『HAPPY BIRTHDAY to…』

presented by KIRA




〜to SINICHI〜


月明かりを背に、一羽の白い鳥がふわりと窓辺に舞い降りた。

「今晩は、愛しの名探偵」
「何しに来やがった?…怪盗キッド」

いつものようにキッドは新一に向かって優雅に礼をした。
そして片眼鏡越しの瞳でこちらを見る。

「相変わらずつれないですねえ。今日、貴方の誕生日でしょう?」
「だったら何だってんだ?お前には関係ねぇだろ」

キッドの予告日でもないのに窓辺で時々空を見上げていた新一。
けれど素直になれない自分にはこんな事しか言えなくて唇を噛んだ。
…それを見て怪盗は笑ったようだった。

「貴方が生まれてきた日を祝いたいだけですよ。
できれば何か贈りたいのですが…貴方のその瞳以上に貴方にふさわしい宝石は
この世にない…」

自分が何よりも欲しいと思うのは、目の前の白き罪人。
なのに。

「私の全てを捧げます…と言いたい所ですが、とっくに私は貴方に捕まってますしね」

さも当たり前の様に紡がれた言葉に

「…っ!嘘つけよ!」
「……名探偵?」

つい、本音がこぼれ落ちた。

「どこが”全て”だよ!?俺はお前の本当の名前も知らないのに!
お前は俺がコナンだった事を知っているのに…!こんなんで対等だなんて…っ」
「へえ、それって名探偵は昼の俺の事も知りたいってコト?」

自分の発言が失言だった事は相手の口調の変化で知れた。

「俺の全部を知るって事がどういう事かわかってる?後悔しないって言えるのか
…?」
「フン、言って後悔するのはお前の方じゃないのか?俺が警察に通報しない保証
がどこにある?」

そんな強がりも言ってみたけれど。

「…そんな事しないさ新一は」

突然の炸裂音の後、視界が白で覆われたと思った次の瞬間。

「俺、黒羽快斗ってんだ。よろしくな新一v」

目の前に居たのは自分と同じ年頃の、自分と似た面差しを持つ少年。

「…キッド…?」
「ちがーう、俺はか・い・と!快斗って呼んでよ」

さっきまでの冷涼な気配をガラリと変えて屈託なく笑う男。
自分と似てるのは顔のつくりだけで。
雰囲気は全然違う…

「そうだ、俺の誕生日来月なんだよね。プレゼントは新一がいいなv」
「何バカな事言っ…!?」

一瞬の内に掠め取られた唇。
余りの事に呆然としていると、いつの間にか目の前には白い気障な怪盗が立って
いた。

「それでは私はこの辺で。またお会いしましょう」

そして怪盗は瞬く間に探偵の前から姿を消した。
あとに残されたのは一輪の紅い薔薇を添えたメッセージカード。

”次にお会いする時には貴方の全てを頂きに参上いたします 怪盗キッド”

