月の無い夜。
ベランダの手摺に寄り掛かり、新一は皮肉気な笑みを浮かべて空を見ていた。
視線の先にあるのは、S字型の星。禍禍しい赤い星を中心に輝いている。
辺りに散らばる新聞紙には、彼と白い怪盗が存在を主張していた。「月の無い夜に、何を御覧になってらっしゃるんですか?」
声と共に、目の前の大樹に鮮やかな白が降り立つ。
「星を見てただけさ。」
意味ありげな笑みと共に答える。
「貴方のお気に召す星があったようですね。」
キッドは、華麗に大樹から新一の隣へと移動して、肩を引き寄せた。素直に預けられ
る身体。
新一は、笑みを零すことで肯定する。
独特の無邪気な笑みは、温度を持たない。
キッドは、甘い笑みを落とした。
「今日は何を愉しんでいらっしゃるんですか?」
「蠍座。」
幼い子供がその日あった出来事を報告する様に、新一は話す。
この相手に話すのが、新一はとても好きだった。
「蠍座が星座になった理由、知ってるだろ。」
「オリオンを殺した功績で空にあげられたんでしたね。」
「蠍は人を殺して星になった。星になった後は、太陽神の息子が死ぬきっかけを与え
た。
アンタレスは蠍の心臓じゃない。血の塊。蠍の罪そのものさ。血塗れで、だから綺麗
な星。・・・似てるだろ。」
罪深い蠍座。
犯罪者であるはずの怪盗を支持する民衆。
罪深い探偵を褒め称える警察。
その皮肉が、嘲りを伴って彼を愉しませる。
新一の無邪気な愉悦。それは常に冷酷さと皮肉を多分に孕んで。
犠牲を必要として。
けれどキッドにとって、それは取るに足ら無い事である。重要なのは、彼が満たされ
ていること。愉悦の表情を浮かべて身を預ける彼に、キッドも満たされる。「キッド。」
星に飽きた新一は、乞う様に彼を呼ぶ。
キッドは新一の意図を正確に読み取り、恭しく抱き上げると部屋へと入っていった。
闇の中、壊れた様に輝く赤い星が二人を見送っていた。
またしても、永瀬様よりのいただきものです。 あいかわらず、いい感じに壊れてます。 BACK