Wishing on the tree
by こっこ様
「もうすっかり街もクリスマスだね」
ぼんやりとしていたら、高木刑事のその言葉に思考が引き戻された。
「工藤君は予定入ってるんだろう?」
女の子達が黙ってないだろうしね。
横で車を運転しながらの何気ない言葉に。
「まぁ…一応は」
新一はフッと表情を和らげ、苦笑いを零す。
「そっかぁ。やっぱりいるんだね、そういう人。残念がるだろうなぁ…」
工藤君狙いの人達、かなり気合入れてたけど。
と困ったように笑う高木さんに、ますます苦笑しか返せない。
「じゃあその日はなるべく呼び出ししないようにするよ。目暮警部にもそれとなく言っておくし」
「それとなくって…」
「いつもお世話になってるんだからそれくらいはね。事件が起きなかったら一番いいんだけど…」
「そうですね」
でも事件は待ってくれないし、どうなるか誰にもわからない。
いざ難解な事件が起こってしまったら自分はやっぱり向かうだろう。・・・約束を違えることになるとわかっていても。
でも、その日は特別だから。
破りたくはないし、必ず会いたいと思う。
夜の街を一段と色鮮やかに輝かせているイルミネーションに、
新一は想いを馳せる───
◇◆◇◆◇
出逢ったのは1ヵ月くらい前、帝丹で開催された学園祭。
昨年途中で断念せざるをえなかったあの劇をもう一度と望む、校内だけではなく外からの熱い要望に応える形で行われた演劇に、もちろん新一は主役としての参加を余儀なくされた。いろんなトコ(蘭や園子は当然ながら学校側からも)から脅し紛いなことをされれば仕方がない。
それ故その日の新一の機嫌はおっそろしいほど悪かった、誰もが遠巻きに眺めることしかできないくらいに。巻き込んだ張本人の蘭や園子ですらこういう時の新一には関わらないに限ると野放しにしていたのだから他の人間が近付けるわけがなかった。一人不貞腐れてツンドラ並みの冷気を纏っていたそんな新一の前に・・・彼は現れた。
白馬と一緒に新一のいた控え室に入ってきた彼は、流石に新一の雰囲気を察した白馬が声を掛けるのを戸惑っていたのも無視して、スタスタとツンドラの中へと入っていった。
どうなるのかと心配する周りを他所に、新一の顔を覗き込む。
いきなり現れて、しかも至近距離で見られて目を瞠った新一に、彼はにっこり笑って。
「はじめまして……“名探偵”」
耳元で囁き・・・新一の頬にキスをしたのだ。
一瞬真っ白になった頭の中。
呆気に取られて、数秒後ようやく働き始めた頭でその意味と状況を理解する。「なッ……てめぇなにしやがるッ!!!」
ばばっと後ろに飛び退いてからガルルーと威嚇するかのように吠えた。
条件反射で真っ赤になってしまった顔だけはもどらなくて、睨みつける顔は真っ赤なままだったけ
ど。
そんな新一を暢気に笑顔で眺めていた彼は、悪びれることもなく言い放った。
「とりあえずは“友達”から始めてみない?」
もちろん新一は必死に反論したが、まともに取り合うことがない相手では無駄に疲れるだけで。
───そうしていつしか“友達”として付き合うようになっていた。
何を考えてるのか・・・全く読めない相手。
何の為に本当の姿で近づいてきたのか?
探偵である新一に自ら正体を晒してきた目的は?
“友達”などという関係に、新一に何を求めているのか?