「バ…バーロォ!勝手な事言ってんじゃねえ馬鹿キッド!!」

やっと硬直状態から抜け出せた探偵が今更文句を言ってもむなしいだけで。

「…テメーの誕生日ぐらい言ってけってんだ…畜生っ!」

そう言った新一の顔が真っ赤だった事は
その夜、一部始終を見ていた月だけが知っている…











〜to KAITO〜


六月も半ばのある夜に、日本警察の救世主ともてはやされる名探偵と
月下の奇術師と称される怪盗の密会は行われた。

「おや?随分と不機嫌のようですね。どうかしましたか?」
「オメーのせいだろ…何なんだ?いきなりこんな所に呼び出しやがって」

場所は杯戸シティホテルの屋上、つまり二人が初めて顔を会わせた場所である。

「勿論貴方の全てを盗むつもりですよ。予告したでしょう?」

余裕の笑みで答える怪盗。

「へえ…盗むってどうやって?」

探偵はわざと挑発的にそう返す。
怪盗はその様子に笑い、白いマントを翻した。
そして、気がつけば探偵は怪盗の腕の中。

「なっ…離せキッド!」
「ダメです。離したら貴方は逃げるでしょう?」

ジタバタともがく新一には構わず強く抱き締めるキッド。

「ったく…明日お前の誕生日なんだろ?なんでこんな所に来る必要があるんだよ」

抵抗を諦めた新一はキッドの腕の中に納まったまま問い掛けた。
勿論、言動とは対照的にその顔は桜色に染まっていたのだけど…。

「おや、私の事に興味を持ってくれたんですか?」

調べでもしない限り黒羽快斗の事は分からない筈だ。

「お、お前が先月あんな事言っといて自分の誕生日言わなかったからだろっ」

新一は更に顔を紅くして言った。
それを見てキッドは満足そうに目を細める。

「…私達はここで初めてお互いの存在を知りましたね」

どちらも仮初めの姿ではあったけれど。

「あの時からずっと好きだったよ」

突然の口調の変化とその内容に思わず顔を上げた新一の目に映るのは
今まで見た事のない様なキッドの切なげな瞳。

「好きだよ新一…だから…やめるなら今のうちだぜ?」

あれだけ強引に約束を取り付けておいて今更何を言っているのだろうこの男は。
新一だとて正直迷ったのだ…キッドの言葉を信じてもいいのかと。
相手は百戦錬磨の大怪盗だ。騙されているとも限らない。
けれどその度にキッドを信じたいと思ってしまったのだ。

「興味がある程度ならやめておいた方がいい。きっと新一が傍にいれば俺は新一
の事抱きたいと思うし…
 新一が嫌だって言ってもやめてあげられないと思う。だから…」
「だから?今更予告を覆すつもりかよ。大怪盗の名が泣くぜ?」

新一は迷いのない眼差しを向けた。
するとそこにはいつものポーカーフェイスはどこへやら、
驚きを隠せずに見つめ返してくるキッドがいる。
新一はそんな彼が無性に愛しくなり、思わずその顔に手を延ばした。

「しん…いち…?」

片眼鏡がその表情を邪魔していて。
だから、いらない。そんなものは自分達の間には必要ない。
そして新一は満足そうに笑い、キッドの頬にキスを贈る。
ますます大きく見開かれた瞳。初めて見るその表情に更に愛しさが募った。

