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端末を立ち上げると、今日もメールが何十通も送られてきていた。
差出人は一人。ユーリ・アマルフィ。ニコルの父である。
「お父さん……」
ニコルは、大きな溜息を吐くと、大量のメールを見ることもせずに削除した。
添付ファイルがついている時点で、内容はわかっているのだ。
ザフトの女神と言われながらも、その実態を知られることのなかったセイレネス隊。
そのセイレネス隊が、自分たちが4人がかりで攻め落とせなかったアークエンジェルを制圧したと聞いた時には驚いた。
セイレネス隊がたった3人のメンバーで構成されていることにも。また、その隊長がプラントで平和を歌う歌姫だったことにも。そして、そのメンバーが自分の同僚の婚約者たちであったことにも。
同僚達には同僚達で、気が気でないらしい。
愛しい婚約者が、脚付きなんていう危険なところに居たこと。まかり間違えば、自分の手で婚約者を死なせてしまうところだったこと。他にも思うところがそれぞれにあるようだ。
アスランの場合は、歌うことしか出来ないと思っていたラクス嬢が、特殊部隊の隊長で、しかも相当な策略家であったことよりも、エザリア様に強制されてるんじゃないかとか、連合軍に酷い事をされてないかとか、キラさんやミリィさんに悪影響を受けてるんじゃないかとか……。
(僕に言わせれば、そんな心配は全然必要ないんですけどねぇ〜。ラクス嬢はそんなタマじゃありませんよ。天然ぶってますが、結構腹黒ですよ、アレは……)
ニコルは自分のことを棚にあげて、ラクス・クラインをそう評した。
もっとも、ここはニコルの部屋で、周囲には誰もいないから、ニコルの評を誰かが聞きとがめることはない。
むしろ、だからこそ、酷評することができるのだ。
でなければ、自分の明日はないに等しい……と、わかっている。
いま現在、絶対に機嫌を損ねていけないのは、クルーゼ隊長ではなく、ラクス・クラインの方なのだ。
ディアッカの苦悩なんてものは、ニコルにとっては苦悩のうちに入らないようなことである。
婚約者のミリィさんが格闘技オタクだということは知っていたらしいが、あの『エンディミオンの鷹』を一瞬で伸してしまうほど強いということまでは知らなかったらしい。
同僚の自分の口から言うのもなんだが、はっきり言って、ディアッカは女にルーズである。
プラントにいる時は、両親やミリィさんの目があるのを気にしていたのだろう、自粛していたようだったが、宇宙に出た後は、よくガモフの通信担当の女性士官を口説いている姿が見受けられた。
ディアッカの苦悩というのは、そこである。ミリィという婚約者が居ることがクルーゼ隊中に知られてしまったため、ナンパができなくなること。ナンパしていたことをミリィに知られはしないか……と日々怯えているのである。
(まぁ……あれだけ強かったら、そりゃ、怯えるでしょうね。タダではすまなそうですし……。自業自得ですけどね。それでも同僚ですからねぇ〜、骨ぐらいは拾ってあげます)
庇う気持ちなど、さらさらない。自分だってまだ命は惜しいのだ。
(悪く思わないでくださいね、僕にはまだやりたいことがあるんですぅ〜)
まだ15歳なのだ。人生これからだし、しぶとく生き残って、セイレネス隊の3人には悪いが、おしとやかな女性と結婚したい! 子どもだって欲しいし、幸せな家庭も築きたい。ピアニストになる夢も捨てられない。
かくして、哀れなディアッカは簡単に見捨てられた。
3人の同僚の中で、一番悲壮な顔をしているのがイザークかもしれない。
イザークに至っては、撃墜したくて躍起になっていたストライクのパイロットが最も愛しい婚約者であったことに、激しいショックを感じていた。
守りたいと願っていた人が敵のパイロットだったことではなく、婚約者にMS操縦の腕で劣っていたことに……。
MS操縦の腕前だけではない。キラ嬢のプログラミングレベルはザフトの中でもトップクラス……いや、父の居る開発局が束になっても適わないほどの高レベルである。AIを作り、彼女達が制圧した脚付き――連合での名称は『アークエンジェル』というらしい――を無人で航行させている。
さらに言えば、彼女達セイレネス隊を統括しているのが、彼の母親であるエザリア・ジュールだということも、イザークの想いを複雑にさせているのだろう。
3人の中では、一番同情すべき人物ではある。が!
(同情なんかしてあげられませんよッ! 僕の苦悩も知らないで……。ま、イザークは同情なんかして欲しくないでしょうけどね)
そう。ニコルにだって苦悩はあるのだ。
ニコルの苦悩もセイレネス隊によって齎された。
3人の美少女達が揃いも揃って、同僚の婚約者だ、というところに事は端を発する。
評議会では、彼女達セイレネス隊の活躍が話題となり、さらにパトリック・ザラ、タッド・エルスマン、そして元締めでもあるエザリア・ジュールが連日、婚約者自慢を繰り広げているらしい。
ニコルの父ユーリ・アマルフィとしては、そんな彼らを羨ましく思い、ニコルにも婚約させ、さらにはその婚約者をセイレネス隊に入れたい……と考えてしまったのだ。
おかげで、ニコルの元には毎日のように見合い写真がメールで送られてくる。その量たるや、ザフトの全女性兵士よりも多いのではないか……と思うぐらいだ。
(迷惑なんですよね〜)
父から送られてきたメールを選択すると、ニコルは開封もせず削除ボタンをクリックした。
別段、好意を寄せてる女性がいるわけではないが、結婚相手ぐらいは自分で見つけたいと願うニコルであった。
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