ある剣道の試合の日。
何故か服部平次は姿を見せなかった。それから3日程経つが、彼の姿は消えたままで
ある。
その内帰って来るだろう、と誰も心配していなかった。
突発的行動が多く、周りの迷惑等全く目に入っていない人物である。それ位でいちい
ち騒ぎ立てていたら、ストレスで自分の方が死んでしまう。
それに彼のある友人(?)は、「厄介な事件に関っている。」の一言で、それはそれ
は長いこと行方不明だった。それに比べれば3日等たかが知れている。しかし、実際はかなり深刻な問題だった。
その日、服部平次は、意気揚揚と東京を目指していた。
始まりは昨日の夜。正確には、今日になったばかりの時刻に掛かった電話である。
「良いもの見せてやるから、明日こっちに来い。」
新一からの誘いではなく、命令である。相手の予定など微塵も気に掛けていない。
何故なら予定があったとしても、それをキャンセルして来るのが当然だと思っている
からである。
平次の方もそれを疑問にも思わず、当たり前として受け止めているので別に構わない
が。
実際彼は、大切な剣道の試合をキャンセル・・・ではなく、ある事さえ忘れて東京へ
と向かった。
「工藤。来たで〜。」
楽しそうな音符をあちこちに振りまきながら、平次は工藤邸へとやって来た。
しかし。
「いっらしゃい。」
平次を出迎えたのは想い人ではなかった。
「黒羽。何でここにおるんや。」
「俺がここに同棲してるからに決まってるだろ。まあ、とりあえず上がれよ。」
平次は嫌そうにしながらも後に従う。
「工藤は?」
「居るぜ。」
平次には、見えなかった。
快斗が期待に目を輝かせ、意地の悪い顔に満面の笑みを浮かべているのを。「よく来たな。服部。」
新一は、物凄く上機嫌だった。上に更に上が付く程。
「くどう〜。」
快斗の存在を忘れて、一気にニヤケて新一に抱き着こうとする。怪しい人である。
しかし新一は慣れているので、遠慮無く蹴り飛ばす。
黒い物体が5分程床に蹲った。
「で、何や。良いもの、て。」
蹴り飛ばされる事に慣れている平次は、蹴られた事実を復活した直後に忘れた。
或いは、新一に蹴られ過ぎて脳に障害があるのかもしれない。
それに関して真実を追究する者は居ない。真実よりも自分の命が大切である。
話しを元に戻そう。
復活した平次は期待に目を輝かせながら聞いた。尻尾を振る犬にしか見えないが、犬
と一緒にしたら犬が機嫌を損ねるだろう。
「ああ。」
新一は、ニッコリと笑った。
その顔に平次は、完全に見惚れた。
しかし、次の瞬間。新一は快斗に腕を絡め、自分からキスを仕掛けた。
舌を差し入れ、深くで求め合う。
互いに唾液を交換し合い、相手のそれを飲み込む。
「ん。」
甘い声。飲み込み切れなかったものが、新一の喉に沿う。ぞっとする程卑猥で、けれ
ど目を離せない。
新一の細い腕が、快斗に縋る。快斗もしっかりと華奢な身体を支える。
二人が平次に見せたかった『良いもの』。
漸く二人がキスを止めた時、平次の心臓は無惨にも鼓動を止めていた。
「あ〜あ。どうするんだ。これ。」
ひっくり返っている黒い物体を快斗は、足の先で突ついて見る。
「心臓発作か?」
「ショック死じゃねぇの。ところで、これ殺人になる訳?」
「殺意は無いから、過失致死ぐらいじゃねぇの。」
淡々と言われる言葉に快斗は、難しい顔をした。
「殺意は確かに無かったけど。未必の故意なら否定できないな。」
やっぱ、殺人かな、と小さく呟く。
新一も難しい顔をした。殺人罪には問われたくない。いや、過失致死も遠慮したい。
そして結論。
「事件隠滅だな。」
証拠では無く、事件自体を無かったことにしようとする辺り、新一の本性が窺える。
「それが得策だな。」
あっさり快斗もその案に乗る。これからも、二人で幸せに順風万帆な人生を歩く予定
である。たかが暇潰しの出来事で不意にする気は毛頭無い。
「天下の名探偵と稀代の怪盗の犯罪だからな。無能な警察に分かるはずない。」
しかし。
「そうは問屋が卸さないわよ。」
第三者の声が響く。見れば可愛い少女の振りをした隣人。
だが、二人は慌てない。
「どうする、新一?」
「目撃者は、消すのが王道だよな。」
少女も自分の前で交される物騒な会話を冷静に聞いている。
「灰原。」
真剣で感情の無い新一の声。そして。
「プラダのバッグで、手打たないか?」
「手に入りにくい薬があるんだけど。場所もセキュリティもハッキングしてある
の。」
「了解。」
白い怪盗の正体が割り込む。
こうして目撃者は、あっさり買収される。
「ティファニーのネックレス付けてくれたら、ソレ、引き受けてあげるけど?」
「西の探偵が来た直後に来て、一緒に見て楽しんでたんだ。共犯で捕まる可能性が高
いぜ。」
快斗の言葉に哀はぺろりと舌を出した。
「ばれてたのね。じゃあ、無償で引き受けるわ。」
目撃者は、実は共犯者であったらしい。
そうして服部平次は、快斗の手に拠って隣に連れて行かれた。
これが平次君失踪事件の真相である。
暇を持て余した二人に、『良いもの』を見せ付けられる為に大阪から呼び出され、儚
く逝ってしまった彼のご冥福をお祈り致します。
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