「えっ??」
パチっと目が開いた。今まで何をしていたのかも思い出せないような覚醒。
あぁ寝てたんだ、とようやく思い至る。
(うーん、ベッドの中だよなここ、ってことはオレの部屋だよな?ぁあ?どこだ?)
目は開いたものの意識の方がなかなか追いついてこない。
ぼんやりと天井の方に向けていた顔をごろんと転がすようにして右側に向ける。
とたんに、目に入ってきた綺麗な顔。
(げッッ!!)
なんとか声を出すことは抑えたものの、「げ」の形に口を開けたまま固まってしまう。
(なんでこいつがここにっ?それに、どうして気付かなかったんだオレッ!いや、そ
んなことよりやっぱ、どうしてこいつがここにいるーー??)
頭の中が一瞬疑問符で埋まる。
別に今更、朝ベットで隣にこいつが寝ていたって驚くようなことじゃない(ははは
・・・・・ハァ〜)。
まぁ、未だに寝起きでこいつの顔面ドアップ見せられた日には驚くけどさ。綺麗過ぎ
て。
(オレ本当にこいつの顔好きなんだよなー)
気付くとオレはさっきまでの驚きも忘れて、快斗の顔に見入っていた。
静かな寝顔。すっと通った鼻筋がすごく上品だ。
普段、快斗の時に見せる人なつこいちょっとおちゃらけたような雰囲気とも、KID
の時のあの不敵で細身のナイフを思わせるような雰囲気とも違う。
(そういや、こんなにじっとこいつの寝顔見るの初めてかも、いつも先に起きてる
か、寝ててもすーぐに起きるからなぁ)
そんなことをつらつら考えながら眺めていたら、なんだかオレの頭はまたぼんやりし
てきてしまった。
そんな時突然、クスッという笑い声がしたと思うと快斗の唇の両端が持ち上がった。
そして、「おはよう、新一」と言ってからゆっくりと目を開けた。
目の前に広がる綺麗な青。見蕩れながら、オレも挨拶を返そうと口を開きかける、
が。
「身体、大丈夫?」
というヤツの次の一言で、はたと我に返る。
(そーだよ、こいつの寝顔になんか見蕩れてる場合じゃねぇーッ!)
「快斗ッ!なんでテメーがここにいるッ?いつ帰ってきやがったッッ?」
実はこいつ、KIDの仕事があるとかいって一昨日出掛けていったのだ。帰るのは、
そう確か明日と言っていたはずだ。
「いつって、新一・・・・」
「いきなり帰ってきやがってる上に人のベットに潜りこみやがってッ!それに、か・
・・・」
(からだ?こいつさっき、身体大丈夫かなんて聞いてきたよな・・・・)
突然黙り込んだオレを快斗は黙って見ている。
オレは慌ててシーツをはぐる。
(うげッ、真っ裸!)
睨みつけるように快斗の顔を見ながら起き上がろうとしたオレは、腰に全く力の入ら
ないことに気付いた。
(お、起き上がれねーー!マジかよッ!)
おまけに、大きく体勢を変えた拍子に足の内側を伝うなんだか覚えのあるヤな感触・
・・・。
「かぁ〜いぃ〜とぉ〜〜」
オレは怒りのあまりプルプルと震えながら、地の底から這いずり出てくるような低ー
い声で言った。
「てめ〜〜、オレが寝てる間になにしやがった〜〜」
ところが、ヤツはそんなオレに向って申し訳なさそうな顔をするどころか盛大なため
息をつきながら、呆れたような声で言う。
「俺が寝てる新一にそんなことする訳ないでしょ」
「だったらオレのこの事態はなんだっていうんだよ、それともなにか?オレが他の奴
とやったとでもいうのか?」
「こら、新一、冗談でもそんなこと言ったら許さないよ、はぁ〜、それにしても、も
しかしたらとは思ってたけどやっぱりそうなったか・・・」
などと言いながら、快斗はまたまた大きなため息をついた。
なんだか快斗のそんな様子は、残念そうで、それからどことなく気だるそうだ。
「あ?なんだよさっきから、そうなったって何がだよ、てめーがなんと言おうがオレ
には覚えがな・・い・・・・」
(あれ?そういやオレほんとになんにも覚えがないぞ、あれ?)
