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アークエンジェルの中には、民間人がいる。
キラがポッドごと拾ってきたヘリオポリスの人々だ。
連合軍を拘束したいま、彼らもまたセイレネス隊の管理下にある。
民間人たちは、プラント経由でオーブに引き渡されると説明を受け、さしたる混乱もなく、アークエンジェルでの生活を送っている。
ナチュラルといえど民間人である自分達をザフトが迫害することはないと知り、もうザフトの攻撃に晒される不安がなくなって、ホッとしているようだった。
本当のことを言えば、このアークエンジェルを取り返そうとする連合軍に攻撃される可能性があるのだが、闇雲に不安を煽ることもないと、黙っていた。
第八艦隊本隊といえど、ストライクという味方を失ったいま、ザフトの敵ではない。
智将と謳われたハルバートンでも、クルーゼ隊の4機のGの前には、ひとたまりもないだろう。
それぐらいやって貰わねば、ザフトレッドの制服が泣く。
アークエンジェルは何も問題なく、プラントを目指して進んで行く。
ただ一つ、問題があるとすれば、小さな子供たちがいることぐらいだろう。
遊び場などあるはずもない戦艦の中。
危ないから、出歩くなというのも、遊びたい盛りの子供にとっては酷なことである。
少しでも子供たちの気が紛れるように、遊び相手となることも、キラ達の仕事となった。
ラクスは歌を歌い、ミリアリアはプロレスごっこの相手になる。
「キラお姉ちゃんは、何して遊んでくれるの〜?」
キラの得意分野は情報処理。
簡単なゲームのプログラムなら、すぐに作れる。
だが、遊ばせるためのハードがない。
さすがに、キラ愛用のパソコンが子供のオモチャになるのは、いろんな意味で困るのだ。
(シミュレーションマシンを改造してゲーム機にしてもいいんだけど、時間かかるからなぁ〜)
辛抱きかないのが子供である。
(うーん、どうしよー。僕、どんなことして遊んでたっけ?)
キラはちょっと考えて……面白いことを思いついた。
「そうだねぇ〜、工作でもしよっか!」
「うん♪」
「じゃあ、ちょっと待ってね」
キラは作図用のアプリケーションを開き、ひょいひょいと図面を引く。
それを厚めの紙に出力し、子供達に配った。
「まずは、この外側の線にそって切るんだよ」
「ハーイ」
素直な子供達は、キラに言われた通りに紙を切っていく。
「まぁ、楽しそうですわね〜」
キラが何を作らせようとしているかわかったラクスとミリアリアが子ども達のところへ寄って来る。
「私たちも仲間に入れてよ」
子ども達が「いいよ〜」と言って、二人分のスペースを空けた。
「そしたら、ここで半分に折って……」
「折ったよ〜」
子供達は早く早くと次を急かす。
「今度はこことここをくり抜いて穴をあけてね」
穴をあけるという作業に、苦戦しながらも子供達は楽しんでいた。
「そしたら、いまあけた穴に、裏側から、この水色のセロファンを貼ってネ」
戦艦にそんなものがなぜ積んであるのか? 連合軍の考えてることはよくわからないが、あるものはあるのだから使わせてもらう。
「最後に、輪ゴムをつけて……さ、出来上がり〜♪」
「キラお姉ちゃん、これ何?」
出来上がりと言われても、子供達はそれが何だかわからない。
いや、何をするものかはわかるが、自分達が知っているソレとは違いすぎる。
「あんま……カッチョよくない……」
そう、色もなく、飾りも何もない。子供受けしないデザインであることは、キラも承知していた。
「それを使って、これからお姉ちゃんがイタズラするの。みんなも手伝ってくれる?」
イタズラと聞いて、子供達の目が輝いた。
子供というのはイタズラが大好きな生き物だ。
誘われて、断る子供など一人も居なかった。
「手伝ってくれる子には、特別にいいとこに連れて行ってあげるネ♪」
子供達はワァーッと歓声を上げて、キラの後に着いて行った。
その頃、ヴェサリウスでは……。
ザフトが誇るエースパイロットが3人、頭を抱えて悩んでいた。
「イザーク! どこ行くんだ?」
「どけ、ディアッカ。俺は脚付きに行くぞ!」
「勝手なこと、すんなって!」
「うるさいッ! 貴様は彼女が心配じゃないのかッ? 帰るだけとは言え、女3人だけで戦艦を動かすなんて!」
攻め込んでいた連合軍の戦艦に、イザークの婚約者であるキラ、ディアッカの婚約者ミリアリア、アスランの婚約者ラクスの3人が居ると知り、イザーク達は大いに慌てた。
しかも、彼女達は隠されたザフトの女神、特殊工作隊セイレネス隊で、脚付きを攻略しに来たのだと知り、驚いた。
そしてさらに、その3人だけで、脚付きをプラントまで運ぶと聞いて、居てもたってもいられなくなった。
