Age


「貴方は行きなさい」
 崩れ落ちるメサイアの中。デュランダル議長に寄り添うグラディス艦長がキラに叫ぶ。
 キラは一瞬の逡巡を見せたが、すぐに踵を返した。
 まだ全てが終わった訳ではない。
 キラには未来を選んだ責任があるのだ。
 ドアのところで、金髪の少年が泣きじゃくっているのが目に入った。
 放ってはおけなかった。
「一緒に行こう、君の未来を探しに……」
 少年はピクリと動き、小さく頷いた……ように見えた。
 キラは彼の身体を抱くようにして、ストライクフリーダムのところへ急いだ。
 無重力の空間だからこそ、キラのように非力でも、自分と同じぐらいの少年を連れて行ける。
「君の名前は?」
「レイ……レイ・ザ・バレル」
 まだ涙が止まらないまま、少年……レイはキラの問い掛けに答えた。






「よぉ、キラ! 無事だっ……………なんだ、また拾いモンしてきたのか?」
「またってなんですか、またって……アレ? もしかして……?」
 レイを連れて歩くキラに話し掛けてきた男・フラガに、違和感を感じた。
 彼が未だ自分をネオ・ロアノークだと思っているなら、『また』とか『拾いモン』とは言わないはずだ。
「あぁ、バッチリ思い出したぜ。マリューのことも、お前のことも、な」
 ウインク付きで言われて、キラは喜びを滲ませた苦笑を返す。
 変わってない事が嬉しい。だが、そういう事は、マリューにだけすればいいのだ。
「で、誰なんだ、コイツは。見たとこザフトらしいけど、ディアッカ達の部下じゃねーだろ?」
「わからないんですか、ムゥさん?」
 キラの責めるような視線に負けて、フラガはジィーッとレイを見つめた。
「なるほど、な……。アイツと関わりのある奴か……」
 一方のレイも、フラガに何かを感じていた。
「なんで連合の人がここに?」
「あ? あぁ、まぁ……いろいろあったんだよねぇ〜。そっか、お前があの白いボウズ君だったんだな」
 白いボウズという言葉に、カチンとくるものがあったけれど、このムゥと呼ばれた男がどういう人物だかもわからないうち
に、下手なことは言わないほうがいいと判断し、レイは黙り込んだ。
「キラ、マリューがブリッジに来て欲しいんだと。お前が帰ってきたら、そう伝えて欲しいって言われたんだよ」
 そのために、格納庫でキラが帰ってくるのを待っていたのだと、フラガは言う。
「わかりました。でも……」
 彼を放っておくわけにはいかない、と暗にキラはほのめかす。
「あぁ、俺が食堂へ連れてってやるって。ちょうど、コイツのお仲間さんもいることだしな」
「お仲間?」
「あぁ、デスティニーとインパルスのパイロットだとさ。月面で動けなくなってたのを、アスランが拾ってきた」
「なら、大丈夫ですね。じゃあ、ムゥさん、お願いします。レイ、この人について行って。すぐに僕も行くから」
 レイがコクンと頷くのを見て、キラはブリッジへと向かっていった。






 ミネルバとは少し勝手が違うアークエンジェルの廊下を歩きながら、レイはフラガに問いかけた。
「貴方は俺のなんなんですか?」
「ん? クルーゼからは何も聞いてないのか?」
「えぇ」
「俺がお前の何か……って前に、お前さんはクルーゼのなんなんだ?」
「俺はラゥ・ル・クルーゼです」
 キラに言ったのと同じ言い方をレイはあえてした。
 フラガはチラリとレイを見て、ふ〜んとだけ言った。
 そのまま何も言わずに進むフラガを、レイは追った。
「何、考えてたんだろうね〜、アイツは……」
 クローンとして生まれた自分を忌み、人の業を呪い、世界を破滅させようとした男が、自分と同じ存在を生み出すとは……。
「で? お前さんも世界の破滅を願ってたわけ?」
「……いえ。ただ、自分が存在する意味が欲しかっただけです」
 未来のない自分だから、望むものなどなかった。
 未来の代わりに、ギルは意味をくれた。
 自分がいま生きている意味を。
 それがギルの駒となることでも、構わなかった。
 いまそこに在る意味があれば。
「歪んでるねぇ〜、アイツもお前も……。親父が歪んでたんだから、仕方ないか……」
「親父?」
 クローンである自分達に親などいない。
 フラガのいう『親父』の意味がわからず、レイは眉を寄せた。
「俺の親父、アル・ダ・フラガ。クルーゼは親父のクローンだ。お前さんも、ってことになるのか……」
 フラガは、そう言って立ち止まった。






