クリスマス・パーティーは大騒ぎ

『Campus Life』番外編







東都大学と言えば、日本の頂点にある大学であると言っても過言ではない。
当然、東都大学の卒業生達は政治や経済などそれぞれの場所でも高い位置に身を置いている。
つまり、現役の東都大生と言えば、未来のエリート。
学内はおろか東都中の女子大生は、そんな未来のエリートを捕まえようと、やっきになっている。
そこへ、東都大主催のクリスマス・パーティーなんてものが催されようものなら、パーティー券はあっという間に売り切る。
そしてさらに、その女子大生達を目当てにしている他校の男子学生にパー券はプレミア価格で取り引きされているという……。
そんなオイシイ話に、この男が絡んでいないわけがないのだ。







「工藤〜!黒羽〜!」
キャンパスの中庭を突っ切って歩いていた二人を背後から呼び止める声がした。
揃っていや〜な予感がして、このまま無視してトンズラしてしまいたいところだったが、大学生活も2年目となれば、すっかりその辺は読まれていたりして、ザザッと寄ってきた他の学生に行く手を阻まれてしまった。
かたや、世界でも優秀と言われる日本警察の救世主と呼ばれる迷宮なしの名探偵。
かたや、その正体こそ皆の知るところではないが、名前は誰でも知っている怪盗キッド。
その二人の行く手を阻む強者とは……。
「「よ、よぉ…!中村……」」
そう、東都大のお祭り男こと仕切り屋・中村である。
「なんか俺達に用?」
力なく快斗が聞く。
中村の用事は大抵ろくでもないものばかりなのだから。
「フッフッフ、ここで会ったが100年目……」
ガシッと肩を掴まれる。
「そんなに経ってねぇだろ。せいぜいお前と出会って2年にもならない……」
面白くもなんともないとわかっていても、後に続く言葉を聞きたくなくて、新一は突っ込んでみる。
「そ〜ゆ〜意味じゃないって。とにかく二人ともクリスマス・パーティーには出てもらうからな!」
と中村はパーティー券を2枚差し出した。
二人は一応抵抗してみる。
「やだね。めんどくせーし……」
「パーティーったって、ようは合コン」
そんな抵抗は中村も予測済み。
「お前らがこ〜ゆ〜のに用がねーのはわかってるよ。けど、頼む!お前らが来るってだけで、チケットの値段が跳ね上がるんだ!」
チケットの値段が跳ね上がって喜ぶのは、当然パーティーの主催者。
つまり、中村はこのパーティーを仕切る幹事の一人というわけなのだ。
二人は顔を見合わせて「どうする?」と尋ねあい、二人同時に肩を落とした。
なんだかんだ言っても、二人はこの友人に意外と甘い。
しょ〜がねぇ〜なぁ〜、と苦笑いしながらチケットを受け取ると、二人を囲んでいた男達は蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていった。

























そして迎えたクリスマス・パーティー当日。
女はモチロン、男も華やかに着飾って、会場となるクラブへと集まっていた。




「お前らなぁ…………」
会場に現われた二人の姿を見て、中村はただひたすら呆れるしかなかった。
いくらチケットに『華美な服装でおいでください』と書いてあったとしても、それは大抵女性の話であって、男はほとんどがデザイナーズのスーツを着ている。
それなのにこの二人ときたら……。
快斗は、襟に金糸の刺繍をあしらった黒のスーツ。
シャツも同じ黒であるのが、なんとも憎らしいくらいに男っぽさを演出している。
「未来のマジシャンとしては、見せるときは見せないとね♪ファンは早めに作っておかないとさ」
とウインク付きで言われても、中村は嬉しくもなんともない。
どうせ、今日もあちこちに花だのなんだのを仕込んできているに違いない。
一方、新一は光沢のある濃淡2種類の生地を使ったグレーのスーツ。
華奢な身体の線を逆に強調させているデザインでなんとも色っぽい。
しかも、ふんわりとしたピンク色のシルクのドレスシャツが、より一層新一を美麗に引き立たせている。
(黒羽はともかくとして、工藤のヤツ最近開き直ってるとしか思えないよな……)
中村がそんな感想を抱いてしまうのも無理はない。
美人だ、綺麗だ、と言われるたびに冷ややかな怒りのオーラを発散させてた新一と、いま目の前に立つ新一が同一人物には見えないぐらいなのだ。
同じような顔立ちで動と静とでもいったような正反対の雰囲気を醸し出すこの二人に、一体何割の女子大生を持っていかれるのだろうと思うと、中村は「はぁ〜〜〜っ」と大きく溜息ついた。
中村は金のリボンをあしらった柊のコサージュを二人に渡した。
リボンの色には意味があり、金は招待客(つまりは客寄せ)、赤は東都大生、ピンクは外部の女子大生、黄色は外部の男子学生を示している。
ちなみに同じ東都大生でも、幹事である中村は白いリボンをしていた。
それを襟元につける二人の肩をガシッと掴み、中村は諦めたように言った。
「ま、お前らは女は間に合ってるだろうから、テキトーに楽しんでってくれ」
ちなみに中村は快斗と新一の本当の関係を知っている。
知っているからこそ、人畜無害な客寄せとしてチケットを渡したのだが、こんな派手に決められたのでは逆効果だったかもしれない。
後悔先に立たず。
中村はもう一度大きな溜息をついて、次の客の受付に応じに行った。













