「全くっ! なんてことかしらッ! こちらが、これだけ協力してやってるというのにッ!」
「いたしかたありませんわ。皆様、そうと知らずに戦っていらっしゃるのですから……。とはいえ、4人がかりであのザマとは……」
「それもこれも、あの男が……。はぁ〜〜〜〜〜っ。もう、しょーもない男どもを頼りにするのは止めにしましょう」
「では……」
「えぇ、お願いよ」
「おまかせくださいませ」
「役立たずたちを影から支えるなんて不毛なこと、これ以上続けていられるものですか! これからは、女の時代よッ!」

出動! セイレネス隊


 コズミックイラ71。
 ヘリオポリスという犠牲を払って船出した地球連合軍艦アークエンジェルは、ザフト軍クルーゼ隊の猛追を受けていた。
 不足する物資を補うためにユーラシアの要塞『アルテミス』に入港したものの、不審船として拿捕された。
 あげくは、そこにもクルーゼ隊の攻撃が加えられ、命からがら逃げ出す事となり、結局、補給を得る事は叶わなかった。
 一計を案じたアークエンジェルは、デブリベルトへと向かう。
 そこには、連合軍の核攻撃によって無惨な姿となった『ユニウスセブン』が浮かんでいた。
 氷の塊を運び、“補給”を終えたストライクは、そこで救難信号を発する救命ポッドを拾うこととなった。
「開けますぜ?」
 整備士たちの手によってロックを解除されたポッドの扉が開く。
「ご苦労様です」
 軽やかな声とともに、一人の少女がポッドから現れた。
 驚きとともにそれを見る、二人の少女がそこにいた……。
 ポッドから現れた少女の名は、ラクス・クラインという。
 現・最高評議会議長であるシーゲル・クラインの娘であり、『プラントの歌姫』という異名を持つ少女である。
 アークエンジェルのクルーたちは、彼女を軟禁した。
 孤立無援の戦いを強いられていたアークエンジェルが、第八艦隊との合流を目前とした時、またもやクルーゼ隊が攻撃をしかけてきた。
 目の前で先遣隊の艦が沈んでいくのを見たアークエンジェル副官のナタル・バジルールは、ある決断を下した。
「当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している」
 その言葉によって、彼らは自らの死刑執行書にサインすることとなったのだ―――。





「「ラクス!」」
 ラクス・クラインが軟禁されている部屋へ、二人の少女が飛び込んできた。
 彼女たちは、連合の少年兵の制服を着ていた。
 けれど、それは本当の姿ではない。
「私は大丈夫ですわ♪ でも……、もう待てませんわね」
 先遣隊は全滅したが、第八艦隊はもうそこまで来ている。
 クルーゼ隊がアークエンジェルを攻略するのを待ってなど居られなかった。
「それじゃあ……」
「はい。私たちの手で、この鑑を制圧します」
「あ〜久しぶりに暴れられるわね♪ ナチュラルのふりしてたから、身体がなまっちゃいそうだったわ〜」
 ミリアリアがブンブン腕を振り回す。
 ミリアリアはナチュラルではなかった。そして単なる学生でもない。れっきとしたザフトの軍人なのである。
 それは、キラも同じだ。違うのは、コーディネーターであることを、最初から隠していなかったことぐらいだ。
 そして……、ラクスも単なる歌姫ではない。彼女もまた、ザフトの軍人だった。
「では、お着替えしましょう♪」
 まるでパーティーに行くような口調で、ラクスが言うと、キラがジワリと後ずさる。
「あ…あれ、着るの?」
「当然ですわ。私たちはザフトの軍人なのですから。連合の制服をいつまでも着ている訳にも、いきませんでしょう?」
 顔をひきつらせるキラに、ラクスはニッコリ笑って答える。
「逃がさないわよ〜、キラ」
 ミリアリアがキラの動きを読んで、キラの退路を断つ。
 バキバキバキッと、指を鳴らす音もしていた。
 数分後、少女達は装いを新たにしていた。
 ザフト特有のデザインである上着は同じだが、色とボトムが違う。
 ラクスはピンク色のフレアースカート、ミリアリアはオレンジ色のキュロットスカート、そしてキラは薄紫色のミニスカートだった。
「恥ずかしいよぉ〜」
 キラは少しでも丈を伸ばしたくて、裾を引っ張る。
「お似合いですわ♪」
「うんうん。でも、なんか腰がスースーするわぁ〜」
 本来なら下げているはずのモノがないのは、なんか落ち着かない気分になる。
 ミリアリアがそう訴えると、ラクスがポンと手を叩いた。
「忘れてましたわ! ピンクちゃん、お口を開けてくださいな」
「ハロ〜」
 そう鳴いて、ピンクのハロがパカリと口を開ける。
 そして、ラクスがそこに手を入れた。
「はい、ミリアリアの愛用品ですわ」
 ラクスがハロから取り出したのは、アーミーナイフ。
 格闘技オタクであるミリアリアは、射撃よりナイフ戦を得意としていた。
 その腕前たるや、じゃじゃ馬として有名などこぞの姫など足元にも及ばない。
 ミリアリアが嬉しそうにそれを受け取って、腰に下げる。
 ラクスはまたハロの口に手を入れた。
「はい、キラも」
 キラ愛用のパソコンが渡される。
「あ…ありがとう」
 ハロのどこに、これがしまえるのか……甚だ疑問であるが、受け取って作業を開始する。
 ラクスはさらに手を入れ、自分愛用のマシンガンを取り出した。
「「……………(どうみたって入らないよッ、それ!!)」」
 ハロの口は4次元ポケットかッ!?
 そうとしか考えられない二人だった。
 段取りを確認しながら、キラは準備を済ませる。
「では、参りましょう♪」
 マシンガンを構えながらニッコリ笑うラクスに、脱力しそうになりながらも頷き、キラとミリアリアはアークエンジェル制圧に向けて走り出した。





