未来(さき)を見往く 〜邂逅〜



「お久しぶりですわね」
 真の歌姫が、モニターの中でニッコリと笑った。






 歌姫との会談の要請は、あっさりと受け入れられた。
 敵意を持つものではない、ということを示すために、イザークとディアッカだけがシャトルでアークエンジェルへと向かう。
 シャトルから降り立つと、そこには3機のGが自分達を見下ろしている。
 フリーダムとジャスティスによく似た機体。そして、初めて見る金色に輝く機体。
 ディアッカが顔見知りの整備士から仕入れてきた情報によれば、それぞれストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、そして暁という名前らしい。
 なんでも、暁はオーブ製でカガリ・ユラ・アスハの機体らしい。
 だが、この戦局に、代表である彼女がオーブを離れるわけにも行かず、託されたのだとか。
 パイロットについては教えてもらえなかったというが、オーブ代表が託せるほどの腕前を持ったヤツだということだろう。
 勝手を知るディアッカが一緒のため、イザークは案内も請わずに艦長室へと進んで行った。

 部屋の前には、オーブの軍服を纏った少女が腕組みをして立っていた。
 以前に、ラクス嬢がザフトに襲われたということを教えてくれた少女だった。
「久しぶりね、ディアッカ」
「ミリアリアも、元気そうだな」
 たったそれだけ会話を交わして、ミリアリアが艦長室のドアを開けた。
 部屋の中にはラクス嬢とアスラン、そしてイザークは知らない顔が並んでいた。
「ようこそアークエンジェルへ。艦長のマリュー・ラミアスよ」
「ジュール隊隊長イザーク・ジュールだ。先の戦争では、停戦時に世話になったのに、ご挨拶もできず済まなかった」
「いいえ、こちらもいろいろとあったのだから。ディアッカ君も久しぶりね」
 マリューは隣に立つディアッカを見て、以前と同じように微笑んだ。
「また、美人の艦長さんにお会いできて嬉しいですよ」
 そう言って握手を交わしたところで、ディアッカはマリューの後に立つ男の顔を見て驚いた。
 髪は長く、まるで昔のイザークみたいに顔に傷があるけれども、その顔は紛れもなく……。
「フラガのおっさん!? 生きてたのか!?」
 おっさん呼ばわりされた男は、ガクリと肩を落とした。
「なんでザフトの坊主にまで、そう呼ばれるんだか……。それに、俺はおっさんじゃねーッ!」
 そう言われても、その声も口調も台詞までもが同じなのだ。
「やっぱおっさんじゃんかよ。忘れちまったわけ?」
「そう、忘れちゃったんだ、ムゥさんは……」
 違う声が割って入った。
「キラ、どういうことだ……?」
(キラ? ならば、コイツが……?)
 イザークは、その相手をジッと見た。
 すると、相手も小さく微笑んで、手を差し出してきた。
「はじめまして、キラ・ヤマトです。デュエルに乗ってらした方ですね?」
「そう。イザーク・ジュールだ」
 イザークも差し出された手を握り返して、答える。
 自分が彼を怨んでいたように、彼が自分に対し蟠りを持っていたことは知っている。
 だが、いまさらそのことでどうしようとは思っていなかった。
 それよりも、握ったその手がほっそりしすぎていることが気になった。
(よくもまぁ、こんな細い手で……)
 見れば、腕も肩も細く、華奢という言葉がピッタリだった。
 こんな身体のどこからあの強さが出てくるのか……。
 不思議でならないイザークであった。
「忘れちまったって、どーゆーこと?」
 すっかり黙り込んでしまったキラとイザークに痺れを切らして、ディアッカはエンデュミオンの鷹……と思しき人物に尋ねた。
「俺はネオ・ロアノーク大佐だって言ってんだけどな。ま、いまは一佐だし、自分がネオ・ロアノークだって言う自信もねーんだけどさ」
 ネオと名乗る人物がぼやくのに、キラが思い出したように言った。
「ムゥさんは、連合に記憶を操作されたみたいなんだ。前のことは何も覚えてなくて……」
 ディアッカはマリューの顔を見た。
 二人がどういう関係だったか、知っていたから。
 彼女は少し寂しげな笑みを浮かべて頷いていた。
「腐りきっているな、連合は……」
 イザークの呟きに、マリューとフラガは苦笑するしかなかった。