「くど〜っ♪」
「黒羽君!」
すでにワイングラスを片手に話をしている集団から、服部と白馬が声を掛けてきた。
二人もそれぞれ金のリボンのコサージュを付けている。
それなりに顔もいけてて、有名人な二人だから、法学部の幹事が二人を招いたのだろう。
「よ、白馬。今年はフロックコートじゃねぇのな?」
昨年、工藤邸で4人で開いたパーティーに、白馬はフロックコートで現われたのだ。
今回は意外にも普通のスーツ。
まぁ、普通と言ってもこの男の場合……。
「えぇ、バーバリーの1点ものです。母が送ってくれたので」
日本の水に馴染めなかった白馬の母は英国在住。
ロンドンの本店に作らせたオーダーメイドスーツだ。
そして服部はというと……。
「どや?工藤、似合うやろ〜?」
一年中、ジーパンにTシャツという服部にしては珍しく、スーツを着ている。
ちなみに≪洋服の○○≫とやらで買った替えズボン付き。
微妙にサイズが合ってないのを快斗も新一も見抜いている。
「あ、あぁ〜。その、なんだな、馬子にも衣装ってやつか?」
誉めどころがなくて、新一は苦笑しながらそう言った。
「失礼なやっちゃな〜」
とは言いながらも、服部はヘラヘラと笑っていた。
新一に言われることならば、どんなヒドイ言葉でも誉め言葉に聞こえる服部であった。













パーティーが始まれば、4人で引っ付いているわけにもいかず、それぞれが友人達に呼ばれて散っていく。
いつしか、快斗は他大の女子大生に囲まれている。
基本的にはフェミニストな快斗は、こうした場所で自分の立場を弁えて、ジョークを飛ばしたり、マジックを見せたりして、その場を盛り上げている。
(相変わらず、もてまくりだな……)
いまはしっかりとした二人の関係に余裕を見せる新一は、少し離れたところから快斗を見て苦笑を洩らした。

そういう新一はというと……、やはり人の輪の真ん中にいる。
快斗のように自分からなにか話したりするわけではないのだが、周囲に集まってきた人たちからいろいろと質問攻めにあっていた。
ただ、集まっているのが男の方が微妙に多いことに、当の新一が気付いているのかいないのか……。
新一はにっこりと営業スマイルで微笑んでいた。
(いったい何人の男が新一に股間を熱くしていることか……)
遠くで快斗がそんなことを思うが、実のところ新一が見かけどおりでないことを知る快斗も余裕綽々だった。
ちなみに服部も新一を囲む人の輪の外側のほうで、股間を熱くする一人だった。



















いくつかのゲームでパーティーは盛り上がったころ、カシャーンという音がして、キャーッという悲鳴が上がった。
その場にいた人達は一斉に悲鳴が上がった方へ視線を向けた。
「チキショーッ!バカにしやがって!」
大声を張り上げ、暴れる男がいる。
ラグビーかアメフトでもやっていそうな、屈強な身体つきは新一の2倍はあるのではないかと思わせる。
コサージュのリボンは黄色だから、他大の学生だ。
かなり飲んでいるのだろう。
真っ赤な顔をして、なにやら喚き散らしていた。
「テメェ、ちやほやされてさぞかしイイ気分だろーよっ!」
どうやら男の顔が赤いのは酒のせいだけではないようだ。
幹事達が男を止めようとするのだが、ガッシリとした体躯の男を羽交い締めにするのは至難の技のようだった。
新一は、男を取り囲む人の輪に中村の姿を見つけると、立ち上がってそっと近寄った。
「中村、何があった?」
「あ、工藤。よくわかんねーんだけど、どうやら自分が連れてきた女が黒羽に夢中みたいでさぁ……」
「快斗に?」
見ると喚いている男の視線の先には、快斗が無表情で座っている。
(快斗……)
快斗の反射神経を持ってすれば、あんな男の一人や二人なんでもないだろう。
けれど、周囲には人が大勢いる。
間違って、彼女達に何かあったら……。
(なんか、似てるな……。去年の東都祭の時に……)
こんな時なのに、新一はクスッと笑いを洩らした。
中村は笑っている新一に驚いたが、東都祭の後聞いた二人の武勇伝の話を思い出し、新一の肩を叩いた。
「大丈夫なのか?」
「あぁ、快斗は動けないんじゃない。動く時を待ってるんだ」
新一はニヤリと笑うと、中村にいくつかの指示を耳打ちする。
中村は大きく頷いてそっとその輪から抜けた。




