春の暖かい陽射しが満開の桜の間から降り注ぐ。

数千本の桜が花を競うように咲き誇っている。
ここは東京より車で2時間ほどのところにある小さな町。
東京ではすっかり葉桜となってしまったが、
ここではちょうどいまが見頃である。
お互い忙しい身であるため、花見をしないうちに盛りが過ぎてしまったため、
双方が休みとなった今日、桜を求めて宛のないドライブを楽しみながら、ここまできた。
桜の木の下で、快斗が作ったお弁当を広げ、お腹を満たしたところで何もしない贅沢な時間を
楽しんでいる。
新一は桜の幹に寄りかかって鞄の中に入っていた本を読み始めた。
何もここまできて、と快斗は思うのだがそれが余りにも新一らしいので何も言わず好きにさせていた。


つれない恋人が読書に夢中になっている間に、お弁当の重箱を片付け、ポットに入れてきた紅茶を
いれる。
「新一、あったかいうちに飲んでね」
「ん・・・」
気もそぞろな返事はいつものこと。
快斗も傍らに座り、春の風に舞う桜の花びらを見つめていた。




どのくらいそうしていたのだろう。
強く吹きつけた風に花びらが舞い乱れる様子に快斗は目を奪われた。
「桜吹雪ってカンジ・・・。幻想的だよね。マジックのネタになんないかなぁ・・・」
別に新一に聞いてもらうつもりで言ったわけではないから、返事がないのも気にはならない。
つらつらと仕掛けを考えていると、ふいに肩に重みがかかる。
「新一?」
見れば快斗の肩に寄りかかり無防備な姿を晒している。
無理もないのだろう。
朝、起きた時のあまりの心地よさにまだ眠っている新一を起こしてここまで連れてきたのだ。
気がつけばかなり日は傾いてきている。
「新一、そろそろ帰るよ。このままでいると風邪ひくし・・・」
「ん・・・」
「しょうがないなぁ〜」
快斗は起きる気配のない新一の身体を抱き上げた。




心地よく身体に伝わる揺れに気がついて、新一は目を覚ました。
自分の置かれている状況がわからず目をぱちぱちとさせる。
ようやく状況をつかむと呆然となった。
快斗が自分を横抱きにして、花見客で賑わう公園の中をさくさくとあるいているではないか。
「か、快斗!降ろせよ!」
「やだ」
にべもない新一は快斗の腕の中で暴れた。
「暴れちゃダメだってば」
「人が見てるだろ!」
「見てないよ。みんな酔っ払ってるしね」
だとしても、新一にはいまの状況はかなり恥ずかしいものがある。
「心配しなくても見られそうなら俺がマジックで新一を隠してあげるから」
新一は快斗の顔をまじまじと見たが、本当なのか冗談なのか区別がつかない。
そんな新一の気持ちを察してか快斗は指をパチンと鳴らした。
ざわっと木々が揺らぎ、突風が二人の横を通りぬけた。
桜の花びらが二人を包み隠すように舞い上がる。
「か・・・いと・・・」
あまりの驚きに新一は横抱きにされている恥ずかしさも忘れていた。
「いかがです?怪盗キッドに不可能はありませんよ」
格好は快斗のままだが、凛とした白い怪盗の口調になると新一の頬にキスを送った。
「快斗・・・」
新一は赤く染まった顔を隠すように快斗の肩へと顔を埋めた。




(俺のほうが、驚いたもんね。まさかあんなにタイミングよく風が吹くとは思わないし・・・。
ま、いいか。おかげで新一が俺の腕の中でおとなしくしてるし。
俺じゃなくて、自然のマジックだってバレたら、怒られるだろうなぁ・・・)






後日、言わなきゃいいのにはずみで、
「まさかあんなにいいタイミングで風が吹くとはねぇ〜」
と、口を滑らせてしまった快斗は一週間の寝室立ち入り禁止令をくらった。





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