「で? アンタ達、世間話しにわざわざここまで来たわけ?」
 呆れたように、ミリアリアが言う。
 そんな言い方したらイザークの癇癪が……と慌てたディアッカだったが、むしろイザークの癇癪はミリアリアよりもディアッカに向いていた。
「貴様が話の腰を折るからだッ!」
「……俺かよ」
 理不尽だとは思うが、イザークに反論したところで、どうにもならないのでスゴスゴと引き下がる。
「ラクス嬢。俺たちは貴女方の真意を聞きに来た。貴女方は何を願って行動する?」
 イザークの問いに、ラクスはいままでの穏やかな笑みから一転して、厳しい顔で答えた。
「それは以前と変わっておりませんわ。デュランダル議長と私達とでは、願う未来が違うのです。夢を見ることを捨てることなど、私達は望んでおりません」
「戦うなんてこと、もう終わりにしたい。でも、それは議長が言うような終わり方じゃない。だから、僕達はまだ戦っている」
 ラクスの言葉をキラが引き継ぐ。
「君たちが立ちはだかるなら、僕は……」
 一瞬伏せられた目が、再びイザークたちを見据えた時、そこには強い意思の輝きが宿っていた。
「……俺たちはザフトだ。ザフトはコーディネーターの尊厳とプラントの未来を守る軍だ。それはお前も忘れてはいないだろう、アスラン?」
 いままで黙って成り行きを見守っていたアスランがしっかりと頷いた。
「だが、議長の言う『デスティニープラン』に、俺たちはコーディネーターの尊厳もプラントの未来も見出すことはできん。俺達――ジュール隊は、評議会の司令系統から外れ、単独『デスティニープラン』と戦うことにした」
「ようは、ザフトのまんま、お前さんたちに協力するってこと」
 回りくどいイザークの言葉を、めちゃくちゃにかいつまんでディアッカがフォローした。
「ザフトであることを捨てる気はない」
 強い口調で言い切ったイザークに、アスランが感心したように呟いた。
「そういう考え方もあるんだな……」
 キラが、そして全員がアスランを見た。
「キラが撃たれた時、俺は『アークエンジェルは敵じゃない』と言ったんだ。だが、レイ……レジェンドのパイロットはこう言った。『敵です。相手の思惑がどうであろうと、評議会がアレを敵と定めた以上、アレは敵なんです。我々はザフトですから』とな……。俺には返す言葉がなかった。それからだ。議長の言葉を疑問に思うようになったのは……」
 アスランは自嘲する。
「だから貴様は腰抜けだと言うんだ」
「俺達……ってか、イザークはラクス嬢の偽者を見たときから、いろいろと調べてたんだぜ?」
 その時から、ラクスとのコンタクトを取ろうとしていたのだが、居場所をキャッチできないまま、今日まできてしまったと、ディアッカが言う。
「敢えて接触させないように、評議会が画策していたとの情報もある。それだけじゃない。貴様が言ったレジェンドのパイロット――レイ・ザ・バレルだが、奴の後見人は議長だ。クルーゼ隊長とも関係があるようだが……」
 詳しいことは厳重にプロテクトされててわからなかった、とイザークは言う。
「「ラゥ・ル・クルーゼ……」」
 呟いたのは、キラとフラガだった。
 そのことに驚いて、キラはフラガを振り返った。
「ムゥさん!? 覚えてるんですか?」
「いや。だが、その名前がポンッと浮かんできた。すっげぇ、嫌な感覚と一緒にな……」
 最初に交わした挨拶以外、沈黙を守っていたマリューが口を開いた。
「前にムゥが言っていたわ。その人は、ムゥの父親のクローンだったそうよ」
「「「クルーゼ隊長がクローン!?」」」
 初めて知った真実に、イザークもディアッカも、そしてアスランもが驚愕に目を瞠いた。
「それ以上のことは、私も知らないわ。それより……」
 マリューは改めてイザークに向かって手を差し出した。
「ご協力いただけるということなら、歓迎するわ。いいでしょう? ラクスさん、キラくん?」
「えぇ、もちろんですわ」
「よろしくお願いします。それに、さっきおっしゃってたプロテクトのことも教えてもらえますか?」
「構わんが……?」
 怪訝そうな顔をするイザークに、アスランが苦笑しながら言った。
「キラならそのプロテクト、破れるかもしれないな。キラはプログラミングの天才ってだけじゃなく、ハッキングの天才でもあるから」
 イザークはマジマジとキラを見つめた。