 人手不足が幸いして、誰にも見られずブリッジまで、辿り着く。
「皆様、手を上げて下さいませ」
 居るはずのない、居てはならない人物の声に、ブリッジクルーは一斉に振り返った。
 そして、目を瞠りながら、ゆるゆると手を上げた。
 ラクス嬢はわかる。このために、民間人としてアークエンジェルに乗り込んで来たのだろう。
 キラに関しても、認めたくはないが、コーディネーターである以上、ザフトである可能性はあったのだ。
 だが、もう一人……彼女はナチュラルではなかったのか?
「ミリアリアさん、貴女……」
「えぇ、コーディネーターです。そして、ザフトでもあります」
「ミリィ……」
 カレッジの仲間達が茫然と見つめている。
 その時、3人の背後でブリッジの扉が開いた。
「おーい、お嬢ちゃん達の姿が……」
 整備士を除いてただ一人、ブリッジにいなかったムゥ・ラ・フラガが入って来たのだ。
 フラガは状況を理解するやいなや、銃に手をかけた。
 だが、ミリアリアの回し蹴りが決まり、頸動脈にナイフが当てられる。
 そのスピードは、フラガですら見極めることが出来なかった。
「速ッ!」
「すげー」
「ミリィ、かっこいい!」
 カレッジ組が状況も忘れて、感嘆の声を上げた。
「この鑑は、私たちが制圧致します。妙な考えなど、起こさないで下さいませ。お命の保証は出来ませんわよ?」
 ラクスはそう言って、キラに目配せする。
 キラはパソコンを開くと、とあるコマンドを入力した。
 途端に、アークエンジェルの航路が変わる。
「ランデブー回避、進路アプリリウスワンへ変更」
 ラクスはチャンドラの元に歩み寄ると、通信機に手を伸ばした。