「やい、テメェ!スカしてねーで何とか言いやがれ!」
ただ黙って座ってる快斗に痺れを切らして、男が叫ぶ。
ガァ−ッと勢い良く飛びかかってきた瞬間、快斗が動いた。
目にも止まらぬ早さで男を躱すと、後ろから当て身を食らわせる。
快斗が座っていた椅子に男が沈むと、快斗はガッと足でその男の巨体を押さえ込んだ。
「快斗」
人の輪から一歩前に出て、新一は快斗に声を掛ける。
「あ、しんいち〜」
いままでの無表情な顔から一転して、ふんわりとした笑顔を浮かべる。
「これ、どうしよ〜?」
快斗の足の下で男がウ〜ッと呻く。
「あぁ、俺が預かる。ちゃんと手配済みだから」
「さっすが〜」
快斗が足をどけると、男は反撃のチャンスとばかりに勢いづく。
が、あっさりと今度は新一に腕をねじ上げられる。
「ッテテテテテ!」
「ほら、歩けよ?」
新一は自分の2倍はありそうな巨体を易々とあしらう。
「俺も行こうか?」
快斗がそう言うと、新一はニッコリ笑いながら首を振った。
「必要ないな。それに、お前にしかできねー仕事が残ってるからな」
と、新一はウインク付きで会場の中を顎で指し示す。
振り返れば、怖さに震えていたり、怯えて縮こまっていたり、泣いている顔がある。
シラケたように酒を飲む男もいれば、魂が抜けたように呆然としている男もいる。
新一が自分に何をしろと言ったのか、快斗にはわかった。
「確かに……。これは俺にしかできねーな!」
「んじゃ、よろしく!」
「任せなさいって!」
快斗はフロアの中央に進むと、バッと両手を大きく広げた。
「Ladies & Gentlemen!」
新一に指示されて準備を整えていた中村が会場の照明を落とす。
と、同時にスポットライトが快斗にあたる。
「では、皆様。今宵、クリスマスの魔法を貴方にお届けいたします」
賑やかなクリスマスソングが流れ、それに合わせて快斗の手からカードが生まれてくる。
会場にいた人たちが、あっという間に快斗のマジックに引き込まれていく。
新一は満足そうにそれを見ると、男を促して店の外に出た。

























「黒羽!工藤!」
パーティーは大盛況のうちに終了し、家路につこうとしていた二人を中村が呼び止めた。
「「中村、お疲れ!」」
「お前らこそ。今日のパーティーが成功したのもお前らのおかげだよ」
中村が嬉しそうに言う。
「俺はなんにもしてねーぜ?したのは中村たち幹事と快斗だろ?」
新一がこともなげに言う。
「え〜?そんなことないよ!新一が中村たちに指示してくれなかったら、俺のマジックだってあんなに盛り上がらなかったよ?」
「そーだぞ、工藤。俺らオロオロしてるだけだった」
打ち合わせもリハーサルもなしのマジックショーが、バラバラになっていた会場を一つに纏めたのだ。
幹事たちがどんなに頑張っても、所詮は素人の集まりだ。
あの時、あの場所にいた人々の中で、それが出来たのは快斗一人。
新一はただ、快斗がやりやすいようにと思って中村に指示したにすぎない。
「てな訳で、これ幹事団からのお礼な!」
と突き出されたのはシャンパンのボトル。
二人がそれを受け取ると、中村は「じゃ!いいクリスマスを!」と手を振って、片付けのために店へと戻っていった。

「な〜んかおもしろくねぇ……」
駅へと向かって歩きながら新一がそう呟いた。
「なにがぁ〜?」
「快斗のマジック、俺だけ見れなかった……」
新一は、あの暴れた男を警察に引き渡し、事情聴取のために交番まで行っていたのだ。
あの男も暴れただけで、傷害も器物破損も犯していなかったから厳重注意ということで、帰されただろう。
交番で酔いが覚めていくうちに、自分のしでかしたことに青くなっていく様はちょっと見ものだったが、そんなものは快斗のマジックと比べれば月とスッポン。
あの場で、自分が一番の適任者だったとはいえ、みんなが褒めちぎる快斗のマジックを見損ねたのはなんだか悔しかった。
「んじゃ、早く帰ろ?これで乾杯したら新一にだけのスペシャルマジック見せたげるから♪」
拗ねまくる新一の腕を引いて、快斗は師走の街を家路に急いだ。



100000HITS!御礼ノベル、久々の『Campus Life』でございます。
2年生の冬という設定になってますから、少し二人の間の雰囲気も変わってることと思います。
にしても、服部と白馬って、何の為に出てきたんだろう?
ま、いっか。刺身のツマみたいなもんだと思えば……


Christmas