オレは必死になって昨夜の記憶を辿りだす。
(た、たしか、昨日は一日暇で、のんびり本読んで過ごして、でも夜になったらなん
となく本読むのにも飽きちまって、早々に寝ちまおうと思ったんだよな)
またまた黙りこんだオレを快斗もまたまた黙って見ている。ただし、今度はちょっと
目を眇めるようにして。
(でも、なかなか寝つけなくて、そうだ、それで確か父さんにって贈られてきてた
前々から目を付けてた酒を寝酒にって飲んだんだよな・・・)
なんとなくオレはいやな予感がしてきた。
(で、でも、それ飲んで眠くなって、ちゃんと自分のベッドに一人で入ったはずだ、
そうだよ、その後は寝てたんだから記憶がなくてもおかしくないさ、そうだ、やっぱ
快斗が悪い)
ようやく思い至った結論にオレは安堵の息を吐き出してから、快斗の顔を再び睨みつ
ける。
「昨夜はちゃんと一人でベッドに入ったぜ、その後に帰ってきたてめーのことなんか
知るかよ」
そう言ったオレに快斗は、「ふーん、じゃあいいよ、そういうことでも」と言ってふふ
んッと笑った。
「でもさ新一、おまえ今起き上がれないんだよな?つまりそれって、そんな腰立たな
くなるまでやられまくってたってのにおまえはグースカ寝てたってこと?」
「ッッ!!」
快斗のとんでもないセリフにオレは絶句する。
(でも、そうだ、オレにそんな記憶がない以上、状況証拠からいうとそうなっちま
う)
狼狽えだしたオレに快斗はますます勝ち誇ったような笑いを浮かべ、サイドテーブル
の上に置かれている空の酒瓶を指差しながら、
「新一、昨夜自分が酒飲んだって記憶はもちろんあるよな?」と言った。
(て、てめーは探偵かッ!楽しそうに人追い詰めやがって、それにしてもオレ1本空
けたのかよ、そんなに飲んだっけか?)
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
しばしお互い無言で顔を見合す。ただし、浮かべている表情は正反対だが。
「新一、俺ね、予定より早いけど昨夜遅くに帰ってきたの。新一寝てるみたいだった
けど一応顔見に行こうと思って部屋に来たんだ、そしたらさぁ・・・・」
オレは無言のまま快斗の次の言葉を待つ。
「新一起きてんだよ、ぼんやりベッドの上に座ってんの。だから、ただいまって声掛
けたら、おまえちゃんとお帰りって言ってくれたぜ」
(お、覚えてない・・・)
「でもさ、なんかちょっと様子がおかしいんだよね、なにせ、俺が早く帰ってきたの
が嬉しい、とか言ってすんげえ色っぽく微笑むんだもんよ、俺の理性ぐらぐらだった
ぜ」
(・・・・・・・・・)
「理由は直ぐ分かったけどね、だって新一すげぇ酒くせ〜んだもん、酔ってんだよ」
「つ、つまりてめーは酔ったオレを襲ったって訳だな」
オレはやっと真相に至ったとばかりに詰め寄った。
「違います」
「え?」
どういうことだ?と首を傾げるオレに、快斗は、
「やっぱり、昨夜のこと覚えてないんだな?」
と確認するように聞いてくる。
「(うぅう)・・・・・覚えてない」
オレは観念して白状する。そんなオレに快斗はまたまた長〜いため息をつき、拗ねた
ように顔をそらしてしまった。
「なんだよ、覚えてないとそんんなに悪りぃかよ」
オレまでなんとなく拗ねたような気分になってきた。
「悪いよ、新一、すっげぇ悪いよ」
(なんだよそれは、こっちが覚えてなくたって結局そっちはイイ思いしたんじゃねえ
か、覚えてないオレの方にこそ悪いと思いやがれ)
