Yzak's Birthday
「イザーク様、ちょっとよろしいでしょうか?」
評議会ビルの廊下を足早に歩いていたイザーク・ジュールは、突然呼び止められて振り返った。
史上最年少のザフト最高司令官という座につき、多忙を極める彼を呼び止めたのは、彼よりも更に忙しい『プラントの歌姫』こと、ラクス・クラインであった。
ラクスは戦争終結後、市民に乞われる形で評議会議長の座についた。
「議長。何か御用でしょうか?」
「はい。イザーク様に折り入ってお願いがありますの」
「私でお役に立つことでしたら」
「イザーク様でなくては勤まらない御用ですわ」
「わかりました。お伺いいたしましょう」
そう答えてしまったのが、よかったのか悪かったのか……。
その後、イザークは散々悩むこととなるのだった。
「こちらでございます」
ウエイターに案内されて、アプリリウスでも超がつくほどの高級レストランを奥へ奥へと進んでいく。
ラクス・クラインの用とは、「大切な会食があるのに、ちょっとした問題が生じて行けなくなってしまいましたの。私の代わりにお相手してはいただけませんこと?」というものだった。
どういう相手か知らないが、自分が行くより日を改めた方がいいと進言したのだが、あのわかってるのかいないのか掴めない口調で「それはいけませんわ。せっかくご足労いただいてるのですから」と言われ、ならば自分ではなくそれなりの……主席補佐官なり、評議員なりを名代とした方がいいと、断りを入れたのだ。
だが、ラクスは「ですから、イザーク様に名代をお願いしているのです。イザーク様ほど適任な方はおりませんので」と言われ、結局引き受けることになってしまったのだ。
(やはり、ラクス嬢は苦手だ……。いつのまにやら、彼女のペースに巻き込まれてしまう……)
はぁ〜〜〜〜〜ッと、深い溜息をついているうちに、大切な会食相手がいるという個室に着いた。
「お待たせした」
ウエイターによって開かれた扉の中を見て、イザークはキレそうになった。
「貴様がなぜここにいる!? キラ・ヤマト」
そう。ラクスが言う大切な会食相手とは、ラクスの次席補佐官であるキラだったのだ。
「それは僕のセリフ! 大切な話があるからって、ラクスに呼び出されたのに、なんでイザークが来るわけ?」
「知るかッ! 俺だって、ラクス嬢の名代として、やって来たんだぞ!」
いきなり言い合いを始めた二人を気にもせず、ウエイターが話しかけた。
「シャンパンをお持ちいたしました」
「は?」
「お料理・お飲み物など、すべてラクス様よりご注文をいただいております」
その言葉でキラもイザークも気がついた。
ラクス・クラインに嵌められたのだと……。
「「〜〜〜〜〜ッ!」」
キラは携帯を取り出し、ラクスに連絡をいれようとしたが、店内は圏外で、電話は通じない。
「どういうつもりか知らんが、店に罪はない。せっかくの料理をいただくとするか」
イザークは諦めて席についた。
(ラクスのバカァ〜〜〜〜〜ッ!)
出される料理を食べながら、キラは内心毒づいていた。
滅多に食べられない豪華な料理なのに、まったく味がわからない。
だって………………イザークと二人きりなのだ。
心臓がバクバクドキドキしちゃって、会話が噛み合ってるのかどうかもよくわからない。
(うわぁ〜〜〜ん! イザークに、ヘンなヤツって思われたらどうしよ〜ッ!)
キラは、イザークに片思い中なのだ。アークエンジェルで初めて会った時から。
プラントへ来るのを決めたのだって、イザークの近くに居られるからだ。
それなのに、それなのに……。
(ヘンなヤツなんて思われたら、僕、生きていけないッ!)
キラはパニック状態に陥っていた。
一方のイザークも……。
(くそッ! 俺はディアッカと違って、こういうことは苦手なんだッ!)
イライラしながら、金色の液体で満たされたグラスを口にし、一気に飲み干しては、またグラスを満たす。
イライラの原因はキラだ。
とはいっても、別にキラが何かしたわけでもないし、キラが嫌いなわけでもない。
むしろ、キラのことは好き……いや、愛してるのだ。
因縁あるストライクのパイロット。それが、こんな細い身体の少年だとは思わなかった。
だが、彼に接するうちに、なんだか目が離せなくなっていて……守りたいと思うようになっていた。
若輩の身でありながら、ザフト最高司令官なんてものになったのも、味方の少ないキラを少しでも支えてやりたかったからだ。
そのキラと、こうして二人で食事をする。
ラクス・クラインが何を考えてこんなことをしたのか。それはわからないが、せっかくの機会を棒に振りたくはなかったのだ。
だが、愛する人と向かい合って、気の利いた会話ができるようなイザークではなかった。
(くそぉ〜ッ、どーすりゃいいんだッ!)
イライラしながら、イザークはまたグラスを空けた。
ウエイターが銀盆の上に、受話器を置いてやってきた。
「ラクス・クライン様より、イザーク・ジュール様へお電話でございます」
イザークは、物凄い勢いで受話器を掴むと、送話口に向かって叫んだ。
「ラクス嬢! これはいったいどういうことですッ?」
受話器の向こう側で、ラクスが思いっきり受話器を離しているのが目に見えるようだった。
『イザーク様、そんなに大きな声を出さなくても聞こえておりますわ』
イザークはグッと唾を飲み込んで、今度は抑えた口調でもう一度同じことを尋ねた。
「どういうことか説明していただきたい」
『簡単ですわ。私からイザーク様へのプレゼントです』
「プレゼント……?」
そう首を傾げた途端、別のウエイターがロウソクのたったケーキを持ってやってきた。
『えぇ、今日はイザーク様のお誕生日でしょう?』
「あ……」
『私からのプレゼントはキラですわ。お持ち帰りしてくださっても、よろしいですわよ?』
「☆$*※▽¥#……!」
イザークは茹蛸のように赤くなっていた。
『それでは、いい夜をお過ごしくださいませ』
ラクスは言いたい事だけいうと、電話を切ってしまった。
テーブルの向こう側では、キラがケーキを見ながら蒼い顔をして座っていた。
「イザーク……今日、お誕生日だったんだ……。ゴメンネ、僕、知らなくて……何も用意してきてないや……」
「構わん。自分でも忘れていたぐらいだ」
「でも……」
キラの哀しそうな顔は見たくなかった。
「こうして一緒に食事ができただけで充分だ」
「でも、これはラクスのプレゼントだから……」
自分が何かしたわけではない、とラクスとイザークの会話を知らないキラはますますしょげ込んだ。
「そうだッ! これから飲みに行こう!」
「は!?」
「僕が奢ってあげる♪」
次席補佐官として、破格の給料を貰っていても、使い道のないキラの財布は潤っているのだ。
そして、ホテルの最上階にあるショットバーへ向かったまではよかったのだが……。
「全くコイツは……」
エアタクシーを拾って、ジュール邸へと向かう。
隣にはキラがいる。
すぴすぴと寝息を立てて。
キラはお酒にめっぽう弱かった。
すでに、レストランでシャンパンを飲んでいたところに、カクテルを飲み、一杯目のグラスが空く前にこの状態となった。
仕方がないから、会計もイザークが済ませた。
『お持ち帰りしてくださっても、よろしいですわよ?』
そう言ったラクスの声が浮かんでは消える。
図らずも本当にお持ち帰りすることになってしまったイザークだが、この状態では何もしようがなかった。
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