラクスはフフフと笑うだけで、何も言わない。
 イザークは、無邪気に喜ぶラクスの横で、複雑そうな顔をしているキラに気づいた。
「そういえば、貴様の意思は聞いてなかったな。プラントに行くのか? それともオーブへ戻るのか?」
「う〜ん。プラントにも行ってみたいんだけどね……」
 前にいた時は、クライン邸の庭でしか過ごしていないから、どこも見ていないし……。
 と、まるで修学旅行にでも行くかのようなキラの言葉に、それはちょっと違うだろ、とイザークは内心ツッコんでみる。
「ただ、カガリがなんて言うかなぁ〜」
 この言葉に、ラクスも無邪気な笑みを消した。
「難敵ですわね……。なんでしたら、私がカガリ様とお話しま……」
「貴様の行く途だ。貴様が自分で選べ」
 ラクスの言葉を遮って、イザークが言った。
 キラは惚けたような顔をして、ポッと頬を染めたかと思うと、やがて満面の笑みを浮かべた。
「うん。決めた。プラントに行く」
 カガリにそう言って来るから、とキラは部屋を出て行った。
「では、イザーク様。よろしくご手配くださいませ」
「承知した」
 重責をこなし、イザークはホッと胸を撫で下ろして、エターナルを後にした。

 姉弟が修羅場を演じている頃、歌姫はニコニコと微笑んでいた。
「ピンクちゃん、気がつきまして? プラントでの生活が楽しみですわね・」






 正式にラクス・クラインを議長とする政権が発足し、キラは次席補佐官という任に就任することとなる。
 また、イザークには、ザフト最高司令官という任が与えられたのだった。


『未来(さき)を見往く』シリーズは、これをもって正真正銘、完結とさせていただきます。
ここから先の話は、イザキラで書きます。
ただし、サイトでとは限りません。
いきなり、第1弾は『SEED IMPACT 4th』で配付するペーパーで。
まだ、イザ→←キラって感じの話です。