「鯉のぼり」




なんとなく、快斗の様子がおかしい。
 日頃はこれでもか、といわんばかりに外に行こうと誘うのに、最近ではそんな素振りすらみられない。
 まぁ、もともと外に出るのが好きではないおれにとっては、ありがたいというもので。
 それにしても、いきなりどうしたんだろうか。
 気になる。




 新一の家は閑静な住宅街のなかにあって、とりわけ敷地面積が大きい。周辺にある住宅も似たような感じで、それぞれ庭先も大きく取られている。
 したがって、庭先には、やつらが優雅に泳いでいる。
 洋風建築なんだから、そんなもの建てるんじゃねーーよ、とおもうが、世のじじばば共は違うらしい。
 孫かわいさで、見せびらかしたいらしい。オレにとっちゃ、そんなものはありがた迷惑だ。おかげで、外に出ることすらままならねー。
 そぅ、なにげに空を見上げると、いるのだ。大きな顔をして。そこら中に。それこそたくさん。
 オレは、端午の節句なんて、だいっ嫌いだぁーーーーー!!!!!!!。




 テレビから流れるのは、そろそろシーズンの子供の日の飾り物のこと。どのくらいのものが売れ筋で、どんなものが喜ばれるかなど。
 あぁ、もうそんな時期か、ととくに気にもせずに見ていたら、視界に映ったのは大きな鯉のぼり。こどもの日のいちばんの主役。
 はた、と思い出して、快斗を見れば、そっぽを向いている。おもいっきり嫌そうな顔をして、無視を決め込んでいる。
 ははぁーん、原因はこれか。
 よくよく考えれば、すぐに出た答えだ。
 快斗は魚が大嫌い。
 とにかく、魚と名の付くモノも大嫌い。
 買い物にいっても、鮮魚コーナーには目もくれない。それほどまでに、彼は魚が嫌いなのだ。それなのに、この時期になると、否応なくその嫌いなものの巨大な姿を目にしなければならないのだ。
 これほどの拷問もないだろう。
 なんとなくおかしくて、おれはくすりと笑ってしまう。
 めったに弱みを見せないこの男の、意外な一面を見たようで。




 「なぁ、快斗。しばらくは家でのんびりしようか?ここ最近、お互いいそがしくてゆっくりできなかったから、いいだろ?それとも、おまえ何か予定、あったか?」

 「……いいの、新一?」

 「あぁ、おまえがいやじゃなければ、だけどな♪」

 おれの以外な提案にびっくりしているのか、ほけた顔をしている快斗に、おれは嬉しくてめったにしないウインクなどしてしまった。滅多にしないことオンパレードで快斗が面食らってしまっている。
 なんだか、わくわくしてしまう。おれからの一言で、こいつのこんな顔が見られるなんて。おれだけの特権とおもっていいだろうか。
 快斗はどちらかといえばひとを楽しませようというタイプだから、逆のパターンには慣れていないらしい。とくにそれがおれからだと、顕著になるようだ。
 バーロ、おれだって、おまえの喜ぶ顔が見たいんだよ。
 おまえはいつもいつも、先回りしておれにイロイロしてくれるけど。
 好きな人、大切なひとになにかしてあげたいとおもうのは、おまえだけの特権ではないんだから。




 「たまにはいいよな。家でぼーーとするのも。わざわざ外にでて、人混みに巻き込まれなくてもさ。それにこの時期は紫外線も多いし、体にも良くないし。日光浴なら、家でも十分できるしさ」

 「そうだね。庭の花もきれいに咲いてくれてるから、いっしょに眺めよう」




 まるで棚からぼた餅ではないけれど、大嫌いなものから逃げていたら、大好きなひとからすてきな時間を貰ってしまった。嫌いだけど、今日くらいはその存在を認めてやってもいいかな……、とおもってしまった。
 でもきっと、そんなことをおもうのはこの一瞬だけで。






 

晴れた日の青空に今日も元気に、彼らは泳いでいる。
 みんな、元気でいろよ、と云わんばかりに。  




 だが、平和とは得てして長続きしないもので。
 このあと、爆弾は落とされた。




 「………なぁ、快斗。おまえ、自分にこどもができて、それが男の子だったらどうするんだ? いやでもお祝いはしなきゃならないだろ。さすがに自分のこどもなら逃げられないとおもうんだが……」




 なんとなく疑問におもったことだから、口にしてしまったけれど、ちょっとだけ後悔してしまった。だって、いま快斗のそばにいるのは男のおれで。だとしたら、子供の生まれる可能性というのは、皆無で。




 「……新ちゃん、オレのこども、生んでくれるんだッ!!!! オレ、新一とのあいだにできた子供なら我慢できるよッ!!!! わぁーーーーーい、さっそく哀ちゃんに頼んでたもの貰ってこよッ!!!!!! 」




 おれのことばを聞いたとたん、快斗は目をうるうるにして、ガシッ!!!! とおれの手を握りこむと、待っててね、と軽やかに言い捨てて、IQだけは高すぎる莫迦は隣家のアブナイ科学者のもとへと走っていった。
 おいおい、いまなんて云った? おれが生むだと? しかも、頼んでたもの、だと? なんなんだ、それは?! もしかしなくても、おれは墓穴を掘ったのかッ?!
 やべーよ、マジで。
 ………どっか、とんずらしようかな…。




 名探偵と怪盗の平和な休日の午後はマッドな科学者を巻き込んで、いつもの慌ただしいひとときになってしまったようだ。
 その存在を忘れ去られた鯉のぼりは下界の喧噪など知らぬげに、元気に青空を泳いでいる。
 仲良きことは、美しきかな………










   終


高瀬様、申し訳ありませぬ〜!!!

季節もののお話だというのに……。今日は何日〜???

……………何も申し上げる事ができません。

ほのぼのとしたお話、ありがとうございました。

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