探偵秘書りゅうの業務日誌

★1★



K.I.D.オフィスが事務所開きをして、まもなく2週間になる。
さすが工藤新一の名前は強く、まったく宣伝活動をしていないのに、
どこで聞き付けたのか、依頼は舞い込んでいた。
だが、そのほとんどが信用調査の類いで、工藤新一は事務所のデスクで推理小説を読みふけっていた。


「ちわ〜〜〜」
「あら、快斗君。いらっしゃい」
「・・・・・・・・・」
新一は快斗が来たことにも気付かず、本に集中している。
「あちゃ〜、新一ってばここでも読書に勤しんじゃってんの?」
「まぁね」
奥のダイニングテーブルに腰を落ち着けた快斗は、差し出された紅茶とケーキにありついた。
「りゅうさん、ひょっとして依頼ないの?」
「依頼はあるわよ。ただ、新一君にご登場いただくほどのものがないのよ」
「なるほど・・・」
信用調査なら、りゅう一人でなんとかなってしまうのだ。

「あれ?快斗、来てたんだ」
新一は手にしていた文庫本をパタンと閉じると、立ち上がって奥へ顔を覗かせた。
「うん、今日はスケジュールの確認だけだったからね」
快斗はマジシャンとしてのマネージメントをお願いしているプロダクションに行ってきたところだった。
怪盗キッドとしての仕事もある快斗は普段はツアーなどの仕事はせずに、
ホテルのディナーショーや学園祭など小さなステージを中心に活動していた。
大きなステージは年に2〜3回。
それでも、そのときばかりと大掛かりな仕掛けを使ったショーを行うので、
チケットはプレミア付きで取り引きされるのだ。
「ふ〜ん、で今月はどうなんだ?」
「今月は楽チン!やっぱ4月ってのは新年度になったばっかで、お祭り騒ぎってのはしないからね」
「そっか・・・」
返事とは裏腹に新一の顔に意地悪い笑みが浮かんでいるのが、快斗の気にかかった。
「・・・なに?」
「ん?その様子じゃ、まだ知らねぇみたいだな」
「さっきのアレのことね?」
「りゅうさんまで、なんなのさぁ〜!」
快斗が一人仲間はずれにされたようで拗ねている。
「耳寄りな情報があるんだけど・・・怪盗キッドさん」
「へ?」
「ビッグジュエルを借り受けた企業があるんだよ」
「うそ!」
「もう、エイプリルフールは過ぎたわよ」
新一とりゅうにかわるがわる思わせぶりなことを囁かれて、快斗はじれったくなってきた。
「もぉ〜〜〜!早く詳しいこと教えてよ!」
「ある企業がな、アメリカの企業と提携を結んだんだよ。その記念にお互いが保有する資産の中で、
美術的価値の高い物を借りあって、両方の国で美術展を開くことになったんだ」
「日本側の企業が借りたものの目玉がビッグジュエルってわけ」
「どうしてそんなこと知ってんのさ」
快斗が胡乱な表情で二人を見比べる。
「だって、さっき依頼があったんですもの」
「日本で一番安全な美術館はどこかってな」
「ちょ、ちょっと!探偵がそんな情報リークしちゃっていいの?」
「だって、ここはそのためのオフィスですもの」
「そういうこと」
二人はしれっとした顔で答える。
わずか数週間の付き合いしかないはずなのに、ナイスコンビネーションだ。
「怪盗キッドの予告状が出れば、主催者である企業からは依頼があるだろうし、捜査協力の依頼もあるわね」
「ビッグジュエルを死守すれば、事務所の名も上がるしな。
その上、快斗はそれがパンドラかどうか確認できるんだし、言うことなしだろ?」
「一石四鳥…、いえ、新一所長のストレス解消にもなるから一石五鳥ね」
「当然、協力してくれるよな、快斗」
「あ〜〜〜〜〜!わっかりました!やりますって!」
さんざん二人に煽られて、快斗は成りゆきでお仕事することになってしまった。
「りゅうさん、詳しい資料貰えるの?」
りゅうはデスクの一番上の引き出しを開けると、黙って書類を快斗に渡した。
「・・・・・・」
完璧というか、用意周到というか、呆れて快斗は絶句してしまった。
「快斗、予告状期待してるからな」
「ちょっとぉ〜、そっちは手伝ってくんないわけ?」
「手伝ったら、俺の楽しみがなくなるじゃないか」
「りゅうさんは?」
「私、探偵秘書であって、怪盗秘書ではないのよ」
「・・・・・・一人でガンバリマス」
肩を落として本気で寂しがっている快斗にりゅうがそっと耳打ちした。
「新一君を楽しませてあげた後は、快斗君も新一君に楽しませてもらえばいいのではなくて?」
快斗はりゅうの顔をまじまじ見つめたあと満面の笑みを浮かべ、目をキラキラさせて事務所を出ていった。
「クスッ、ほんとにわかりやすいわねぇ」
「りゅうさん・・・、快斗に何言ったの?」
「ナイショよ」






数日後―――――。
りゅうは新聞を片手に朝食のミルクティーを飲んでいた。
新聞のトップを飾ったのは、怪盗キッドの記事。


 怪盗キッド、警察を翻弄
 名探偵・工藤新一 お宝を死守

	昨夜未明、米花市杯土町の緑川記念美術館に怪盗キッドが現れた。
	同美術館では、アメリカのGA社が保有する美術的資産が公開中で、
	その30カラットのイエローダイヤ『トリックスター』が、注目されている。
	怪盗キッドが狙ったのは、この『トリックスター』で、三日前に関係者に
	予告状が届いていた。この予告状は、いままでのものよりさらに難解で
	警視庁の手をわずらわせていた。予告日となっても、一行も解読が進まず
	警視庁では、ついに名探偵・工藤新一氏に解読を依頼した。工藤氏は
 	15分後には見事解読に成功、すぐさま警備体制がしかれた。しかしながら、
	怪盗キッドは警備網を潜り抜け、『トリックスター』を盗み出した。暗号を
	解読した工藤氏が現場に居合わせ、独自に怪盗キッドを追跡。見事、
	奪還に成功した。今回の警察の警備網は、工藤氏の助言を退けた形で
	布陣されており、警察上層部の判断ミスが問われるものと思われる・・・・・・。


「あらあら。快斗君、新一君のためにかなり頑張ったようね」
クスクスと笑いながら、カップに残ったミルクティを一気に飲み干した。
TRRRRRR―――。
「はい。あ、快斗君?おはよう」
「おはよ〜、りゅうさん。新聞見てくれた〜?」
「見たわよ」
「だからね、今日新一ベッドから出られないんだ。事務所の方よろしくね!」
「・・・・・・・・・わかったわ」
ツーツーツー、ガチャ。
「後で新一の好きなレモンパイと仕事を持って、からかいにお見舞いに行ってあげましょ」
りゅうは楽しそうに、新一に持っていく資料の整理をするため事務所へと降りていった。






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