「俺の全部を盗むんだろ?やってみろよ」

新一のその言葉にようやく我に返ったキッドは、
先程までの不安気な表情とは打って変わって得意気な笑みを取り戻していた。

「後悔すんなよ?新一」

そう言ったかと思うとキッドは新一の顎に手を添え、その口唇を重ね合わせた。

「んっ…ふ…っ…」

この前とは全く違う激しいキスに翻弄され、苦しそうに喘ぐ新一。
いつの間にかシルクハットは下に落ち、素顔を遮る物は何もなくなっていた。






「いつまでもこんな所にいるのもなんだしさ、俺の家来ない?今母さん出掛けて
て家に誰も居ないんだ」

ようやくキスから解放され、その逞しい腕に凭れ掛かり甘い余韻に浸っていた新
一はその言葉を理解するのに暫らくかかった。

「こ…これから?」

恐る恐る尋ねる新一。

「何をビクついてるのかな新一君は。煽ったのは新一の方でしょ?やっぱ期待に
は応えないとね〜♪」
「!!」

真っ赤になって言い返す言葉が見つからない新一。
一方、めでたく復活を遂げた怪盗は超御機嫌である。

そんな時、ここからそう遠くない時計台の、一日の終わりを告げる鐘の音が辺り
に鳴り響いた。
ふと快斗の腕の中の新一が真っ直ぐ顔を上げて視線を絡ませる。

「BHAPPY BIRTHDAY…快斗」
「ん、ありがと新一」

照れくさそうに言う新一に快斗は蕩けるような笑顔を見せる。
それを見て恥ずかしくなった新一は俯いてしまった。

「………寒い」
「…へっ?」
「お前がっ!こんな所に呼び出したりするからっ…風邪でも引いたらどーしてく
れる!」

素直じゃない新一の台詞。
だけどその言葉に隠された本当の意味が分からない快斗ではない。

「だいじょーぶ、任せといて♪これからバッチリ暖めてあげるからねv」

その台詞を聞き、新一は耳まで真っ赤にして快斗の胸に顔を埋めてしまう。
それを見た快斗はこの上なく幸せそうな笑顔を浮かべた。




こうして快斗にお持ち帰りされてしまった新一がその後、どんな夜を過ごしたか
は二人だけの秘密だそうな…(笑)











〜After〜


「ったく…手加減てモンを知らねーのかよコイツは…」

真夜中ベッドの上でひとりごちる新一。
隣には安らかな寝息をたてて眠る快斗がいる。

「前々から思ってたけど…詐欺だよなぁ」

あどけない寝顔。これがいつも警察を手玉にとる怪盗キッドの素顔だなんて嘘み
たいだ。
そしてついさっきまでこの腕の中で女のように嬌声をあげていた自分。
…その事実がこんなにも嬉しいだなんて。

「責任、取れよな」
「じゃあお嫁に来る?」
「……っ!?」
「いやぁ、新一ってば感度良過ぎvおかげで理性フッ飛んじゃったよ俺」

いつの間にか寝ていた筈の快斗がニヤニヤ笑いながらこちらを見上げていた。

「お、お前っ!いつからっ…!?しかも何ふざけた事っ…!」
「ん〜?手加減出来なかったのは新一のせいだって言ってるだけでしょ?俺はと
っても真面目だよ?」
「〜〜〜〜!」

つまり、最初から快斗は起きていたのだ。
真っ赤になって睨み付ける新一を尻目に快斗は喜々としてしゃべり続ける。

「詐欺って言うなら新一の方だぜ?推理してる時なんかむちゃくちゃクールだし、
普段だって全然そっけないクセに俺に抱かれてる時だけあんな素直なんだもん
な〜♪」


ボスッ


いい加減堪忍袋の緒が切れた、とでもいうべきか。
新一は手元にあった枕を快斗の顔面めがけて思い切り投げつけた。

「そ、そんなに怒らなくても…」
「知らねぇ!俺もう帰るっ!!」

そう言ったかと思うと新一はベッドから出て行こうとした。

「ちょ、待てって…新一!」

これにはさすがの快斗も慌てて後ろから羽交い締めにした。

「ゴメン。つい嬉しくて…俺の事、嫌いになった?」

珍しく気弱な言葉。実は新一は快斗のこういう態度にかなり弱いのだ。

「…こんくらいで嫌いになる位なら今ここに居る訳ねーだろ」

甘い、とは思いつつやはり惚れた弱みというべきか…
一つ溜め息をついてから新一は後ろの快斗を振り返り、不安に揺れる一対の瞳を
見つめた。

「まだ夜明け前だぜ?いい加減眠りたいんだけどな俺は。そろそろ離してくんね
ぇ?」
「えっ…あ、ああ……」

そろそろと離れていく腕。
それを見遣った新一はニッと笑い、いきなり快斗をベッドに押し倒して強引に口
づけた。

「……!?」
「好きだよ、快斗」

新一から言って貰えるとは思ってなかった言葉。
快斗は驚きに目を瞠り、次に泣き笑いのような表情を浮かべた。

「ありがとう新一…今までで最高のプレゼントだ」
「バーロ、大袈裟なんだよオメーは!」

顔を赤くしながら再び快斗の腕の中に納まった新一は少し速めの鼓動を聞きなが
ら目を閉じる。

「おやすみ…新一」

腕の中の存在を確かめながら快斗もゆっくりとまどろみの中に落ちていった。

あと数時間で陽は昇り…ようやく想いを確かめ合った二人に朝を告げる。






fin.




あぁ…、KIRA様ごめんなさい…。

バースデーノベルだというのに、月が変わってしまっている…。


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