 シンとルナマリアは、食堂で所在なさげに座っていた。
 姿を現したオーブの軍服を着た男の後ろに、見知った顔を見つけ、ガタンと椅子から立ち上がる。
「レイ!?」
「よかった、無事だったのね!」
「二人も……」
 あの後、どうなったのか。何があったのか。どうして、ここに来たのか。
 聞きたい事はたくさんあったが、なんとなくここで話すのは憚られて、口を噤んでしまう。
 居心地悪そうにしていたところに、先程のオーブの軍服を着た男が、コーヒーを運んで来た。
 ふと、その男を見上げたルナマリアは、思わずその顔に見入ってしまった。
「どうした? お嬢ちゃん?」
「え……あの……」
 ルナマリアは、レイの方に視線を移す。
「ルナマリア?」
「う…ん……あのね、このヒト、レイと似てるな……って……」
 ナチュラルと似ているなんて、レイが気を悪くするかもしれないと思いながら、ルナマリアは言いにくそうに口を開く。
「まぁ、似てても不思議じゃないな。遺伝子は繋がってるんだし」
「そう……なの?」
 ルナマリアがレイに聞くと、レイはコクンと頷いた。
 ナチュラルとコーディネーターが血縁であっても不思議ではない。
 ルナマリアだとて、祖父母の代まで遡れば、ナチュラルだ。
「えっと……従兄弟……とか?」
「いや、親子だ」
 レイの言葉に、ルナマリアは驚いた。
「レイ、あなた、第一世代だったの?」
 ナチュラルと親子ということは、それしか考えられなかった。
 だが、そこへシンが口を挟んだ。
「あれ? でも、レイはクローンだって……」
「えぇっ!?」
 クローンは違法。それぐらいのことは、ルナマリアも知っている。
「シンの言葉は正しい。俺はこの人の父親のクローンだ。生まれつきテロメアが短かくてな。せっかく助けてもらった命だが、そう長くはない」
 レイはそう言って、コーヒーを啜った。
「長くはないといっても、まだ充分人生残ってるさ」
 ラゥ・ル・クルーゼは27年生きた。戦争がなければ、もうちょっと長かっただろう。
「そういや、お前さん。実のところ何歳なんだ?」
「……………」
 レイは思わず黙り込んだ。
 それを聞かれるとは思わなかったのだ。
「クルーゼは俺が3つの時に生まれた。だが、3年後に会った時には、俺と変わらないぐらいに成長していた。この歳になりゃ、3歳の差なんて見た目わからねぇが、6歳と3歳じゃ大違いだろ? それに、メンデルで奴の顔をみた時、アイツは俺の倍は歳をくってるように見えた。だからな、お前も見た目通りの歳じゃないんだろ?」
「……………8年です。俺が生み出されてから」
「「ってことは……………はっさいぃ〜っ!?」」
 シンもルナマリアも、驚愕のあまり声が裏返る。
 誰よりも冷静で、誰よりも優秀で、誰よりも大人びたレイが、自分達の半分しか人生を経験してないことに。
「シン……どう見ても、シンの方が子供よね……」
「うるさいなぁ〜。ルナだって人の事言えないだろ?」
 シンとルナマリアは子どもじみた言い合いを始めたが、レイの呆れた視線に気付くと、口を閉ざした。


あろうことか、イザークもアスランも……それどころか、キラさえ冒頭に出てきただけ。
そして、ヤマもオチもない話です。でも、書きたかったんだもん〜。
ネタだけは『FINAL PLUS』放送前から考えてあって、ちょこちょこ書いてたんですが、
結局『FINAL PLUS』に間に合わなかったから、出しそびれてました。
仮面隊長の仮面を取ると壮年……という設定を見て(アニメではそれほど年くってるように見えなかったけど)、
それならレイはいったい何歳なんだ???と思ったのは、私だけ???






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