〜ありのままで〜

by 深流様


ザクッ、ザクッ、ザクッ。
自分の歩く音だけがする。
こうして雪を踏みしめて歩くのは何年ぶりだろう。
誰もいない場所に『独り』。
それだけで誰かに助けを求めそうになる。
いつのまに自分はこんなに弱くなった?
自分が望んでココに来たというのに?
『雪』を選んだ時点で自分の『甘え』に気づいた。
空を見上げると自分に向かって雪が降っているように見えて。
――そう、雪に包まれているように感じた。



何処かへ行く当てもなく家を出た。
とりあえずメモだけは残してきたから大丈夫だろう。
帰ったら説教されるには違いないが。
ただフラフラと街中を歩いていた。
駅の横を通り過ぎようとして立ち止まった。
大勢が送り込まれる駅の入り口。
自分もその中の一人になってみたくて。
気がついたときにはそのまま改札を通っていた。
目的地も思いつかないままホームに止まっていた列車に乗り込んで。
ボーッと外を眺めていたら雪景色が目に飛び込んできた。
気だついたら名も知らぬ駅に降りていた。

そしてそのまま雪の中へ――足を踏み出していた。

厚手のコートにニットの帽子、マフラーに手袋。
街中では完全な防寒だが、こんな場所では軽装にすぎなくて。
途中で買った缶コーヒーを両手で包むようにして暖をとる。
吐く息が思った以上に白くて。
そして再び歩き出す。

――貴方にはわからないわ――
 

――誰かを殺しても貫きたい想いはあるのよ――

恋人を自殺に追いやった『加害者』を殺めて自ら『加害者』になった彼女。
全てを暴かれて連行される彼女が自分の横を通りながら投げた言葉。
泣くに泣けずにいた彼女が溜め込んでいた涙が頬を伝った瞬間でもあった。

わかるわけがない。
人が人を殺める気持ちなんて。
いつだって『罪』を暴く立場にいたから。
どうやって殺人を犯した?
アリバイは?動機は?
殺意を抱いても実行せずとも他に方法はなかったのか?
そんなことしか考えられない『自分』には何も言えるはずもなく。
こんなとき『西の探偵』と呼ばれる同業者なら優しい言葉でもかけて
やれるのだろう。
だけど『オレ』には出来なくて・・・。

「あ・・」
今まで降り続いていた雪が止んだ。
思わず歩みを止めて。
そのまま後ろ向きに雪の中へダイブする。
降雪が深くて思ったより衝撃は少なかった。

「どう言えば良かった・・・?」
「オレには・・・っ」
両手で目を覆う。
そうでもしなければ何かが零れそうで。

「いつまでそうやってるつもり」
突然かけられた言葉に思わず息を呑む。
聞こえるはずがない声。
だって――ココにいることは知らない。
恐る恐る目を開ける。
そこには――少しだけムッとした表情の快斗が立っていた。
「『ちょっと出かけてくる。探すなよ』こんなメモ残しといて心配しないとでも思っ
た?」
「なんで・・・」
「警部サンに事件のこと聞いた」
「そう、か」
うつむいた新一に
「こんなところで自殺でもするつもりだった?」
快斗が問う。
新一は首を横に降る。
「じゃあ何?」
「雪を見た瞬間、お前を思い出した。そしたらもっと近くで見たいと思った・・・」
「バカ、だな」
普段は新一が事あるごとに快斗に向かって言う言葉。
「ああ、そうだな」
自嘲気味に笑う。
「ホーント、馬鹿。言ってくれれば一緒に行くのに」
思わず顔を上げた新一は快斗が笑っていることに気がついた。
「新一は新一であればいいんだよ。誰かと比べなくても大丈夫。オレはいつだって新
一の味方だから」
今まで堪えていたモノが溢れ出す。
「お前・・・馬鹿・・・」
「何!?持てるもの使って追いかけてきたオレにそんなこと言うわけ?!」
(持てるものって・・・こんなことのために無駄に使うなよ)
思ったが口にはしなかった。
・・・嬉しかったから。
こんな自分でもいい、と言ってくれる人間が少なくとも一人はいることが
わかったから。

ああ、もしかしたら『彼女』もこんな気持ちを持っていたのだろうか?
それがちょっと方向を間違えてしまっただけで。

クスクスと笑い出した新一に快斗がギョッとする。
「工藤サン?」
「手、貸せよ」
快斗に向かって手を伸ばす。
言われるまま快斗が手を差し伸べるとその手を掴んで快斗を引き摺り
下ろす。
「うわあ!」
そのまま快斗は雪の中へ。
「しんいち〜」
頭から雪の中へ突っ込んだ快斗は全身真っ白で。
「やっぱり雪ってお前の色だな。だからこんなにも暖かいのかな」
そんなことを言いのけた新一に快斗が慌てて額に手を当てる。
「やっぱり〜」
スクッと起き上がると座ったままの新一を抱え上げる。
「快斗?」
ワケがわからずに首を傾げる。
「熱!あるのわかってないだろ?!こんな寒いトコにずっといるから!」
「そう、か?」
自分でおでこに手を当てるがそうは思えなくて。
「さっさと帰るぞ」
快斗の言葉に黙って頷く。


――うん、まだ『自分』は大丈夫。





――だって『帰る場所』があるから。





――『ありのまま』でいいと言ってくれる人がいるから。





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