どんどん機嫌が急降下していくのが分かる。そんなオレの目の前で快斗がぼやいた。
「あーぁあ〜、もぉいーよー、新ちゃんのバカ、俺すっげぇ、すっっげぇ〜疲れてる
から寝る」
そう言いながら、シーツに潜りこもうとする。そんな快斗を険悪な目つきで睨んでい
るオレの耳に届いてきたヤツの小さなぼやき。
「ちぇッ、ヤリ逃げかよ」
(ぁあッッ?なんだってーーー??なに言ったコイツ)
「おいッ!快斗ッ!てめー今なんて言ったッッ!?」
オレは腰の痛みも忘れてがばっと起き上がり(やっぱ痛いけど)、快斗が潜りこもう
としていたシーツを引っぺがし、覆い被さるようにして詰め寄った。
「てめーがやったんだろッ!何がヤリ逃げだ」
しかし快斗は怒るオレに対し、つーんと顔をそらしたまま、「覚えてない新一が悪い
んでしょー」なんて言ってくる。
(このやろー、コノヤロー、どうしてくれよう〜)
怒りのあまり声も出ず、ギリギリと快斗の肩に指を食い込ませていると、痛い痛いと
いうヤツの声が上がり、やっとオレの顔を見た。
「そんなにききたい?」
頷くオレ。
「でもなぁ〜、俺としてはあんまり自分の口からは話したくないような」
「い〜から吐け!」
オレはこれ以上耐えられないとばかりに促す。
「分かったよ、新一、あのね」
快斗はちょっと困ったような不思議な表情を浮かべながら話しだす。
「おまえ酔ってたって言っただろ、結構酒強いおまえが酔うなんて滅多にないしさ、
ちょっと心配で、だから俺頑張って我慢して、ちゃんと寝かしつけようとベットの中
横にならせたんだぜ」
(へー、まぁ確かにオレ滅多に酔わないよな)
「新一もおとなしく目つぶったんで安心してベッドから離れようとしたらさ、そした
ら、おまえいきなり俺の腕掴んで引っ張ったんだよ」
(げー、何やってんだ昨夜のオレ)
「びっくりしたもんだからオレそのまま体勢崩してベッドに倒れこんじゃったんだ、
そしたらさぁ〜」
(なんかこの先ききたくないかも・・・)
「新一、いきなり俺にのしかかってきたんだぜ、そんでそのままなしくずし」
「そんなんじゃ、いつもと一緒じゃねえか、どこがヤリ逃げだッ」
口をはさんだオレに快斗は、ここからが違うんだよ新一、と言いながら身体を起こし
た。そしてオレの身体も抱き寄せるようにして起こし、腰を支えてくれる。
「あのねぇ新一、昨夜のおまえホントに凄かったんだぜ、こんな新一初めて見たって
くらい、もう完全主導権握っちゃって俺イカされっぱなし、全然離してくれなくって
さぁ〜」
(な、な、な・・・・・)
オレは自分の顔がいっきに赤くなったのが分かる。
「オレの上のっかっちゃって、これでもかってくらい超色っぽい顔してよがって腰
振って」
(な、な、な、な、・・・・)
もはやオレは口をぱくぱくさせているのが精一杯だ。
「それが明け方近くまで続いたんだぜ、腰立たなくなるなんて当然だよ」
憤死寸前ッ!しかしオレは次の快斗の言葉に思わずピクっと反応してしまった。
「なにせ、この俺が、初めてもうダメだと思ったんだぜ、失神寸前、動けなくって
さぁ、だから後始末とかなんにも出来なかったんだ」
なんとか入れっぱなしだけは防げた、などという爆死寸前なセリフもオレの耳には
入ってこなくなっていた。
(な、なにッ!?あの快斗が失神だとッッ!!)
さっきまでの不機嫌やら怒りやら照れやらもどこかにいってしまっている。
(いっつも余裕かましやがってコンチクショーな快斗がッッ!!)
