紫陽花

presented by 永瀬



雨の中、新一は、傘も差さずに待っていた。
「新一!」
俺の声に振り向いた彼は、僅かに表情を歪めただけだった。
以前は俺を見とめた瞬間、幸せそうに笑ってくれたのに。
けれど最近の笑顔は何時も寂しそうで、時々笑っているのか、泣いているのか分から
なくなる。
彼が幸せそうに笑わなくなって、どれ位経つんだろう?
今日の彼は、何時も以上に泣きそうな表情で。だから俺は、彼が俺を呼んだ理由を確
信した。
予想はしていたけれど・・・。

「ごめん、もう、無理。」
そう言った彼は、壊れそうだった。
「新一。」
右手で触れた頬は、雨に濡れて冷え切っていたのに、暖かいものが時折、混じる。
「今まで有難う。悪かった。」
愛してくれていたことに、俺を選んでくれたことに、俺の我侭に付き合ってくれたこ
とに。
そして、傷付けてきたことに。
「快斗・・・。」
そんな顔をしないで欲しい。しょうがないことだから。こんな結末を招いたのは、俺
自身。
孤独な夜も、傷付いている夜も、俺は傍にいてあげなかった。
愛していたのに、独りにしていた。
俺が寂しい時、傷付いている時にだけ求めて。
「さよなら。」
囁いて、最後の口付けを。
二度と逢わない。その方がお互いのため。


新一は、気が付いていただろうか?キスに重ねた願いに。
ずっと、一緒にいられますように、て。
ずっと一緒になんて、いてあげなかったくせに。無邪気にそんなことを願ってた。

ふと、目に付いた紫陽花。
雨に濡れながら、人の心を癒してくれるようで。
寂しげな青紫色は、哀しさと孤独で色づけされたようで。
そっと口付けた。彼を想いながら。
今までと違う願いを込めて。


雨に煙る景色の向こうへと消えていく孤独な魔術師を、花は寂しそうに見送った。




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