「た……隊長、脚付きから交信です!」
「ほぉ」
 ザフト鑑ヴェサリウスでは、ブリッジは軽いパニックに陥っていた。
「何か……罠とかでは……?」
 艦長のアデスが不安そうに仮面の隊長を見た。
「罠? どんな罠だと言うんだね?」
「それは……」
 わかったら隊長に進言などしていない、と気弱なアデスは内心ツッコミを入れる。
「まぁいい、繋いでくれ」
 クルーゼは余裕をかまして肘掛けに肘をついた。
 だが、次の瞬間、思いっきり椅子からずり落ちた。
「クルーゼ隊の皆様、ごきげんよう」
「ラ……ラクス様!?」
 クルー達が驚愕するのもムリはない。
 人質とされているはずの歌姫が、日頃目にするたおやかな姿とは違い、肩にマシンガンを担いだ勇ましい姿で、敵鑑から通信を繋げてきたのだから。
 クルーゼはなんとか気を取り直して、威厳を醸し出しながら尋ねた。
「ラクス嬢……貴女は人質となっていたのではないのかね?」
「人質? 違いますわ。私、潜入致しましたの。この鑑を制圧するために……」
「はい?」
 ラクスが何を言ったのか、誰もが理解できずにいた。
 ブリッジに集まってきていた紅服たちも、ポカーンとモニターを見ていた。
 そんな中で、いち早く立ち直ったのは、つい先程まで婚約者を人質にされたと憤慨していたアスランだった。
「ラ…ラクス、バカなこと言ってないで、大人しくしていて下さい! 貴女は必ず、私が救い出しますから!」
「まぁ、アスラン! 嬉しいですわ。捕らわれの姫は助けてくれた勇者と恋に落ちるものですから♪」
 妙に古臭いドリームの世界に浸ってしまったラクスに、キラとミリアリアがブーイングを漏らす。
「ラクス、バカなこと言ってないで、話進めてよ〜ッ!」
「そうだよ! 恋に落ちるなんて……な〜に今更なこと言ってんだよ! 婚約してるクセに!」
「いいじゃありませんか、夢見るぐらい……」
 両サイドからブーイングを浴びて、ラクスは不満そうな顔になる。
 だが、ヴェサリウスでは、その声に聞き覚えのある2人が、大いに慌てていた。
「キラ!? キラなのか!?」
「ミリィ……? なんでミリィが脚付きなんかにいるんだッ?」
 その声に、アークエンジェルからのほほんとした声が返る。
「イザーク、元気だった?」
「ハ〜イ、ディアッカ。久しぶり〜♪」
 婚約者たちの姿がモニターに映る。
 暢気に手を振っている二人をよそに、それぞれ婚約者が敵鑑に居ると知って、血の気を失った。
 ついさっきまで、あの敵鑑を落とそうと躍起になっていたのではなかったか? 自分たちは……。
「「お……お前、いつからそこに!?」」
「「ヘリオポリスから〜」」
「「なにぃ〜ッ!?」」
 妙に気の合った会話を断ち切ったのはミリアリアだ。
「アンタら弱すぎよぉ〜。キラ1人にな〜に手こずってんだか……」
 深い溜息が聞こえてくるが、それどころではないものが約1名。
「キラ……1人って……、まさか……?」
 ミリアリアの言葉が持つ意味に、イザークの顔は真っ青だった。
「まさか、ストライクのパイロットは……」
「うん、僕〜♪」
 最愛の人が、悪びれることなく言う。
 イザークは倒れそうだった。
 倒したかったMSのパイロットが、愛しい婚約者だったなんて……。
「なぜだ……なぜ、連合の味方を……俺達の邪魔をするッ!?」
「連合の味方なんかしてないよ〜」
「だが、お前は『脚付き』を守って……俺達の邪魔をしただろうがッ!」
「あったりまえデショ! ここにはミリアリアがいたんだよッ! コレが沈んじゃったら、ミリアリアはどーなるのさッ!」
 イザークの後ろで、ディアッカが白くなっている。
「だから、なんでそんなところにいるんだッ!」
 そうだそうだ、とイザークの背後からディアッカも同調する。
「だって……」
「言い訳無用ッ! あぁ、俺は母上にどんな顔をして会えばいいんだッ!」
 自分で聞いておきながら、キラの説明も聞かず、イザークは嘆く。実の息子である自分よりも母親に可愛がられている婚約者に刃を向けていたなどと……。
「エザリア様なら知ってるよ? 僕がここに居ることも、イザークと戦ってたことも」
「な、んだ…と……?」
「エザリア様だけではありませんわ。最高評議会の方々は皆様、ご存じですのよ?」
 ラクスが助け舟のように、横から口を挟む。
「うちの親父もッ?」
「父上もかッ?」
「はい♪」
「「「どういうことなんだ?」」」
 ラクスは意味ありげな微笑みを浮かべると、背筋を正して、ザフト特有の敬礼を返した。
「エザリア・ジュール国防委員直属、ザフト軍特殊工作隊セイレネス隊長、ラクス・クライン」
「同じく副隊長キラ・ヤマト」
「同じくミリアリア・ハウ」
「「「特殊工作隊……セイレネス……」」」
 3人の婚約者は茫然とその言葉を呟いた。
「セイレネス……。『セイレーンの3姉妹』か……」
「さっすがイザーク♪ よく知ってるね〜」
 セイレーン。それはギリシャ神話などに出てくる、美しい歌声で惑わし船を難破させる、海の怪物。セイレネスとは、その複数形である。
 民俗学に通じたイザークは、隊長の名を冠しない名称の由来もすぐにわかったらしい。
 特殊工作という任務の性質上、そこに隊長の名を付けるわけにはいかなかった。
 評議会議長の娘であり、歌姫でもあるラクスを暗喩させる隊の名称をつけたのはエザリアである。
「あ……僕、聞いたことがあります」
 紅を纏うパイロットの中でただ一人、衝撃の少なかったニコルが口を開いた。
「連合にとっては怪物かもしれないけれど、ザフトにとっては女神だって……」
 セイレーンは元々女神として信仰されていたのだから、その認識も間違いではない。
「百戦錬磨のすごい女性たちだと……」
 その『百戦錬磨の女たち』が自分達の婚約者だと知った3人の紅服は、ただただあんぐりと口を開けていることしかできなかった。