今尚空を翔け続ける理由も目的も知らない・・・。今まで新一が出逢ってきた中で最大の謎。
なのに、どうしてもそれらを知りたいとは、無理に知ろうとは思えなかった。確かにワケがわからないことだらけだけど、彼と話しているのは嫌いじゃない。
頭の回転も速く、豊富な知識と巧みな話術で厭きることがない。
本当は偽られたモノなのかもしれない、それでも彼が言うように“友達”としてならば貴重な相手だと思っていた。ただ一つ、時折ふとした時に彼が見せる寂しげな瞳が・・・やけに気になるようになったのは、彼と知り合って間もなくのことだった。
今月に入って、初めて彼が新一の家にやって来た。
何やら大きな荷物を持って。「ちょっとしばらく庭借りるな」
そう言うと荷物を抱えて裏へと廻って行った。
新一もさほど気にすることもなく、リビングに戻り読書を続けていた。そして・・・
日が沈み暗くなり始め、電気をつけようと本から視線を外して。
窓辺から明るい光が漏れているのに気がついた。
徐々に窓辺へと近づくにつれて、正体は明らかになる。
「………すげぇ」
思わずそんな言葉が零れ落ちた。
「あーあ、バレちゃった?」
少し肩を竦めつつも、その横で彼は微笑んでいた。
「12月といえばクリスマス、クリスマスといえばコレだろ?」
工藤ってば忘れてそうだしさ、せっかくなんだし楽しまなきゃソンでしょ。
彼は満足げに笑って、大きなソレを見上げる。
まあまあかな、と呟きながら。
どこから持ってきたのかもわからないけど。
上から下まで立派に飾り付けされたクリスマスの象徴・・・大きなクリスマスツリーがそこに出現していた。
本当に何を考えてんのかわからない・・・
でも、悪い気はしなくて、新一は自然と笑顔でツリーを見つめていた。
「なぁ…工藤」
どのくらいそうしていたのか、彼が当然口を開いた。
「クリスマスの日さ……会える?」
彼らしくもなく、些か緊張しているようにも見える。
首を傾げた新一に、真摯な眼差しを向け言葉を慎重に選ぶ。
「オレ……“友達”として工藤と接してきて、それでもいいってずっと思ってた。だけどやっぱ、辛いよ……」
瞳を細めて儚く笑う顔は、ずっとずっと気になっていた彼の表情。
「何時まで経っても工藤は“オレ”に興味を持ってくれない…結構オレなりに頑張ってみたけど、これ以上は無理だよ…」
だから・・・
「工藤……好きだよ」
探偵とか怪盗とか、同性とか、関係なく。
一人の人として・・・オレは工藤が好き。もちろん恋愛感情としてね。
学校で親しそうに工藤のことを話す白馬に無性に腹が立った。
無理に付き合ってやってるフリをして学園祭に行ったのも工藤に会えると思ったから。
つい我慢できなくてあんなコトしちゃったけど、すっげー嬉しかったんだ。
こんな風に普通に話せて、普通に会えて、満足するはずだったのに・・・
やっぱりダメだった。工藤のこと知るほど好きになるだけで。「だからさ…こっ酷くオレのことフッてよ…」
クリスマス、世界中で奇跡が起こる日、
幸せで満たさせる聖なる日だからこそ・・・
真っ直ぐな告白。
決して冗談なんかじゃなく、彼の紡ぎ出す言葉一つ一つが心に直接響いた。
◇◆◇◆◇
「ありがとうございました」
送ってもらった高木さんにお礼を告げて、門扉に手を掛けて。
視界の端に入るのは、チカチカと光るツリー。
あれから彼には会っていないし、連絡も一切ない。
でも・・・毎日メールをチェックする度に彼からのモノを探してしまうのは何故だろう。今までは鬱陶しいくらいにメールを寄越していたくせに。
受信メールに残っているのは9割以上が同じ送信主。
イチイチ消したりしないからそのまま残されている、記録。『眠いよぉ〜なんで授業中ってこんなに眠くなんのかな?』
『また授業サボってんの?忙しいねぇ名探偵さんはv』
『お疲れさまv夜更かししないで早めに寝ろよ』くだらないことを言ってるときもあれば、小言なんか寄越すこともあって。
本当は・・・楽しみにしていたのに。
新一はツリーの下で、瞳を伏せた。
───彼を失いたくない。
きっと、“友達”としてじゃなく。
彼の求めているものと同じなのかわからないけれど。
彼に興味を持っていないと言われた。
・・・それは違う。
知りたいから訊く、知りたいから調べる。
そんな単純なことじゃない。彼の謎は。もしも、関わることで彼が危険に晒されることになったら?──
そう考えなかったことがあるだろうか。
どこかに意識としてあったからこそ知りたいと思わなかったのかもしれない。
思えば、彼は始めっから自分勝手なヤツだった。
その勝手さを棚に上げて、新一に重大な選択を迫るなど身勝手極まりない。
だからこそ、超身勝手な彼に文句を言ってやるのだ。
その為にもクリスマスくらいは平和であってほしいと、新一は祈った。
数日後、クリスマス───
祈りが通じたのか、ツリーの前で待っていた新一の目の前に、
真面目くさった顔で現れた彼の頬を、思いっきり新一は引っ叩いた。その後で・・・
「メリークリスマス」
言葉と共に、今度は力いっぱい彼の身体を抱きしめた。
「殴ったのはオレを悩ませた代償。んでこれが返事…」
素っ気無くとも新一の口から出たセリフに、彼は顔を崩した。
そっと新一の背に腕を回して、顔を埋めて。
「ありがと…」
小さい声で呟くと、新一と視線を合わせて照れくさそうにはにかんで、
クスッと笑った新一をギュッと捕まえて離そうとしない。
「バーロ…」
「メリークリスマス…」
二人の声は重なって、
次の瞬間には互いの息の中に消えた。
End.
こっこ様から100000HITS!のお祝としていただきました。 ありがとうございます。 お返事待ちにドキドキの快斗君をいきなりひっぱたく新一。 思いっきり、ツボですっ!やっぱ新一はこーでなくっちゃね! Christmas