「俺だって心配だよッ! けど、俺らが行ってどーなるもんでもないだろ?」
イザークもディアッカも、ついでに言えばアスランも所詮はパイロットで、戦艦の運行知識には乏しい。
「だがッ……」
ディアッカの言うことはわかるが、キラを心配する気持ちは収まらない。
「アスラン、貴様はどうなんだ? ラクス嬢が心配じゃないのかッ?」
いつもと変わらない様子で黙々とメンテナンスに勤しむアスランに矛先を向けた。
「そんなことある訳ないだろう。だが、ディアッカが言うように、いま俺達が行っても仕方ない! それに……」
「それに?」
「もうすぐ、定時連絡の時間だ」
通信して彼女達の様子を見てからでも、問題はない。
アスランは力なく立ち上がり、格納庫から出て行った。
「……アスランの言う通りじゃね?」
「……………」
確かに、通信すれば、現状はわかる。
イザークも今すぐ行ってキラに会いたいのは山々だが、まずは通信に立ち会うことに同意した。
ブリッジに入ると、ちょうど呼び出しをかけているところだった。
「脚付きに繋がりました。モニターに出します」
なぜか通信士の声が震えている。
その理由は、モニターがオンになった瞬間、その場にいた全員が理解した。
「ごきげんよう、皆様」
ラクス嬢の声がするが、モニターに彼女の姿はない。
代わりに、画面いっぱいに子供達が映っていた。
しかも、クルーゼを真似した仮面をつけて……。
「ラ…ラクス嬢……、これはどういうことだね?」
仮面で隠した顔をひきつらせながら、クルーゼが問いかける。
クルー達は、一瞬あっけにとられたものの、にじみ出る笑いを懸命に堪える。
「可愛いでしょう? アークエンジェルには民間人が多く……こんな小さな子まで乗ってますの」
向こう側にも、クルーゼの姿がモニターされているのだろう。子供達が指差して笑っている。
「いや…そうではなく……」
何で子供がブリッジに居るのか……とか、何でそんな格好をしているのか……とか、聞きたくてもクルーゼは言い出せなかった。
子供というのは無邪気で怖いもの知らずな生き物である。
「おじちゃん、大人のクセになんでお面してるの〜?」
「これ、おじちゃんの真似っこだったんだね……でもダサいよ……」
「もっとカッチョいいのにしろよなぁ〜」
唯一見えているクルーゼの口元がヒクヒク動く。
その後ろでは、紅服の4人が吹き出したいのを、必死に堪えている。
「な、何も……問題はなさそうですな」
「えぇ、快適で楽しいですわ」
ラクス嬢は相変わらず姿を見せない。
「結構。では、これで……」
まるで羞恥プレイのような通信を、クルーゼは早く切ろうとする。
「「「ちょっと待ってください、隊長」」」
声を揃えて忘れられた婚約者達が叫ぶ。
戦闘でもこれだけ息があってたら、今日のこの事態にはなっていなかっただろう。
「……何だね?」
早く切りたくて仕方ないクルーゼは、チッと舌打ちして、振り返った。
「キラッ!」
「なぁに〜?」
「ミリィ!」
「ん?」
「ラクス」
「はい?」
「「「顔ぐらい見せろッ!」」」
声はすれども、姿は見えず。
これで通信を切られた日にゃ、何のためにここへ来たのかわからない。
まぁ、声の感じからすると、元気そうだと、ひとまずは胸を撫で下ろした。
「僕からもお願いします。でないと、この3人が何をやらかすか……」
哀れな同僚に同情したニコルもフォローに入る。
エースパイロットの気も知らず、モニターの向こうからは、「ハーイ♪」という暢気な声が返る。
だが、ようやく愛しい婚約者の顔が見れると、モニターを凝視した次の瞬間、彼らは撃沈した。
「「「「……………」」」」
そこに映ったのは、クルーゼの仮面(もちろん紙製)を付けた3人の少女達。
3人の婚約者達は頭を抱えてへたりこみ、残ったエースパイロットは気の毒そうに彼らを見た。
クルー達は、ついに笑いを堪えきれなくなり、ブリッジは爆笑の渦に巻き込まれた。
そして……クルーゼは、手を震わせながらブツリと通信を強制終了させた。
「ハーイ、みんな〜ありがとね〜♪」
「俺達、でっかいテレビ見ただけだぞ? イタズラすんじゃなかったのかよ?」
「みんなにアソコに立ってもらうのが、イタズラだったんだ。はい、ご褒美」
ミリアリアが子供達にチョコレートを渡していく。
子供達は訳がわからないが、チョコレートが貰えたから満足だ。
「お姉ちゃん達、また遊んでね〜♪」
そう言って子供達はブリッジを出て行く。
「さぁて、僕達は連合の皆さんにご機嫌伺いに行きますか」
3人連れ立って営巣に向かう。
仮面を付けたままで……。
その後、過剰な反応を示した連合軍の英雄が根掘り葉掘り尋問されることになったのは、余談である。
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