「ラクス〜、任務も完了したんだし、早く帰りましょうよ〜」
「エザリア様が、ご褒美にケーキの食べ放題に連れてってくれるって言ってたし〜」
 長期に渡って潜入していたキラとミリアリアはプラントが恋しい。
 だが……。
「……このまま帰るんですの?」
「何か問題あるっけ?」
「何もないよね?」
 キラとミリアリアは顔を見合わせ、確認しあう。
「だって、つまりませんわ……」
「「は?」」
「キラはMS操縦しましたし、ミリアリアは鷹さんと遊んでいただいたのに、私だけ何もしてませんもの」
 ミリアリアの足元で連合軍の英雄が「遊んでないッ!」と訴えているが、ラクスは完全スルーだ。
「私も撃ちたかったですわ。これ……。ダダダダダッと撃った後に『カ・イ・カ・ン』って言うのが、快感なんですのに……」(←古ッ!)
「ラクス〜、頼むからここで撃たないでよ? 僕の傑作AI組み込んだばっかりなんだから〜」
「格納庫なら大丈夫なんじゃない? この鑑、アレしか積んでないし」
「的がないと楽しくないです……」
「ハロでも飛ばしておけば?」
「万が一当てちゃっても、アスランならまた作ってくれるよ。ね、アスラン?」
 いきなり話を振られたアスランは「あ、あぁ」と、生返事を返す。
 心を込めて作ったハロ達が、そんなことに使われていようとは、哀れな婚約者である。
「だって♪ 射的ごっこは後にして、とにかく帰ろ!」
(マシンガンをぶっ放すのが『射的ごっこ』なのか!?)
 連合だけでなくザフトの皆さんも、一斉に内心ツッコミを入れていた。
「……………わかりましたわ」
 ラクスはまだ納得いかないような口調で頷いた。
「ミリアリアは私と連合の皆さんを営巣へお連れして。キラはここをお願いしますわ」
「「了解」」
 二人の少女が敬礼を返すと、ヴェサリウスから慌てた声が飛んできた。
「「「ちょっと待てッ!」」」
「なに〜?」
 相変わらず暢気な声の返事が返る。
「連合の兵を営巣にって……」
「じゃあ、誰が……」
「『脚付き』を操舵するんだッ?」
 見事な連係プレーである。
(戦闘でもこのぐらい連係してれば、とっくにプラントでケーキ食べ放題だったのに〜)
 と、内心思いながら「僕♪」とあっさり答える。
「……キラは戦艦の操舵までできるのか?」
 MS戦で婚約者に遅れをとったイザークが打ちひしがれたように尋ねる。
「え? できないよ?」
「そうか……、……って、おいッ! クルーもなしにどうやってプラントまで帰るつもりだッ!」
 一瞬、ホッと息をついたものの、それどころではなかったと声を荒げる。
 だが、キラは相変わらずのほほんと答えた。
「ダイジョーブ♪ 優秀なAI組み込んだから、自動操縦でプラントまで帰れるよ〜」
 キラはつい先刻まで女艦長が座っていた席に座ると、大きく欠伸をして眠ってしまった。
 果たして、アークエンジェルは無事にプラントへ辿り着けたのか?
 それは、また別のお話……。

天然キラに振り回されるイザーク。
クルーゼ隊が揃いも揃ってヘタレです(笑)。
戦う女の子たち……って、昔から好きなんですよね〜♪
『スケ●ン刑事』とか『セーラー●ーン』とか……。
『Moon Soldiers』や『紅の旋律』もそれを目指したハズなのに、違う方向へ行ってしまったんで、
ようやくリベンジできました。
セイレネス隊のハチャメチャな日常生活も書きたいな〜、とはおもうんですが、
続きがあるかどうかは、皆さん次第ってことで……(逃亡!)。