なんだか起きてすぐの頃の上機嫌さが戻ってきたような感じ。思わず顔がにんまりと
笑ってきてしまう。
(あ、でも、ちっくしょおー、覚えてねぇなんて、なんてもったいないことしてんだ
オレ、あの快斗を撃沈させたんだぞ昨夜のオレはッ!)
今度はちょっと眉をよせて拗ねたような顔をする。
(あ、なるほどな、それで快斗のやつヤリ逃げとかって言ったのか)
次はふふんっというようなちょっと得意そうな顔。
そんなオレの百面相を眺めていた快斗が、今までとは違った低い声で聞いてきた。
「新一、おまえ今何考えてる?」
「え?」
オレは自分一人で陥っていた思考の渦からようやく意識を取り戻し、快斗の顔を見つ
めた。
(げッ、やばい)
快斗は当然オレの考えていたことなんてお見通しのようだった。すっと細められた瞳
の奥が暗く光っている。思わず逃げかかるオレの身体は、しかし既にやつの腕の中
だった。
「新一、さっき自分が覚えてないのが悔しそうだったよね」
「えっ、い、いや、もう別に・・・・・・」
(ま、まじやべぇー、こ、怖いぞ快斗)
なんとか許してくれないかと儚い希望を持って引きつった笑いを浮かべるオレに、し
かし快斗は、にぃっこり
と容赦ない笑顔を浮かべ、
「遠慮することないんだぜ、新一、自分が知らない記憶を他人だけが知ってるなんて
いやだろ?」
などと言いながら、オレの身体を快斗の足を跨ぐような体勢に抱き変えた。
「ちょうど昨夜とおんなじような体勢だし、このまま再現といこうぜ」
「ちょ、ちょっと待て、オレは遠慮なんかしてないッ、昨夜のことは快斗の記憶の中
だけに留めとこうぜ」
「無理することないんだぜ、真実を追究するのが探偵の仕事だろ」
(なにが真実だぁーーッ)
するりと快斗の手が腰を這い降りていく。
「か、快斗、オレ腰が痛いんだ、無理だよ、それにおまえも疲れたって言ってたじゃ
ないかッ!」
焦って叫ぶオレに快斗は余裕の微笑みを見せ、這い回る手も止まる気配もない。
「心配してくれてありがと、でも大丈夫だよ、さっきは拗ねてそう言っただけでホン
トはちゃんと回復してる」
「オ、オレは大丈夫じゃねーんだって」
そうかなぁー、などと言いながら快斗はどんどん奥へと手を伸ばしてくる。
「だってさぁ、新一、こんな体勢しても、もう痛くなんかないんだろ?やっぱ日頃の
鍛え方が違うねぇ」
「ばかッ、何が鍛え方だッ!・・・あ、やめっ・・・」
快斗の指が、こいつの足を跨がされた為開いた足の奥から再び伝い落ちた昨夜の名残
をすくい上げた。
「それに、実はね新一、やり終わってからまだそんなに時間経ってないんだよねぇ、
だからあんなに早く新一が起きるとは予想外だった」
「お、おまえ、さっき、起きてたの、かよ」
オレは快斗の魔の手に必死に耐えながら話す。
「いや、寝てたよ、新一が見てるのに気付いた時は焦ったぜ」
つぶれてたって言ったろ、と苦笑しながら、いたずらな手を止めて快斗はオレの唇に
軽いキスをした。
「俺がつぶれんの見たいんだろ?今度はちゃんと覚えててね」
「いらねーッッ!!」
即座に答えたオレに、しかし快斗のバカはウィンクなんてしている。
「ゆ、昨夜のオレはオレじゃねぇ、宇宙人に乗っ取られてたんだーッ!」
もはや支離滅裂なオレ。快斗は、「おもしろいこと言うなぁ、新ちゃん」とあははと笑
いながら、再び手を伸ばしてきた。
「さぁ、失神するまでガンバロウぜ新一」
「い、いやだーーーーーーッッ!!!」
オレの叫びは、朝の光の差し込む寝室に虚しく散っていくのだった。