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きら、おねんねしてたんだよ。
おめめがさめたら、いつもはこわ〜いおとなのひとが、きらをみにくるの。
いろんないとをくっつけて、いろんなことされるの。
でもね……だれもこないの。
ちょっとうれしぃ♪
だって、こわいひと、いないも〜ん♪
あれぇ? なんか、いつもとちがうのぉ……。
ふんわり、ふわふわ、ふうせんみたいに、おそらにうかんでるみたい。
それとも、おさかなさんになって、うみをおよいでいるのかなぁ?
えへへ、きら、おさかなさんになったのぉ〜♪
でも……なんか……まっくらなのぉ……。
ちょっと、こわいのぉ……。
ここ……しらないのぉ……。
ここ、どこぉ……?
なぁんにもないよぉ〜。
こわいから、ぎゅうっとおめめつぶってたの……。
そしたら、だれかにだっこされたの……。
それでね、こんどはきら、ながれぼしになったの♪
おそらがピューってながれていくの。
なんか……また、おねむになって…きちゃ……った…の…ぉ……。
ザフト軍ローラシア級戦艦ヴォルテールのデッキは騒然となった。
隊長であるイザークのスラッシュザクファントムが帰還したのだ。
いや、騒然となった理由はイザークが帰ってきたからではない。もっと、別の理由がある。
「おかえり〜」
副隊長であり、腐れ縁の友人でもあるディアッカが、スラッシュザクファントムから降りて来たイザークを出迎えた。
「ところで、アレ何?」
ディアッカは、イザークが持ち帰った白くツルリとした丸い物体を指さした。
それこそが、デッキが騒然となっている理由である。
かなり大きな物ではあるが、それでもザクと比較すると、ちょうど人間がダチョウの卵を抱えてるような感じである。
「拾った」
「いや、だからさ。お前、そーゆーキャラじゃないじゃん?」
ニヤニヤと笑いながら言うディアッカを、ジロリと睨み付ける。
その時、その卵のような、繭のような物体をあれこれ弄り倒していた整備士達にざわめきが起こった。
「どうした? 何かあったのか?」
「あ、隊長」
「それが……」
整備士達は言葉を失ったようで、埒があかない。
イザークは、整備士達を押しのけ、拾って来た物体の方を見た。
そして、整備士達と同様に絶句した。
ディアッカも、やってきて、イザークの後ろから覗き込む。
「子ども〜ぉッ!?」
そう、その白くツルリとした物体の中には、それは小さな……本当に小さなオコサマがスピスピと寝息を立てて丸まっていたのだった。
「んにゅ……」
オコサマが寝言らしい言葉を漏らす。
「た、隊長……生きてます……」
相当に狼狽しているらしい整備士が、慌てたようにイザークに言う。
「あ、あぁ……」
告げられた隊長の方も、相当狼狽しているらしく、相槌を打つのがやっとのようだ。
呆然と見つめるヴォルテールのクルー達を他所に、オコサマは抱えた……というか抱えられてるようにさえ見える、大きなテディベアとともに、眠っている。
「どうする?」
ディアッカが意味ありげな視線をイザークに向けて聞いた。
「どうする……って……」
イザークにしても、なんて答えたらいいのかわからない。
その時、オコサマがむにゃむにゃとしながら、目を開けた。
「オハヨウですぅ……アレェ?」
オコサマはきょろきょろと周りを見回している。
「ここ……ドコォ?」
ちょっぴり涙目になったキラの、あまりの愛らしさに、ヴォルテールのクルーは全員、言葉を失った。
おめめをあけたら、しらないトコにいたのぉ。
しらないおにぃちゃんが、いっぱいいっぱいみてるのぉ。
ちょっと……こわいかもぉ……。
「ふぇ……」
ないちゃったら、ふわっとだっこされちゃったのぉ。
「泣くな」
さらさらできらきらしたかみのけと、きれいなあおいおめめの、とってもきれいなおにぃちゃんが、なでなでしてくれたのぉ。
「心配いらない。だから、泣くな」
「うん……」
おめめをギュッとして、きれいなおにぃちゃんにしがみついちゃったの。