 アカデミーで、結局追い抜くことの叶わなかったアスランもが認める才能。
 イザークの、より強いものを求める気持ちが大いにくすぐられていた。
「キラ・ヤマト」
「はい?」
「貴様が聞きたいことは全て教えてやる。だが、その前に俺と勝負しろ!」
「は?」
 何を言われたのか、キョトンとして考え込むキラ。
「イザークッ!」
 大丈夫そうに思えたけど、やっぱりイザークはキラへの怨みを捨ててなかったのでは……と焦るアスラン。
 そして……。
「あ〜あ」
 こうなると思った、とばかりに頭を抱えるディアッカ。
 三人の様子などお構いなしに、イザークはキラに返答を迫る。
「え〜と……?」
 未だに事態が飲み込めてないキラは、ディアッカに助けを求めた。
「コイツさぁ、自分よか強いヤツを見つけると、すぐコレなんだよ。よくアスランにも『勝負だッ!』って突っかかってさぁ〜」
「余計なことを言うな、ディアッカ! フンッ、腑抜けたアスランなぞ、もう相手にする気も起きん」
 で、どうなんだ? と、イザークは再度キラに詰め寄る。
「えっと、シミュレーターでもいいですか?」
 ここのシミュレーターならデュエルのデータも入っているから、というキラの言葉にイザークの眉がピクリと動いた。
「デュエル?」
「はい。僕が組んだシステムですから。ジンとかシグーとかのスペックはわからないけど、Gに関してはマリューさんがいたので」
 聞けば、マリュー・ラミアスという艦長は、元々G開発チームに所属していたらしい。
 ヘリオポリスで、クルーのほとんどを失い、先任大尉ということで艦長の椅子に座ることになったとか。
 まぁ、イザークにとって、それはどうでもいいことだった。
「前にバスターのデータを見せてもらったけど、本物よか性能よく組んでんだぜ」
 共闘することを決めたときに、それを見て、バスターのOSを書き換えたぐらいだ、とディアッカが呟く。
「貴様はストライクに乗るのか?」
「ん? 別になんでもいいけど?」
「よし、決まりだ。案内しろ」
 イザークはキラを急かして、シミュレーターのある格納庫へと向かった。
 まだ不信が拭えないアスランと、面白がったディアッカがそれに続く。
「あらあら、私も見てみたいですわ」
 ラクスのその一言で、マリューたちも野次馬根性を露にした。
「そうよね〜」
「見てりゃ、なんか思い出すかもしれないしな」
「私も見たい〜! なんてったって、因縁の対決なんだし〜♪ ストライクvsデュエルなんて、もう見たくても見れないんだから」
 と、ミリアリアまでが後に続いた。






「くっそ〜〜〜ッ! またしても落とせなかったか……」
 悔しがるイザークの顔に、以前のような激しさはなかった。
 アスランも、ようやくホッと胸を撫で下ろした。
「腕を上げたな」
「イザークさんもです」
 顔を見合わせ、硬く握手を交わす。
「イザークでいい。敬語もいらん」
「わかった。イザーク、これからもよろしく」
「あぁ。戦争を終わらせたら、また勝負してくれ」
「うん。でも、そうなったら、もうMSには乗りたくないんだ。それがシミュレーターであっても」
「ならば、他のものでも構わん。チェスなんかどうだ?」
「喜んで!」
 その言葉に慌てたのはアスランだった。
「やめとけ、キラ。イザークに目をつけられたら、四六時中、勝負を挑まれるぞ?」
 アカデミー在籍中から数えて1500回以上勝負させられたアスランが、うんざりしたように言う。
「うるさい。腰抜けは黙ってろッ!」
 角を付き合わせる二人から、キラはそーっと離れ、ディアッカに聞いた。
「ねぇ、アレ、どーしたらいい?」
「ほっとけって。アイツら昔からずーっとあんな調子なんだからさ」
「そうなの?」
「そうなの。アイツらの気が済むまで、お茶でもしてよーぜ?」
 勝手知ったるアークエンジェルの食堂に向かって、ディアッカは飄々と歩き出した。






 その遠く背中の方で、「アスラーン、勝負だッ!」「受けて立つさ!」なんて声が聞こえて、ディアッカは「ヤレヤレ」と首を鳴らすのだった。


さらに調子に乗って第4弾。自分でもここまで来るとは思ってなかった。
無印、運命通しての初めての邂逅。今度こそあって欲しい!