ザフト最強と言われるクルーゼ隊。
 その中でも、エースと言われる紅を纏う4人のパイロットたち。
 誰もが、彼らのことを『英雄』だと思っていた。
 秘密裏に中立国で製造されていた連合のモビルスーツを奪取し、新造艦アークエンジェルを墜とした『ネビュラ勲章』ものの英雄だと……。
 だが、それは評議会によって作られた英雄だった。
 彼らの真の姿とは……。

口は災いのもと

 表のザフト最強であるクルーゼ隊のエースパイロット達は、今日も元気に愚痴をこぼしあっていた。
「まったく……お前の母親は一体どういう了見してるんだッ! ラクスのあの白魚のような手にマシンガンを握らせるなんてッ! 万一のことがあったら、どうしてくれる?」
 溜め息混じりに、アスランが口火を切る。
「俺に言うなッ! 俺だって、キラがMSなんて危険なものに乗せられていて、困ってるんだッ!」
 そして、毎度のことながら、イザークがそれに噛み付く。
「いや、キラなら大丈夫だろ。あいつは昔から男勝りだったから」
「なんだとぉーッ! キラを侮辱するなッ!」
「侮辱なんかしてないさ。俺は事実を言ったまでだ」
 キラと幼なじみであるアスランが言う。
 アスランは昔から、キラには振り回されっぱなしだった。
 男子に混じってバスケやサッカーをしたり、時には取っ組み合いのケンカをしたり。
 仲裁に入ったことも数知れず。
 イザークと婚約したと聞いて、少しは女の子らしくなったのかと思いきや、案の定、この騒ぎだ。
「心配なのは、キラよりラクスだ! ラクスはなぁ、キラと違ってお嬢様育ちなんだぞ? プラントの歌姫って言われてるな。マイクより思いものなんて、持ったことないんだ。それなのに、マシンガン!? あぁ……キラに会わせたりしなければよかった。同年代の友達がいないっていうから……。俺もキラぐらいしか知らなかったし……。けど、悪い影響受けまくってるじゃないかッ!」
「貴様ッ! 言わせておけば!」
 旧知の仲とは言え、人の婚約者に対して、なんたる言い様。
 最早、聞き捨てる訳にはいかなかった。
「表へ出ろッ!」
「…………………………」
 ヒュルリンと微妙な空気が、その場に流れた。 そう、ここは真空の宇宙。
 表へ出れば、即、死が待っている。
「おいおい、イザーク。表って言ったって、ここ何処だかわかってっか?」
 止めときゃいいのに、ディアッカが横槍を入れた。
 徹底的に傍観者に徹しているニコルは、「地雷、踏んじゃいましたね……」と呆れていた。
「うるさいうるさいうるさーいッ! 貴様の彼女こそ、どうなんだッ!?」
「うわっ、薮蛇!」
 そんなこと……いまさらである。
 地雷を踏んだ貴様が悪い。
 さらに、アスランが畳み掛ける。
「ディアッカの婚約者ってのも、案外ガサツなコだったな……。エルスマン家の跡取り息子の嫁があんなでいいのか? ま、ジュール家の嫁がキラってのも、同じだが……。 その点、ラクスは違う。おしとやかなクライン家のご令嬢だからな」
 確かに、キラもミリアリアも市井の出だ。
 だが、そんなことは些末なこと。
 何より彼らが見初め、どちらの家でも、歓迎されて婚約したのだから。
 そして、ラクス・クラインが、両家の息女で、『プラントの歌姫』と呼ばれるアイドルなのは確かだから、イザークとディアッカもなかなか言い返せない。
「アスラン、貴様……」
「表出ろッ! 決着つけてやる」
 いや、だから……表は宇宙だって言ったの貴方ですよ……ディアッカ。
 ニコルはもう、この超低レベルな言い争いを聞いているのもイヤになって、早々に退散することにした。
(僕……婚約……したくなくなりましたよ……)
 部屋に戻ったら、父親から送られてきた、お見合い写真がごっそり添付されたメールを削除しようと、心に決めたニコルだった。
 パトリック、エザリア、タッドの3人に未来の嫁自慢をされたユーリが、嫁をセイレネス隊に入れたくて選んだ見合い写真だと言うことを知らなかったニコルは懸命だったかもしれない。