「お前の名前は?」
おにいちゃんがあたまをなでなでしてくれたの。
「きら……」
「そうか。俺はイザークだ」
「いざ?」
「……………そうだ」
えへへ。いざのうでのなかは、あったかくって、きもちいいの〜。
なんかね、すっごくホッとするのぉ。
いつまでも、格納庫で立ち話をしている訳にもいかず、イザークはキラを連れてイザークの部屋へと移動した。
「キラ、お前はなぜ、あんなところにいた?」
キラが落ち着いた様子を見せたので、イザークは肝心な事を尋ねる。
随分とスケールの大きな迷子だが、迷子には違いない。
然るべきところに返さなければならない。
今頃、親は蒼くなっているだろう。
まさか、宇宙に浮かんでいるなどとは、夢にも思っていないだろうから。
だが、キラにはイザークの質問の意味が伝わらなかったらしい。
「あんなとこ……? きら、ねんねしてただけだよぉ?」
「……………」
そう言って首を傾げるキラに、イザークも何と言えばいいのか、言葉が見つからない。
「イザーク、子供相手に尋問みたいな聞き方するなって」
そう助け舟を出したのは、ディアッカだ。
「キラちゃん、おにーさんとお話しようねー♪」
イザークの腕に抱っこされたままのキラに、食堂で貰ってきたのか、プリンを渡し、話しかける。
キラはディアッカの顔をじーっと見て、イザークの顔を見る。
イザークが微笑むと、コクリと頷き、プリンを受け取った。
「ありがとなの」
キラはペコリと頭をさげる。
「キラちゃんはいくつかな〜?」
「5さい」
小さな手をめいっぱい開いて答え、プリンを一口食べる。
「お家はどこか言えるかな?」
「……わかんない」
遊園地の迷子係のように、ディアッカはキラを怖がらせないように聞いていく。
だが、思いもしない展開が、そこに待っていた。
「パパやママのお名前、言える?」
「……パパ? ……ママ?」
「そう」
「それなぁに?」
スプーンを口に入れながら、キラが愛らしく首を傾げる一方、イザークとディアッカは凍りついた。
普通に育てられた子供なら、5さいにもなってパパやママを知らないはずはない。
例えキラに両親がすでになく、養護施設のような所で育てられたとしてもだ。
ということは、キラは普通じゃない育てられ方をした、ということになる。
イザークとディアッカは顔を見合わせた。
「じゃあ、キラちゃんのおうちはどんな人がいたのかな?」
「んっとねぇ、しろいふくきたおじさんが、いっぱいいたの」
白い服。その言葉から連想されるのは白衣だ。
「そのおじさん達はやさしかったか?」
「……………」
キラは答えない。
「こわかったか?」
そう問えば、今度は小さく頷いた。
「寝ちまったな」
プリンを食べたら、キラはウトウトし始めた。
イザークの腕の中で、キラの身体は少しずつ傾いて、しまいにはコトンと眠ってしまった。
「あぁ」
すっかり、自分に懐いてしまった幼子の寝顔を見ながら、イザークは考える。
キラの言う『白い服を着たおじさん達』というのは、どこかの研究施設だろう。
あれから、二人掛かりでじっくりと聞き出したところによれば、大の男でも絶句してしまうほどのモルモットぶりだ。
だとすれば、そんな場所へ返す訳にはいかない。
プラントやザフトがそんなことをするはずがない。
こんな幼い子をモルモットにしていたなど、ブルーコスモスの奴らに十中八九間違いない。
だが……。現在、ジュール隊は3カ月間の哨戒任務を負って、プラントを出たばかり。
少なくとも、あと2カ月半の間は、どこにも寄港する予定がない。
「で、どーすんの、この子?」
「しばらくは、ここに置いておくしか、あるまい」
もう一度、イザークはキラの寝顔に目を落とす。
「それでいいな?」
返事がないのは承知の上で、イザークはキラに問いかける。
「んにゅ……」
キラは、眠りながら、そう応えた。
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