未来(さき)を見往く 〜混沌〜
「月艦隊所属ジュール隊隊長、イザーク・ジュール出頭致しました」
ザフトの宇宙ステーションで、連合軍の――ロゴスの、と言うべきか――忌ま忌ましいビーム砲の中継基地を叩き、戻ったばかりのイザークに、呼び出しがかかった。
「疲れているところを済まないね、ジュール隊長」
司令室の大きなモニターに映っていたのは、ギルバート・デュランダル最高評議会議長であった。
ロゴスを討つ――そう言った議長の言葉は、ジブリールの死によって成し遂げられた。
ミネルバが、彼を討ったという報告をイザークもすでに受けていた。
いま、デュランダル議長が敵と見做すのは……。
「実は先程、オーブからアークエンジェルが宇宙へ向けて出航したとの報告があってね」
「……………」
(やはり、か)
先日のオーブからの放送をイザークも見ていた。
本物のラクス・クラインが、ついに沈黙を破ったのだ。
プラント中が……いや、世界中が混乱に陥っていた。イザークも議長の傍に立つラクス・クラインが本物ではないことはすでに知っていた。
そして、本物を暗殺すべくザフトが動いていたことも。
だが、その真意がわからない。
本物のラクス嬢に会って話を聞こうとはしていたが、結局、彼女を宇宙で見つけることが出来なかったのだ。
発見したという隊が交戦したが、全滅したとも聞いていた。
ジュール隊はすぐさまその宙域に向かったが、すでにどこかへ移動した後だったのだ。イザークは黙って議長の言葉を待った。
「だが、月にはいま、ラクス・クラインがいるのだよ」
議長はまだあの女をラクス・クラインと呼んだ。
先日の放送で、彼女の化けの皮は剥がれてしまったも同然なのに。
議長の真意を探るべく、イザークは氷の仮面を纏って表情を隠した。
「君にはラクス・クラインの保護をお願いしたい」
「了解いたしました」
イザークは間髪入れずに敬礼で答えた。
「期待しているよ」
プツンと通信が切れて、司令室のモニターには、宙域図が映し出された。
「ジュール隊、旗艦ルソー、並びにヴォルテール、任務のため出航します。補給の優先をお願いします」
司令部の了承を受け、イザークは退出する。
「なぁ、イザーク、どーゆーことだ?」
痺れをきらしたように、ディアッカが聞いてくる。
「うるさいッ、貴様も少しは自分で考えろ!」
ズンズンとイザークは司令部の廊下を進んでいく。
(ったく、ディアッカめ。こんな場所でできる話ではないことぐらい気付けッ!)
宇宙ステーションで与えられた自分の部屋が、こんなにも遠く思えるイザークであった。
「イザーク〜、頼むから教えてくれよ〜」
ディアッカは早々に白旗を上げていた。
はっきり言って、考えることは苦手なのだ。
イザークは呆れ顔で溜息をつくと、どっかりと椅子に腰掛け、口を開いた。
「ようは試されている、ということだろうな。デュランダル議長も、ジュール隊がどう動くか判断しかねるのだろう。ここには貴様がいるからな」
「オレェ〜?」
「あぁ。貴様はアークエンジェルに居たからな」
偽のラクス・クラインを保護させれば、アークエンジェルが接触してくる。
議長の命に従って、それを叩くならば良し。
命に背けば、国家反逆罪でアークエンジェルごと叩く。
「そういうシナリオだろう」
「ふーん、なるほどね。けど、偽のラクスを保護する意味なんてあるのか?」
「ある。議長にはな」
偽ラクスの存在は、下手をすれば議長の首を絞めかねない。
だが、議長が彼女を処分すれば、議長は偽と知って使っていたことを周囲に知らせることになる。
人知れず処分してしまうには、ラクス・クラインの名は大きすぎるのだ。
かと言って、偽ラクスがアークエンジェルの手に渡れば……。
「アイツらは偽ラクスを殺したりはしない。彼女を説得して、証人とするだろう」
本物と偽物が並んでメディアに出れば、説得力は倍増する。
「議長としちゃ何がなんでも渡せない訳ね」
「アイツらに渡らなければ、死んでしまっても構わない」
ジュール隊もろとも……な、とイザークは拳を握った。
偽ラクスを守ってアークエンジェルに撃ち落されるのでも、叛旗を翻してザフトに落とされるのでも。
本物のラクス嬢が死んで、偽者が生き残れば、議長は再び偽者をラクス・クラインとして祀り上げ、傀儡とすることもできる。
逆に偽者が死んで、本物が生き残れば、議長は「偽者に殺された」と喧伝することも考えられる。
アスランやカガリ・ユラ・アスハがどれだけ「違う! 逆だ!」と言い募ったところで、「彼らは偽者の仲間だ」と言われたら、それを証明することは難しい。
「遺伝子解析すりゃ、どっちが本物かなんて一発でわかるんじゃねーの?」
「貴様、忘れたのか? デュランダル議長は遺伝子解析の第一人者だぞ? しかも、ラクス嬢の遺伝子データなど、プラントにしかないだろう?」
デュランダルが遺伝子解析の結果を改竄することなど、朝飯前だ。
「よーするに、本物のラクス嬢は偽者を生け捕りにするしかないってことか」
「そういうことだな」
「で、お前はどうする訳? 俺としちゃ、アイツらと戦うなんてことにはなりたくねーけど」
彼らの想いを知っているから、というのももちろんだが、キラ・ヤマトの強さを知っている、というのが一番かも知れない。
「まだ、ピースが足りない」
デュランダル議長が何を考えているのか、なぜラクス・クラインの偽者など用意したのか。
自分達が取るべき道を選ぶには、まだ情報が足りなさ過ぎた。
「こうなる前に、ラクス嬢と接触できなかったのが悔やまれるな……」
イザークはポツリと呟くと、兵士達に出航を促すため立ち上がった。
「補給完了!」
「総員、乗艦完了!」
「ジュール隊、発信する。目的地、月、コペルニクスシティ」
「ルソーならびにヴォルテール、発進シークエンス開始!」
「ゲートオープン」
「ルソー、発進どうぞ!」
「ルソー発進する」
「ヴォルテール、発進どうぞ!」
「ヴォルテール発進」
2隻の戦艦が漆黒の宇宙へと吐き出される。
イザークとディアッカ、選択の時はすぐそこまで迫っていた。
明日9/3の放送が、こういう展開だったらいいなぁ〜的な妄想。 せっかくステキなタイトルをいただいたので、シリーズにしちゃいました。