 3人の超低レベルな口喧嘩は、なおも続く。
「ジュール家もエルスマン家も先行き心配だよなぁ、あんなのが嫁じゃあ……。あぁ、だからヒラ議員のままなんだな」
 アスランの口撃は止まるところを知らない。
 日頃、何かと突っかかってくる2人が相手からか、本音とは違うことまで、次から次へと口をついて出てくる。
 別に、キラを貶めるつもりはなかったし、ディアッカの彼女がどんな女でもよかった。
 ただこの2人をやりこめたいだけだったのだ。
「貴様……」
「それ以上言うと承知しねーぞッ!」
 婚約者ばかりでなく、親までも侮辱されて、2人の堪忍袋はもうぶち切れる寸前だった。
 その時……。
「ふ〜ん、アスランは僕のこと、そんな風に思ってたんだ」
「キ、キ、キ、キラ……」
「私は面識ないハズなんだけど……随分なこと言ってくれるじゃない?」
「私がお嬢様育ちなのは確かですけれども……」
「ラクスまで……」
 聞き覚えのある声に振り返れば、裏の最強であるセイレネス隊の3人が立っていた。
 3人が3人とも、ニッコリと笑って……いや、顔は笑っているが、眼だけが笑っていない。
 はっきり言って、怖すぎる情景だった。
「脚つきに居たんじゃ……!?」
 狼狽えるアスランの横から、ディアッカとイザークも口を挟んでくる。
「ってゆーか、3人で来ちゃって大丈夫なのか?」
「連合の新造艦は無人航行できるのか?」
「アークエンジェルに元々あった機能じゃないもん。僕が組んだAIのおかげ。僕のAIに不可能はない!」
 キラが腰に手を当て、エッヘンと威張って言う。
 キラ達がイザーク達にキを取られている隙をついて、こっそり逃げ出そうとしていたアスランはグイッと引き戻された。
「逃げられないわよ、アスラン・ザラ」
 ミリアリアが襟首を掴んでいた。
「幼なじみの僕に対して、随分な言い様だよね〜」
「あ……」
「私のことを良く言ってくださるのは嬉しいのですけど……、私のお友達を悪く言われるのはイヤですわ」
「う……」
 アスランはダラダラと脂汗を流した。
「ほ……本心じゃないんだッ! その…、売り言葉に買い言葉ってヤツで……」
「俺たちは何も売ってねーぜ?」
「売ってきたのは貴様だ!」
 その通り! いつもはともかく、今回ばかりは、最初に売ったのはアスランの方だ。
「ねぇ、ラクス……?」
「そうよねぇ?」
 キラとミリアリアが意味ありげにラクスに視線を向ける。
「仕方ありませんわね。悪い子には、お仕置きが必要ですから……」
「よっし!」
「ラクスのお許しも出たもんね♪ いくわよ、アスラン・ザラ」
 アスランはそのままズルズルと2人の少女達に連れ去られた。
「それでも一応、私の婚約者ですから。手加減してくださいね〜」
 ニッコリと手を振りながら、連れ去られるアスランを、ラクスは見送る。
(一応なのか……)
(腰抜けめ……。完全に尻に敷かれているな……)
 2人の心の中の声は、婚約者には聞かせられない。
 聞かれれば、間違いなく、薮蛇になると確信したから。
「イザーク様、ディアッカ様、アスランが大変失礼をいたしましたわ」
 ペコリと頭を下げると、ラクスは楽しそうに3人の後を追っていった。
 その後ろ姿を見ていたディアッカは、ぼそっとイザークに呟いた。
「……なぁ、イザーク」
「なんだ?」
「最強って……ひょっとしなくても、ラクス・クライン?」
「……だな」
 二人は、ラクス・クラインを敵に回すようなことだけは絶対にするまい、と固く心に誓うのだった。






 数時間後、ボロボロになって戻って来たアスランは、
「ディ、ディアッカの婚約者は……お、おしとやかだな……。キ、キラも……見違えるほど……お、女らしくなって……おおお、驚いたよ……」
 と、顔を引きつらせながら言った。
 アスランの身に何があったのか……。
 それは、永久に謎のままだった。

調子に乗って第3弾♪
今回は、ヘタレアスランを書いてみました。
キラ馬鹿じゃなくて『ラクス馬鹿』なアスランって案外難しい……。